Wanted!【7】
「青子が少しの間時間稼ぎしてあげる。ほら。早く逃げなさいよ。」
「何するつもりだよ?おめぇ。」
「これ!」
青子が部屋の片隅に置いた紙袋から取り出したのは男子用の学生服の上下。
得意そうに広げて見せて「分かるでしょ?」と言いたげな視線を快斗へと向けた。
快斗は乱れた前髪を無意識に右手でかき上げて大股で青子に近付くと、溜め息を吐きながらその学生服を取り上げた。
「やだっ!何するのよ!返して!」
手の平を上に向けて快斗に向かってずいっと差し出す青子に、困ったようなぶすっとした表情を見せる快斗。
薄暗い部屋の中では遠くに聞こえる鬼ごっこ真っ最中の学生達の喧燥も遠く、何故か緊張感が溶け出してしまっている。
このまま二人でこの部屋でずっと隠れてようか?
なんて馬鹿な考えが快斗の頭の中を過ぎった。
しかし、この部屋にこんな物騒なトラップを仕掛けて下さった大馬鹿野郎がいつ何時来るとも知れないのだから、やはりこの場から早々に立ち去った方が懸命だと、冷静な自分が語り掛ける。
「俺の身代わりなんて馬鹿な事考えるな。こんな一歩間違えば犯罪っていうような罠仕掛けるようなアホも、追い掛けて来る生徒の中には居るんだぞ?」
「でも快斗掴まったらそれこそ何されるか分かんないじゃないっ?!この熱の上がり様は異常だよ!」
互いの表情がぼんやりとしか見えない状況だからだろうか?
普段よりも素直に青子が心配そうな声を出す。
でも快斗にとってこの程度の暗闇は視界を遮る帳にはならない。
しっかりはっきり、快斗を心配して大きな瞳を潤ませた愛らしい青子の表情を目に収めて、ついだらしなく笑み崩れてしまった。
青子からはその表情は見えない。
「この俺様が掴まる訳ねーだろ?」
飄々と告げるその言葉に怪盗キッドの自信が滲んでいたように思えて、青子は小さく口を開けた。
「快・・・」
言い掛けた言葉はそのまま温かく柔らかなものへ吸い取られてしまう。
唇に触れたその正体に気が付いて、頬を染めて硬直する青子。
ふっと空気が離れる気配と共に空間に溶けるような小さな声。
「目くらい閉じたら?」
「!」
少し悔しそうに唇を尖らせて青子が快斗を睨み付ける。
でもしばらくするとそうっと長い睫毛を伏せてその大きく魅力的な瞳を閉じると、快斗に向けて顔を少し仰向けた。
肩に掛かる大きな手の平。
前髪から零れ落ちるトニックの香り。
学校での秘密の口付け。
心臓がバクバクと奏でる鼓動をバックミュージックに、甘く二人はキスに酔い痴れていた。
「俺・・・もう行くから。」
名残押しそうに離れた唇がそう言葉を紡ぐ。
青子はぼんやりと濡れた唇を眺めてふわりと浮いたままの意識を手繰り寄せる。
「ちゃんと考えがあるから。青子は教室で待ってろ。」
「か・・いと?」
「じゃあな!」
伸ばした指先は快斗の学ランを掴む事は出来ず、青子は快斗の後ろ姿がドアを潜るのを見ているしか出来なかった。
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