Wanted!【6】
「いてて・・・」
暫し気を失っていたらしい。
後頭部のこぶにしかめっ面をしながら体を起こそうとして快斗は自分の両手がワイヤーで拘束されている事を悟った。
ご丁寧に力任せに引っ張ろうとすると棚に置かれたのこぎり一式が崩れ落ちてくる仕掛けが施された状態で。
「うわぁ・・・卑劣。」
うんざりと吐き捨てると快斗は自分の置かれている状態を事細かに観察・分析し始めた。
状況を把握してこそ進むべき道が開けるもの。
いつ如何なる時も冷静に。
そしてここが先程いた技術準備室の隣の教官室であるということ、怪我はしていない事、女生徒達がどうやら無事で既に居なくなっているという事、誰かが快斗に悪意を持って気を失った快斗をこの部屋に閉じ込めたという事が分かった。
電気ノコギリや、電動ヤスリを使う関係上技術室一帯はすべて防音になっており、叫んでも外部には声は届かない。
快斗の手首に蔦のように巻き付けられたワイヤーはちょっとやそっとでは外れそうに無く、悪質なトラップが張り巡らされており自力での脱出は不可能のように思えた。
「面白れーじゃん。」
ふつふつと湧き上がる闘志は、この状況下で快斗の糧となる。
瞳がぎらりと力強く光を放ち快斗はゆっくりと唇に微笑みをのせた。
何処までも不敵な笑顔。
負ける事を知らない、本当に強き者だけが持ち得る裂帛の気迫を放って快斗は顔を上げた。
「快斗?いるの?」
鍵を開ける音についで、この場に余りにも不似合いな青子の顔が覗いた。
「な・・んでっ?!」
目の前に突然現れた青子に呆然として快斗は一瞬全てのことを忘れた。
自分が全校生徒に追われている事も、青子と喧嘩をして物別れしていた事も。
まるで快斗の窮状に現れた慈悲深い天使のように青子がニッコリと笑った。
何処までも透明な蒼い空のような吸い込まれそうな優しい笑顔。
青子は無言のまま手早く快斗を拘束していたワイヤーを取り去ると黒い学ランに付いてしまった細かな白い埃をぱたぱたと手の平で叩いた。
「どうして・・・分かった?」
呆然とした声。
「・・・そりゃ長い付き合いですから?」
小さくおどけて首を傾げる青子。
「・・・でも酷い事する人が居るね。たかが鬼ごっこなのに・・・快斗のここ。擦り傷が出来てる・・・」
触れるか触れないかの微妙なタッチで指先が拘束されていた手首の紅い痕を一撫でする。
そして青子は快斗の背中をドアの方へと押し出した。
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