Wanted!【5】
野球部の集団を何処からか取り出した愛らしいハトで混乱させて2階教室前廊下を走破。
前後に新入生を迎えて4階踊り場からダイブなんて軽業を見せて包囲網を突破。
何を勘違いしているのか虫取り網や魚の掬い網なんかを持って追い掛けてきたクラスの悪友どもを容赦無い鉄拳で蹴散らして、快斗は人気の無い特別棟に逃げ込んだ。
「あ〜。疲れた。ちょっと休もう・・・」
さすがに数に物を言わせて攻め込んで来られると辛い。
鬼達も何人かは既に捕まってしまったようだ。
何処からか勝鬨の声が響いてくるのを先程耳にした。
観客をつい楽しませようとマジックを使うなんて要らぬ事をやっているせいか、快斗は体力的にも精神的にも疲れていた。
しかも快斗は江古田では知らぬ者などいない人気者だ。
追い掛けてくる人間も半端な数じゃない。
生来のエンターティナー魂に火が点いたというべきか、何時の間にか最初に感じた危機感も忘れ鬼ごっこを楽しんでいる自分が情けない。
「俺の考え過ぎだったのか?」
首の後ろがちりっと焦げるような危機感はあの後追ってくる生徒達には感じなかった。
しかし怪盗キッドが培った敵意に反応する精度の良いレーダーは未だはっきりとエマージェンシーを発していて油断はしない方が良い。
使われていない技術科準備室の戸を開け埃りっぽい空間にぽつんと忘れ去られた椅子に腰掛ける。
遮光カーテンが光を遮りまるで薄暗い瞑想室のようだ。
追ってくる人間の中に青子を見つける事は叶わなかった。
「ちぇ・・・」
子供のような拗ねた声がぽろりと足元に落ちる。
其れは勢いなくぺしゃりとつぶれてしまいそうな弱々しさで、女々しい自分に少し腹が立った。
「あ〜あ。こうなったら逃げ切ってやる。」
全校生徒900人なんで訳ねーじゃん!
自分を鼓舞して勢い良く立ち上がった所で快斗は目が点になった。
戸口には同じように目を丸くした女生徒二人。
手に持っている缶珈琲とポッキーはどうやらサボりのお供のようで・・・
「やぁ、どうも。」
「えぇ?!黒羽先輩?!」
一際大きな叫び声。
あっちゃーと快斗が顔を覆うと同時に二人は飛び掛かってきた。
何ともアクティブな後輩達に快斗はリラックス気分を引き摺ったまま、其れを躱す。
狭い室内で何かと危険な物が散乱する状態での鬼ごっこは、あまり無茶をすると二人の女生徒が怪我をしかねない。
快斗は注意深く二人の行動を見守り怪我をさせない様に気を配りながら、なんとかこの場を脱出しようと試みた。
逃げ回る快斗の背に不意に投げ掛けられた明確な敵意。
どくんっと心臓が跳ねる。
殆ど反射だけで快斗は体を捻った。
脇腹を掠める工具箱。
「何だ?!」
其れは勢い良く雑多に物が詰め込まれた棚に激突する。
みしっと何かが軋む不吉な音と主に雪崩を打って落ちてくる凶器。
真下にいた女生徒二人を寸での所で突き飛ばして、快斗はそのまま棚の下敷きとなった。
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