Wanted!【3】
「おいっ!青子!!」
物陰から伸びて来た黒い学生服の腕に引っ張られて、青子は探していた快斗と漸く対面した。
ぷうっと頬を膨らませてちろっと睨む青子の都合なんかお構い無しに、快斗はやや乱暴に青子を更に奥へと引っ張り込んだ。
「今回の鬼ごっこかなりヤバイ事になりそうだ。青子ちょっと協力しろ。」
「は?協力って何するの?」
「鬼ごっこが始まって適当な時間が経ったらおめぇ俺の事捕まえろ。」
「ええっ!ちょっと!それって・・・」
「あんなに殺気立った人間まともに相手してられるか!場所決めて落ち合ってそれで俺の事捕まえた演技してくれ。」
青子は話が具体的になるにつれ次第に快斗を責めるような表情を浮かべた。
快斗の方は商品例に乗っていた『中森青子嬢の一日貸し出し』なんて文言に常に無く焦っていて、気が気じゃなかった。
在校生なら二人が付き合いだしたのを知っているが、新入生は知らない筈で、そんな所にこんなビラが撒かれていたとしたら冗談では済まされない事態になりそうだ。
誤魔化す事が出来ない状態であるからこそ、万が一青子を本当に他の男に渡さなければならない事態になるのなら、多少姑息でも卑怯でも万全の安全策を取っておくに限る。
快斗はそう計算していた。
「快斗?其れは卑怯なんじゃないの。」
「そうも言ってられない緊急事態なんだよ。」
逃げ通す自信が無い訳じゃない。
ただこの異常な盛り上がりと何処か危険な空気を孕んだ校内が、快斗に安全策を取るように促していた。
生徒会の下っ端が言っていた少々引っ掛かる情報もある。
「これって新入生を歓迎するイベントなんだよ?それなのにズル?」
キツイ言葉で青子が快斗に食って掛かる。
青子は快斗の事情なんて知らないからこそ、快斗らしくない卑怯な作戦に傷ついたような瞳をゆらゆらと揺らしていた。
「俺には俺の事情が有るの!ともかく!協力してくれ!!」
快斗も言葉が足りなかった。
裏に有る『卑怯な手を使わざるを得ない事情』というものが、自分の嫉妬や独占欲が絡んでくるだけに素直に青子に話す事が出来なかった。
鬼ごっこの開始時間も迫っている。
早くしなければという焦りが快斗の事を急かす羽目になっていた。
そして。
古くからのことわざ通りに快斗は事を仕損じる事となる。
青子は悔しそうに唇を噛んでぷいっと横を向く。
「卑怯者の快斗なんか知らない。誰かに捕まっちゃえば良いのよ!」
「おい!青子?!」
「バ快斗の大馬鹿!!」
青子は素早く身を翻して廊下を走っていってしまった。
一直線に振り返りもせずに遠ざかっていく背中に快斗はゆっくりと壁に背中を押し付けた。
「しまった・・・」
右手の中に顔を伏せてはぁっと溜め息を吐く。
指の隙間から腕時計を覗くと開始時間まであと2分となっていた。
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