Wanted!【11】





「黒羽君。派手にやってくれたね。」



執務椅子に腰掛けて江古田のドン、岩崎が苦笑する。

快斗はその正面に立つと、シルクハットを片手に取って優雅に一礼した。

其れはキッドを演じる快斗の礼儀。

「今回の騒動をどうお考えなんですか?生徒会長?」

淀み無く語られる品の良い言葉に生徒会面々が目を剥く中、一人だけ堂に入ったポーズを崩す事無く岩崎が答える。

「どうやら一部何かを企んでいた生徒が居たようだけど、上手く収拾を付けてくれたようだね。」

「貴方は其れを見込んでいた。・・・そうでしょう?食えない人だ。」

「君なら自分で決着を付けたがる。そう思ったからこそ静観して居たのだが、お気に召さなかったかい?」

「いいえ。・・・今回は貴方の思惑に乗りましたが、次回はどうなるか分かりませんよ?・・・覚悟しておいて下さいね。」

釘だけはしっかりと刺して、キッドがにこりと万人を魅了する柔らかな微笑みを乗せる。

苦笑を深くして岩崎は椅子から立ち上がった。

そのまま背後の窓から校庭の様子を確認して、キッドを振り返る。

「この鬼ごっこにどう幕を引こうかね?」

「目に見える形ではっきりと幕を下ろさないと納得しないでしょうね?江古田の生徒は。」

快斗はくつくつと笑いを溢すと軽くカウントを取った。

「ワン・ツー・スリーッ!」

パチンっと指を鳴らして現れたのはマイク。

何を始めるつもりかと見守る生徒会の面々に囲まれて、快斗はマイクのスイッチをオンにした。







『江古田の皆さん。鬼ごっこを楽しんでいますか?』



全校内に響き渡るキッドの張りのある声。

既に鬼ごっこの終結を知っていた一部の生徒も、未だ快斗を捜し求めて校内を走り回っていた大半の生徒も動きを止めて、スピーカーから流れてくる声に注目する。

何処か優雅な響きを含んだその声は、唯一捕まっていないターゲットの黒羽快斗のものに違いないのだけれども、その声に普段にない調子を感じ取って何が始まったのかと興味を引かれた生徒達が誰に言われるともなく校庭へと集まってくる。







青子が弾かれたように顔を上げ、生徒会室の扉を眺めた。

快斗が人質を取ってここまで来たのも、項垂れた様子で人質が立ち去ったのも青子は物陰から見ていた。



快斗・・・上手くやったかな?



心配で結局出てくるまで待とうと決めた青子の耳に飛び込んできた『キッド』の声。



「快斗・・・何をやるつもりなの?」



思わず零れ出た言葉は、誰の耳にも届かずに風に運ばれていった。







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