Wanted!【12】
『江古田の皆さんへお知らせです。今回の鬼ごっこは全ての鬼が捕まったので終了いたします。』
キッドはそうマイクに向かって告げた。
校庭から誰かの叫び声。
「黒羽が捕まってねーぞ!!」
『捕まってますよ。誰よりも早く。』
笑いを含んだ声に誰もが真実を求めて声の主である快斗を探した。
快斗は岩崎の耳にすっと口を近づけて何事か囁く。
目で了承の合図をして岩崎が生徒会室から出ていったのを確認すると、快斗は校庭に面した部屋の窓を全開にして身を乗り出した。
「キッドォォ??!!」
「違うよ!黒羽君だよ!」
「やるじゃん!黒羽先輩!」
「そっくり!!」
「本物よりイケてるよな!」
叫ばれる内容に苦笑しつつも、キッドは余興のつもりで両手でカウントを取ると、ポムっと花弁を校庭に降らせた。
赤やピンクや白の色とりどりの花弁がひらひらと風に遊び宙を舞う。
「わぁっっ!!!」
「きゃあっ!」
突然のマジックに生徒達が沸く。
皆童心に返ったかのように一心に振り落ちてくる花弁を手に取ろうとはしゃいだ。
『私は既に捕まっています。』
花弁のマジックに興奮した群集が静まった後に、キッドは再び繰り返した。
扉が開き岩崎が青子を連れて現れる。
キッドが悪戯っぽく瞳を耀かせる。
逃げ腰の青子を強引に引っ張って、腕に抱き寄せた。
「青子ぉ??」
全校生徒が注目する中、一際大きく響いた恵子の声に青子は身を固くする。
快斗のこんな瞳には覚えが有るから。
何か企んでいる快斗はきらきらしていて青子が一番好きな表情を見せてくれるけど、其れは同時に何か想像も付かないとんでもない事が起こる予兆で・・・
『出逢った瞬間から彼女にね♪』
全身の力で快斗から離れようとしていた青子の隙を突いて唇にキス。
ちゃんと全校生徒から見えるように窓辺で。
ちゃんと今回の騒動の原因の男子生徒が見ている事を確認して。
ぴゅぅっと誰かの口笛。
声にならない怒声。
フォルテシモの歓声。
「か・・・・」
「これが俺を捕まえた青子への商品な♪」
キッドの仮面を脱ぎ捨てて黒羽快斗の表情で笑う快斗に青子はわなわなと震えて睨み付ける。
涙がちょっぴり滲んだ瞳がこれまた魅力的で快斗の笑みは深く優しいものへと変わる。
これで少しは牽制できたかな?
まだまだ潜伏しているであろう青子に片思いする男子生徒達へとはっきりとした宣戦布告を叩き付けた快斗は腕の中の恋人に笑い掛けた。
「快斗の馬鹿ぁぁぁ!!!!!!」
幸せ絶頂の快斗へ青子からの贈り物は力一杯のビンタだった。
見事な音がマイクに拾われて全校に響き渡る。
油断していた快斗への痛烈なビンタは衆人環視の中万人の目に焼き付けられた。
そう。
長く語り継がれる程に・・・
そうして、黒羽快斗の伝説はまた一つその新しいページを埋めるのであった。
† END †
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