温泉に行こう!【5】





カラスの行水。



折角温泉に来たというのに余りのお湯の熱さにすぐにギブアップした快斗は火照った体を覚ます為温泉から出てその辺をぷらぷらとしていた。

湯殿は観光客用に綺麗にリフォームされており、女性客が好きそうな作りになっている。

多分青子は長風呂だろう。

出たら携帯に電話を入れるように言っておいたのでそれまで快斗はその辺を散歩しながら待つつもりだった。

脇道を何とはなしにぐるりと廻ると木の影に何やら気配を殺して身を潜めている怪しげな人影に遭遇した。

そういうものに職業柄鼻が利く快斗は、暫し逡巡した後声を掛ける事にする。



「っつーか、おまえら何してんだ?」



尋ねるまでもなく答えは分かりきっていたのだが、このシチュエーションでは他の言葉は掛けにくく、半ばお約束の台詞を投げ付ける。

定石どおりにぎくっと強張った動きで振り返った中学生らしき3人組は声を掛けてきた人物が自分達と大して年の変わらない快斗である事を見て取るとあからさまにほっとした表情を浮かべた。

一番生意気そうな顔をした中学生が身を乗り出してにししっと笑う。

「何してるなんて決まってんじゃん。覗きだよ。の・ぞ・き!」

威張って言うことではないだろうに罪悪感さえその軽い頭同様に軽いのか悪びれた様子もなくあっさりと答える中学生に快斗は頭が痛くなってきた。

細い竹で編んだ垣根を一枚隔てただけの場所に女湯の露天風呂があることを見て取ると、快斗は嫌々ながらこの不埒な中学生を撃退することを決めた。

今の時間青子が入っているに違いなくて、他の人間に見せてやる程快斗はお人よしでは無かったから。

「おまえらなぁ。覗きだなんて格好悪いことやってんじゃねーよ。」

小馬鹿にした態度で鼻で笑うと、快斗の予想と反してけろっとして一番ちびっちゃい中学生が鼻の頭をかりかりと掻きながらにへへと笑い崩れた。

「格好悪くても見たいもんは見たい。・・・お兄さんもそうでしょ?」

かなり痛い所を突いてくる質問を得意のポーカーフェイスでさらりと躱す。



事実は事実としても、それを行動に移すかどうかは別物なのだ。



・・・と快斗は思っている。



そう、たとえそういう願望が有るにしても、表に出さなければそれはないのと同じ事だ。



「馬鹿言うなよ。なんで俺がそんなダサい事しなきゃ何ねーんだよ。」

「ええっ?!男としてそれは間違ってるよ!!」

「なんだよ、そんな外面気にして良い子な発言すんなよ。良いじゃん俺達しかいない所で格好付けなくても!」

「素直じゃないよなぁ。お兄さん。」

口々に非難されムカッときた快斗はつい子供の喧嘩の様に言い返してしまった。

「ふざけた事ぬかすな!!なんで常識ある発言して其処まで言われなきゃなんねーんだよ!」

3人は顔を見合わせて何やらアイコンタクトを取ると快斗を円陣の一角に引っ張り込んだ。

両側から腕を掴まれ渋々されるままになる快斗にひそひそ声で面々が語り掛ける。

「今この場にいるって事も何かの縁だし、俺らと一緒に女風呂覗くのも悪くねーんじゃん?」

「悪いに決まってんだろ?」

「硬い事は言いっこ無し!今若い女が入ってんだよ!」

弾んだ声が語る内容にぎょっとして快斗は目を剥いた。

「おい!おめーらもう覗いたのか??!!」

その剣幕に押されて右隣の中学生は思わず手に持っていた眼鏡を落としたじろいだ。

「ま、未だ・・・」

「じゃあなんで若い女なんて分かるんだよ?」

じろりと睨まれまるでヘビに睨まれたカエル状態となった右隣の眼鏡君に代わって生意気君が快斗におっかなびっくり答える。

「声だよ。羽みたいに軽くて明るい可愛い声が聞こえたんだ。2・3人はいると思うけど?」



青子だ!

やはり風呂に入っているらしい。

絶対こいつらに覗かせるもんかっっ!





「・・・もしかしてお兄さんの知ってる人が今は露天風呂に入ってるの?」

3人の中で一番利発そうなおちび君が伺うように快斗の顔を見る。

快斗が無言でいると肯定と取ったのか、生意気君がにやぁと笑い快斗の脇腹を肘で突付いた。

その仕種が実に馴れ馴れしい。

「恋人なの?二人で温泉旅行??この時間だと当然一泊旅行だよね。」

「はぁ?!恋人の訳ねーだろ?あんな女。」

つい警戒心も忘れていつもの調子で否定の言葉を口にする快斗に3人組みは疑わしそうな視線を快斗に向けた。

そんな事言ってまたぁ〜?

と目が如実に語っている。

なんだかんだ言って勘の鋭い中学生に快斗は内心舌打ちしたい気分だった。

「『恋人』って所は否定しても、一泊温泉旅行は否定しないんだ?」

「え?!じゃあ連れの若い女の人はお兄さんの何?」

「妹とか?」

「やっぱり彼女なんじゃないの?やらしいなぁ。」

「お兄さん進んでるね。ねぇねぇ彼女可愛い??」

「で、夜とかどうするの?やっぱやるの?」

「いいなぁ、彼女と一泊旅行なんて。」

ピーチクパーチクとさえずり出すまるで女子高生のような攻撃に今度は快斗がたじろぐ番だった。



今時の中学生は・・・!!!

ぴしっと眉間に青筋が立つ。



「だから!彼女なんかじゃねーって言ってんだろ?!」

ますます意固地になって叫ぶ快斗に眼鏡君が一言突き付ける。

「じゃあ、何?」

それについ答えを突き返す快斗。



「ただの幼馴染だよ。」



質問に答えを返してしまえば後は済し崩しに事態は進んでいってしまった。





† NEXT †

BACK