温泉に行こう!【6】
「彼女可愛い?」
「だから幼馴染だって!」
「じゃあ幼馴染可愛い?」
「可愛くねーよ。あんなお子様。」
「お兄さんと年離れてんの?」
「・・・同い年だよ。」
「ふーん。じゃぁ美人さんというより可愛い子ちゃんなんだ。」
「だから可愛くなんかねーって。」
「お兄さん幼馴染の裸見てみたくないの?」
「けっ。あんなお子様見てもつまんねーよ。胸ねーし寸胴だし。」
「それって見慣れてんの?」
「んな訳ねーだろ?!」
「だって胸無いとか寸胴とか言うって事は見たことあるんでしょ?」
「そんなの見なくても分かるだろ?!」
「じゃあそんなにブスなの?」
「・・・・」
「言葉に詰まってるって事はやっぱり可愛いんジャン。」
「違うって言ってんだろーが?!」
「可愛いのか〜vv」
「人の話聞けよ!おい!」
「どうせ見るなら可愛い子の方が良いよね。」
「胸が無いのは残念だけど、全然無いって事は無いだろうし♪」
「良し!じゃやるか!」
その掛け声とともに勢い良く立ち上がった3人組に慌てて快斗は腕を伸ばし力任せに引き摺り下ろした。
勢いよく腰を地面にしたたかにぶつけ悲鳴をあげる眼鏡と生意気。
快斗の対面にいて一人無事だったおちび君が呆れた口調で嗜める。
「乱暴だなぁ。素直に彼女の裸を他の野郎に見せたく無いって言えば俺らだった遠慮するのに。」
「彼女じゃない!」
あくまでも否定し続ける快斗に取り付く島も無い。
痛そうに顔を顰めながら腰をさすり漸く復活した生意気君がどっこいしょと起き上がる。
「彼女じゃないならなんでそんなに俺らがその子の裸見ようとするのを阻止するんだよ?おかしいじゃん。」
「おかしくない。」
すぱっと言い捨てて快斗は横を向いてしまう。
「何だよ、絶対おかしいよ。別にお兄さんのものじゃないんだから、俺らが見ても良いじゃんよー。」
「本当は彼女なんでしょ?」
「違う!!」
「じゃ、彼女じゃないけど好きなんだ?」
「!!!」
不覚にも快斗は耳まで赤くなってしまった。
押し問答の末の虚を突かれたというか、油断していたというか・・・
誰が見ても一目瞭然の反応を返してしまって快斗は自爆した。
その瞬間の中学生’Sは鬼の首でも取ったかのようににぃっこりと勝利の笑みを浮かべた。
「な〜んだ。最初からそういえば良いのに。」
「そりゃ俺達に見られたくないよね〜?」
「見たくないなんて嘘ばっかり!」
ぐっと言葉に詰まって地蔵のように固まっている快斗に実に楽しげに3人は近寄ってくる。
快斗は全てを諦観したかのような表情ではぁっと大きなため息をこれ見よがしについた。
「今時の中学生はこんなにゴシップ好きなのか?」
「みんなこんなもんだよ?だって人の色恋沙汰ほど面白いものは無いよね。」
「・・・それは認める。・・・でおまえ達覗きはあきらめるか?」
3人は暗がりの中それと分かるほど悪戯ぽい表情を浮かべる。
「お兄さんが彼女との事喋ってくれるなら諦めようかなぁ?」
「色々聞かせてくれるなら考えるよ。」
「今時の高校生の話が聞きたいなぁ。」
再びピシッと青筋を立てて快斗が口を開こうとしたその瞬間だった。
「そこに誰か居るの?!」
誰何する厳しく硬い声。
いつの間にやら騒がしかった女湯からお喋りの声は消え緊迫した空気が漂っている。
一斉に冷や汗を流し青くなる面々。
一つ頷くと無言のまま脱兎のごとくその場から逃げ出すのであった。
赤く充血した瞳は寝不足の為。
だらしなく大口を開けてふわぁと欠伸を漏らした快斗はまだぼんやりとしたまま電車の到着を待っていた。
青子は朝から元気溌剌といった様子でホームの向こうに広がる自然溢れるこの素晴らしい風景を惜しむように眺めている。
その愛らしい横顔をこっそりと盗み見て、快斗は気付かれない様に小さく溜め息を漏らした。
「眠そうだね。快斗。昨夜はそんなに楽しかったの?」
何も知らない無邪気な瞳にそう尋ねられて、なんだかなぁと内心思いながらもポーカーフェイスで「楽しかったぜ。」と返事をする。
青子は疑う事を知らない無垢な笑顔を快斗に向けた。
昨晩快斗はあの場から見事遁走を果たしたものの、悪ガキ3人組からは逃げおおせる事が出来なかった。
不本意ながら温泉を覗き見ていたなんて汚名を被せられそうになったそもそもの原因達は、迷惑なほどの好奇心で快斗の話を聴きたがった。
付き合う暇も義理も無いと言い切った快斗に実にあくどく脅しを掛けてきた時には、額に青筋も立ったものだ。
「良いじゃん!話聞かせてよ!」
「俺らも勿論告白するし♪」
「恥はかき捨てって言うじゃん?どうせもう会う事も無いよ!」
「おまえらな〜っっ!自分達の都合で話を進めるんじゃねーよ!」
「そうかなぁ?今晩は大告白大会ってことで盛り上がろうよ!」
その台詞を聞くまでは、快斗は適当な所で隙を見てこの3人から逃げ出すつもりだった。
しかし。
重大な事実に気が付いたのだ。
今晩。
忘れていたが青子と同じ部屋に布団を並べて過ごさなければならない事実に・・・
俺・・・我慢出来んのか・・・・?
自問自答してみる。
答えは・・・
自信、ねーなぁ。
髪を掻き毟りたい衝動をやり過ごして目の前の3人を見る。
やばいんだったら・・・同じ部屋に居ない方が良い。
こいつらと一晩過ごすか・・・・
結論を出して、嫌々ながら目の前に提示された大告白大会なんてくそ下らないものに快斗は参加する事を決めた。
――― まさかそれが一睡も出来ないほど白熱したものになるとは思っても見なかったが・・・
「楽しかったね!快斗!」
昨晩の事を思い出してうんざりしていた快斗に青子が弾んだ声で話し掛ける。
スイッチを押すように意識を切り替えて快斗は少し笑った。
確かに、色々と楽しかった。
二人っきりの旅行なんて初めてだったから、どうなる事かと危惧していたが、終わってしまえば来て良かったと思う。
「ああ、結構面白かったな。」
「もう素直じゃないんだから!そんな事言ってるともう連れて行ってあげないから!」
そっぽを向いてむくれる青子に悪戯っぽく瞳を輝かせて快斗は告げる。
「それは困るな。」
「え?」
逸らせた視線を快斗に戻すとはっとする程魅力的な笑顔で快斗は笑っていた。
思わず引き込まれて言葉を無くす青子。
青子の唇が何かを呟こうとした時・・・
ごぉぉっっ・・・
電車がホームに入ってくる篭った音にそれは掻き消されてしまった。
乱された髪を乱暴に掻き揚げて快斗は開いたドアに片足を乗せる。
「帰るか!」
「・・・うん!」
こうやって二人の温泉旅行は幕を閉じた。
それはまだ二人が幼馴染だった頃の思い出・・・
† END †
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