温泉に行こう!【2】
終点の一歩前のバス停で降りると目の前は既に温泉街といった町並みが広がっていた。
「わぁぁ〜。なんか遠くに来たって感じだね♪」
わくわくとした気持ちを隠すことなく嬉しそうに快斗に笑い掛け青子は荷物を持ったまま道端に立てられている看板に見入ってしまう。
目を離すと興味のあるものを追ってどこまでも飛んでいってしまいそうな青子に毎度の事ながら快斗はからかう事を止められなかった。
「ったくお子様はすぐ何でも興味持つから目が離せないんだよ。」
「何よ〜!お子様お子様ってすぐそう言うんだから!」
「だってそうだろー?俺は今回温泉に入りに来たんだ。お子様のお守りなんかしねーからな。」
「バ快斗!冗談は寝て言いなさいよ!」
「うるせぇあほ子!!」
ぎゃんぎゃん言い合いながら二人は予約を入れていた旅館の前まで並んで歩いた。
緩やかな勾配が続く坂の途中に立派な門構えが現れる。
丁度玄関前の花に水をやっていた女将が二人に気がついてゆっくりとお辞儀をした。
「いらっしゃいませ。」
二人してぺこりと挨拶をして青子が口を開く。
「こんにちは。今日お世話になる中森です。」
「ようこそ『荻野や』へ。」
人の良さげな笑顔を浮かべた女将に中に招き入れられる。
しっくりと落ち着いた雰囲気の館内は二人には物珍しくてついきょろきょろとあたりを見回してしまった。
その様子に気がついて女将がニコニコとする。
「若い方にはこういう昔の旅館は珍しいかしら?ごめんなさいね。古くて。」
「え?!とんでもないです!」
ぶんぶんと慌てて首を振る様が何処か必死で悪いと思いつつも女将と快斗は笑いを溢してしまった。
一気に場が明るい雰囲気に包まれる。
まるで魔法だな。
頭の片隅でちらりと考えた快斗は青子が恥ずかしそうに睨んでいるのに気が付いて、にやりと人の悪い笑みに切り替えた。
「まだ日も高いし荷物だけ置かれて少し散策してきては如何です?寸又峡へはもう行かれました?」
備え付けられていた上品な棚の籠の中からイラストで描かれた散策地図を二人に差し出される。
二人は軽く頭を下げてその地図を見ると手頃なハイキングコースが其処には描かれていた。
外の日差しはぽかぽかと陽気で暖かく、新緑の季節とあってその光景の素晴らしさも容易に想像出来る。
顔を見合わせると青子がにこっと笑う。
それで決定。
「じゃ行ってきます。」
快斗が代表してそう答えた。
部屋に案内されてお茶を飲んで一服して二人は外に出た。
快斗は若い男女が同じ部屋に通される事を従業員がどう思うかかなり危惧していたが、心配していたような好奇の視線が向けられる事はなかった。
ただそれは表向きの事だけで裏では何を言われているか分かったものではないが・・・
そんな事を気にしていたのは快斗だけだった様で青子は普段となんら変わり無く振る舞っている。
ある意味大物だよなぁと思わなくも無いが、世間一般認識から外れているというか無邪気すぎるというかお子様というか・・・
とても真似出来るものではないと、快斗は嘆息した。
快斗を軽やかに追い抜いて青子は既に玄関でその到着を待っていた。
早く早くと瞳が言っている。
その素早い行動に苦笑して快斗は歩を早めた。
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