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「か・・・可愛いvv」
ピンク色のハートマークが3人の周りに飛び交っているかのような、はしゃぎっぷり。
青子は割り当てられたコスチュームに頬をぽぅっと染めながら、鏡に自分の姿を映して見たりしている。
蘭は試着室の中で着替えの真っ最中。
和葉は既に可愛いプリーツスカートを穿き終えて、普段はポニーテールにしているストレートの黒髪を、器用にアップに纏めている。
「青子ちゃん、髪どないする?」
自分の身支度を整え、ホックを止め様として四苦八苦している青子を振り向く和葉に、青子はむ〜っと唸りながら「考えてないの」と返した。
背筋に沿って真っ直ぐに並んでいるホックの山に、指先を伸ばしてうんうん頑張っている青子の背後に周り手伝ってやりながら、ふんわりと空気に踊る猫ッ毛のセミロングをどうやって飾り立て様かと、頭の中で考える和葉。
手先は器用で、特に髪の毛をいじる事が大好きなので、半ば使命だと思いながら二人の友人をこれまでになく可愛いらしく仕上げようと意気込んでいる。
「和葉ちゃん、ありがと〜v」
「なあなあ、青子ちゃん。今日はお団子にしてみぃへん?髪型。」
「ん〜。青子の髪の毛って本当に纏まりなくって・・・チャレンジしてもいっつも挫折してるんだ〜。出来るかなぁ?」
「心配せんでもあたしがやるし。こう見えて上手いんよ。任せてぇな!」
「え?本当?じゃお願いしちゃっても良い?」
嬉しそうに青子は、和葉に両手を合わせてお願いするポーズを取った。
「任せとき!」
どんっと胸を拳で叩き、和葉がにっこりと笑う。
早速青子を手頃な椅子に座らせ、鏡の前でムースと櫛を片手に和葉は作業に入った。
Uピンやらゴムやらを使い、魔法の様に青子の黒髪を纏め上げて行く。
青子は鏡越しにその細やかな作業に見入っていた。
しゃっとカーテンレールを金属の輪が滑る音がして、試着室から蘭がひょいっと出て来た。
スカートの裾丈を気にしながら、二人の傍に近寄って来る。
「なんだか・・・ちょっと、吃驚した。」
「なんで?蘭ちゃん。良く似合ってるよ〜vv」
「ほんま蘭ちゃんミニスカート、よぉ似合うわー。すらっとしてる分足も長いしなー。分けて欲しいわ。」
「和葉ちゃん・・・十分足長いわよ。」
蘭は二人の言葉に照れ笑いを浮かべて、椅子を引き寄せて浅く座る。
和葉の手は休まず青子の髪の毛を弄っていた。
「和葉ちゃん器用だね。それも自分一人でやったんでしょ?」
「これは意外に簡単やねんで。」
軽く頭を振って、和葉がにっこりと笑う。
蘭はふぅんとじっくり和葉の髪の毛を観察してみたが、何処が簡単なんだろうと首を捻って終わってしまった。
少なくとも自分には出来ないと確信する。
「はい。青子ちゃんは終わりや。ど?気に入った?」
「うんっ!凄い〜〜!!青子一人じゃ絶対出来ないよっ!」
青子が無邪気に嬉しそうな声を上げ、満面の笑顔で和葉にぺこりと頭を下げた。
「ありがとう!和葉ちゃん!!」
「ど〜致しまして。次は蘭ちゃんな。座って待っててーな。」
和葉は再び必要な物を探して、試着室内に用意されている化粧箱を覗き込み、蘭は青子に促されて先程の青子と同様に椅子に座った。
壁に掛かった可愛い小鳥の巣箱をモチーフとした飾り時計の針は8時半。
9時の開店時間まで、あまり時間が無い。
「ちょっと急がなアカンね。」
皆の気持ちを代弁する様に和葉が呟き、3人は気持ち分だけ速度を速めて準備を続けた。