Feel So Good -37-
  



  

「お疲れ様でした。」



オーナーの3人の仕事振りを労わる優しい声に、初バイトを無事に終えた3人が緊張を解いてふにゃっと笑顔を浮かべた。

朝9時から始まったバイトは、予定時間を1時間半オーバーして午後7時半に終了した。

3人とも笑顔が最後まで曇る事は無かったが、さすがに疲れは足腰に来ているのだろう。

戦場だったカフェを後にして従業員室に戻って来た時には、ふらふらと危なっかしい足取りに3人が互いを支え合うような状況だったのだ。

のろのろとウエイトレスのコスチュームを着替え、くったりとパイプ椅子に座っていた時に、オーナーが入って来たのだった。







「皆のおかげでハロウィン企画は大成功だったわ。本当にありがとう。」

「いえ、こちらこそ貴重な体験をさせて頂きました。それに・・・ご迷惑掛けてしまったし。」

蘭があの騒動を思い出して、ちょっと顔を赤らめた。

新一達が悪戯少年グループをカフェから連れ出した時には、大分注目を集めてしまっていたのだ。

しかし、近所の者なら誰でも知っている悪ガキ達だったのか、新一達の行動への非難の声は無く、良くぞやってくれたと言わんばかりの賞賛の眼差しが多かった。

どうやら下手に弁の立つ子供だった為、大人でさえもなかなか手出しが出来ない困った少年達だったようだ。



しかし、今回は相手が悪かったと言わざるを得ない。

東西名探偵に加え、誰も知らなかったが、天下の怪盗キッドの3人組が揃って悪ガキにキツイお灸を据えたのだ。

逃げられるものではないし、口で勝てる訳も無い。

私情がバリバリに入った新一の説教は想像を絶するものだったのか、蘭の元に謝りに来た少年達は、性根を入れ替えて顔付きまでなんだか変わって見えたのだった。

新一は席に戻って来てから再び不安げに蘭の方をちらちらと見ていたのが、蘭は可笑しくて、つい柔らかな微笑を新一に向けてしまった。

ぱぁっと雲間から覗く太陽のように新一が晴れやかな顔をしたのに、シマッタ?!と蘭は口元を押さえたのだがもう遅い。

途端に機嫌良さげにコーヒーに口をつける新一に、蘭はここまでかと降参の溜息を吐いた。



結局許してしまっている自分がちょっと恨めしい。

しかし、和葉も青子も笑っているから、蘭も笑う事にしてしまった。

結局何もかも許してる。

それでも良いかという気分になったのだ。



それぞれの幼馴染を怒らせていた3人は、見事幼馴染に許してもらって、コーヒーを飲み終えると満面の笑顔でカフェを出ていった。

勿論、後で迎えに来ると伝言する事も忘れなかった。

その後は、蘭も青子も和葉も平和に忙しくウエイトレスの仕事に従事したのだった。











「外には彼氏達が既に待ってるのかしら?」

窓に近付くと引かれていたカーテンを片手で持ち上げて、オーナーがカフェの入り口付近を見下ろした。

暗くて良く見えないが、人影がちらちらと見え隠れしている。

「居るみたい。ね、上がって来てもらって一緒にお洋服選んだら?」

「え・・・いや、ええです。あの。め、面倒やし!」



普段から平次は和葉の買い物にあまり興味を持たない。

一緒にショッピングに行っても、面倒臭そうな表情を浮かべて文句こそ言わないがつまらなさそうに付いてくるだけなので、和葉は今ココで平次と一緒に洋服を選べと言われても困るだけだと辞退しようとした。

他の二人も似たような表情を浮かべて引け腰だった。

しかしオーナーは勝手に3人を中に入れるように人をやってしまった。

「3人とも怒っていたんでしょう?それくらいの償いは、彼氏にさせても良いと思うわ。たまには振り回してやんなきゃね。」

「でも・・・快斗が洋服楽しそうに選ぶとは思えないし・・・」

「新一も、センスなさそう。」

「でも観点を変えれば結構彼氏の目も役に立つと言うものよ。だって彼女にどんな洋服を来て欲しいかって好みを聞くチャンスじゃないかしら。素直な気持ちがきっと聞けるわよ。」

「そうやろか。平次の『好み』な〜。あんま知らへんわ・・・」

「確かに。滅多にない機会だから、聞いてみようかな?」

蘭と和葉が顔を見合すとオーナーは嬉しそうに両手をぱちんと合わせた。

まだ戸惑っている青子の背を押して、ブティックの方へと移動を促す。

「今丁度新しい物が入ってるから品揃えも豊富なのよ。選び甲斐あると思うの。」

「そうなんですか?」

「ええ、蘭ちゃんに似合いそうなミニ丈のスカートもあるし。和葉ちゃんに似合いそうな白のダッフルコートも青子ちゃんが好きそうなカットソーもあるのよ。存分に見て頂戴ね。」

連れられるままに従業員が数名商品の入れ替えをしているブティック店内に案内される。

ハロウィンの飾り付けは既に片され一抹の寂しさを感じるが、所々の棚に『NEW ITEM』の文字が踊っており、それだけで3人はウキウキとした気分になった。

「自由に見ててね。もう直彼氏君も来ると思うから。」

オーナーはそう声を掛けると店長らしき人物と何やら話を始めてしまう。

残された3人は、こくんと頷くとそれぞれ気になる洋服へと手を伸ばし遠慮がちに購入するか否かの検討を始めた。











  


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