Feel So Good -36-
  



  

「へへ〜んっ!やったぜ!」

仲間らしい数人の小学生がピューっと口笛を吹き、口々にその勇気を称える。

蘭は一拍遅れて銀のお盆で自分のヒップをガードするように隠した。

今更遅いのだが、やらずに居られなかったらしい。

「何するの?!」

恥かしさに震える蘭の声に、小学生がにやにやと子供ならではの残酷な笑顔を見せる。

「べっつに〜?俺ぶつかっただけだし〜。」

シラを切るのも堂に入ったもので、ココら辺一体で噂の悪ガキっぷりを披露していた。

蘭が二の句を継げずに火照った頬で睨みつける。







所がその少年はそのまま逃げおおす事は出来なかった。

この世で一番敵に回したくない男を、敵に回してしまったのだから。







にゅっと伸びて来た腕が軽々とその少年の小さな体を持ち上げた。

快斗と平次が顔を覆って「あ〜あ」と溜息。

「良い度胸してるじゃねーか。」

青白い炎を撒き散らして、新一が無表情に少年を更に持ち上げる。

少年は薄ら笑いを浮かべ様としてひっと固まった。

ぞくりと走り抜ける悪寒が、得体の知れない恐怖を運んでくる。

目の前の男は今まで自分が鼻で笑って来た不甲斐ない大人とは違う事を瞬時に本能で悟ったからだった。



「オメーが今した事が、如何に下らない事で、悪い事か、この俺がたっぷりと教えてやろうじゃねーか。」

「や・・ちょ・・・」

ぶらぶらと地面から離れた場所で悪戯少年の足が不安定に揺れている。

囃して立てていた仲間の少年達が一転して泣きそうな顔をして新一を見上げていた。

悪戯を受けた当の本人、蘭はと言えば、呆然と新一と少年を眺めていた。

「ちょっとココじゃなんだからな。表出よーぜ。」

周囲の雰囲気を察して、新一が低い声でそう告げ、少年をぶら下げたまますたすたと出口を目指した。



慌てたのは少年の仲間達。

一斉に立ち上がり新一を取り囲むように立ちはだかった。

その数は3人。



「ちょ、ちょっと待ってよっ!兄ちゃんっ!」

「俺達が・・・その・・・」

「下ろしてよっ!」

重さを感じないのか、新一は危なげなく悪戯小僧を腕で摘み上げたまま、喧しく囀り出した少年たちを一蹴した。

「オメーら、自分達は悪くないとでも思ってんのか?こいつ焚き付けた時点で同罪なんだよ。面貸せ。」

怒りの矛先が自分達をも標的にしていた事を知って、少年達はひっと後ずさった。

そのまま踵を返して逃げ出そうとした友達甲斐の無い一人は、待ち構えていた平次に首根っこを押さえ付けられた。

「ったく。今日日のガキはほんま悪知恵ばっか付きよって可愛げないな〜。こりゃきちんと礼儀っちゅーモン教えといてやらんと、将来が心配やな。」

「そうそう。恐いお兄さんも居る事、知っておいて貰おうかな。」

快斗も席を立ち、呆然と事態を見守る蘭にひらひらと手を振った。

「新一がやり過ぎないように見張っとくから、心配しないで良いよ。」

「5分もしたら戻ってくるさかい。テーブルこのままにしとってや〜。」

ぞろぞろと団体が店内から消えていく。







ぽつんと残された蘭は、誰も居なくなったテーブルを見て、そして小さく息を吐き出した。



「バカ・・・見境無くヤキモチ妬くんだから。」



それはほんのりと甘さを含んだ声だった。











  


BACK