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「蘭ちゃん?」
背後から掛けられた声に、蘭はオーダーを取り終えたテーブルから離れながらくるりと振り返った。
綺麗な腰のラインが、その魅力を余す所無く周囲の観客に訴え掛ける。
その場に居るだけで魅了する美少女というものも世の中には居るものだと、思わせるだけの華が蘭には備わっていた。
天性のモノだ。
「オーナー?どうなさいましたか?」
「あちらのテーブルで蘭ちゃんを情熱的に見詰めている殿方が居るのだけれど?」
可笑しそうに囁くオーナーが示す先には人目を引く3人組の姿がある。
蘭は眉を顰めて唇を引き結んだ。
新一が店に入り、蘭を見つけてからずっとこちらを見ている事には気が付いていた。
新一の視線は蘭にとって特別なのだ。
例え100人の人間から注目される事があっても、その中の1人、工藤新一の視線だけは判別する自信が蘭には有った。
上手く言えないけれど・・・
新一の視線にだけ、蘭は熱を感じるのだ。
まるでレーザーポインターが自分の体を狙っているように。
「オーナー。仕事中なので・・・」
暗に関係ありませんとつれない態度を取る蘭を、オーナーは静かに見詰める。
「お仕事よりも今はあちらの方が大事だと思うわよ?私は貴方を咎めないわ。」
「いいえ。ほっとけば良いんです。あんな奴・・・」
尖らせた唇は大層魅惑的で、紅い艶を放つ。
「でも随分と落ち込んでいたみたいよ。彼。あんな格好良い人が落ち込むとなんだか同情したくなる気持ちも数倍ね。」
「オーナーも!・・・周りも甘いんです。あいつに。まったく。顔で得してるんだから。」
「蘭ちゃんの事、随分切ない目で見詰めてるのよ。ねぇ蘭ちゃん?少しお話聞いてあげて?」
蘭とオーナーの会話をちらちらと興味深そうに聞き耳を立てる周囲のテーブルのお客様に、蘭はさすがに居心地が悪くなる。
中には蘭を嘗め回すように観賞する年若い男も居て、蘭は振り払う様に身動ぎをした。
オーダーを求める声がちょっと先のテーブルから上がった。
渡りに船と、蘭は軽くお辞儀をするとそちらの方に足を向けた。
しかし。
「あ?!」
「オーダーは私が取っておくわ♪」
蘭が手にしていた伝票はあっさりとオーナーの手の中に移動した。
機敏な動作でテーブルに近付くオーナーに蘭はぱちくりと大きな目を瞬いて、やがて諦めたように小さな溜息を一つ。
ココら辺が潮時かもしれない。
今まで幾ら酷い喧嘩をしても。
あの不器用な推理馬鹿を許さなかった事など、一度も無いのだから・・・
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