Feel So Good -32-
  



  

「工藤が睨むとしたら、そりゃ憎き恋敵だけやろ。・・・そんなん居やせんのにな〜。」

「本当。この嫉妬深さは結構マイナスポイントなんだけど、蘭ちゃんも良く愛想尽かさないよね。」

「・・・時間の問題とちゃうか?」

「・・・ヤバイね。新一。そしたら誰がこいつ止めるの?」

「大暴走しそうやな。俺は一パスや。」

「俺だって嫌だぜ?嫉妬に狂った名探偵のストッパーなんて。」

こそこそと話をしていると、オーナーが面白そうに聞き耳を立てている。

何時の間にやらテーブルにちゃっかり椅子を持って来ていて、まるで最初から同じ面子でテーブルに着いたかのような溶け込みっぷりだった。

「『名探偵』って?」

聞き慣れない言葉に敏感に反応したオーナーに、飛び切りのフェミニストの代名詞のような男、快斗が丁寧に答えた。

「あいつ、結構名の通った学生探偵なんですよ。工藤新一っていうんですけど。ご存知ですか?」

「えっ?!知ってるわよっ!勿論っっ!まぁまぁ。そうなのそうなの。あらぁ・・・凄いわね。」

「凄いんは、まぁ探偵やってる時だけですわ。ほんま。普段はあの通りやし。」

これだけ罵詈雑言を耳元で言われながらもただの一度も振り向かない新一は、無神経なのか図太いのか。

黙々とカップに注がれたコーヒーだけが減っていく。



「凄いわぁ・・・あの東の名探偵の『工藤新一』君なのね!」

「・・・有名人やな。工藤。ちょい悔しいわ。」

平次が子供っぽく顔を歪める。

元々負けず嫌いが奏して新一にわざわざ会いに来た平次なので、自分を差し置いてこうやって新一だけがクローズアップされると面白くないらしい。

このテーブルで膝を突き合わせている3人はそれぞれ有名人なのだが、如何せん、有名人である事をまったく意識していない新一と、有名人である事に無頓着な平次、そして有名人である事を意図的に隠している快斗と、一癖ある面子ばかり揃っているというのが困りモノなのである。

「あの新一君が蘭ちゃんの彼氏なのね。なんだか華やかなカップルね。」

「同感です。」

確かにこの3組の幼馴染カップルの中で一番華があるカップルなのは間違いないと、快斗と平次は頷いた。

空手都大会優勝者で有名人の両親を持ち、自身も輝くような大輪の華の美貌を持つ蘭と、高校生探偵として名を馳せ、両親はやはり有名人、本人も親譲りの端整で文句の付けようの無い顔立ちの新一。

二人並ぶと人目を引くカップルなのである。

人は美男美女でお似合いの二人だと羨む事もあるだろう。

外見だけならそうなのだが、如何せん内面的な部分となると問題は山積みだ。











「新一・・・いい加減その鬱陶しいばかりの目つき止めろよ。」

とうとう覚悟を決めて快斗が新一の肩をぽんぽんと叩きながら、呆れたように話し掛けた。

無視される言葉に溜息は一層深い。

「工藤。世間に呆れられるで〜。ヤキモチっちゅーのはたまに妬くから可愛いんやで。」

「そうそう。嫉妬ばっかしてると疲れるだろ?」

「ねーちゃんやて、嬉し思うんは最初だけや。段々うざい思い始めてんとちゃうか。」

左右から交互に納得させる様に説教口調でアプローチしても、新一からは無しのつぶて。

新一の頭越しに目線を合わせて、二人はどうしたものかと早々に匙を投げたくなってしまっていた。







「あら、蘭ちゃんこっちを見たわ。」



一人のほほんとしていたオーナーの声が響いた。

3人がほぼ同時に同じ方向に頭を向ける。

あまりの動作の素早さに、空気を切る音まで聞こえそうな勢いだった。

タイトミニに包まれたきゅっと引き締まったヒップを捻り、上体だけこちらを向いている蘭が遠くに見える。

脇のラインはすらりと美しく、盛り上がったバストはこの距離でもはっきりと見て取れた。

周囲の男は例外無く皆蘭のボディラインに見惚れているらしい。

だらしない半開きの唇やら伸び切った鼻の下が、同じ男が見ても見苦しかった。

あんなに注目されての仕事はさぞやり難い事だろう。

同情的な眼差しを蘭に向けた二人と違って、新一は更に周囲の男達に怒りの炎を燃やした様だった。

ぴりぴりとしたオーラが肌を傷付けそうな錯覚さえ覚える。



蘭が困った様に眉を顰めた後ぷいっと横を向いた。

新一がショックを受けて、肩を落とした。











  


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