Feel So Good -30-
  



  

「良かったわ〜。青子ちゃんがカイト君を許してあげないって意地を張るようだったら、私がどうにかしなくちゃって思ってたから〜。」

「オーナー・・・あの。スミマセン。」

二人の世界から戻って来て見れば、注目を浴び捲りの状態で、青子は急に居た堪れなくなってしまった。

知り合いから訳知り顔でにやにやされるのはともかく、見知らぬ人間にまで暖かく且つ興味深く見守られてしまった二人は、きょろきょろと落ち着きなく視線を揺らしてなんとかやり過ごそうとした。

快斗は思い出した様にかたんっと席に座り、取って付けた様に不自然な仕草で少し冷めてしまったコーヒーに口をつける。

青子も俯いてもじもじとつま先に視線を落とした。

からからと一人陽気に笑っているのは、本来雇っているバイトの人間のそんな不真面目とも言える就業態度を咎めるべき立場のオーナー。

恐縮して益々体を縮める青子に気安く肩を軽く抱いて、快斗にはお茶目なウィンクを一つ。

「なんだか良いわね〜。貴方方。想像していた通り!嬉しくなっちゃうわ。」

「・・・想像、してたんですか?」

上目遣いの目線は、時として快斗への最高の武器になる逆らえない魅力を伴うもの。

同性の年上であるオーナーは一目惚れなんて事はさすがに無いが、それでも目をみはって見惚れるように動作を止めた。



「青子ちゃん。そんな目をしちゃ駄目よ。」

「へ?」



言われた意味が分からず、青子は大きな目をくるりと揺らした。

ゆっくりとした何処と無く諭すような声が言葉を紡ぐ。



「無意識ならちょっと困ったものよ?ソレ。」

「えっと・・・」

「カイト君を見るなら、尚更そんな風にじぃっと見詰めたら駄目。勿論他の男の子なんてもっての外!意味、分かる?」

「あの・・・分かりません。」

素直な気持ちで青子が困った様に口篭もると、オーナーは快斗を意味深に見遣ってなんでも無い事の様にさらりと言い放った。



「だったらカイト君に教えてもらってね?手取り足取り教えてくれるわよ。きっと。ほら、青子ちゃんに教えてたくてうずうずしてるみたいだから。」



その言葉に快斗を先生か何かの様に教えを請う生徒の視線で見詰める青子に、快斗は少々紅くなった頬を引き攣らせてそっぽを向いた。



遊ばれているのがひしひしと伝わる。

意外と食えないタイプの女性だと分かったオーナーを軽く睨んで、快斗は両手を挙げた。

お手上げのポーズだ。



「青子。頼まれたって俺は教えねーぞ。自分で答えを見つけてくれ。頼むから。」

「え〜?!教えてくれないの?意地悪。」

「その方がおめーの為なんだけどな・・・」

青子に聞こえないくらいの小声でぼそりと本心を呟く。







もし快斗が本当に青子にその意味を教えるとしたら、それは実践を伴うものになるに違いない。

快斗が望もうと望まなくとも。

本能の暴走に付ける薬などないし、思い通りに制御する為の都合の良い手綱などないのだから。







「黒羽は意外に大人やな。そこで引く、ときたか。」



平次が面白そうに快斗の脇腹に腕を突く。

コレ以上からかわれてなるものかと快斗は平次に少々物騒な瞳で威嚇するように睨みつけた。

本気を出した快斗を命懸けでからかいたいと思う男は居ない。

平次も例外ではなく、出しかけた手を引っ込め、そっぽを向いて意志表示した。











「所で・・・これだけ近くで騒がしいことをやっているのにまったくこちらに無関心な彼はもしかして『シンイチ』君?」

「そうですわ。・・・でもなして知っとるんです?」



オーナーの鋭い推理に驚きで返事が出来なかった青子に代わり平次が答えるも、やはりその口調には不思議そうな色があった。

しかし、平次はオーナーが無言で見た方向に視線をやって、納得して椅子に深く座り直した。

快斗も平次と似たような表情を浮かべ、苦笑いを浮かべる。

青子だけが未だきょとんっとしている。

「青子も大概鈍いよな・・・」

快斗が笑いながら青子を手招きをする。

素直に顔を近付けた青子に、ようやくいつもの関係が戻ってきたと内心喜びつつ、からかうような色を綺麗に消してそっと耳に囁いた。



「新一が見てる方向。」

「?」



新一の頭はきょろきょろと頻繁に動く。

それは目線が絶えず移動しているという事だ。

青子は新一の頭の角度から見ている方向を割り出し、新一と同じモノを見ようとした。



「あ・・・」











  


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