Feel So Good -29-
  



  

「そうだよな。関係ないよな。ナカモリさんがカイトの事どんなに好きでも、ね。」



にっこりと嬉しさを隠す事の無い邪気の無い笑顔に、青子が持ち堪えられず撃沈した。

オーナーの目の前にいる事を忘れてしまったように、快斗に眦が釣り上がった怒った顔を向ける。

「バ快斗っっ!調子に乗ってっっ!大っ嫌いっっ!!!」

「ふぅぅん。俺の事嫌いなんだ。」

演技の入ったわざとらしいしゅんとした態度で、快斗がテーブルにのの字を書く。

青子は精一杯快斗から顔を背けて、つーんっと唇を尖らせている。







「・・・あらやっぱり彼が『カイト』君だったのね。」



秘密を知った少女の様に無邪気にオーナーが笑い、平次が苦笑を上らせて腕時計を指先でとんとんっと青子に指し示した。

平次が何を言いたいのか分からず、青子が怒っていた事も端に押し遣ってきょとんっと瞳を2回瞬かせた。

幼さの残る表情に、自分の幼馴染に通じるモノを感じて平次が苦笑を深くした。

「5分しかもたんかったな。ねーちゃん?」

「!!」

青子が思わず情け無い表情を浮かべた。

他人に常々言われている通り本当に嘘を吐くのが下手だと言う事を、改めて自覚したのが痛い。

思わず言い訳がましい台詞が口を吐いて出たとしても、それはしょうがない事と言えよう。



「だって・・・オーナーと快斗が波状攻撃してくるんだもん。」

「いやいや、連携攻撃やろ?」

そやろ、黒羽?と平次が快斗を振り向くと、快斗が白い歯を光らせて笑った。

爽やかでいながら、どことなく優秀な策略家のような印象を受ける、そんな微笑で。



「青子なんて俺にかかりゃちょろいモンだぜ。抵抗したって無駄。」

「なっ?!何よっっ!えっらそうに!快斗自分の立場忘れたのっっ!!!!」

ばぁぁんっとテーブルに両手を叩き付けて、青子がぐっと快斗に詰め寄った。

立ち上るオーラは怒りで真っ赤に染まっている。



あ、と口を開いて快斗は動きを止めた。

楽しくって調子に乗って、そもそもの二人の現在の状態を頭の中から都合良くデリートしてしまっていた。

たらりと額を汗が伝った。







「快斗は青子と仲直りなんてしたく無い訳ね。よぉっく分かりました!食べたら出てってッッ!!!!」

「ああああ、待てって青子っ!俺が悪かったっっ!」

堪らず立ち上がって快斗もテーブルに両手を付いて青子に顔を近付けた。

至近距離でも粗なんて見つからない完璧な造作の可愛らしい顔。

白磁の頬を指先で確かめたい衝動は、今現在はマイナスにしか働かない事が分かりきっているので、快斗は指先を握り締めてぐっと耐えた。

二人の前髪は友好的に触れ合っているのに、視線はまったく絡み合わない。

青子の瞳に満ちる拒絶の光は強く、快斗の手探りのアプローチを拒絶してしまっている。





「青子ちゃん・・・?あの・・・」

「知らないっ!」

「悪かったってば!」

「誠意が感じられないっ!何よっ!バ快斗っ!工藤君と服部君まで巻きこんでっ!反省しなさいっ!」

「あ・・・まぁ新一と平ちゃんはね。まぁ悪かったと思ってっけど・・・」

「蘭ちゃんも和葉ちゃんもっ!皆な皆な快斗の所為なんだからっ!」

「・・・」





返す言葉も見当たらない。

青子の怒りはどうやら自分の分プラス、仲の良い蘭と今日初めて会ったのにまったく蘭と同じ境遇だった和葉二人分の怒りのようだ。

そんな所も優しい青子の気質を表しているようで、快斗は全面降伏の気分だった。

理由がソレで、怒りのゲージがコレなら、文句なんてつけられない。



「青子・・・ゴメン。」



言葉面は一緒でも、込められた意味は今までの謝罪の言葉の中でダントツに深い。

青子は快斗の変化に気がついて、怒りの為強張ってしまっていた体から力をストンっと抜いた。







「・・・もう、しない?」

「約束、出来ねーけど。努力する。」







怪盗キッドである事を、生半可な気持ちで自分に許している訳じゃないから。

やらなければならない時には、青子の不興を買ってでもやっぱり約束を破ってしまうけど。

快斗の苦渋の答えに、青子は淡い苦笑を刷いた。



「そう言うと思ったよ。・・・快斗。」



むしろそう言わなければ、ガッカリしたかもしれない。

青子もまた快斗が怪盗キッドである事を、正しく理解しているのだから。















  


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