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「あの・・・オーナー?何かご用ですか?」
慎重に口を開いた青子に対して、にこにこと首を傾げる老婦人。
「ね。そちらはどなた?」
平次、新一、快斗と順に視線を巡らせて、最後に期待した嬉しそうな笑顔を向けられた青子は罪悪感にちくりと胸を刺されつつ、微妙に視線をオーナーの視線と外しながら言葉を発した。
「あ・・・クラスメートなんです。ちょっと・・・外で会う事が初めてだったんで驚いちゃって、ついバイト中なのに声かけちゃいました。」
「・・・?」
自分が紹介されているのに、その形容詞がなんだかおかしい事に快斗は首を傾げた。
喧嘩中だからって訳でもなさそうな雰囲気に、快斗は青子の話し相手である魔女の扮装をした品の良さそうな夫人を観察する。
探偵などと言う職業ではないが、人を観ると言う事に関しては、両隣りの二人に引けを取っているなんて思ってはいない。
「クラス、メート?あら・・・そうなの?」
言外にがっかり、という感情が見え隠れしている言葉。
快斗はその一言でピンっと来た。
青子は快斗という幼馴染の事をこの夫人に言いたくないと思っているという事だ。
経緯はどうあれ、隠したがっている。
快斗は小さく溜息を吐いて、青子の思惑に乗ってやる事にした。
今日の自分は分が悪過ぎる。
今日中に、しかも青子がバイトを終えるまでには仲直りしてしまいたい快斗としては、お姫様のご機嫌を損ねるような真似はなるべくしたくなかったのだ。
バイトが終わるまで、と期限を切ったのは、勿論青子をテイクアウトする予定だからだ。
自分に内緒でこんな可愛い格好でバイトなんぞして、自分以外の若い男を楽しませていた分は、後で取り返させて貰わないと・・・
「・・・本当に?」
希望を捨てきれないのか、青子のどこか曖昧な態度が怪しいと感じたのか、オーナーが食い下がってくる。
青子は嘘をつくのがとても下手だと言うことを、証明するかの如くぴくんっと肩を揺らして明後日の方向を向いた。
思わず快斗と平次が顔を手の平で覆ってしまうような自白っぷりである。
「ナカモリさん。今日はあいつ、どしたの?」
他人行儀に助け舟を出す快斗に、平次も同調して会話を合わせる。
「そやそや。あいつがよぉそんなバイト許したな〜。驚きや。」
「まぁ。あいつって、もしかして噂の『カイト』君?!」
敏感にその話題の人物に反応する夫人に内心思わず苦笑いをする快斗。
俺はそんなに有名なのかよ。
青子の奴一体何を話してんだか・・・
ちらりと意地悪い瞳を向けると青子がかぁっと頬を染めてそっぽを向いた。
その仕草で快斗は自分がどうやら青子の『恋人』として話題に上っていた事を悟り、にんまりと笑った。
「そや。その噂の『カイト』の事ですわ。」
「まぁまぁ貴方達はどんな方なのかご存知なのね。」
「そら知ってまっせ〜。」
意味深に快斗に視線をやって平次が笑う。
目の前の男なのだから知ってるいるも何も無いのだ。
「青子ちゃんがすっごく格好良いって言ってたから気になっちゃって!」
「おっおおおオーナー?!私そんな事言ってませんっっ!」
思わずお盆を足元にかららぁぁぁんんっと落としそうになって、青子はオーナーに慌てて詰め寄る。
落としそうになったお盆は平次がはしっとナイスキャッチしてテーブルの上に戻した。
快斗は嘘ぉっと目を見開き、今や真っ赤な顔をした青子を見詰めた。
「あらあら、だって青子ちゃん口では意地悪な事言っても目がキラキラしてたから分かるのよね。隠してても。」
「か、勝手に虚実を捏造しないで下さいっっ!こっこここ困りますっっ!」
「あら、なんで?大丈夫よ。本人には絶対言わないからっ!」
「でもでもっっ!!」
「それに青子ちゃん、いっつもお洋服選ぶ時に気にしてるでしょ?『カイト』君が気に入るか気に入らないか、あれこれ考えながら試着する青子ちゃんすっごく可愛いですもの。」
「ちちちち違いますっ!青子そんな事考えてませんっっ!!!」
「あらあら、隠す必要無いじゃない?って・・・あ、クラスメートのこのお二人にバレちゃったら駄目だったかしら?」
オーナーが口元を指先で隠して、二人の方を見て困った様に笑った。
平次は「俺、口固いんで有名やし。」などとフォローを入れているが、微妙に口元の笑みを消し切れず、変な顔になっている。
真っ赤に頬を染めた青子の視線の先で、快斗が片肘を突きながら嬉しそうににやにやと青子を臆面も無く見詰めている。
悦に入った微笑みは、快斗を年相応の男子高校生に見せていた。
「へぇ〜。ナカモリさん、カイトの事そんなに意識してたんだ。」
面白そうに話に割り込んで来た快斗に青子はきっと睨みを利かせたが、当然快斗はそれくらいの攻撃には慣れていて今更怯まない。
「・・・クロバ君には関係ないでしょ?!」
刺々しい言葉には蕩けるような甘い微笑でカウンターアタック。
こういう時の快斗は本当に無敵だと言う事を、青子は経験上知っている。
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