|
唖然。
3人が3人揃って、そんな表情の見本市みたいに並んで突っ立っている。
視界に飛び込んで来たのは、くるくると良く働くポニーテールの美少女。
言わずと知れた、服部平次の幼馴染だ。
「・・・なんでやねん。」
「・・・和葉ちゃんが居ると言う事は・・・」
素早く辺りに慧眼を走らせると、奥の方で何やらにこやかに客と話している蘭の姿があった。
ぷちんっと何かの糸が切れる。
快斗も時を同じくして喧嘩別れしていた幼馴染の姿を発見した。
マニアが見たら垂涎モノの可愛い格好をして、愛想を振り撒きながら給仕をしている。
隣りのテーブルの鼻の下を伸ばした男のいやらしい視線が滅茶苦茶気に障って、快斗は額にくっきりとした青筋を浮かべて、青白い炎を全身から迸らせた。
「あ・・・あの、お客様?席に案内させて頂いても宜しいでしょうか?」
只ならぬ様子を見せる3人の男子高校生に怯えながら、スマートなスタイルのウエイターが恐る恐るお伺いを立てる。
一度瞳に捕えた幼馴染から視線を剥がさずに首だけで頷く3人に、おっかなびっくりメニューを片手に案内する男が気の毒だった。
席に着いても一向にメニューを開かず、じぃぃっと見詰める。
気が付け気が付けと念を送っているが、何故か3人の美少女達は一向にこちらに気が付いた様子も見せずに忙しそうに働いている。
それがあまりにも不自然だったので、ようやく男達は気が付いた。
「んだよ。こっちの事避けてんじゃん。」
注意してみれば、なんの事は無い。
彼女達は意地を張るかのように、こちらを決して見ようとはしていなかった。
担当範囲もあるのだろうけど、蘭などは3人が座ったテーブルから一番遠く、彼女の長く美しい黒髪を飾るリボンの色が辛うじて分かる程度の距離にしか接近してこなかった。
新一の中の糸が、またぷちんっと1本切れる。
「和葉ちゃん・・・顔が怒ってるよ。」
快斗が漸く気持ちを落ち付けて、瞬間接着剤で貼り付けていたかのように幼馴染に固定されていた視線を引き剥がして見た先には、明らかにご立腹の様子の西の名探偵の幼馴染。
テーブル2つ向こうで手際良く注文の品らしきティーカップを女性グループの前にことりと置き、にっこりと笑顔のサービスをしている。
何事か話し掛けられて、ちょっと吃驚した表情を浮かべる。
銀色の丸いお盆を胸の前に抱くようにして、ぷるぷると左右に顔を振って、頬を紅色に染めて困り顔。
なにやら年上で派手なおねーさんに強く言われて、あの和葉が押され気味だ。
平次、快斗、そしてようやく意識を幼馴染から周囲へと戻した新一の目の前で、和葉は数人の女性に肩を抱かれて写真を撮られていた。
丁度こちらを向くような角度でポーズを取っていた為、和葉のコスチュームが良く見える。
平次がほけぇっと口を開けて見惚れる傍で、二人の良く似た顔を持つ男がふぅむと客観的感想を述べている。
「ありゃ〜。マニア垂涎モノのメイドさんコスだよね。アレ。俺の友達涙流して喜びそう・・・折角だから教えてやろっかな。」
「色目は渋いのに、形が可愛い感じだな。しかもあんまりココらであそこまで凝ったタイプのは見た事ねーし。ふぅん。俺でもちょっと目を惹かれる。」
視線の先で、和葉は漸く解放されて、再び仕事に戻っていた。
踵を返す時に、こちらをちらりと見て、ぷぅっと頬を膨らませる。
釣り上がった細眉と、アーモンド型の黒い大きな瞳。
もし人目が無ければ舌でも出されそうな勢いだ。
平次は呼び止める事も出来ずに、そのまますらりと綺麗に伸びた背筋を見送って、がっくりと肩を落とし、机に突っ伏した。
「怒っとるわ。めっちゃ・・・」
「ええっと・・・どういう経緯で3人がこんな所でバイトしてるかって事なんだけど・・・」
珍しく申し訳なさそうな快斗の言葉に、新一が続けて溜息混じりに吐き出した。
「つまり俺達に直前になって約束すっぽかされたからって事か。でも、随分タイミング良くバイトの口なんてあったよな?」
「ああ、それについては・・・実は青子が誘われてたんだよね。ココのバイト。」
先ほどの態度の原因はコレだったようだ。
とことん元凶を生産してくれる怪盗に、もう二人は呆れるしかなかった。
快斗もなるべく体を小さくして、誤魔化し笑いを浮かべて、一度発動してしまえば天地が激動するかのような二人の矢のような攻撃をかわそうとしている。
「それでさ、俺と約束が有ったから断った筈、だったんだけど・・・復活してたみたいだな。このバイトの話。毛利さんと遠山さんは、青子に誘われたって所で。」
「ココ、なんだって、あんなコスな訳?」
一向にこちらを振り向こうとしない幼馴染の頑なな態度に、不機嫌さは急斜面を描いてどこまでも深く掘り下がっている新一の責めるような口調に、快斗は髪の毛が少し掛かった耳たぶに指先をやりながら答える。
心の中では、新一君をコレ以上拗ねさせないでね毛利さん、と祈りを掛けながら。
「ココのカフェはブティックのオーナーが一緒に経営してるんだ。だからソコのブランドの商品がアレンジされてウエイトレスさんに支給されてんだよ。1年に4回、季節毎にきっちり変わってくれるから、結構ソレ目当てで来る客も多い訳。」
「はぁ。それで和葉の奴あない格好しとる訳か・・・似合うとるけど・・・」
言葉を切った平次の視線の先では、和葉の姿にぽぅっと見惚れる同年代の男の姿。
どうも先ほどからちらちらとヒップの辺りにばかりさ迷っているそのスケベったらしい視線が気になってしょうがない。
自分がしゃしゃり出て行って、その視線の行き先を捻じ曲げてやりたい気持ちをぐっと堪える。
そこまでガキじゃない。