Feel So Good -20-
  



  

二人の名探偵の目の前を、手錠を掛けられた男が刑事二人に左右から挟まれ連行されていく。

それを眺めて、二人は同時に時計を確認した。

針は午後の3時を指している。

なんだかんだの雑務でココまで長引いてしまったのを、二人は無力感を味わいながら苦い思いを噛み潰した。

警察機関の長所であり、短所。

勝手な行動は部外者であっても、なかなか難しい。

結局今回の一幕は一人の怪盗が逮捕され、一人は無事逃げおおせた。

言うまでも無く、警察を手玉にとって見事ビッグジュエルを持ち去ったのは怪盗キッドの方だ。





「僕達はそろそろ・・・」

人当たりの良さそうな営業用スマイルで新一が手近な警官に声を掛ける。

「あ、一応上の人間に報告・・・」

「忙しそうですから、こんな瑣末な事で作業の手を休めさせるのも申し訳無いですから。」

だから煩わしい事すんな、と瞳だけは笑ってない。

可哀相な下っ端警察官は推された様にこくりと頷いた。

新一と平次は他の人間に捕まらない様に気配を上手く回りの喧騒に紛らわせて現場を抜け出す。

コレ以上の面倒毎に巻き込まれてやる義理は無い。





足早に美術館の正門を目指しながら、こそこそと打ち合わせを始めた。

「さっきから携帯繋がらんわ。あの女。」

「こっちも切られてる。家にも居ねーみたいだし。」

「そうか。徹底的っちゅー訳か。」

ずず〜んと重苦しい暗雲を背負ったかのような平次に、地の底から這い上がってくる妖気のようはオーラを纏う新一。

今だけはその外見と名声に目が眩んでいる女子高生でも傍に居て欲しくないタイプの男に遷移している二人は、大通りに出てタクシーを捕まえた。

早速乗り込んで行き先を告げる。



「米花町へ。」



彼らの行き着く先に彼女が居るかどうかは、天のみぞ知る。





















「ええっと・・・」

目の上に庇を作り、明るい太陽光線を遮りながら快斗はきょろきょろと目的の人物の姿を探した。

ふわりと風に揺れるセミロング。

期待した通りにはやはりいかないらしい。

視界の何処にも、愛しい幼馴染の姿は入って来なかった。



「・・・いや、分かってたんだけどね。」



意識して弾んだ声を出したはずなのに、喉から出て行った声は梅雨の時期の空気の様に湿っぽい。

受けているダメージが大きい事を改めて思い知った快斗は、力を失った様に背後のベンチにどすんと腰を下ろした。

今日青子と二人で行く予定だった映画館前には、人が多く行き交っている。

こんな時は何故か仲睦まじいカップルばかりが目に付くもので、それがまた自分の不甲斐無さをひしひしと思い知らされるのだ。

実際この幸せそうなカップルの何割が本当に幸せなのかは分からないが、青子は今日一人でこんな情景を見て悲しみを募らせているのだろうか。

怪盗キッドとしての黒羽快斗も赦してくれている青子に、甘え過ぎている自分。

愛想を付かされたら、自分はきっと泣き叫んで嫌がるだろう。

失ってからでは遅過ぎるのだ。

尻ポケットに突っ込んでいた携帯を引っこ抜き、着信が無いかどうか確認する。

やっぱり無いと溜息を一つ。

「何処かな・・・青子。」

右足を強く踏み出して、快斗は雑踏の中にその身を滑り込ませる。



今日中に見つかれば良いんだけど。



珍しく弱気な自分が滑稽だと、世紀の大怪盗は嘲った。





  


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