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「ねっねっ!バイト終わったら遊びに行こうよっ!美味しいワインを出す店知ってるから。」
「遠慮しときます。アタシ、未成年やし。」
「踊りに行こうよっ!夜通しハロウィンパーティでさ。楽しいよ。」
「遊び友達、間に合うてますから。」
「おねーちゃんっ!僕とこれから遊ぼうよっ!」
「ごめんな〜。おねーちゃん仕事してるねん。遊べへんわ。」
「娘さんや。どうかね。景気は。」
「・・・はぁ。ぼちぼちです。」
ひっきりなしに声が掛かるので、注文を取って品物を運ぶという簡単な仕事にさえ支障が出る。
和葉は下心あるモノ無いモノ、ひっくるめてほとほと困ってしまった。
いつの間にかフロアから姿が消えた蘭と青子の行方も気になる。
きょろきょろとあまりあからさまにならない程度に、フロアの方々に視線をやって探してみるが、庸として飛び抜けて愛らしいウェイトレスの姿を発見する事は出来なかった。
「どこ行ってもぅたん?二人とも。」
少しだけ心細くなる。
バイトの経験が無い和葉は、自分の働き振りが一般的に人様に迷惑を掛けてないかが心配で、あの二人なら自分が過ちを犯しても上手くフォローしてくれると頼りにしていたのに。
はらはらと要らぬ心配を胸の奥深くに積もらせて、和葉は表情を曇らせた。
自分がここ一番の部分で案外脆いのは気が付いていた。
そんな時大抵先周りして、隣にあの肌の浅黒い口の悪い男が居た事を後になって思い知る。
多分自分が感じている以上に、ずっと大切にされているんだと、最近漸く素直に認められるようになってきた。
今日はその平次が居ない。
約束をほったらかして、事件へと飛び出してしまった。
本当は止むに止まれぬ事情があるのかもしれない。
でも、そんな時あの男は男らしく潔く、言い訳地味た言葉を一つも口の端に載せないのだ。
誤解されてもしょうがないその態度は、裏を返せば平次がどんな罵倒叱責さえも受けるという真摯な態度を表しているから。
つい、許してしまう甘い自分が居る。
思い出して、はぁっと息を細く吐き出す。
「おねーさんっ!注文お願いっ!」
あどけない表情の中学生らしい女の子の集団が呼んでいる。
和葉は気を取り直して笑顔でそのテーブルに向かった。
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