Feel So Good -18-
  



  

「まぁ。蘭ちゃんの彼氏は『シンイチ』君って言うの?」

「そうなんです!青子と一緒で幼馴染なんですよ。」

「青子ちゃんっ!」

「青子ももう誤魔化すの止めるから、蘭ちゃんも認めようね!」

「そうよ。女の子は素直が一番。それで、二人の幼馴染はどんな人なの?」

「新一君は・・・すっごく女の子に優しいんですよ。それに知的だし!」

「そんな事ないです!新一なんててんで生活能力無いし、知的って言っても知識だけで全然実感ともなってないし!それを言うなら快斗君の方が、凄く気を配ってくれるし場の雰囲気を盛り上げてくれるし良いと思う!!」

「蘭ちゃん・・・それは嘘。快斗は単に女の子が大好きでスケベだから下心で気を配るだけだし、派手好き目立ちたがりだから、結局自分の好きなようにやってるだけ。」

「まぁまぁ。素敵な人達ね。」

「「全然素敵なんかじゃないです!」」

声を揃えて真っ赤な顔で反論する二人の本心を、オーナーは間違えずにくみ取って嬉しそうに小首を傾げた。

「こんな可愛らしいお嬢さんを虜にするくらいだもの。本当に素敵な人なのね。」

「・・・」



心の中ではどうして?と疑問がぐるぐると渦巻いてしまう。

幼馴染を知らないオーナーにさえ、こうやって自分達が幼馴染に溺れる様に傾倒している事を確信されてしまうのだろう。

背後のざわめきさえ遠く、二人はその場にしゃがみ込んで拗ねたくなってしまった。

無性に気恥ずかしい。

今すぐ逃げ出してしまいたい衝動がお腹の辺りに蟠る。



「私、『カイト』君と『シンイチ』君に会ってみたいわ。」

満面の笑顔が強制力さえ伴って見えるのは、きっと豊かな実体験に裏打ちされた年の功という奴だろう。

蘭と青子は、喉の奥におもちがつっかえたようなくぐもった声を出した。

この期待に満ち溢れた人の良い陽気なオーナーと幼馴染を対面させたら、自分達はどうなってしまうのだろう?

更に気恥ずかしく居た堪れない気持ちになるのではないだろうか。

耳までなんだか遠くなった様にぼぉっと頭が熱を内包して、思考が鈍く回る。

まるで人間と荷物の積め過ぎで過重量となった自動車が、いろは坂を登るかのようだ。

考えれば考えるほど、頭が痛くなってくる。



「ねぇ?今日バイトが終わる頃に呼んだらどう?お洋服選ぶ際に意見聞いたり。奮発して特別割引しちゃうから!」

「や・・・それは無理です。ほら、仕事が忙しいみたいだし。」

「そうです!いつ終わるか分からないしね。うんうん。」

手を取り合って共同戦線を敷いた二人が、オーナーのおねだり攻撃を笑顔で退けんと奮闘する。

「あら、でも都合さえ付けば飛んで来てくれるんじゃない?今日既に可愛い彼女達を怒らせてる身としてはね〜。」

的確に攻撃ポイントを押さえているオーナーに、二人は怯んでいる。

忙しい筈のフロアを放っておいて、大丈夫だろうかと二人は逃げ道を探す様にそわそわとしだした。

しかしフロアに向かう出口にはオーナーが真中に立ちはだかり、逃がしてくれそうになり。

3人の横をウェイターが足早に通り抜け、人海の中に泳ぎ去って行った。



「ね?そのコスチュームも是非見てもらいたいし!ね!良いでしょう?」

「こんな格好駄目です!絶対駄目!」

「恥ずかしいからっっ!」

「なんで?可愛いのに。このコスチューム、女性にも受けて、男性にも受ける様にデザインしたのよ。でもやっぱり生の声で確認してみたいじゃない?だから今後の参考にも是非!」

「駄目です〜〜〜!!!」

「あの、何言われるか・・・分かったもんじゃないです。」

「大丈夫よ。きっと気に入ってくれるわvスカートの丈も男性好みだし!」

「短いですよね・・・コレ。」

「青子のはそうでもないけど、蘭ちゃんのは短いよね。」

柔らかそうな太ももが覗いている自分の足を見下ろして、蘭は何かと口煩い新一にだけは絶対見せられないと強く決意する。

何かと理詰めで蘭を追い詰め、全然関係無い所から自分の正当性を主張し、最後には理不尽な約束を押し付けられるのがオチなのだ。

そう毎回手管に嵌ってばかりいられない。

「だって蘭ちゃんは足が綺麗だから絶対見せるべきだと思うの。その点、青子ちゃんは細い腰と綺麗な鎖骨を強調して。和葉ちゃんだけは、本人を見る事が出来なかったから割とスタンダードな衣装なんだけど。それだけが残念だわ。あんなに可愛らしいお嬢さんなのに。」

「そうですね。でもこのコスチューム、似合う似合わないは別にして、すっごく可愛いです!」

「あ、青子も凄く気に入りました。レースが凄く繊細でいろんな所に贅沢に使われてるし、この地の色が綺麗ですよね。」

「あら。気に入ってくれた?嬉しいわ。ねぇ良かったら、それ皆に差し上げるわ。」

思いがけない申し出に、ぱちくりと黒い大きな瞳を瞬かせる。

長く優美な睫がぱさぱさと揺れる様は、間近で見ると魂が引き寄せられるようだ。

そういった魅力は、この二人は良く似ていた。

二人の反応が満足のいくものだったのか、オーナーが上機嫌で話しを続けた。

「だって二人の体型に合わせて作ってしまったし、なかなかそういったデザインのお洋服を着こなせる人は居ないのよ?その点で貴方方って貴重な存在だわ。だからお願い。貰ってあげて?」

「でも・・・」

「あの、良いんですか?」

遠慮がちに小さな声で確認する二人に、鷹揚に笑って頷く気前の良いオーナー。



「だから!二人の自慢の幼馴染が見たいわっ!私っ!!!」

「「ああああ・・・・・」」



最後まで振り回される二人だった。



  


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