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「おんやぁ?あれに見えるは、東西名探偵じゃねーか。」
高性能の小型望遠鏡の丸い円の中に映っているのは、新聞を賑わすという意味では怪盗キッドに引けを取らない高校生探偵の姿。
なにやら、刑事に指示を出しながら、美術館の玄関に向かっている。
「ふぅん。助っ人って所かな?」
あいつらが俺の方に来るなら面倒だなぁ・・・と思うものの、状況からいってソレはないだろうと早々に対策を考える事を放棄する。
怪盗キッドに宣戦布告なんざ馬鹿げた事を考えた怪盗を騙る人物は、今日地獄を見ることになるだろうと他人事ながらちょっと同情する。
「俺は手早く宝石頂いて帰んないとな。」
青子が顔を真っ赤にして瞳に真珠色の涙まで溜めて、自分を怒鳴りつけた光景がプレイバックする。
夕日に四肢の輪郭を溶かして、華奢な体が震える様は今思い出しても胸が痛かった。
「・・・しょうがねーじゃん。俺だって破りたくて破った約束じゃないんだぜ?」
美術館のサプライズイベント。
行き成り怪盗キッドのパンドラ有力候補ブラックリストに名を連ねるビッグジュエルが初来日お披露目となっては、自分が出ない訳にはいかなくて。
結局ドタキャンして、彼女を怒らせた。
だからせめて夕方から夜に掛けては時間を空けようと、無謀とも思える昼の盗みに賭けたのだ。
予告は12時丁度。
自分の我侭の所為で泣かせてしまったのだから、自分が彼女の笑顔を取り戻したかった。
色々用意したし。
誰が見てる訳でもないのに、頬を少しだけ赤く染めて、机の引き出しに眠る小さな箱の姿を目蓋の裏に思い描く。
「さぁて。」
すくっと青空の下、マントを風にはためかせて怪盗キッドは立ち上がった。
優雅な立ち姿に、空を行く鳥でさえも魅了されそうだ。
「・・・レディースエンド、ジェントルマーンッッ!!!!」
温度を感じさせない風が、快斗の周辺で烈風となって地上に吹き降りる。
にぃっと怪盗は笑った。
「さぁ、ショーの始まりだ!!」
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