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3人が道の真ん中で、籐の籠に入ったお菓子を配り始めてから十数分。
まさかこんな事になると、誰が予想しただろう。
「おねーちゃん!お菓子頂戴!」
紅葉みたいな小さな手を蘭に向かって差し出す子供ににっこりと笑い掛けながら、パールブルーのセロファンに包まれたクッキーを手渡す。
「ねぇ君。ここのバイトの子?今日が初めてだよね。」
「俺毎日通っちゃおうかな〜♪」
大学生らしい二人連れにじろじろと全身を見られちょっかいを掛けられている和葉は、無理やりお菓子を手渡して問答無用の笑顔で追い払う。
その隣では青子が近くの公園でゲートボールをしていた老人会の人々に囲まれて、にこにこと笑いを振り撒いていた。
「嬢ちゃん幾つや?偉いな〜。仕事の手伝いか?」
「あ、バイトなんですよ。」
「可愛い娘さんがこない頑張りよって。」
元々誰からも好かれる性質の青子は、瞬く間にこの集団の人気者になってしまった。
内心どうしようと泣きが入りながら、なんとか集団さんにカフェに入ってもらう事に成功する。
ほっと一息付く間も無く、今度は幼稚園児の集団に取り囲まれた。
蘭は先程から通りの角からこちらをじっと見るサラリーマン風の男の好奇の視線に、じっと耐えていた。
近付いてくるでもなく、でも立ち去る様子も無く、ただ絵画でも鑑賞するかのようにこちらをじっと見ている。
いっその事何らかのリアクションを取ってくれれば、蘭としても対処しようがあるのだが、まさかこちらからアプローチする訳にもいかず、蘭はむずむずと居心地の悪い気分を味わっていた。
「なんやあの人さっきからじっとこっち見てんな〜。何やろ。」
「う〜ん。ちょっと・・・ねぇ。」
和葉と蘭はこそこそと会話をする。
しかし、それもつかの間の事で、すぐにお菓子を配るという作業に戻る羽目となった。
とにかく人の波が途切れない。
人だかりが3人の周りに垣根の様に出来上がり、移動する事もままならなくなってしまった。
籠の中のクッキーは瞬く間に無くなり、カフェの店員が目を丸くして補充に飛んで来る。
当初の予定では通り掛ける子供にお菓子を配るという簡単な仕事だった筈なのに、老若男女が寄って来るので、大変忙しい仕事となってしまった。
内心焦りながら、持ち前の根性と優秀さを発揮して、3人は一生懸命与えられた仕事をやり遂げようと頑張った。
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