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「工藤〜。こいつの暗号、ヘッタやな〜って思わん?」
「独創性ないな。」
刑事が右往左往する中、部屋の片隅に陣取って二人は送られてきた暗号を見て嫌な顔をした。
こんな下らない奴の為に自分達の休日が潰されたばかりか、彼女との約束を破らせたのかと怒りも倍増だ。
絶対に捕まえて、2度とふざけた真似が出来ない様に懲らしめてやらねば、今後うかうかデートも出来ない。
「そういや、工藤。怪盗キッドの方どないする?やっぱ少しは手伝わんとアカンか。」
「そこまでする義理ねーだろ。それに・・・あんま口出し出来ねーし。」
「・・・そうやった。」
平次はやり難そうにばりばりと髪の毛を掻き毟り、新一は冷めてしまったコーヒーに口を付けた。
証拠は無いが、困った事に確信だけはある怪盗キッドの正体。
偶然知ってしまったという経緯には、探偵達の大事な彼女の危機に助けられたという経緯と同義で、彼らは手が出したくても出すことなど出来なくなってしまっている。
怪盗キッドを演じる事を止めた一瞬見せた、悪戯っぽいやんちゃ坊主みたいな瞳は同年代の青年である事を示唆していて、一体どんな理由があって怪盗キッドをやっているのか、とても気になる。
追求すれば、彼は答えるのだろうか?
あの時、東西高校生探偵の間に秘密協定が結ばれた事を、恐らくキッドは知っている。
感謝はしないだろう。
それが二人なりの恩の返し方なのだと、多分正しく理解しているのだから。
「ややこしゅーてしゃーないな〜。こんな仕事二度とごめんや。」
「早いトコ片付けて、ご機嫌伺わねーと、俺明日の飯にも困ることになるんだよな。」
はぁっと溜息をつく様は、まったくもって格好が付かない。
平次は、この彼女の家庭的能力におんぶにだっこで、まったく成長していない手の掛かる東の名探偵をジト目で見詰めた。
「工藤、ほんまねーちゃんに世話ばっか掛けとんな〜。少しは自立したらどーや?」
「でもよ〜。蘭が飯作る方が美味いし、洗濯物もちゃんと乾くし、部屋は綺麗になってるし。」
「駄目男の見本みたいなやっちゃ。」
「・・・うるせー。」
バツが悪そうに視線を横に外し、新一が取って付けたように資料に目を落とす。
平次は呆れたようにそんな態度を取る新一の眺めてから、気持ちを入れ直す様にぐいっと背伸びをして、姿勢を正した。
「何にせよ、こっちの奴だけやったら早々に片付くやろ。夜には美味いもん4人で食べに行くで。」
「了解。」
二人は決然とした瞳で頷くと、二人の名探偵を敵に回したある意味不幸なこそ泥を追い詰める算段を立て始めた。
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