Dancin on the moon 【4】





合同ダンパも近付いてきたある日の放課後。



最近園子がお気に入りの暖かい雰囲気の可愛らしい喫茶店に集まった3人は普段と違う重苦しい雰囲気を醸し出していた。

しょんぼりとした蘭に青子も園子も掛ける言葉を失ってしまっていた。

見ていられないほど悩みに悩みぬいたその姿に園子はここには居ない名探偵に殺意を覚えたほどだった。

「新一・・・やっぱりダンスパーティに参加しないつもりみたい。」

「でも!まだはっきりとそう聞いた訳じゃないんだよね?」

必死に青子が希望の糸を繋ごうとする。

「・・・聞く間も無いほど最近忙しくて会えないの。」

寂しげな儚い声に青子がぐっと詰まる。

自分の事のように眉を寄せて泣きそうな表情をするのを見て、蘭が慌てて取り繕うように言葉を付け足す。

「あ・・気にしないでよ、青子ちゃん。こんな事しょっちゅうだし、新一だってそれを承知で探偵をやってて、私だってそれを承知で恋人やってるんだから。」

『恋人』の部分で蘭が言い淀んだのを園子は聞き逃さなかった。

半ば本気で蘭に勧める。

「ねぇ蘭。ダンパ楽しみにしてたじゃない?だったら恋人とかそういうの忘れちゃってぱぁっと楽しまない?私だってどうせ真さん居ないからパートナー決めてないし!」

ね?っとにこぉっと笑った園子に蘭は申し訳無さそうに首を振った。

「ごめん。私新一以外の人とは・・・」

「操立て?」

園子が少し怒ったように眉をきっと釣り上げる。

自分の事のように蘭の事を親身になって気遣ってくれる親友を嬉しく思いながら蘭はふるふると頭を振った。

それにつられて絹糸の髪がさらさらと揺れる。

「そういう訳じゃないよ?・・・新一が誘ってくれなかったの残念だけど、忙しい新一を差し置いて自分だけダンスっていう気分になれないだけ。」

青子と園子は互いに目配せをして、はぁっと溜め息を吐いた。

健気過ぎてこれ以上強くは出れなかった。

目の前に有る醒めカプチーノを一気に煽ると園子は少々乱暴にテーブルにカップを戻す。

「ああもう!あの推理馬鹿!なんで肝心な時にびしっと決められないの??」

「園子・・・」

「そうだよね!園子ちゃん!青子もそう思う!忙しくっても電話くらい出来るよね!」

ぷうっと頬を膨らませて青子までが新一の事を糾弾し出した。

ちょっと居心地の悪くなる蘭を置いて二人は次第に沸沸と怒りが込み上げだしているようだった。

「なんで蘭をパートナーに誘わないのよ!もしかして、『言わなくても蘭は俺のパートナー』なんて馬鹿な事考えてるんじゃないでしょうね???」

「本当に新一忙しいから・・・」

自分に言い聞かせるように呟くと蘭は自分の考えを口にした。



それは二人を驚かせるには十分だった。



「私ね。実行委員になろうと思って。」

「「えっっ!!!」」

絶句したまま固まる青子と園子。

「折角のイベントだしなんらかしらの形で参加はしたいから。昨日申し込んできたんだ。」

にこっと、でも何処か無理をしている笑顔で蘭は二人にそういうとカップに残った紅茶をくっと飲んだ。

こくりとその喉が上下するのを見て園子が慌てたように大声を出す。

いや、事実慌てていたのだが。

「ちょっと!蘭!実行委員って行ったら雑用バリバリやらされて、ダンパを楽しむどころじゃなくなるじゃない!それどころか参加自体出来ないわよ!!」

「でも誰かはやらないといけないし。」

「そ、そんなのそれこそ蘭じゃなくても良いじゃない!今回実行委員のなり手が少ないから当日働きっぱなしよ?!ドレスなんか着てられないし、当然ダンスなんて出来ないじゃない!!!」

「別にダンスは出来なくても良いの。園子とか青子ちゃんが踊ってる所は見たいけどね。」

既に決めてしまった事と言わんばかりに答える蘭に、青子も漸く衝撃から立ち直り園子に加勢するようにしゃべりだした。

「でもでも!まだ工藤君が参加しないなんて決まってないし、当日行き成り時間取れるかもしれないじゃない!実行委員だなんて止めなよ!」

「ごめんね?青子ちゃん。もう決まった事だから。」

「そんなぁ!青子、蘭ちゃんと一緒にダンスしたかったのに!!!」

「・・・女の子同士ではダンスはちょっと・・・」

真面目に考えて困ったように返事をする蘭に園子が呆れた口調で投げかける。

「蘭。別に青子ちゃんは蘭をパートナーにしたいって意味で言ってるんじゃないわよ。一緒に楽しみたいって言ってるだけで。」

「うん。だから私は実行委員で楽しむから!青子ちゃんは黒羽君と踊ってね?」

「そういう問題じゃないよぉ!」

顔を歪めて青子が叫ぶ。



何処でどう間違ってしまったのか。

青子にも分からないが、蘭はもう決意硬く実行委員をやる事にしてしまったようだった。











その後30分間に渡って二人掛かりで説得に当たったがとうとう蘭の口から実行委員を辞めるという言葉を聞く事は出来なかった。

日もとっぷりと傾いた頃、園子が疲れた声で「そろそろ出よっか?」と切り出した。

「そうだね。私夕飯の支度有るし。」

「青子もお父さんの夕食作らなきゃ。」

「・・・あんたたち大変ね。」

園子が感心したように小さく笑った。

蘭がその肩を抱いて笑い掛ける。

「何言ってるのよ?園子だって今日は家庭教師来るんでしょ?」

「あ〜あ。私が経営学なんて勉強してもしょうがないと思うんだけどなぁ・・・」

「園子ちゃんの方がよっぽど大変だよ。なんだか難しそう。」

並んで駅に向かいながらそんな事を話す。

皆バラバラの電車に乗るので改札を入った所で別れの挨拶を交わした。

「じゃ、今日はみんなありがとう!」

蘭がにこりと笑う。

気の合う仲間と話をした事で少し気持ちが浮上したらしく、その笑顔は常の魅力を取り戻しつつあった。

「また明日学校で!青子ちゃんもまたね!」

「うん。みんなまた会おうね!」

青子が背を向けて歩きかけ、急にくるりと振り返った。

見送っていた蘭と園子が不思議そうな顔をする。

「青子も!実行委員やる事にするから!・・・ばいばい!」

それだけ言うと後の言葉を断ち切るように青子は走り去っていった。

ご意見無用という意思表示のように。





残された蘭が呆然と呟く。

「嘘・・・だよね・・・?」



園子が無言で俯いて溜め息を吐いた。





† NEXT †

BACK