Dancin on the moon 【3】
「・・・お前だったのか。」
深夜のテレフォン。
今後の事態が容易に予想されて、新一ははぁっと相手に聞こえるほど大きな溜め息を吐いた。
嫌味の一つでも言ってやろうかと口を開きかけ、それ以上の反撃に遭いそうだったので思い止まる。
相手の含み笑いが耳朶を打って、次いで楽しそうな声が聞こえた。
「ちょっと思う所有ってね♪名探偵一口噛まねー?」
「何をさせたいんだ。俺に。」
「時間も無い事だし、手間もそんなに掛けられねーからお知恵を拝借したくてね。」
「・・・本音は?」
一段低くなった声で問うと朗らかな笑い声。
「やっぱ名探偵は話が早いや。・・・そっちの高校で頭の固い先生居るだろ?」
「・・・生徒会顧問の事か?今回のダンパに待ったを掛けたって聞いてる。」
「そうそう、その御仁。ちょちょいっと言い包めてくんねー?」
「簡単に言うなよ。」
「だって、簡単だろ?」
新一の実力を知っているからこそ叩く軽口。
心中既に作戦を組み立てていた新一は苦笑するしかない。
お互い余りにも手の内を探り合い過ぎた所為か、嫌と言うほど互いの事が分かるようになっていた。
その実力も、その考えも、その好みさえも。
やり難い相手に新一はしょうがないと腹を括る事にする。
・・・こいつの言いなりになるのは業腹だが、このダンパは蘭も楽しみにしているらしいし。
「分かったよ。引き受ける。」
「さんきゅ♪後、資材関係の取引に立ち会ってくんねー?」
「おいおい。そんな事までやらせるのかよ?」
「いや、業者が高校生って事で足元見るかもしんねーし、後でぐだぐだ揉めるの嫌だからさ。俺は俺で会場関係と当日の段取りやっとくから!頼むよ。」
「・・・何が目的なんだ?このダンパ。」
「推理すれば?」
「中森青子嬢関係。」
「・・・」
「ダンパと言う性質を考えると、お前は彼女を見せびらかしたがってると見た。」
返事が無い事が正解の証。
新一は更に続ける。
「それとも・・・見せ付ける為か?他の男に。」
「正解。」
唸るような声と共に溜め息。
「だってあいつ、最近モテるようになっちまってさー。小蝿が煩くって・・・」
急に親しげに愚痴を零し始めた平成のルパンに新一は何処かで聞いた話だと思いながら取り敢えず黙って耳を傾けた。
「どうしちゃったんだか、滅茶苦茶綺麗になりやがって。こっちの気にもなってくれよな〜。」
「『こっちの気』って言っても嬉しいんだろ?」
「嬉しいよ。勿論。でも、周りの奴等まで騒ぎ出すのは計算外。」
「贅沢者。」
「ちぇ。言ってくれるなぁ。名探偵。・・・そっちはどうよ?」
「蘭?・・・そう言えば最近下駄箱が凄い事になってる。」
「ほうほう。それで?」
「俺が呼び出されて学校に居ない時を狙ってる下級生の噂もちらほら。」
「それで?」
「・・・どっかで聞いた話だな。おい。」
「青子と一緒じゃん。名探偵もダンパで少し、『こいつは俺のモンだ〜っっ!!』って主張した方が良いぞ?」
「そうだな。」
蓋を開けてみれば同じ状況下に置かれていた事が分かり、結局二人はこの件に関して協力する事となった。
当然この二人が組めば最強のコンビに違いなく、障害なんぞ蹴散らせ蹴飛ばせで合同ダンスパーティは瞬く間に実現の運びとなった。
――― 所が。
思わぬ落とし穴が待っていたのだ。
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