Dancin on the moon 【2】
「それで?どうだったの?」
きらきらと星でも閉じ込めたかのような黒い瞳を輝かせて弾んだ声でそう問われて、快斗は無言でVサインを出した。
「俺が直々に交渉してんだぜ?断られる筈ねーじゃん。」
えっへん。偉いだろ?誉めても良いぞ!と言わんばかりの快斗をあっさりと捨て置いて、青子は仲の良い女子数人と手を取り合って飛び跳ねて喜びあった。
「やったーっ!ダンスだ!!」
「嬉いっ!」
「どんなドレス着よう??」
心底嬉しそうに笑う青子に無視された形の快斗はむすっと膨れっ面をした。
「残念だったわね?黒羽君?」
たまたま通り掛かって一部始終見ていた紅子が大人っぽい微笑みを溢す。
「何が?」
本人も気が付かぬまま拗ねた口調で視線も向けずに答える快斗に紅子は淡々と答えた。
「折角中森さんの為に面倒な交渉に臨んだのに、その努力を労って貰えなかったこと。」
「べっつにぃ?アホ子の為なんかにわざわざ俺がそんな事する訳ねーだろ?」
まるで子供のような拗ね方が彼の裏の顔からは想像も付かなくて、紅子はからかわずに居られなかった。
はしゃぐ青子に視線を向けて歌うように囁く。
「そうね。別に黒羽君はダンスパーティなんて興味無さそうだし。」
「あったりまえだろ?かったりぃ。」
つい売り言葉に買い言葉でそんな事を言ってしまう快斗。
本当は青子が友人数人と話していたのを小耳に挟んで、真っ先に面白そうだと思って段取りを整えたのだが。
公衆の面前で青子と踊るのも良いなぁなどと思っていたとはおくびにも出さずに、さも詰まらなさそうに装う。
その様子に意を得たりと笑みを浮かべる紅子。
「中森さんは黒羽君と違ってこういうイベント好きそうね?きっと大変でしょうねぇ?パートナー選び。」
「何?」
思わぬ所からの切り込みについ反応を返してしまう快斗に紅子はにっこりと底の知れない微笑みを向ける。
「そうでしょ?内気な人も誰かさんに遠慮してる人もついでに冗談半分の人も思い出を作りたい人も、皆ダンスを口実に中森さんに寄って来るわよ?だって、滅多に無いチャンスですもの?」
「それはっっ!!・・・と・・だな・・・」
思わず叫び掛けはっと気が付いて語尾を濁らす快斗を実に面白そうに眺める紅子。
引っかかってしまって悔しそうな快斗に、やんわりと忠告の言葉を述べる所が紅子の紅子たる所以なのか?
「気を付けなさい?トンビに油揚げではないけれど、虎視耽々と機会を狙っている輩は五万といるのよ?たまには直球勝負に出てみては如何?」
言い返せずに居る快斗の脇をするりと抜け出し自分の席に向かう紅子。
「んだよ・・・知った風な口利きやがって。」
負け惜しみのようにぼそぼそと呟いて、青子の後ろ姿を見詰める。
言われなくても分かって居るからこそ、ダンスパーティなんてものを企画したのだ。
表向きダンスパーティの企画発案者は生徒会となっているが、実は後ろで快斗が糸を引いていたのはごく一部の人間しか知らない事実。
江古田の生徒ばかりか近隣の男子生徒にまで人気の出てきた青子に気が気でなくなって少しばかり事を大きくした。
同じように幼馴染を恋人にしたばかりの名探偵を巻き込もうと帝丹に合同ダンパを持ち掛けたのも快斗の策だ。
最近青子に言い寄る奴が増えてきている事が快斗の気に障って、それならば公明正大に青子が自分の物だと主張してやろうなんて思って舞台を整えたのだ。
今回ばかりは意地など張っていたら折角のプランが水の泡。
早いとこ申し込んでおこう。
はぁっと溜め息を吐いて眩しいばかりに愛らしい幼馴染の姿を見遣った。
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