(4);64/8/14〜15   こまくさ との初対面



学生時代からの親友二人と新宿で一杯やり、いいご機嫌になったところで約束させられて、彼の奥さんを加えて4人、8月中旬の白馬岳へ出かける羽目になってしまった。

さて当日は、彼らと彼女にばてられてはかなわんと、テントから炊事道具、燃料、そして食糧の大部分を一人で担ぐという大サービスの甲斐もなく、彼方に頂上が見え出した途端連中の足が進まなくなった。おだてたり、すかしたり、どやしたり、こづいたり、いろいろやってみたが効果なく、ついには一人で荷物のピストン輸送までやって、どうやら白馬肩のキャンプ場まで引っ張り上げて天幕を張ることが出来た。
しかし、その晩のお神酒が効いたか、翌日は連中も大分調子を上げてくれて、私も初対面の花の写真をとりまくることができた。ミヤマタンポポ、イワベンケイ、シコタンソウ、イブキジャコウソウ、ウルップソウ、ミヤマアズマギク・・・・・。さすがに白馬は花が豊富だ。

白馬山頂から三国境へ向かう稜線の黒部側は、岩礫の大斜面がずっと続いている。この稜線を辿っている時、植物図鑑の一節を思い出した。”高山帯の砂礫地に点々として生じ、他の草と共に雑居しない”。「コマクサはこんなところに生えてるんだがな?」といっていると、友人が「おい、ほんとに生えてるぞ!」と言って立ち止まった。彼の指差す先を見ると、なるほど岩の堆積の合間にピンクの花が2,3輪かすかに揺れていた。

早速キスリングを放り出して駆け寄ってみると、その付近のあっちに1株、こっちに1株と、2,3輪ずつの花を岩礫の間からのぞかせていた。葉の部分はまだ陰っていたが、そのピンクの花弁にだけやわらかい朝の光が射し始め、そのみずみずしい美しさを一層ひきたたせ、孤高を保って咲いていて、その形といい、気品といい、まさに”高山植物の女王”の名にふさわしいよそおいで私を迎えてくれた。

私はようやく長年の望みがかなって、コマクサを私の高山植物写真のコレクションに加えることができた。荷物は重く、苦労した山行だったけど、この写真1枚で私は充分満足だった。