恋敵・4
「ジュリアス…?」
オレはそうっと左手をジュリアスの顔の前にかざした。
微かに息遣いを感じる。…生きている。
オレはハアッと大きな息をつき、その場所に座りこんだ。木漏れ日が暖かい。
「……木漏れ日…?待てよ!さっきは今にも雨が降りそうな空で…っ!」
オレはそう叫ぶともう一度ジュリアスを見た。ジュリアスの体が少し光っているような気がした。もちろん本当に発光しているわけではない。
だが、オレには感じることができる……そう、それは確かに光のサクリア。
「ジュリアス!サクリアだ、おまえのサクリアが戻って来たぞ!」
オレはうつ伏せになって横たわるジュリアスを仰向かせ、肩を掴んで力いっぱい揺さぶった。
「ジュリアス!目を覚ましやがれ!サクリアだ!おまえはまだ光の守護聖なんだよっ!そんなとこで寝てる場合かっ!起きろ、起きろよっ!ジュリアースっ!」
ジュリアスは固く目を閉じたままだ。呼吸もほんの微かだ。冗談じゃねえ。やっとサクリアが戻ったっていうのに、このままじゃマジで死んじまう。
オレはポケットから小さな機械を取り出してスイッチをいれ、精一杯叫んだ。
「ルヴァ!ルヴァ!!いるか?!そこにいるなら返事しやがれ!」
「いやあ、驚きましたよ〜ゼフェル。あなたに貰った読書用のランプからいきなりあなたの声が出てくるんですからね〜。」
ルヴァだ。宮殿に用意されたジュリアスの病室から出てくるなりこの言い草だ。ど〜してこいつはいつもこうのんびりしてやがるんだ!
「…な、なに呑気なこと言ってやがるんだ、おっさん!そう言う場合じゃねえだろう!」
「はあ、ジュリアスのことですか。ええ、まあとても危ない状態でしたけどね〜。今ちゃんと専門医の先生をお呼びして診ていただいてますからね〜。」
そんなこたあわかってるんだ!オレの知りたいのは…
「それで、たっ…助かるのか!?ジュリアスは助かるのか、よお、ルヴァ!」
「落ち着いてください、ゼフェル。」
「落ち着けって、ジュリアスにもしものことがあったら、宇宙だって、マジでヤバいんだろ?おめえこそどうしてそんなに落ち着いていられるんだよお!」
「私は医者ではありませんからね。見ただけではわかりません。でもね、ゼフェル?
私はね、信じているんですよ〜。」
「なッ、何をだよ!」
「ジュリアスの生命力。あなたの祈り。陛下やみんなの願い。みんな、ジュリアスに生きて欲しいって、心から思っているはずです。もちろん宇宙がどうとかじゃなく、仲間としてね。もちろん、私もですよ〜。」
「生命力って…ジュリアスは…自殺図ったんじゃねえのか?」
「まさか。ジュリアスはそんなことしません。ただ元々疲労が極端にたまっているところへサクリアがなくなったり、聖地から出たりしたものだから、内臓に大きな負担がかかったんですよ〜。そんな体で歩き回ったりしたものだから倒れたんですね。もし、サクリアが復活しなければ本当に危なかったかもしれませんけど、大丈夫。医学的根拠があるわけじゃないですけど、私は絶対大丈夫だと信じてます。」
……ほんとに…ルヴァっておっさんは…まじめなんだかそうでないんだか…くそッ……なんだか、目が痛ぇ。…ちくしょう。オレは涙が止まらなくなっちまった。
ルヴァはそんなオレを黙って抱きかかえやがった。こいつがこんなことするとますます涙が止まらなくなっちまうんだよ!
くそっ!断じて泣いてなんかいねえからな!オレは目が痛えだけだ!
……オレはしばらくそのままルヴァにくっついてた。
だいぶ経ってから、ルヴァがやっと口を開いた。
「でも、ゼフェル。よく、知らせてくれましたね〜。あなたがついていなければ本当に危なかった。あなたがジュリアスを見つけなければ私たちは永遠にジュリアスを失ってしまっていたかもしれません。ありがとう、ゼフェル。」
「……叱らねえのかよ。」
「は?」
「オレがジュリアスを外に連れ出したんだぜ?叱らねえのか?」
「まさか。いくらあなたが頑張ったとしても、ジュリアス本人にその気がなければ外になんか出るわけがないでしょう。ジュリアスが出てみたいと思ったから出たんです。それくらい私にだってわかりますよ〜。」
「ルヴァ…」
そのとき、部屋のドアが開いて中からアンジェリークが出て来た。もちろん宮殿に戻って来た時からずっとジュリアスにつきっきりだったんだ。
アンジェリークは泣き腫らした目をしてたけど、でも顔は笑ってる。
「ゼフェル。ジュリアスが目を覚ましたの。あなたを呼んでいるわ。来て?」
「陛下!あ…あの、ジュリアス…」
「大丈夫。しばらく治療は必要だけど、もう命の心配は要らないわ。さあ、ゼフェル。」
そうか。大丈夫か。オレは体中の力が抜けて思わずその場にへたり込んだ。
「ゼフェル、だ、大丈夫ですか〜?」
「しっかりして、ゼフェル。立てる?」
「あ、ああ大丈夫だ。ちょっと力が抜けちまっただけだ。」
ルヴァに助け起こされて立ちあがると、オレはアンジェの開けたドアを入って行った。
ジュリアスはちょっと面倒そうな機械に囲まれて寝ていた。まだ顔色は悪いけど、ホテルにいたときよりはずっとましだ。多分、サクリアのおかげなんだろう。
「……ゼフェルか…」
「ジュリアス…。気分はどうだ?」
「…ああ…まあまあだ。…そなたには…ずいぶん世話を掛けてしまったな。…すまぬ…」
「…い、いいってことよ。まあ、ゆっくり休んで治すんだな!」
「……殴って…すまなかった…。どうしても…行きたいところがあったのだ…。」
「行きたいとこって…オレに任せるようなこと言ってたじゃね〜か。」
「ああ…あまりはっきり…わからぬ場所…だったのでな。」
「…それが、あの森だったのか?」
「森…ではない…あの城…だ。」
「城…?もしかして、まさか、あそこはおまえの…」
「そう…だ。間違い…ない。私の…生まれた城だ。」
ジュリアスはそう言うと深い息をひとつついて、目を閉じた。
「えっと、ジュリアス。もう休め。話の続きはあとで聞くからよ。な?」
「……すまぬ。」
ジュリアスはそう言うと、すぐ眠っちまった。あれだけ話すのもしんどいんだな。
そしてオレは、オレたちをじっと見ていたアンジェリークに気がつく。
「陛下。ジュリアスはオレが見てるからよ、そろそろ…」
アンジェリークはにこっと笑ってこくりと頷き、こう言った。
「ジュリアスの生まれたお城を見たの?どんなお城だった?」
「あ、ああ。塗りなおしたんだろうけど、真っ白で、青い屋根の塔があって、なんか、いかにもジュリアスん家って感じの城だったぜ。今は持ち主は住んでねえみてえだったけど。なんでも観光用の城になってるらしいな。」
「そう。行ってみたいなあ。」
オレはアンジェリークに近寄って、耳元でこう言ってやった。
「そのうち、こっそり連れてってやるよ。ジュリアスに見つかんねえようにな。」
「うふっ。ありがとう、ゼフェル。きっとね。」
「おう、きっとな。」
アンジェリークは泣いてんだか笑ってんだかわかんねえ顔でオレにぺこりと頭を下げた。ルヴァもオレの肩をぽんぽん、と叩くとにこにこしながらドアを開けて、アンジェリークと一緒に部屋を出ていった。
TO BE CONTINUED
と、言うわけで、あと一回です。今回はルヴァゼフェ(?)も書けたんで、結構嬉しかったりして。
やっとアンジェも出て来たしね。…いや、もう久々に書いた気がします、アンジェ(爆)
![]()