戦場上空を低空で飛行し、日視で敵情を偵察し、地上軍に情報を提供するというのは、第1次世界大戦に飛行機が軍用に使われるようになったときの原点だった。本機はその延長上につくられた偵察機らしい偵察機である。
地上部隊との緊密な協同作戦を目的としている事から、強力な機関砲を積んだり、大量の爆弾を積んだり、特別な高速を出すという派手な性能や特長を求めるのではなく、もっぱら前線に近い飛行場から行動できる能力や狭い空域でも活動できる軽快な運動性と視界が重視された。
本機の小出力の倒立V型空冷エンジンを使用した細い双発・双胴の中央に、平面ガラスを多用した温室のような総ガラス張りの乗員ナセルを置いた独特のスタイルも、もちろん十 分な視界を提供するために案出されたものである。これらの形態は日本海軍の数少ない対潜哨戒機「東海」にも似た思想が応用されている。
搭載されているエンジンはアルグス(Arugs)社のもので、ドイツのベルリンにあって1902年水冷直4の自動車用のエンジンを初めてつくり、それをベースに航空機用を手がけた。その後中断もあったが1926年には倒立V12の1300馬力まで生産している。
As410Aエンジンは当時の最新技術を盛り込んだ同社のヒット作品でア生産数は20900基にも及んでいる。最終モデルはAs411型で戦後はルノー(フランス)に引き継がれた。
第2次世界大戦初頭において、ナチス・ドイツ機甲兵団による電撃作戦の先駆けとして活躍したのを皮切りに、戦争の全期間にわたって活躍したが、大戦後期には敵戦闘機の手薄なロシア戦線やバルカン半島方面にもっぱら使われていた。今日でも対ゲリラ戦用の飛行機として十分活躍できるのではないかと思わせるスタイルと能力が、この飛行機の魅力である。
(1998年カレンダー掲載) |