296-2. ベトリャコーフ Pe-2 爆撃機 [ソヴィエト連邦]
PETLYAKOV Pe-2 Bomber [U.S.S.R]

全幅: 17.16m、全: 12.70m、翼面積: 40.5u、
発動機: Klimov M105 液冷V型12気筒1,100馬力×2、
総重量: 7,675〜8,500kg、最大速度: 540km/h/5,000m、
爆弾: 600〜1,000kg、乗員: 3名
 初飛行(KB100原型機): 1939年12月 Pe-2型は1940年
                                                 Illustrated by KOIKE, Shigeo  , イラスト:小池繁夫氏 2006年カレンダー掲載

 ベトリャコーフ Pe-2は、独ソ戦で最も活躍したとされている旧ソヴィエト連邦の軽爆撃機である。
 
 旧ソ連の航空技師の一人V・M・ペトリャコーフは、1936年からは大型爆撃の開発を中心とするZOK実験組織の所長に就任し、新コンセプトの機体の開発を進めていたが、スターリンの大粛清に巻き込まれて逮捕され1937年に投獄された。 しかし、獄中でありながら、KB-100と呼称される設計局を組織し、VI-100(VIは高々度戦闘機の略称)を開発に取り組んだ。
 
 ペトリャコーフは金属製主翼の設計を担当していただけあって、応力外皮構造の設計は優秀で、双発の水冷式エンジンは綺麗にカバー内に収められて、ソ連流である主翼内に冷却水ラジエターを設ける構造だった。 そして、このラジエターの冷却空気は主翼前縁からダクトを通って、主翼上面のシャッターの隙間から排出され、出力を増す事を意図していた。 更には、エンジンは過給機付きで、可変プロペラを装備し、機内装置の全ては電気化され、かつ一部与圧構造を持つなど意欲的で先進的な設計であった。
 
 1939年、VI-100の試作機の一号機が初飛行を行い、高度10,000mで時速630kmの素晴らしい性能を記録するが、当局から高々度戦闘機は必要ないと判断され、三座型の爆撃機仕様を量産に移すように命令が下ってしまった。 原型のVI-100戦闘機型からの改修設計は、爆装のための機体構造の変更は勿論であるが、急降下爆撃のためのダイブブレーキの追加、主翼の形状変更など、多岐にわたる内容となった。 エンジンでは過給機も取り外され、平凡な機体仕様となってしまった。 この機体に設計者であるV・M・ペトリャコーフを敬して「Pe-2」と命名され、実戦に送り出されるべく1941年から量産が始まった。 しかし、ペトリャコーフは1942年自分の設計したPe-2の試験飛行における事故で墜落死している。 (なお、中島飛行機では設計技師の試作機への搭乗は厳に禁じられていた。 自動車の設計者は自分で操縦できるが、飛行機の設計者はそれが許されなかったのだ!)
 
 この時代、日本陸軍では九九式双発軽爆撃機、海軍では夜間戦闘機「月光」、イギリスのデハビランド・モスキートと同じ翼面積約40u、1,000馬力クラスのエンジンの双発機たちである。 範囲を広げるとブリストル・ブレニム、メッサーシュミットBf110もある。 出現時期に僅かの差もあるが、それぞれの独自のコンセプト・地域戦略があって、その活躍を考えると設計の優劣がわかる。 
 
 ベトリャコーフPe-2は、当初は高々度戦闘機として開発されていたが、実戦ではこの画のように大型爆弾を内翼下に取り付け、エンジンナセルの外側に取り付けられたスノコ形のダイブブレーキをつかって、急降下によるピンポイント爆撃を主任務にしていた。 乗員はコックピットの縦列配置の2人と後部胴体下面に1人の計3名。 胴体を細くまとめ、液冷エンジンを使って、最大速度は540km/h、航続距離1,200kmだったが操縦性や稼働率の点で難が残った。 一般にロシアのモスキートとも言われはしたが、名機かと言われると必ずしもそうではない。
 
 日本陸軍の使役馬だった九九式双発軽爆撃機は、最大速度480km/hだが、航続距離は 2,400km。 乗員4名、前方、後上方、後下方に防御火器を備え、小型爆弾を多数爆弾倉内に収納し、目標を広く制圧することを主任務としていた。 一方「月光」は夜間戦闘機として使われたが、乗員2〜3人、最大速度500km/hである。
 
 英国の最優秀機の一つデハビランド・モスキート爆撃機は、高空性能が優れたエンジンを使い、パワーも大きかったから、600km/hを超す速度を発揮し、乗員は2〜3名で一点集中で防御火器は備えていない。コックピットは並列で大さにゆとりがあったから、大型爆弾も爆弾倉内に収容し、映画「633爆撃隊」のような、水平か、緩降下爆撃で活躍した。 翼面積約40u、 1,000馬力双発という各国の飛行機を比較してみると、いろいろのことが浮かんできて面白い。
 


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