牛生産性向上計画長期専門家 | (飼料生産管理担当) | 吉田信威 |
〃 | (飼養管理担当) | 花立信二 |
〃 | (繁殖管理担当) | 岡田眞人 |
パナマにおいては酪農先進地である高原地帯チリキ地方を除いて暑熱気候というハンディキャップもあり、酪農技術に大きな遅れを見せていた。パナマ牛生産性向上計画プロジェクトはこのような暑熱地帯における酪農技術の進展を期して1998年に開始し、既にプロジェクトも終盤を迎えようとしている。
ボリヴィアは酪農、肉用牛生産に関しては歴史もあり、加えて日本からの技術援助も長年にわたり行われてきたこともあり技術面においても、また酪農・肉用牛生産を巡る社会的な支援体制もかなり整備され、酪農・肉用牛生産の振興が図られている。
今回の技術交換事業では、単にボリヴィアにおける進んだ技術を調査するのみならず、これら組織、団体の活動状況を調査し、今後のパナマにおける酪農生産の振興に資することとしている。
実際にサンタクルス及びコチャバンバにおける経営実態及び支援組織の状況を見聞し、今回の技術交換事業の目的はかなりの程度達成された。
なお、今回のボリヴィア訪問に際しては、国際協力事業団ボリヴィア事務所、同サンタクルス支所のご支援をいただいた。JICA専門家・肉用牛改良アドバイザーである冨永秀雄氏には全体の日程・関係団体や牧場等との連絡調整及びサンタクルスでのご案内をいただいた。ボリヴィアホルスタイン協会(ACRHOBOL)のFernando Molina氏にはコチャバンバで案内をしていただいた。また、山崎均氏には全般にわたり通訳をしていただいた。今回の技術交換事業において大きな成果をあげることができたのはボリヴィアの関係者の皆様方から多くの支援が得られたことによるものである。皆様方に心よりお礼申し上げる。
1月13日 | パナマ→ボリヴィア(サンタクルス) 行動計画等打ち合わせ サンタクルス泊 |
14日 | JICAサンタクルス支所 サンタクルス肉牛協会(FEGASACRUZ) ボリヴィア農業試験場 コロニア沖縄(酪農家、農牧総合協同組合(CAICO)) サンタクルス泊 |
15日 | 酪農協会(FEDEPLE)、酪農牛登録協会(ASOCRALE) 家畜人工授精センター(CIABO)、肉牛改良センター(CMGBC) セブー牛登録協会(ASOCEBU) サンタクルス泊 |
16日 | サンタクルス→コチャバンバ ボリヴィアホルスタイン協会(ACRHOBOL) 小規模酪農生産協会(APL)、酪農家(4戸) コチャバンバ泊 |
17日 | 高地高原酪農協会(ALVA)、酪農家(3戸) コチャバンバ泊 |
18日 | コチャバンバ→サンタクルス ワルネス酪農協会(AGAREWAR) 北部肉牛協会(AGANORTE) 酪農場 肉牛改良センター(CMGBC)(ベニーサブセンターの話を聞く) サンタクルス泊 |
19日 | 肉牛ブリーダー(ネローレ種、リムジン種) ボリヴィア(サンタクルス)発 |
20日 | パナマ着 |
サンタクルスはボリヴィア共和国の中央からやや東南に寄った所にあり、ここは「東部乾燥平地」に区分される。標高は約410mで、その東側はブラジル南西部及びパラグアイにつながる乾燥平地が広がり、西側は次第に標高が高くなり山麓地帯を経てアンデス山脈につながっている。
サンタクルス市の東側には川(Rio Grande)が南から北に向かって流れ、これは最終的にはアマゾン川に合流する。
年平均気温は24.5度であるが、ここは南半球に位置することもあり、5〜8月は比較的気温が低い。1月は雨季で気温が高い時期であったが、サンタクルスにおいては日中の気温はパナマとほぼ同じ程度と感じられた。夜から朝にかけてはパナマよりかなり涼しい(17℃程度とのこと)。乾季で気温が低い時期には夜間の気温は7〜8℃程度になるとのことであった。
年間降雨量は1,346mm(1943年〜1988年の平均)あるが、1月に大きなピークがあり、また8月が最も少ない。ボリヴィアでは4月から9月が乾季、10月から3月頃が雨期となっている。
「技術交換」でサンタクルス、コチャバンバを訪れた時は両地とも本来雨季であったが今季は旱魃とのことで、いずれも雨はしばらく降っていないとのことであった。なお、サンタクルス、コチャバンバそれぞれの現地調査時に当地としては久しぶりという降雨に見舞われた。
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 平均 |
26.4 | 26.4 | 25.9 | 24.3 | 22.2 | 20.3 | 20.8 | 23.0 | 25.0 | 26.0 | 26.9 | 26.9 | 24.5 |
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 計 |
204.6 | 132.8 | 128.1 | 112.0 | 97.5 | 77.4 | 63.7 | 42.8 | 71.3 | 108.4 | 132.1 | 175.4 | 1346.1 |
コチャバンバはサンタクルスの西方、サンタクルスとラパスのほぼ中間に位置する。標高は2500m程度であり、気温はサンタクルスよりも冷涼である。特に昼と夜の気温差はより大きく、夜間は半袖シャツでは寒い程になる。乳牛(ホルスタイン)にとってはサンタクルスよりも快適であろうと思われる。年平均雨量は460mmと少ない。12〜2月が雨季、4〜6月が乾季となっている。
山間地とのことであったが、日本における中山間地とは異なり、山並みの間の平地はそれなりに広い。
来訪時はコチャバンバもサンタクルス同様に本来は雨季の最中のはずであるが、サンタクルス同様に旱魃が続いており、ここ3か月は雨が降っていないとのことであった。たまたま酪農家調査中に降雨があり、私達が「パナマから雨を持ってきた」と言われた。
コチャバンバは民族的にはインディオの占める割合が多い。
サンタクルス周辺及びその東部、北部は比較的肥沃な平地が広がっており、大規模な畑作、肉牛飼養、酪農が展開している。畑作では大豆栽培が多く、他にサトウキビ、稲等が栽培されている。
サンタクルス市の北部には日系移住地(コロニアオキナワ、サンファン移住地)がある。
酪農協会(FEDEPLE)の会員(酪農家)は470であるが、うち大規模経営が約200、小規模経営が 270となっている。品種としてはホルスタインが約85%、ブラウンスイスが14%、他にジャージー及び雑種(メスティソ)が少々となっている。
飼養規模は大規模なものから極めて小規模(数頭飼い)まであり、数頭飼いの場合は飼料基盤を有せず、道路脇等の野草地に放牧看視しながら放牧し、そこに生えている野草を主な粗飼料として飼養しているものもある。しかし、今回調査したものにはこのような小規模なものは無い。
サンタクルス肉牛協会管内(サンタクルス州)には約23,000の肉牛飼養農家があり、うち5%程度が大牧場、75%程度が中規模の牧場、残り(約20%)が300頭規模未満の小規模な牧場である。ここで計700〜800万頭の肉牛が飼われている。
野草地での放牧がほとんどである。一番の肉用牛飼養地帯であるベニーでは雨季に滞水するので、水に浸かっても生育する野草が多く生えており、これが重要な飼料源となっている。
枝肉重量は3年前は175kgであったが、最近は195kgと牛体も大型化してきているのがうかがえる。枝肉価格はkg当たり7.5〜8.2ボリヴィアーノ(1.1〜1.2ドル:1ドル=6.85ボリヴィアーノ)程度である。
以前は部位や品質に関係なく同一価格となっていたが、部位毎の差や品質に応じた取引に移行しつつあるところである。このことが意欲ある生産者に有利に働くようになることが期待されている。
牛肉の国内での小売り形態はスーパーマーケット及び庶民の多くが買い物をする市場での販売であるが、高級部位(ヒレ、ロース)は主にスーパーで、低級部位は主に市場で売らている。小売価格はスーパーではkg当たり12〜22ボリヴィアーノ(1.8〜3.2ドル)、市場では同10〜15ボリヴィアーノ(1.5〜2.2ドル)程度となっている。
ボリヴィアにおいて生産した牛肉は現在は一部チリ等への輸出もあるがほとんどは国内消費向けである。しかし今後は海外向け輸出も行いたいようである。しかしその一方でアルゼンチンの経済不況の影響もあり、輸入牛肉が増えて国内生産を圧迫することが懸念されている。なお、牛肉の輸出となれば口蹄疫が問題となる。ボリヴィア国内は口蹄疫に汚染されている。現在世銀からの補助も得て、国及び関係団体等が協力して口蹄疫除去に努めている。具体的にはモデル地域を作り、重点的にワクチン投与等の対策を行っている。しかし口蹄疫はなかなか無くならず、牛肉輸出の大きな障害となっている。なお、一部地域では清浄化がなされており、ここにおいては他の地域との家畜の行き来を看視し、特に汚染地域から清浄地域への家畜の移動に際しては感染していないことの証明を義務づけている。
コチャバンバは大平原地帯ではないことや、その割には農家が多いこと等から、土地の制約があり、サンタクルスのような大規模経営はない。酪農経営は小規模ないし中規模である。また農家1戸当たりの土地所有面積は狭小であり、酪農経営の中には飼料基盤を有しないものもある。その場合は全て購入飼料ということになるが、近隣農家に依頼して飼料用作物(アルファルファ、トウモロコシ等)を栽培してもらい、これを購入するという農家もある。放牧地を有している農家は狭小な土地を有効に活用するため、小区画に区切って輪換利用している。なお、当地で実際に見た放牧地は全てアルファルファが栽培されていた。
管内の乳牛の飼養頭数は30000〜35000頭であり、その90%はホルスタインであるが、他にクリオージョとホルスタインの交雑種やジャージー(全体で100頭程)等がある。飼養戸数は約2500戸である(この数値は下記の規模区分別戸数の計に一致しないが、いずれも概数で言っているためであろうと思われる)。
酪農家は飼養規模により3つに分けられている。
Aグループ( 50戸) | 平均飼養頭数20頭。施設も整備されている |
Bグループ(1500戸) | 平均飼養頭数8頭。牛乳冷却装置はない。 |
Cグループ(1200戸) | 3〜4頭飼い。小規模農家に位置づけられる。 |
乳牛はアルゼンチン、チリ、ペルーから導入された。ブラジルからはピロプラズマ病の関係から輸入しなかった。
泌乳能力は約15年前の年間4500リットルから現在では6000〜6500リットルにアップした。乳牛(純粋なホルスタインという意味か?)では年間7000リットルから8000リットルで、中でも60頭程は10000リットルを超える能力を有しているとのことであった。
15年前から人工授精を実施しており、現在の普及率は約50%となっている。使用している凍結精液はアメリカからの輸入(5〜50ドル)がほとんどで、優良な精液を使っている農家では他農家に比較して生産量が50%多いという効果が見られている。
コチャバンバ地区の牛乳生産量(日量)は220000リットルで、うち150000リットルは牛乳会社への出荷、70000リットルが自家用チーズ仕向けにされている。牛乳の出荷先の牛乳会社(フィル)は昔は国営であったが民間移譲後、株式の多くががペルー投資家のものとなり、農家の販売乳価が低く抑えられているとのこと。なお株式の13%は農家が所有している。
生乳の出荷価格は農家が当該乳業会社の株保有の有無で異なり、株所有者0.22ドル/リットル、株を所有していない農家では0.14ドル/リットルとなっている。
1983年から1984年の2年間、沖縄県職員(当時)玉木正邦氏が家畜育種分野の指導で派遣され、ASOSEBU協会のセブー牛登録事業の基礎を作った。また、家畜人工授精プロジェクトの原案を作成した。
玉木氏の帰国後3名の長期専門家(家畜繁殖衛生、家畜育種、家畜繁殖指導)が派遣され、これをフォローするとともに、次のステップに向けて玉木氏の作成した計画を修正した。また次ステップの実施場所を国立ガブリエル・レネ・モレノ大学獣医学部付属農場としたが、これの拡張のための用地を購入し、大学に移管した。
1987年より1992年まで(後に1994年まで延長)の計画で家畜繁殖改善プロジェクトが行われた。家畜人工授精センターが設立され、JICAのモデルインフラ資金協力で人工授精ラボラトリー、家畜繁殖衛生ラボラトリー、牛舎が整備された。また無償資金協力により、プロジェクト本館、研修棟、人工授精関連牛舎・検疫舎、酪農関連施設、受精卵移植ラボラトリー等が整備された。
なお、1999年にはJICAの研修予算による5カ年間の人工授精関連の研修事業がここにおいて行われることになり、現在実施中である。
プロジェクトのために1993年にトドスサントス畜産公社の土地が移管された。1996年から2001年の計画でボリヴィア肉用牛改善計画が実施された。モデルインフラ資金協力によりメインセンターとトリニダのサブセンターに事務所兼受精卵移植ラボラトリー各1棟等が設置された。
2001年に、家畜繁殖改善プロジェクトの実施場所であった家畜人工授精センター及びボリヴィア肉用牛改善計画の実施場所であった肉牛センターを統合し、国立家畜改良センターとして活動を始めた。
プロジェクト終了後も日本からは長期専門家として冨永氏が派遣されている。冨永氏は前期プロジェクト協力、家畜繁殖改善プロジェクト及びボリヴィア肉用牛改善計画と継続して長期専門家として指導にあたっており、更に現在もこれらのアフターケアとしての指導を行っている。
今回ボリヴィアにおいて調査した畜産関係団体等は下記のとおりである。
サンタクルス | コチャバンバ | |
国レベルの機関 | 国立家畜改良センター(CNMGB) 家畜人工授精センター(CIABO) 肉牛改良センター(CMGBC) |
|
州レベル又は複数州を活動範囲とする団体 (ただし全国を対象とはしない) |
サンタクルス肉牛協会(FEGASACRUZ) 酪農協会(FEDEPLE) 酪農牛登録協会(ASOCRALE) セブー牛登録協会(ASOCEBU) |
ボリヴィアホルスタイン協会(ACRHOBOL) |
地域の団体で、日本の農協に類似した機能を有するもの | コロニア沖縄農牧総合協同組合(CAICO) ワルネス酪農協会(AGAREWAR) 北部肉牛協会(AGANORTE) |
小規模酪農生産協会(APL) 高地高原酪農協会(ALVA) |
その他 | ボリヴィア農業総合試験場(CETABOL) |
国レベルの機関として国立家畜改良センター(CNMGB)があるが、これはいずれも日本の技術協力の受け皿として設置された家畜人工授精センター(CIABO)及び肉牛改良センター(CMGBC)を2001年に統合してできたものである。
家畜人工授精センター(CIABO)は1987年から1994年において実施された「家畜繁殖改善計画」の、肉牛改良センター(CMGBC)は1996年から2001年において実施された「ボリヴィア肉用牛改善計画」の受け皿として設置されたものである。
ここでは基本的にはボリヴィア国全体を業務範囲として、凍結精液の生産と供給、ブルセラ病診断液の製造と配布(以上、CIABO)、ネローレ種の改良、飼養管理技術の改善(CMGBC)等を行っている。
民間団体としては、今回調査した範囲ではボリヴィア全国を対象とした団体は無く、いずれも州(サンタクルス州、コチャバンバ州)ないしは複数州を範囲とするもの、及び更に狭い範囲の地域や町レベルを活動範囲とするもので、日本の農協のような活動内容のものとがある。
州域(あるいは複数州)を活動範囲とする酪農関係団体としては、サンタクルスでは 酪農協会(FEDEPLE)と酪農牛登録協会(ASOCRALE)がある。コチャバンバにおける団体としてボリヴィアホルスタイン協会(ACRHOBOL)がある。
肉牛関係ではサンタクルスにはサンタクルス肉牛協会(FEGASACRUZ)及びセブー牛登録協会(ASOCEBU)がある。
更に地域レベルの団体としては今回調査したものとしてはサンタクルス州にワルネス酪農協会(AGAREWAR)、北部肉牛協会(AGANORTE) が、コチャバンバ州にはまた、小規模酪農家の団体として小規模酪農生産協会(APL)及び高地高原酪農協会(ALVA)があった。いずれも飼料等の資材の販売、技術指導等に加え、州レベルの団体の出先的な機能を有しているものもあった。コロニア沖縄農牧総合協同組合(CAICO)は沖縄移住地の農家を対象にしている農協である。
これらとは性格を異にする機関としてボリヴィア農業総合試験場(CETABOL)がある。これはJICA直営の組織であり、日系移住地(オキナワ移住地、サン・ファン移住地)における畑作の生産性向上と安定化、家畜飼養技術の改善に係る試験研究を行うこととしている。
これらの団体等に関しては次項で詳述する。
正式名称はCentro Nacional de Mejoramiento de Ganado Boliviaである。
2001年に、家畜繁殖改善プロジェクトの実施場所であった家畜人工授精センター(CIABO)及びボリヴィア肉用牛改善計画の実施場所であった肉牛改良センター(CMGBC)(いずれも後述)を統合し、国立家畜改良センターとして活動を始めた。それぞれの管理部門及び共通する部門は統合するが、主要な業務部門は従前通り維持するとしている。
正式名称はCentro de Inseminación Artificial Bovinoである。
施設の内容・設置経緯は「家畜繁殖改善プロジェクト」の項を参照。
ここではボリヴィア国全体を業務範囲として、凍結精液の生産と供給、ブルセラ病診断液の製造と配布を行っている。凍結精液に関しては、所有する雄牛からのものと、依頼により採精、凍結精液製造を行うものがある。後者のばあい、有償であるが、優秀な雄牛の場合は製造した凍結精液を依頼者とCIABOで分け合う(CIABOの取り分を徴収する料金に充当するものと思われる)場合もあるとのことであった。
また、放牧飼養に関する試験も行っており、30牧区を電牧利用した集約的な放牧を現在も実施中である。
配合飼料給与量について、10kg/日から5kg/日(乳量の50%以下)に変更、乳量は下がったものの全体的なコスト削減の観点からメリットは大きいとしている。
このような活動により、搾乳牛の乳量はプロジェクト当初における5〜6リットル/日から現在では17リットル/日にアップしている。今後は牧草主体での生産性の向上(搾乳量の増)をめざすとしている。
なお、1999年にはJICAの国内研修予算による5カ年間の人工授精関連の研修事業がここにおいて行われることになり、現在実施中である。
CIABOは元々国立ガブリエル・レネ・モレノ大学獣医学部付属農場を核として整備したこともあり、これを大学獣医学部の中に取り込んでしまいたいとする考えが獣医学部長らにある。これにはCIABOを大学内部組織として取り込むことにより得られる利権を得ようとする獣医学部長らの意向があるようである。
しかしJICAボリヴィア事務所等関係者の多くは大学内部に取り込まれると本来期待されたような公的機関としての機能を発揮しづらくなり、加えて大学の一部の人により私物化されかねないとのことからこれに反対し、あくまでも大学とは別個の公的機関として位置づけ、その機能を維持継続させたい意向である。
正式名称はCentro de Mejoramiento de Ganado Bovino de Carneである。
施設の内容・設置経緯は「ボリヴィア肉用牛改善計画」の項を参照。
メインセンターでは899haの用地のうち455haを牧草地、残りを自然草地とし、ここでは肉用牛(80%はネローレ種)の飼養試験、検定事業、肥育試験等の業務を行っている。放牧地は10haを1牧区とし、ここで電牧による集約的放牧技術を確立した。具体的には牛の行動を考えた牧柵・水槽・飼槽の配置方法、電牧の配線方法、発情の早期回帰のための制限哺乳試験、庇陰林設置方法(樹種、適切な配置等)、F1牛の搾乳システム(計画)等の肉用牛生産の現場で参考となる技術の開発と実証展示を実施している。
日本からはアフターケアのための個別派遣専門家として冨永氏が派遣されている。冨永氏は前期プロジェクト協力、家畜繁殖改善プロジェクト及びボリヴィア肉用牛改善計画と長期にわたり専門家として指導にあたっており、更に現在も指導にあたっている。
正式名称はFederación de Ganaderos de Santa Cruzである。
サンタクルス肉牛協会はサンタクルス州において肉牛振興のための業務を行っている団体である。いわば次項の酪農協会が酪農家・乳牛を対象として行っているようなことを肉用牛に対して行っている。肉牛としてはセブの他ヨーロッパ系の種類も扱っている。
会員数約23000である。会員は約300頭規模を最低限とする農家となっている。
25の支部があり、それぞれが独自に経営を行っている。肉牛のみでなく酪農関係の業務を併せて行っている支部もある。
政府とは予算面、活動面での協力関係はうまくいっている。ただし政府はラパスにあり、サンタクルスの事情を十分に理解していないという問題もあるとのこと。
協会として4つの屠畜場を保有している。従来は牛肉の品質には重きがおかれてこなかったが、今後は枝肉の格付け(牛肉の品質)に一層の重きが置かれるようになる。既に部位毎の差や品質に応じた取引に移行しつつあるとのこと。
牛肉の品質・格付けに関して短期専門家の派遣もあり、マニュアルを作っているとのこと。
ボリヴィアでは肉牛の生産に国としても力を入れており、国内消費のみでなく一部はチリにも輸出している。今後は更なる輸出も眼中に入れ、そのためにも口蹄疫対策等衛生対策を進めていく方針である。
その一方で現在アルゼンチンの経済不況の影響で、今後地区内に安価な輸入肉が増えて国内生産者を圧迫することを懸念している。
正式名称はFederación Departamental de Productores de Lecheである。
酪農協会(FEDEPLE)の会員(酪農家)は470であるが、うち大規模経営が約200、小規模経営が270となっている。
既にあった酪農協会に小規模にあった7つの酪農協会(日本の農協のようなものと思われる)が合併する等の変遷を経て、現在に至っている。
次の事業を実施している。指導業務のために技術者2名を配置している。
また乳牛の泌乳能力検定を行い、これにより農家が適切に乳牛の選抜を行い、牛群全体の能力向上を図ることがきるようにしている。なお、泌乳能力検定は純粋種乳用牛だけでなく雑種も対象としている。
なお、従来は管内乳牛の乾季と雨季の乳量差は50%もあったが、最近では10%にまで差が縮まっている(栄養改善プログラム等の効果か...)。
また、1992年には農家が出荷する牛乳に関するルールが定められ、1997年から実行に移されている。その内容は、例えば水や抗生物質が混じった牛乳が出荷された場合、出荷した農家に罰金を科す等となっている。
活動計画に関しては、年1回年間プランを作成し政府レベルの会議(15人の技術者)で検討して決めている。
正式名称はAsociación de Criadores de Raza Lecheroである。
元々FEDEPLEの登録事業部門であったものが分離独立してできた協会である。業務の範囲はサンタクルス州。
JICAの技術協力により乳牛の登録事業を開始した。家畜登録業務を主体に乳牛の遺伝的改良を図ることに関する業務を行っている。なお、また従来の乳牛は雑種が多かったが累進交配を進めることにより純粋種に近づけるよう指導している。また共進会等の開催やここにおける技術者と農家の意見交換等を実施している。
登録牛の構成割合はホルスタインが約85%、ブラウンスイスが14%、他にジャージー及び雑種(メスティソ)が少々となっている。
コチャバンバにも登録を業とする協会がある(別項のACRHOBOL)。家畜登録は本来国レベルで実施した方が良いため、今後全国統一した登録を展開していくことが望ましい。しかし、歴史的経緯(コチャバンバの方が歴史が古い)や方針の違いもあり容易ではなさそうである。
正式名称はAsociación de Criadores de Cebuである。
ゼブー(特にネローレ種)の登録業務を主体とした協会。当初ベニー州で設立され、後にサンタクルスへ本部を移転してから27年目を迎える。昨年改良を目的とした団体として公的に認められた。
110の協会支部で設立され、50000頭の血統登録を作成している。90%がネローレで、その他ジール、グゼラ等がある。
当協会の登録の手順は次のとおりである。
審査標準を持ち、それに沿った登録を実施している。従来は外貌が重視されていたが、近年は増体能力、熱帯適応性等に重点が移っている。改良目標は19ヶ月で800kgとしている。
登録された家畜は登録されていないものに比べて販売価格(繁殖用家畜としての取り引きであると思われる)は25%アップするとしている。
登録業務以外では集合検定を実施している他、農家等の改良意欲向上のために共進会(年2回)、シンポジウムを実施している。
ABCZ(ブラジルゼブー登録協会)との情報交換を頻繁に行っている。今後パナマをはじめ中南米等とも情報交換を行うことを希望している。なお、中南米で国家間を越えて一括して牛を登録する構想を有している。
正式名称はAsociación Criadores Holandesa Boliviaである。
「ボリヴィア」を協会名に付しているが、業務の範囲はコチャバンバ州である。(管内(コチャバンバ州)の酪農の状況は「V.農業、酪農、畜産の概況」の「2.コチャバンバ」の項参照) サンタクルスにおける酪農協会(FEDEPLE)及び酪農牛登録協会(ASOCRALE)に相当する業務を行っている。
コチャバンバにおける家畜登録を行う団体として設立され15年目を迎える。登録牛は3代目にはいる。
オキナワ移住地区において沖縄からの移住者を対象とした協同組合。組合員150名。移住者の8割が組合員となっている。オキナワ移住地3地区(コロニアオキナワ第1、第2、第3)にそれぞれ農協(支所)を置いている。
生産資材等の農家向け販売及び生産物の出荷及び農家に対する技術指導等、日本の農協に相当する業務を行う。酪農・肉用牛飼養農家にとっては、ここから飼料等の資材を購入するとともに、肥育牛等は農協を通して販売している。
またCAICOは生産した大豆の保管、調製(粉砕)、配合飼料の調製等を行う工場(下記参照)を有している。日本でいうならば北海道十勝管内の農協(例えば士幌農協)あるいは十勝農協連を彷彿とさせるものがある。
管内農家の申請作付面積は、大豆:22000haトウモロコシ:2100ha、ソルガム:265ha、米:1100ha、サトウキビ:300haである(これらは申請面積であり、実際にはもっと多いとのこと)。
大豆の農家からの買い取り価格は国際価格に2〜3ドル上乗せした価格としている。
栽培技術面では不耕起栽培を7年前から指導している。そのために第1、2、3農協にそれぞれ技術指導者を配置している。
また、より適した品種を検索するためにブラジルの農協組織と共同で大豆の適応試験を実施している。また、営農技術面ではCETABOLとの連携が重要であるとしている。技術の普及指導のために各農協支所に指導者を配置している。
大家畜飼養農家は地区内に64戸あり、人工授精サービスや口蹄疫ワクチン14000頭(うち組合員12000頭)の接種を行っている。
コチャバンバに支所があり、月間400〜450トンの配合飼料(主に乳牛向け)を出荷している(原料の多くはここで生産した大豆、トウモロコシ)。
(飼料工場)地区で生産した大豆のうち、ここで年間4000〜4500トンを濃厚飼料として生産している。時間当たり処理能力は5t。生産したものの50%を国内向けに出荷、50%をペルーに輸出している。当該飼料工場を調査していた時、ちょうどペルー向けの粉砕大豆(袋詰め)をトラックに積み込んでいる所であった。
通常、日本では大豆を飼料用として使う場合は、搾油した後の「大豆粕」を用いるが、ここでは搾油しないままの大豆を粉砕して用いていた。
大豆の選別5000〜6000トン、夏作マイロ36000トンの収容能力をもつ。
(種子精選工場)管内農家が利用(自ら播種する種子の精選)。年間大豆種子5000t処理。農家のために小麦種子の冷蔵保管も行っている(小麦の種子保管には冷蔵施設が必要)。
会員250人で、うち90%は小規模酪農家(生産乳量(日量)20〜100リットル)である。牛乳の取り扱いはサンタクルスで最も多い(55000リットル/日)。
酪農改善のための活動を展開し、畜産技術の提供、農業用品・獣医薬の販売等、生産者のための酪農データの集積、屠場の管理、技術改善指導等の活動を行っている。肉牛協会(FEGASACRUZ)の支所としての位置づけもある。
病気に対する会員農家の意識はほかより高く会員のワクチンの接種率は高い(口蹄疫:乳牛100%、肉牛80%)。
管内酪農事情としては、以前の国立酪農協会であった牛乳会社(フィル)がペルー資本に売却され、会社の方針が生乳を低い価格で買い取る方針となったが、他に出荷できるところもないため低い乳価での取引にならざるをえず、酪農家としても苦しい状況であるとのこと。
今後は協会所有の牧場の設立を計画している。
1980年に酪農と肉牛関係の3地区の協会が合併して出来た協会。会員122名でメインは酪農関係(乳牛70%、肉牛30%)。
市場販売サービス、技術サービス、薬品・飼料販売、獣医検査、人工授精(実施率99%)等を実施しており、これは日本での農協的業務に似ている。
会員からの会費の徴収はなく、収入源は屠場使用料及び飼料等販売に係る収益となっている。屠場使用料として4%の手数料を確保しているが、全体的には予算の確保が難しい状況である。加えて農家へのサービス料、融資等の支払い等が滞っているとのこと。
正式名称はAsociación de Pequenos Productores de Lecheである。
1954年設立。人工授精、獣医業務、飼料・薬品販売、農家への乳代代行支払いを主業務としている。会員農家の80%がAPLから飼料を購入している。また、APLは人工授精師3名、獣医3名を配置している。また人工授精に関する普及指導も行っている。
会員1300戸が地区に点在している。加入率(地域の全酪農家の中でAPL会員になっている割合)は95%となっている。会員農家での乳牛飼養頭数は15000頭となっている。
人工授精等のサービス料(精液代8〜23ドル、技術料を含み1回50〜150ドル)は牛乳代で支払うシステム。平均飼養頭数10頭/会員。アメリカ、キリー精液生産会社の代理業務を実施。地区の精液使用本数550本/月、年間では8000〜9000本となっている(月当たり使用本数と整合しないが)。なお、地域では他の業者も人工授精業務を行っているとのことである。
発情発見は農家が行い、農家からの連絡により人工授精師が出向いて人工授精を行っている。
農家への乳代代行支払いは、乳業会社が農家に支払うべき乳代を一旦APLが受け取り、月2回(月初めと月半ば)農家に支払うものである。乳業会社は手数料としてAPLに乳代の2%をAPLに支払っているが、APLはそのうち1%は農家に還元している。
また農家は「つけ」でAPLからの資材購入ないし人工授精等のサービス提供を受け、乳代受け取りの際に、ここから差し引いてもらうことになっている。
正式名称はAsociación de Lecheros de Valle Altoである。
会員95人。設立5年目。職員は臨時雇用も含め20名。
行っている業務は飼養管理の指導、飼料の供給(配合飼料生産)、獣医・人工授精に関する事業、薬品等の販売など日本で言う農協に相当する事業を行っている。農家の支払いは現金又は「つけ」で。
飼料配合については協会で配合飼料工場を所有し、農家の希望に応じた原料(粉砕大豆、トウモロコシ、ヒマワリ種子、マイロ、ビタミン、ミネラル、塩)を配合して農家に供給している。
人工授精業務はALVAは行わず、APLに依頼して行っている。
(会員の家畜飼養の概要)正式名称はCentro Tecnologico Agropecuario en Boliviaである。
ボリヴィア農業総合試験場(CETABOL)は1961年にサン・ファン指導農場開設を端緒とするJICA直営の組織であり、現在はオキナワ第2移住地内に位置している。
オキナワ移住地、サン・ファン移住地(いずれも日系移住地)における畑作の生産性向上と安定化、牛の品種改良、家畜飼養技術の改善に係る試験研究を行っている。このうち畜産関係では180haに567頭の牛を飼養し、ネローレ種の産肉能力直接現場検定、老廃雌牛の肥育、草地・畑地輪換作付け等の試験を行っている。肉牛部門としては、ネローレ種の純粋種を普及させたいとのことで、牛(ネローレ種)の貸し付けも行っている。CETABOLにおいては交配は全て人工授精で行っている。
飼養管理技術面では、飼料基盤1ha当たり2.4頭の牛を飼っている。乾季にはサイレージ及び濃厚飼料(体重の1%以下)を給与している。
また技術の普及を図るため、講習会の開催や移住地への巡回指導、実習生受け入れ、共同研究・他プロジェクトとの連携等を行っている。
職員は28人(短期派遣専門家除く)で、内訳は現地職員4名、年度契約職員16名、長期派遣専門家8名となっている。
機器の保守、利用状況も良い。飼料・土壌の分析等も行っており、これらに必要な試薬等は現地調達している。
なお、CETABOLはこれまでJICA直営であったが、2010年には現地の日系農協に移管されることになっている。
山城氏は日系2世(父親は沖縄県出身)である。畑作(大豆)が経営の8割を占め、他に酪農及び肉用牛部門がある。
肉用牛(ネローレ種)は繁殖牛140頭を飼養し、生まれた子牛を24ヶ月肥育(出荷時体重450kg、枝肉重量200〜220kg)してコロニア沖縄農牧総合協同組合(CAICO)へ出荷しているが、あまり儲からないとのこと。
酪農部門は山城氏の経営の主体ではないが、しかし地域の酪農経営の中では規模の面で群を抜いている。なお、当初入植した人の中で農業を止めてしまう人の土地を購入しながら規模を拡大してきたとのこと。
酪農部門は成牛100頭、うち搾乳牛75頭を飼養している。放牧地面積は150ha。施設としては最近建設した搾乳室があり、パイプラインミルカー等の設備が整備されていた。搾乳室の建物建設費に7000ドル、搾乳関係の設備整備費に1300ドルを要したとのこと。なお、従前の施設(木造畜舎、パドック)も子牛、育成牛飼養施設等として利用している。
飼料は搾乳時に配合飼料(1日1頭当たり4〜5kg)及び乾草を給与している。なお、乾季の飼料としてはサイレージは生産・給与しておらず青刈り作物を給与しているとのこと。
家畜管理面では3週間毎にダニ駆除のための薬浴を行っている。
1988年から人工授精を導入し、それまで雑種であったものに累進交配(代々ホルスタインの種をつける)をし、現在ではほぼホルスタイン純粋系に近いものになっている。人工授精は農協に依頼している。
搾乳は1日2回(朝4時、夕方4時)。搾乳量は17リットル/頭で、1日当たり約1000リットルの搾乳量となる。
搾乳には4人で1〜1.5時間(1回当たり)を要する。なお、雇用労賃は1人1ヶ月当たり200ドル。
乳脂率は4〜4.3%。週に1回検査し、3項目(乳脂率、体細胞数、冷却)によりグレード付けを行い、グレードにより乳価の調整が行われている。即ちグレードBを基準価格(±0%)とし、Aは7%アップ,Cは5%ダウンとしているとのこと。
近くに12戸が共同で利用している集乳所がある。ここに2週間(2001.12.16〜2001.12.29)の戸別納入実績が掲載されていたが、2週間で納入総量58,575リットル(日平均4,180リットル)、うち山城氏が12440リットル(日平均890リットル、全体の21%)であり、納入量は他の酪農家に比べて群を抜いていた(2位の酪農家の納入量は7,657リットル/2週間)。
なお、乳業会社と酪農家とはクーポン(高価格取引権利枠)による取引が行われており、この枠内では高価格で買い取ってもらえるが、この枠を越えると安価でしか引き取ってもらえない。しかし、乾季には地域全体の生産量が少なくなり、乳業会社に有利に販売できる。このため乾季に搾乳頭数が多くなるよう繁殖を調整(種付け時期を調整)している。
子牛は生後7日齢で販売しており、販売価格は1頭当たり15ドル程度。
機械設備(主に大豆収穫用)としてコンバイン、トラクター等を有している。
オーナーは元畜産技師で、アルゼンチン、ブラジルで勉強したとのこと。
また土地は以前から所有していたが、経営は3年前から色々なケースを視察したり、インターネットによる情報の収集を通して畜産経営を始めた。
ホルスタインを主に、一部ブラウンスイス(25頭)も飼養している。現在飼養しているホルスタインの基礎牛はウルグアイから輸入した。
飼養頭数は以前は250頭であったが、個体能力により選抜し、現在は135頭である。選抜することにより平均能力が上がり(選抜前8リットル/日→選抜後15リットル/日)、生産量はむしろ上がり、経営的にはより良くなったとのこと。
牛乳引き取り価格は1リットルあたり1.2ボリヴィアーノである。
分娩後90〜120日で種付けを行っている。繁殖は全て人工授精としている。発情同期化を行っているが、なかなかうまくいかないとのこと。
飼養管理面では、早朝の搾乳後は運動場に出すが、10時には畜舎に入れるとのことであった。これは暑い日中は外の運動場よりも畜舎の方が涼しいためである。また夕方の搾乳後も一旦運動場に出し、夜間は畜舎に戻すとのことであった。
なお牛舎内での暑さ対策のために牛舎にミスト(噴霧)施設を設置し、日中の暑い時間帯に牛体噴霧し、暑さを和らげている。
2.5haの飼料畑を有しここで青刈り作物(メルケロン、タイワン、カメルーン、エレファントグラス:いずれもペニセトゥムの類)を栽培し、年間を通して青刈り給与(1日1.5t)している。年に7〜8回の刈り取りを行っている。なお、以前は潅漑による青刈り作物の栽培は行っておらず、放牧草が無くなる乾季にはサトウキビを給与していたとのことである。
青刈り作物の栽培のためにスプリンクラーによる潅漑施設(800ドル/ha、計3000ドル)を有し、乾季には潅漑を行っている。潅漑により乾季にも飼料生産が行えるため、一部アルファルファ乾草を調製している以外は飼料貯蔵は行っていない。
また牛舎内の糞尿は発酵槽で腐熟させた後、更に水で薄めて前記の潅漑施設を通じてほ場還元を行っている。これにより化学肥料を使わずに飼料生産を行っている。今回ボリヴィアで調査した中で肥培潅漑(糞尿を液肥としてほ場に還元)を行っているのはこの牧場だけであった。
なお、ここでは肥料(家畜糞尿)の投入量と青刈り作物の生育に関する試験も行っていた。また、若刈りしたタイワンは11%のタンパク質を含み、タンパク質の供給のためには若刈りが良いとしている。
また、アルファルファの栽培も行っており、耐暑性のある品種を用いているとのことであった。利用方法としては青刈りとともに、乾草にも調製していた。
これらの自給飼料に加えて乳量2.5リットルに対し配合飼料を1kg給与していた。
経営費等の計算もしており、パワーポイント(プレゼンテーションソフトの一つ)で作成した飼料の生産コストに関する資料(プリントアウトしたもの)も見せてもらった。
オーナーは大学の元獣医学部長である。
ここで飼養されている乳牛はホルスタインとゼブー系のジール(Gyr)を交配したもの(ジールランドと呼称)を主体としている。オーナーはジールランドが熱帯向きで低コストであるとの持論を有している。また交雑に用いるホルスタインについても被毛が黒色部分が多いのものを所有している。これは被毛が黒色のものはダニがつきにくく、病気に強いため、熱帯での飼養に適しているとのオーナーの考えによる。
ここでは22年前に30頭で牧場を始めたが、現在は搾乳牛80頭を飼養している。
夜1時、昼1時の2回搾乳を行っており、全体の平均個体乳量は13〜14リットルであるが、中には日乳量が25リットル以上の能力の牛もいるとのこと。
この牧場では900リットルのクーポン(グレードA)を保有している。
なお、更にもう1つ搾乳場を作りたいが、これには2万ドルが必要であるとのことであった。
分娩率は80%、子牛は10%を後継牛として確保し、他は屠場へ出すとのことであった。ボリヴィアでは日本のようなホルスタインの雄子牛を肥育するということはあまり一般的ではないようである。
給与している濃厚飼料は自家配としており、配合割合は大豆皮10%、綿実30%、フスマ30%、マイロ30%で、他にミネラルを配合している。濃厚飼料の生産コストは60ボリヴィアーノ/kgとのこと。給与量は1頭当たり平均6kgとしている。なお、乾乳牛には濃厚飼料は与えず牧草のみとしている(放牧のみか青刈り作物の給与も含めるのかは不明)。
用地は140haであるが、うち130haは牧草地である。
青刈り用にタイワン、カメルーンロッホ(いずれもPenisetumの類)を栽培し、刈り取り利用を行っている。
放牧地は20年前に播種したものを現在まで維持している。放牧地にはデクンベン (B.decumbens)等が栽培されている。ここでの放牧は輪換放牧とし、かつ1日3時間の時間制限放牧としている。
また放牧地の一部にマメ科の牧草であるグライシン(Neonotonia wightii(Arn.)Lackey)が優占したところがあり、いわゆるプロテインバンクとして用いられている。ここは当初1m間隔でグライシンを植え付け、3年でグライシン優占草地になるとのこと。現在はグライシンが非常に繁茂している状態になっている。グライシンは定置放牧すると牛に食べられ続けてしまい結局衰退してしまうため、輪換放牧利用が前提となる。
また以前にブラジルより飼料用サトウキビを導入したが、固くて食べ残す量が多かったとのこと。現在は青刈り用、放牧用あわせて12種類の草種を栽培しているとのことであった。
乾季用の飼料として青刈り作物(タイワン、カメルーン)を利用するとともにサイレージ(材料はトウモロコシ、ソルゴー)を調製していた。詰め込みは3月頃。サイレージ調製に用いるトラクターとピカドーラは1時間12ドルで借用した。
経営を営む中で各種飼料資源の試験栽培を実施しているとのこと。
飼料購入価格はトウモロコシ60ボリヴィアーノ/kg、サトウキビ12ドル/t、また種子(トウモロコシか?)は9〜10ドル/kgとのことであった。
雇用労力は家畜管理に4名及びマネージ(管理運営)に1名、ほ場管理(人数は聞き漏らした)とのことであった。
オーナーは酪農牛登録協会(ASOCRALE)の会長で、兄との共同経営である。
牧場用地は178haであるが、うちサイレージ用トウモロコシ栽培が70ha、家畜飼養のためのスペース(パドック、搾乳施設用地等)が6haとなっている。
飼養規模は今回ボリヴィアで調査した酪農経営の中では最大であり、飼養頭数は400頭で、うち220頭が搾乳牛である。乳牛の種類はホルスタインを主体とし、一部ブラウンスイスを飼っている。
当経営者は「管理方法でホルスタインも熱帯に適応する」との持論を有し、各種の暑熱対策を講じ、高い生産性をあげている。
初回種付け目標は14ヶ月齢、体重300kgとし、分娩間隔(目標)は25ヶ月としている。
搾乳量(日量)は初産で20リットル、2産以上23リットルで、全体では現在は5000リットルであるが、10000リットルを目標としている。
搾乳はルーズバーンミルカーである。搾乳室脇の牛が待機する所には地上3m程のところに椰子の葉を並べ、木漏れ日程度の蔭を作るようにしてあり、牛がここに待機している時には椰子の葉に水をかけてより涼しくなるようにしている。
なお、飼養している乳牛は能力、状態別牛群に群分けして管理している。
放牧は行わず、広いパドック(日本的な感覚からすればちょっとした放牧地ともいえる程の広さ)で飼養。パドックには日陰のための木が多く植えられ、牛は日中は樹陰で休息している。
子牛は4ヶ月齢までカーフハッチで飼養している。カーフハッチは数日毎に少しずつ動かす。糞等に由来する微生物の多くはカーフハッチを動かした後に強い日射により殺菌される。このことにより子牛はいつも清潔な所にいることが出来るようにしている。
ダニ駆除のために40日に1回薬浴を行っている。なおここで用いていたダニ駆除のための薬品名はペルメトリーナであった。
給与飼料はトウモロコシサイレージを主体としている。このために70haでトウモロコシを栽培し、巨大なバンカーサイロ(2000t)でサイレージ調製を行っている。なお、サイロが巨大であるので詰め込みにも2週間以上かかるとのことであった。
サイレージの給与は夜間に行っている。サイレージ等の粗飼料を給与した場合、胃の中で微生物がこれを消化する際に発熱する。体内でのこのような発熱は気温が高い昼間の場合は牛にとって大きなストレスになる。気温が低い夜間の場合はストレスは昼間に比べて少ない。サイレージの夜間給与は暑熱対策として非常に有効である。
El Naranjalは大規模経営であり、20人の雇用労働力により運営している。
また、飼料給与、交配、血統等に関してコンピューターによる管理をおこなっており、このためにチリの技術者を雇用していた。
経営者は元高校教師、牧場は国立改良センターの肉牛センター(CMGBC)に隣接している。
牧場面積は79ha。飼養総頭数は230頭、うち搾乳牛は90頭である。
飼養している乳牛はジャージー(ニュージーランド産)を主体とし、一部試験的にブラウンスイスを導入している。これらは暑さに比較的強く、長寿性・放牧適性に優れ、発情が明瞭(発情確認がしやすい)、また何でも(多くの種類の草を...との意味か)食べ、熱帯での放牧に適しているとの理由による。
22〜24ヶ月初回種付けで、搾乳期間は8〜9ヶ月としている。また、搾乳は1日2回。一日当たり生産乳量は980〜1000リットルである。濃厚飼料は1日6kgを給与している。
乳牛飼養施設として搾乳舎、付帯パドックがある。搾乳舎のスタンチョンは木製であった。また搾乳作業者がロープを引くと飼槽に一定量の濃厚飼料が出てくる装置があり、牛の泌乳能力に応じて濃厚飼料を給与出来るようになっていた。
放牧地は1牧区3.5haを20牧区としている。放牧は1回1牧区当たり2日間、1サイクル34日間である。
放牧草種はPanicum maximum(モンバサ)及びBrachiaria decumbensとのことであったが、スターグラスも見られた。
なお、放牧地は川の近くで、乾季も土壌水分が多く1年中放牧しているとのことで、乾季用の飼料確保は必要ないとしている。ただし、現状の草地面積では不足で、隣接する肉牛改良センター(CMGBC)の用地(林地)の一部を無断で切り開いて使用している。CMGBCとしては川の近くは環境保全の観点から自然林として管理していた土地である。ボリヴィアでは所有権の力は日本よりも弱く、他人の土地を所有者が知らないうちに使った場合、一種の利用権が生じてしまうようである。
牧場管理のための労力は、家族労働に加えて搾乳労働者3人を雇用している。
経営者としては将来小規模農家のための酪農学校を作りたいとのこと。
乳牛頭数は最も大きな経営で44頭(うち20頭搾乳)、最も小さな経営で9頭(うち8頭搾乳)である。ホルスタインが主体であるが、これに加えてジャージーを飼養している農家が2戸(6頭、3頭)あった。
搾乳は1日2回である。搾乳時刻を聞き取った農家は1戸であったが、ここでは早朝3時30分からと夕方17時30分からであった。
ほとんどの農家では乳牛はパドックで飼養しており、放牧地(アルファルファ)を有する農家でもアルファルファを食べさせる時間だけの放牧のようである。なお、最も規模の大きい農家では広いパドックの中で繋ぎ飼いしていた。
飼料のうち粗飼料については、アルファルファ(放牧又は刈り取り給与)、青刈りトウモロコシ、乾燥トウモロコシ、乾燥エン麦稈の中から2〜3種類が用いられていた。7戸のうち1戸はトウモロコシを栽培し、サイレージを調製していた。
アルファルファ草地で放牧する場合は、採食率を上げる(食べ残しを少なくする)ために一旦マチェテで刈り取り、そこに牛を入れて食べさせていた。まだ刈り取らない所に牛が入っていかないように2〜3人(老人、婦人、子供)で「放牧看視」をしていた。なお、アルファルファ草地で放牧していた農家においては、時々鼓張症が発生するとのことであった。これはマメ科牧草に共通することであるが、一時にマメ科牧草のみを多く食べさせると発生しやすい。事前にイネ科牧草(乾草等)や当地で給与していたものの中ではエン麦稈を食べさせることにより防ぐことは可能である。
現場でアルファルファ草地での放牧を調査した農家では羊を牛と共に放牧していた。
当地の酪農家の中には自らのほ場を有しないものもあり、この場合は粗飼料を購入又は近隣の農家に依頼して(有償で)栽培してもらっている。
濃厚飼料としては配合飼料を購入して給与しているところもあるが、4戸では大豆皮、綿実、フスマ等を購入し、これを給与しているのが確認された。日本では綿実は搾油した後の「綿実粕」が配合飼料の原料の一部とされるが、こちらで見たものは搾油されないままの「綿実」であった。なお、これら単味飼料を用いている農家でも単味飼料だけというのではなく、配合飼料とうまく使い分けているのかもしれない。うち1戸(最も経営規模の大きい農家)では大豆皮、ふすま、綿実等に水を加え、いわゆる「どぶ飼い」をしていた。
労力としては家族労力に加えて1〜3人の雇用労力で酪農を経営している。ある農家からは「ミルカーを導入して労力面で楽になった」との声も聞かれた。
人工授精は7戸中3戸で実施していることが確認された。人工授精をやっているという3戸のうち2戸では「全て人工授精」とのことであった。今回コチャバンバで調査した農家は、コチャバンバの中では大きい規模のものが多いため、確認しなかった他の農家(4戸)においてもかなりの確率で人工授精を行っているのではないかと思われる。
7戸の中で3戸(飼養頭数規模は調査した農家の中では中位)において搾乳室の建設経費を調査した。そのうちの1戸(飼養頭数13頭、うち搾乳10頭)では、搾乳室建物が500ドル、内部の設備が2300ドルとのことであった。
別の1戸(飼養頭数9頭、うち搾乳8頭)では自作木製スタンチョンが3500ドル、自作ミルカー1000ドル(購入すると2500〜2800ドル)とのことであった。ミルカーは乳牛の乳頭に装着する部分は既製品を用い、また陰圧を生じさせる装置のうち空気吸引ポンプ等の部品は購入したが、これらを接続する配管や保定する台などは手製である。この農家は旋盤工場の技術者でもあり、機械製作技術を持っているためにできたことであるが、技術があり工夫する知恵があればかなりコスト削減ができるという良い見本でもある。
また、スタンチョン等も金属製のものを使っている農家と共に、多分手製と思われる木製のスタンチョンを使っている農家もあった。
また別の1戸では施設を35000ドルでで設置し、経費は5年の返済計画で銀行より借金をしたが、2001年に2回にデモ行動(4月は水値上げ反対、9月はコカ栽培がらみ)による道路封鎖で牛乳出荷困難となり、予定通りの返済ができなくなったため、銀行との話し合いで返済を3年間延長してもらったとのことである。
調査した1戸の隣にPMA(FAO)の援助で出来た農家38戸分の集乳所があった。これを利用している会員で半月交代で管理しているとのことであった。ここにあったバルククーラーはデンマーク製で容量は1600〜1800リットルあった。なお、今回調査した農家の中で最大規模の農家では近くに同様な集乳所(24戸分)があり、ここに牛乳を運んでいるが、既にこの集乳所の収容能力を超える量の牛乳が運び込まれる状態で、一旦バルククーラーで冷やした牛乳を別の容器に移し替えて保管している状態であった。このような状況のためこの農家では自己資金で経営内にバルククーラー及びこれを設置する部屋を建設していたが、牛乳会社は反対しているとのこと(集乳のためにわざわざこの農家にまで来なければならなくなる等の理由であろうか)。
なお、ALVA管内ではこのような集乳所が7か所あるとのことであった。
ここにおける乳価はグレードAの場合、1リットル当たり1.5ボリヴィアーノであった。なお、雄子牛の販売価格は100ボリヴィアーノである。
飼養頭数1500頭(うち成牛980頭)。従前は肥育牛牛肉販売(生体400〜420kg)であったが、2000年に素牛販売(繁殖経営)へ切り替えた。またCETABOLの検定牛を種雄牛として導入し(現在12頭)、利用している。
繁殖関係では通常は2年1産のところここではそれよりは少し良い(分娩間隔は短い)とのこと。
子牛は8ヶ月190kgで離乳させている。肥育牛としての出荷の場合は、生体出荷24ヶ月で400〜430kg、枝肉220kgとしている。
生産した子牛のうち雄牛は1才で農家に払い下げしている。雌は選抜して後継牛は牧場に保留している。
施設は大きな「かまぼこ型」の建物があり、本来その半分がサイロ、半分が畜舎であったが、サイロは今はつかわれておらず、畜舎部分も外のパドックとつながった形となっている。飼槽は建物内部にあり、畜舎部分はいわば牛の採食場及び日中の日陰を提供する場となっている。
飼料としてはサイレージは調製せず、青刈り給与を行っている。調査時には青刈りソルゴーが飼槽に入っていた。
飼料基盤として草地570haを有するとなっているが、詳しい利用状況(どのように放牧するか)は調査できなかった。
肉用牛(ネローレ種)の繁殖経営であるが、半ばブリーダー的な経営となっている。飼養頭数は400頭、放牧地は約400haである。
従前はクリオージョ(在来牛)が多かったが、近年やっと改良された肉用牛ネローレが増えてきたとのこと。
放牧地はギニアグラスが主体であるが、湿地にはB. humidicola を栽培している。
塩、ミネラル給与しており、塩については塩湖の塩を利用している。草地内の家畜の集合場所に自噴井戸と家畜が飲水するための水槽がある。
経営者はいつもはおらず、日常の牧場管理は雇用労働者にゆだねられている。いわばここの責任者が当方らを案内、説明してくれた。
牛舎内部は非常にきれいに保たれている。種雄牛及び育成雄牛(次代を担う種雄牛となる牛であろう)がいる牛房内は籾殻が厚く敷かれ、しかも排糞は全く見られない。糞は排泄されるとその都度取り出されるようである。これは牛の管理のためというよりも、牛を購入してくれる客が牛を見に来たときの心証を良くすることが最大の目的であろう。
給与飼料の全体は把握できなかったが、牛舎を見たときにはソルゴーサイレージが飼槽にあった。
なお、ここでは受精卵移植も行っており、女性の技術者がこれを行っていた。当方が訪れた時に採卵を実際に行って見せてくれた。放牧地にはドナー牛群も見られた。
応接室(と思われる)には多くのトロフィーがあり、国内外で賞を得ているとのことであった。
ここも前記Cabana Sausalitoと同様に経営者はいつもはおらず、日常の牧場管理は雇用労働者にゆだねられている。
ここでは雄牛は放牧されていた。暑さ対策のために毛刈りを行っているとのことであった。
またここには競り売りを行う所があり、競り売りの時には多くの購買人が国内外から来るとのことであった。また競り売りは夕方〜夜間に行われ、来場した購買人には酒、食べ物が無料で振る舞われるとのことで、酒が入ると気が大きくなって高額で買ってくれるとのことであった。
サンタクルス地域において放牧用に用いられているイネ科牧草は、主にBrachiaria decumbens(シグナルグラス)、Brachiaria humidicola(クリーピングシグナルグラス)、Brachiaria mutica(パラグラス:品種名Mombasa)、Brachiaria brizantha(パラセイドグラス)、Panicum maximum(ギニアグラス:品種名Tanzania)、Echinochloa polystacha(アレマングラス:Aleman)、Cynodon plectostochyas(エストレージャ:Estrella)である。
B. decumbensが比較的一般的であるが、より肥沃な所ではB. brizanthaが、更に肥沃で肥培管理も十分出来る場合はP. maximumが適するとのことであった。
なお、B. humidicolaはオキナワ移住地で多く見られた。B. humidicolaはここにおける栽培の歴史が長く、管理によっては雑草の侵入が少ない密な草地ができるためにこれを好む人(幸地牧場:肉牛)もいるが、家畜の嗜好性があまり良くないために他の牧草(Panicum maximum等)に変えた方が良いとする意見(山城氏:酪農経営)もあった。B. humidicolaの評価は肉牛と乳牛とで異なるかもしれない。
パナマではこれらのうちB. mutica、B. humidicola、E. polystachaは一般に栽培されていない。B. humidicolaは嗜好性の点からあえて栽培を普及すべきとは思われない。一方で肥沃な土壌でかつ十分な肥培管理を行えるということが条件であるが、P. maximumの栽培も検討しても良いのではないかと思われる(なお2001年にプロジェクトサイトの放牧地でP. maximumを播種したが定着しなかった)。
また、調査した草地の多くは放牧専用であるが、家畜人工授精センターにおいてはBrachiaria decumbensを用いて乾草調製もしているとのことであった。パナマではB. brizanthaやB. decumbensは放牧専用として用いられ、乾草調製を含む貯蔵飼料の調製には用いられていない。パナマでは雨季における乾草調製はできないので、B. brizanthaやB. decumbensによるサイレージ調製も検討されて良いのではないかと思われる。
なお、コチャバンバではイネ科牧草の栽培、利用は見られず、イネ科牧草に求められる粗繊維供給源としての役割(エネルギー源及び反芻機能を正常に営ませる機能)はトウモロコシ(生又は乾燥茎葉を給与、一部でサイレージ調製)や乾燥エン麦が担っていた。
ボリヴィアにおいても多くの草地ではイネ科のみであり、イネ科牧草とマメ科牧草の混在、あるいはマメ科牧草栽培(単播)はあまり一般的ではない。
しかし、Alborada酪農場の草地の一部にはNeonotonia wightii(Arn.)Lackey(Glycine:グライシン)が繁茂しておりこれを輪換放牧による放牧利用をしていた。グライシンは種子繁殖もできるが、栄養繁殖で容易に増殖できるとのことであった。Alborada酪農場でグライシンを導入した際には1m間隔で植え付けたとのことであった。なお、グライシンは比較的肥沃な土壌を好むのに加え、酸性土壌は好まないとのことであるので、比較的土壌が痩せ、かつ酸性土壌が多いパナマにおいては栽培は困難かもしれない。また、グライシンは採食された後の再生のためには禁牧期間が必要であるため、輪換放牧利用が前提となる。
また、コチャバンバではアルファルファ栽培がかなり一般的であった。利用方法としては、刈り取り給与及び刈り取った後に放牧する方式がとられていた。刈ってから放牧するという方法は、食べ残しが少ない(=採食率が高い)ためであるとのことであったが、少ない面積を利用して集約的に栽培・利用する観点からこのような方法がとられるようになったものと思われる。
サンタクルスにおいてもSan Marcos酪農場ではアルファルファの栽培を行っていたが、これは熱帯に適した品種とのことであった。
パナマはサンタクルスよりも気温が高い(最高気温はサンタクルスの雨季とさほど違わないが、夜温がサンタクルス程には低くならない)ため、栽培可能かどうか不明ではあるが、熱帯に適したアルファルファ品種の栽培を試みる価値はあるのではないかと思われる(当プロジェクトサイトのあるトクメン試験場はそのような試験を行うべきところでもある)。
ただしグライシン同様に(あるいはそれ以上に)アルファルファも酸性土壌を嫌う。また土壌は肥沃である必要がある。即ち新たにアルファルファを栽培しようとする場合、そこは既に良好に管理された生産力の高い牧草地あるいは耕地である必要がある。加えて土壌pHを中性近くに維持するための石灰の施用や、リン酸やカリ肥料の施用等が必要になる。
サンタクルスで青刈り作物として利用されていたのは、タイワン、タイワンロッホ、飼料用サトウキビ、ソルゴーである。
タイワンロッホは当プロジェクト(トクメン)で栽培されているカメルーンに類似しており、これと同じもの、あるいは近縁種と思われる。タイワンはPennisetum purpureum(ネピアグラス)かと思われたが、冨永氏によればこれとは違うとのことであった。別途文献等で調査したい。Alborada酪農場ではブラジルから導入したという飼料用サトウキビの栽培も行っていた。しかし飼料用品種とのことであったにもかかわらず、茎が固くなり牛があまり食べられないので飼料用としてはあまり良くないとのことであった。
パナマで用いている飼料用品種は茎の繊維が砂糖生産用の品種よりも固くならない。Alborada酪農場で導入したものはパナマで飼料用として利用している品種よりも繊維が固くなるのか、あるいは細断せずに給与しているために牛が食べづらいのかのいずれかであろうと思われるが、現物を手にとって見たわけではなかったので詳細は確認できなかった。
パナマではサトウキビを細断してそのまま給与するか、あるいはサッチャリーナに加工して給与する。茎が固くなっても細断すれば飼料利用はできるのではないかとも思われるが、一方で細断するとなれば相応の機械装備が必要になる。
コチャバンバでは青刈り作物としては青刈りトウモロコシが利用されていた。なお、乾燥させたトウモロコシ茎葉も利用されていた。雄穂が出ているにもかかわらず茎は細かったので、乾燥して利用するために茎が太くならないように密植して栽培したのかもしれない。
なお、コチャバンバでは乾燥エン麦茎葉の給与が比較的一般的であったが、エン麦の栽培は見られなかった。調査時(1月)は栽培時期ではなかったのかもしれない。あるいは他地域で栽培、調製したのを購入した可能性もあるが、このことについては確認できなかった。
また、コチャバンバでは乾燥トウモロコシ茎葉も利用されており、これは経営内耕地あるいは近隣農家からの購入(いわば契約栽培か)によるものと思われる。既に雄穂が出ていたが茎は細かったので密植したか、あるいは本来茎が太くならない品種であるかもしれない。茎が細く、かつ乾燥した気候のため、トウモロコシを乾燥して貯蔵することができるものと思われる。
サンタクルス及びコチャバンバでサイレージに用いられていたのは主にトウモロコシで、一部でソルゴーが使用されていた。
長大作物に関しては、パナマに比べて利用方法が多様であったが、実用上新たに導入すべきものは見あたらなかった。ただし、試験的にいろいろと試みる必要はある。
ボリヴィアにおいては4月から9月頃が乾季になる。この時期には牧草の生育が止まり、牛を飼養するには牧草に変わる飼料の確保が必要となる。
サンタクルスで調査した牧場のうち、サイレージを調製・給与していたのはAlborada酪農場及びEl Naranjal牧場であった。
Alborada酪農場ではバンカーサイロでトウモロコシ及びソルゴーサイレージを調製し、乾季用飼料としていた。なお、ここでは青刈り作物の利用も行っていた。
El Naranjal牧場では70haのほ場でトウモロコシを栽培し、巨大なバンカーサイロで2000tのサイレージを調製していた。ここではサイレージは年間給与していた。
山城牧場では乾草を調製しており、乾季にはこれが主要な粗飼料になるものと思われた。
San Marcos牧場では潅漑施設を有し、乾季にも潅水を行い青刈り作物(メルケロン、タイワン、カメルーン、エレファントグラス)を年間青刈り給与していた。
沖縄総合農協直営牧場では調査時に青刈りソルゴーを給与していた、年間を通じてソルゴーを給与飼料の基幹にしているのかもしれない。
一方、Vaquita牧場は川の近くで乾季にも牧草が生育するとのことで、別途乾季用飼料の確保は行っていなかった。肉牛を飼養している幸地牧場では詳しくは未確認であるが、経営内草地の中には湿潤地もあるとのことで、ここでは乾季も牧草が生育するのではないかと思われた。
一方、コチャバンバでは7戸の小規模〜中規模酪農家を調査したが、この中でトウモロコシサイレージを調製していたのを確認したのは1戸だけであった。4戸(うち1戸は上記トウモロコシサイレージを給与していた農家)で乾燥トウモロコシ茎葉及びエン麦稈(両方あるいはいずれか)を給与していた。これらは貯蔵可能であるので、乾季にもこれらを給与しているものと思われる。
他の1戸では麦稈と思われるものを給与していた。
貯蔵粗飼料について確認しなかった2戸においても上記の乾燥トウモロコシ茎葉、エン麦稈等が乾季用飼料として用いられているものと思われる。
以上を総括すれば、サンタクルスでは条件等に応じてサイレージ、乾草、青刈り作物(いずれも良質粗飼料)のいずれかを利用しているが、これらは全て自ら所有する飼料基盤で生産したものである。これはサンタクルスにおいて調査した農家が比較的大規模で、比較的広い土地を有しているためである。
一方、コチャバンバではトウモロコシサイレージを調製している農家は少なく(調査事例中では1戸)、乾草トウモロコシ稈、乾草エン麦稈が比較的多く用いられていた。これらは粗飼料の質の面ではトウモロコシサイレージや潅水を行って生産された青刈り作物よりも低品質であり、含まれる栄養分も少ない。しかしコチャバンバで利用されている貯蔵飼料は品質面ではサンタクルスにおけるよりも劣るものであるとはいえ、当地なりに工夫し、当地に適したものを得ているということができる。
飼料基盤を有していない農家では、他の農家との契約栽培で入手するか、あるいは購入している。
San Marcos酪農場では2.5haの飼料畑で青刈り作物を利用しているが、この栽培のためにスプリンクラーによる潅漑施設(設置経費:3000ドル)を有し、乾季には潅漑を行うとともに、牛舎内の糞尿は発酵槽で腐熟させた後、更に水で薄めて前記の潅漑施設を通じてほ場還元を行っている。これにより化学肥料を使わずに飼料生産を行っている。今回ボリヴィアで調査した中で肥培潅漑(糞尿を液肥としてほ場に還元)を行っているのはこの牧場だけであった。
酪農では購入飼料もかなり使うため、外部から経営内に持ち込まれる窒素、リン酸等の量もかなりのものと見込まれ、調製・利用の際のロスを見越しても、ここで栽培される青刈り作物の生産に必要な肥料分は確保されているものと思われる。
なお、ここでは肥料(家畜糞尿)の投入量と青刈り作物の生育に関する試験も行っていた。
パナマでは舎飼いは少ないため肥培潅漑技術は一般に適用しがたいが、一方でパドックで排泄された糞はまだ有効には利用されていない場合が多い。これを有効に利用する(牧草や青刈り作物の生育に役立てる)ということは考慮されるべきであろう。もちろん肥培灌漑以外の方法でという意味であるが。
コチャバンバでは自らは飼料基盤を有せず、他の農家に作物の栽培を委託したり、あるいは他から購入する飼料のみで経営を行う酪農家も多い。このようなことから、日本におけるような家畜糞尿の処理、利用が十分に行えないという問題が生じるようにも思われる。しかし実際には糞尿問題は発生していない。即ち周囲の無畜農家における肥料としての牛糞の需要が大きく、酪農家のところにもらいに来るとのことであった(有償か無償かは未確認)。
パナマでは牛は放牧飼養が主体であり、日本におけるような家畜糞尿問題は生じないが、当プロジェクトのモデル農家でもパドックに排泄された糞は利用されることなく放置されている場合が多い。有効利用が望まれる。
既に終了したJICAプロジェクト(ボリヴィア肉用牛改善計画)のサブサイトがあるトリニダはベニー州にある。今回のボリヴィアでの「技術交換」ではトリニダは訪れなかったが、トリニダのサブサイトに駐在しているカウンターパートが私達にサブサイトでのプロジェクト実施状況及び技術事項を説明するためにサンタクルスに来てくれた。
トリニダを含むベニー州はボリヴィアの中北部に広がる低平地にある。セブー牛登録協会(ASOCEBU)は今ではサンタクルスに本拠をおいているが、当初はベニー州にあった。このことからもわかるように、ボリヴィアの中でも有数の肉牛産地である。
ここはアマゾン川支流の流域となっている。ここでは雨季には冠水・水没するために、牧草の栽培、利用ができない。このためにこのような条件に適応し生育する野草を利用した肉牛飼養が行われている。
土地が一時期とはいえ水没する時期がある条件下では通常は草地を利用した畜産はできないと考えるが、ここではこのような悪条件を克服して肉用牛の主産地となっている。
今回、視察した酪農家の多くがホルスタインの純粋種を繋養していた。パナマではホルスタインは暑さに弱いという理由から、一部地域を除き純粋種での利用はされていないが、気候がほとんど変わらないボリヴィアで飼養可能なことが、一般農家で実証されていることは大きな驚きであった。
サンタクルスは標高700〜800mで日中は30度以上になるという亜熱帯性に近い気候、コチャバンバは標高2800mの冷涼な環境であるため、その飼養方法は異なっている。気候的な環境だけをパナマでたとえれば、サンタクルスはプロジェクトサイトであるパナマのアスエロ地方に、コチャバンバは比較的に冷涼なチリキにたとえることが出来る。コチャバンバはほとんどがホルスタインの純粋種が多く、サンタクルスは約85%がホルスタインで残りはジャージーなどという具合であった。
飼養品種の考え方は視察した酪農家によって若干異なるものの、サンタクルスの農家訪問で、パナマのアスエロでもホルスタイン種は飼養できるという確信を得た。サンタクルスで見た沖縄移住区の酪農家等はAIを導入して累進交配による選抜淘汰を繰り返すことでホルスタインの純粋種に近づけ、現在はほぼ完全な品種転換に成功しているようであった。気候環境がそれほど大きく違わないパナマのアスエロ地方でも改良品種のホルスタインを飼うには、後述する暑熱のストレスを軽減し能力を発揮する環境を設定してやり、定期的なダニ駆除を実施するなど一部手間はかかるもののそれほど無理ではない気がする。人工授精はアスエロでも実施されているのでこういった手法で改良品種への純粋化を図るかどうかは農家の意識次第であろう。
また、ボリヴィアでは乳生産用の品種のひとつとして交雑種をとりあげる考え方もあり、同じくサンタクルスで訪問した一農家が主にホルスタイン種とジール種との交雑種を用いていた。当農家のこれまでの経験ではこの組み合わせが耐暑性に強く熱帯圏では最適と考えており、乳量(16〜18リットル/日・頭)もある程度期待できるとのことであった。将来のアスエロ地方の飼養品種を考える場合、その選択のひとつとして能力試験などを行いつつこの交雑の組み合わせも取り上げて見ることもおもしろい。
ボリヴィアでは訪れた時期がよかったのか、飼料の確保という面で牛の状態からはサンタクルスでも、コチャバンバでも特に困窮している様子は見られなかったが、それぞれの農家が飼料の確保に何とか工夫をしているようであった。
草地面積の少ないコチャバンバにおいては、濃厚飼料を確保できれば冷涼な気候でホルスタインの能力を十分発揮できる環境にあるが、個々の農家が放牧用としてあるいは青刈り用として草地にアルファルファを導入したり、トウモロコシサイレージの生産をしたり、また濃厚飼料として大豆皮、フスマ、綿実といった副産物の利用を図る等、飼料の確保には気を配っていた。また、酪農協会が飼料工場を保有し農家の希望に応じた配合飼料生産をサービスするなど農家が牛を飼うために必要な飼料面の環境は整っていた。
サンタクルスで訪問したところは大規模農家がほとんどでありそれぞれの農家には経営的な特徴が見られるものの、基本的にはどの農家も自家配合と放牧の利用、青刈り草地の利用、トウモロコシサイレージの生産等を乾季、雨季をにらみながら、これらを組み合わせて年間の飼料確保を実施していた。ある農家は自家配合は大豆の皮や綿実といったその地域で入手でき利用しやすいものを選択し、牛のステージや搾乳量にみあった給与量(乳量の1/2〜1/3)の設定、コスト面といったことを考慮して単味の導入を図っていた。飼料確保にはこういった考え方をとりいれてパナマでも実践する必要があろう。
また、次にあげる放牧の利用方法については参考になることがあったので可能ならば是非、パナマでも取入れてほしいと思う。アスエロの気候に近いサンタクルスのある農家が「banco de proteina(タンパク銀行)」と称して一牧区にグライシンというマメ科牧草でマメ科密度の高い草地を確保していた。この牧区に搾乳牛を時間放牧して栄養分の効率的補給を行っているのである。
アスエロ地方でもカウンターパートがマメ科牧草アラチピントイの栽培を推進しているが、その栽培にはある程度の水分を含んだ土壌を必要とするなど土地条件に制限があると聞く。アスエロは飼料確保の難しい気候条件ではあるが、牛乳生産の増加のためには、マメ科牧草が定着できる可能性の高い土地条件を満たすところでは積極的な導入を図ることが望ましい。
乳牛は一般に寒さに強く暑さに弱いといわれているが、熱帯の畜産で暑熱ストレスの軽減は家畜の生産能力に大きく影響する。特に改良された乳用種を放牧主体で飼養しているところは庇陰樹等熱帯の強烈な日差しをさえぎる庇陰施設が必要であることはいうまでもない。
亜熱帯のサンタクルスでも日中は30度以上になることに加え日差しが強い。このため暑熱対策としてホルスタインを飼養するほとんどの農家の放牧地には必ず庇陰林を設けてあった。
そのほかに、運動場に屋根付の給餌施設を設置したり、搾乳時の牛待機中にも待機場に日差しを避けるための簡単な屋根をつけたり、子牛を移動しやすいカウハッチに入れて暑さをしのぐ等の工夫をしている農家が見られた。また、農家によってはパドック内に直接牛体にミストを吹き付けることでホルスタインの体温を下げるシステムを導入しているところがあった。
また、飼料摂取に関する暑さのストレスを解除するため日中に給与していた時間を涼しい夜にずらす工夫も行っていた。視察したサンタクルスの農家は、これらの工夫で交雑種も含めて牛群の産乳成績が1日1頭あたり平均約15〜20リットルの実績を残しているとのことであった。
これらのアイデアは初期に投資の必要があるものもあるが、低コストで実行できるものもあるので決してアスエロでも不可能ではない。環境と予算に合った手法を考慮して暑さをしのぐ工夫は暑さの厳しいアスエロでこそ必要で乳牛の生産能力を上げるための効果は大きいと考える。
パナマの場合、牛が交雑種であることや乳肉兼用種という考え方で飼われていること、飼養形態が放牧草主体の省力管理であることなど、牛の飼養形態がかなり異なるが、避陰林の設置など牛にストレスを与えない飼養管理技術は大いに取り入れるべきだと感じた。
(2)及び(3)で記したように、ボリヴィアでは牛の有する能力を十分に発揮させるため、飼料給与面や暑熱対策等飼養管理技術に十分配慮していた。この効果が、牛乳の生産量の増加ばかりでなく、分娩後の発情回帰が早かったり、発情周期が規則的に回るなど、繁殖能力の向上にも結びついていることを強く感じた。
人工授精が広く利用されているため、農家自身で分娩月日や発情日、種付け月日、発情回帰の状態などが記帳されており、牛個体の繁殖管理がよくできていた。これはパナマの場合、自然交配が中心のため、いつかは巻牛が受胎させてくれるという考えが強いが、ボリヴィア(人工授精)の場合、農家自身が牛個体の繁殖状況を把握し、人工授精を実施しないと受胎ができないため、個体管理に対する意識がパナマに比べ大きく異なっていることに起因しているように感じた。牛の個体管理は、繁殖管理の基本となるので、パナマでも何とかして、この感覚が身につけられるような対策が望まれる。
この他、ボリヴィアでは農家をバックアップする体制が整っており、繁殖指導を行う技術者や人工授精師が農家の依頼により、迅速に対応できるようになっていた。このため、繁殖障害に対する相談や人工授精が確実に行われていた。パナマではMIDA等にこれら指導・実施機関が存在するが、農家を巡回するための車両が不足しているなどハード部分が未整備なため十分な活動がなされていない。早急な体制整備を行い、これら機関の有効利用が望まれる。
今回訪れたボリヴィアではサンタクルス、コチャバンバとも乳牛に関する登録協会はあるものの、その成立の経過から国内で統一した登録は行っていなかった。いずれは国として統一した登録を行う方向が望ましいことは関係者も承知していた。
しかし、家畜登録が品種改良、家畜の能力向上に果たした役割は少なくないものと思われる。今後は畜産発展のためにはパナマにおいても家畜登録制度の導入は重要である。パナマ一国では飼養頭数規模は小さいため、中米各国で一体的に行うという構想もあるが、いずれにせよ家畜登録制度の導入を早い段階で検討していくことが望まれる。
ボリヴィアにおいて長年牛関係の技術指導を行っている富永氏は、パナマの現状は15年前のボリヴィアのようだと言っていた。国の状況が異なるので、一概にどちらの飼養形態がいいのかは判断できないが、1頭当たりの牛乳生産量を増加させるためには、これまでに記したようなボリヴィアで行われている優良技術を取り入れる等、技術向上を積極的に図る必要があるように思われた。
ボリヴィアでは地方あるいは地域ごとの単位で生産者のための生産者が作る酪農協会なるものが存在しているようで、技術の提供、農業用品、獣医薬の販売、酪農データの集積、農家への技術改善指導の業務を行っていた。サンタクルスでは日本の農協に相当する酪農協会が統廃合を経て新たな体制を築き、品質管理、防疫業務、栄養改善プログラムの実施、登録業務(後で分離独立)や技術者の育成等について以前より幅広く活動できているとのことであった。そして、その中で共有できる情報を基に経営及び技術に関する改善指導を行えるシステムが出来つつある。
こういった生産者のための組織化はいまだ生産者同士の結びつきが弱く、地域ごとのまとまりに脆弱な感があるパナマ畜産にとって非常に大事なことである。一般に中南米では共同協力意識が低いと聞いているが、地域での技術及び経営改善を図っていくには情報を共有しあう組織体制は重要であり、今後は政府主導型でも農家の意識を変えるような農家のための強固な組織をモデル的にでも設立していくことが必要ではなかろうか。
乳牛の飼養管理、繁殖管理技術、更には家畜登録等の点においてボリヴィアはパナマにとって先進地であるといえる。ボリヴィアではこれまで日本からの技術援助を積極的に受け入れてきたが、このことがボリヴィアの畜産の発展に対する貢献は少なくないものと思われる。このような日本からの技術協力の受け入れや受け入れた技術の普及ということに関しては、ボリヴィアの国及び公的機関、関係団体の積極的な関わりが大きく寄与したものと思われる。
今回のボリヴィアの調査で感じたボリヴィアとパナマの違い(技術問題、体制の問題等)を含め、改善すべき点は少なくない。前述のように冨永氏によればパナマにおいてはボリヴィアよりも「15年遅れている」とのことであるが、今後技術の向上や畜産関係の体制作り、組織作りのためには国や公的機関、関係団体がボリヴィア同様に積極的に対応することが重要であると考える。
技術普及が当面の課題であるが、このことに関してはパナマでは主に農牧開発省(MIDA)が対応している。政府主導でも積極的に何とか粘り強い普及活動を行うことが重要である。
今回の技術交換事業でのボリヴィア訪問においてサンタクルス及びコチャバンバで撮影した写真については、既に文中に紹介しているが、これに加え、サンタクルス、コチャバンバ及び町や農村、農家の人々等の写真を写真集としてまとめた作成したのでご覧いただきたい。
サンタクルスやコチャバンバの町並み、農村そしてそこで暮らしている人々は、パナマとは違う独特の、またそれぞれに異なった風合いを持っていた。ここに紹介できるのはそのほんの一端にしか過ぎないが、それぞれの風土を垣間見ることができるのではなかろうか。