ここでは近隣諸国と少々異なるもの(食材、料理)、及び当方が一寸気になったものを取り上げてみた。
パナマにおける食材として、ここでは、米とチーズをとりあげた。米については本文中にも書いたが、パナマは南北アメリカ大陸の中で特異的に米を多く食べる国だからである。また、チーズは当地独特のQueso blancoをとりあげた。発酵させていないチーズである。多分、食材のレベルでは米以外は他の近隣諸国と大差はないものと思われるので、ここでは当面この2つを取り上げるのみにしておきたい。
料理に関してはTortilla、SancochoとGuacho、料理のつけあわせとしてのユカ、ジャガイモ、バナナを取り上げた。Tortillaは同じ名称のものが中米各地で食べられているが、パナマのそれは名称は同じでも、そのものが他とはやや異なるためである。SancochoとGuachoは数少ないパナマ(コスタリカあたりまで含むかもしれない)独自の料理である。「ユカ、ジャガイモ、バナナ」については、当方の独断と偏見に基づき取り上げさせていただいた。ジャガイモは別にしてもユカとバナナの付け合わせは当方がパナマに来て初めて食べたものだからである。
パナマは南北アメリカ大陸の中で際だって米を食べる(コスタリカも米をかなり食べるとのことであるが未確認)。パナマでは米が食事の中で重要な位置を占めている。欧米の食体系では「主食」という概念が無いともいわれているが、パナマではちょっと違うようである。いつも昼食を食べるところでも主食のメインは米(インディカ種)である。シーフード雑炊とでもいうべきGuacho de Mariscosもある。Nico's cafeで食事をとろうとする時も、米(インディカ種)をそのまま炊いたものに加えて、具を入れて調理したピラフが1〜2種類と、米が主要な位置を占めている。
いつもの昼食においてパナマ人の同僚の食べるものを見ても、米(インディカ)に肉や魚料理を添えたものを注文する人が多い。肉や魚のボリュームがかなりあるため、カロリーでは肉や魚の方が米よりも多いと思われるが、形の上では米プラスおかずということで、日本食に近いものを感じさせる。sopaを注文する場合も別皿でarrozを加える場合が多い
REYやSUPER 99といったスーパーマーケットでもパナマ国内産の米がかなりの種類(といっても米の種類ではなく扱う会社の種類)並んでいる。
パナマでなぜこのように米がたくさん食べられるようになったかについては、不動 明氏のWEBページに高砂 大氏が書いた「米について」に記載されているので参照されたい。
Queso blanco(ケソ・ブランコ:白いチーズという意味)はパナマにおけるいわば「地チーズ」とでもいうものである。簡単に言うならば、牛乳からカッテージチーズを作り(固めるのに何を使うかは未確認)、これを型枠に入れて押し固めたようなものである。発酵はさせず、そのまま販売する。これはパナマにおける最も基本的な乳製品である。パナマの軽井沢とでもいうべきチリキ地方ではかなり本格的な酪農が営まれ、ここではパナマ国内の生乳生産を担っているが、これ以外の地方で生産された生乳のかなりのものは乳製品加工工場で乳製品として加工される。大手の企業としてはNestleやEstrella Azulがあり、そこでは各種の乳製品となっているようであるが、それ以外の中小の工場では多くがQueso blancoに加工される。
カッテージチーズを押し固めたようなものであるため、食感はややボソボソとしたものがある。発酵させていないため発酵による独特の風味は無いが、その代わり元々の牛乳の風味が残っている。朝食メニューの一つとしたり、ビールや酒のつまみにも良い。料理の材料の一つとしても使う。
私個人とすればやはりヨーロッパタイプのチーズの方が風味があって美味しいとは思うが。
Queso blancoは、一般には食塩を加えたものがほとんどであるが、一部に無塩のものもある。これは料理用、特にお菓子用として用いる。
Tortillaはスペインではトルティーリャ、多くの中米諸国ではトルティージャと発音するが、パナマではトルティーヤと発音する場合が多い。Tortillaに限らず、「lla」は、スペインでは「リャ」、中南米では「ジャ」あるいは「ヤ」と発音する場合がおおいが、パナマでは「ヤ」と発音することが多いようである。また、Tortillaはスペインではオムレツのことをいう。中米でもパナマ以外ではトウモロコシの粉を薄くのばして焼いたものであるが、パナマではトウモロコシの粉を練って厚さ6〜7mm、直径10cm程度の円盤状に成形し、揚げるか焼くかしたものである。このためTortillaといってもパナマのは他の中米のとは一寸異なる。
パナマではトウモロコシ粉で作った円盤状のものを揚げる(トルティーヤフリタ)かフライパンで焼く(トルティーヤアサダ)かして食べる。朝食、軽食としてよく食べられる。
なお、Tortillaの加熱調理前のものはスーパーにも売っており、これを買ってきて家庭で揚げるか焼くかして食べることができる。
パナマには、これぞパナマ料理というのはあまりありません。数少ないパナマ料理の一つがSancocho(サンコーチョ)でしょう。正式にはSancocho de gallina(鶏肉のサンコーチョ)というのでしょうが、一般的にはSancochoと言うだけでとおります。Sancochoというのはいわば鶏の骨付き肉入りスープなのですが、こちらの人に言わせれば能書きはいろいろとあるようです。
先ず、鶏は雌鳥でなければならない−ということです。雌鳥の骨付き肉をヤムイモ(ñame:山芋の一種)とともに塩味で煮込んだものです。簡単なようですが、何かノウハウがありそうです。これとは別に単なる鶏肉のスープもあり、素人目にはほとんど同じなのですが、当地の人に言わせると単なる鶏のスープとSancochoとは違うといいます。また、これは簡単な料理でどこの食堂にもありそうですが、そうでもなさそうです。その一方で何と言うことはない普通の食堂でありながらSancochoがある店もあります。
こちらの料理の本によれば、材料は鶏肉、ヤムイモ、タマネギ、トウモロコシ(穀実のついた穂軸を5cm程度の輪切りにしたもの)、グリーンペッパー、ニンニク、クローブ、コリアンダー、オレガノ、赤唐辛子(種抜き)、塩ということですが、以前にアスエロ地方で食べたSancochoにはタマネギとトウモロコシは入っていませんでした(具としては鶏肉とヤムイモだけ)。スパイス類も上記のとおりに使っているかどうかはわかりませんが、これらのスパイスが一つのポイントのようです。
これは、一種のsopa(スープ)ですので、arroz(米=インディカ米を炊いたもの)とともに注文して食べるのが一般的のようです。
なお、Sancochoという料理の名前について考察してみたいと思います(以下、「西和中辞典(小学館)」による)。Sancocharという動詞には、肉や野菜等を下ごしらえするために下ゆでするという意味があります。Sancochoという名詞にはラテンアメリカでは「肉・キャッサバ・バナナ・野菜等で作る煮込み」という意味ですが、本来は「生煮えの料理」という意味だったようで、多分スペインではその意味で使っているものと思われます。ラテンアメリカでも国によっては(パナマではありません)、「まずい料理、残飯」、あるいは「けんか、口論」を意味することもあるようです。これから想像するに、元々のSancochoはあり合わせの材料で簡単に作ったあまり美味しくないものだったのが、パナマにおいては今のような美味しいSancochoに発展したのではないかと思われます。
「パナマ共和国情報収集基地」の中の「サンコーチョ」のページに詳細な記載がありますので参照してください。
Guachoとは、いわば雑炊である。具(肉又は魚介類とトマト、タマネギ等の野菜類)を炒めて水を加え、米(もちろん長粒種)を入れて煮て雑炊とするものである。もちろん当地のことであるから、ニンニクや月桂樹の葉を入れ、香辛料としてグリーンペッパー、赤唐辛子等の香辛料も加わる。いつも昼食を食べている店では深皿(というよりは丼)にGuachoをよそい、辛いソースをかけてくれる。
具としては肉入りのものも無いわけではないのでしょうが、いつも私達が行っている食堂では、イカやアサリのような貝を加えたGuacho de Mariscosが一般的である。
ここでまたGuachoという料理名について考えてみたいと思います。「西和中辞典(小学館)」のGuachoの項では、パナマとコスタリカで「肉入りライススープ」とあります(肉入りライススープと言うよりは実感としては「雑炊」である)。これ以外には、「雛鳥」の意味の他に南米で「孤児、身寄りのない子」、一部の国で「溝、畝」、あるいは「焼酎」、「高地の住民」等の意味があり、パナマとコスタリカ以外ではこのような「雑炊」に関連した意味の使い方はしないようです。あるいは「孤児」のような貧しい生活の中で食べるものというところから名付けられたのでしょうか?
これらは肉料理、魚料理の付け合わせに使われる澱粉質のものとして代表的なものです。料理の付け合わせとしては、店によってはこれらのうち一つしかない場合もありますが、複数ある中から選べるようになっている場合が多いようです。選択できる場合はメインの料理を注文する時にこれらつけあわせも何にするか併せて注文します。
ジャガイモ(当地ではパパという)は私たちにも一番なじみのあるものです。ジャガイモも揚げたものが多いのですが、店によってはアルミホイルで包んでオーブンで焼くという選択肢がある場合もあります。
ユカはキャッサバのことです。パナマでは料理の付け合わせにする場合は、これを油で揚げるます。朝食メニューの場合には油で揚げるか茹でるかのいずれかあるいは両方がある場合もああります。ユカはジャガイモよりもあっさりとした味です。ただし芋の中の繊維が発達しやすく、時に(というかかなり頻繁に)やや固くなった繊維が口の中に残ることもあります。東南アジアではキャッサバは庶民の食べ物ということで、レストランで出されることは無いと聞きましたが、パナマでもパナマシティやアスエロ地方ではそのようなことはなく、ちょっとしたレストランでも付け合わせの一つとして出されます。ただし、パナマでもチリキ地方では朝食、昼食用としては用いますが、夕食の付け合わせとしては出されないようです。
パタコンは料理用バナナを1cm程度に寸断し、上下から一寸押しつぶしてから揚げます。このようにしたものを当地ではパタコンと言いますが、辞書ではパタコンはバナナチップスとありますが、ここでは厚みもあり、カリカリになるまでは揚げません。ユカやジャガイモはあまり甘みを感じないのに対して、パタコンにはほんのりとした甘みがあります。
私の場合、料理の付け合わせを頼む場合はユカにすることが多く、次いでその時の気分でパタコンにすることもあります。ジャガイモはどこでも食べられるからということもありますが、ほとんど注文することはありません。ユカを選ぶことが多いのは、やはり「美味しいから」ということになります。パナマにいる日本人同僚においてもこれらの中ではユカが最も好まれています。ユカ(キャッサバ)は日本でももっと使われて良い食材ではないかと思われます。
(2002年1月27日更新) | ||||||||||
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