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「牛生産性向上計画」における飼料の生産と利用


− 目 次 −

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1.現状調査
(1)自然条件
  1. 気温と降水量
  2. 地形等

(2)利用されている改良草種及び未改良草種の調査
  1. イネ科牧草
  2. マメ科牧草
  3. 青刈り作物
  4. サイレージ用作物
  5. 牧草見本園の設置と管理

(3)野草・飼料木の調査
  1. 野草及び自然牧草
  2. 飼料木
  3. 庇陰樹

(4)土壌分析

(5)飼料分析


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2.飼料生産技術の改善
(1)牧草管理技術の改善
  1. 草地の現況(プロジェクト開始時)
  2. 排水不良対策
  3. 草地改良(牧草導入)方法
  4. 導入した牧草の種類
  5. 各モデル農家及びプロジェクトサイトの牧草導入状況
  6. 施肥
  7. 家畜糞による堆肥の調製と利用
  8. 潅水
  9. 飼料木の植栽
  10. 庇陰樹の植栽
  11. 雑草除去
  12. 病害虫
  13. 放牧利用
  14. 放牧施設(牧柵)
  15. 青刈り作物の栽培と利用
  16. サイレージ用作物の栽培

(2)粗飼料貯蔵法
  1. パナマの気象条件と乾季における飼料確保法
  2. サイレージの調製
  3. 乾草調製
  4. サッチャリーナの調製

(3)農業副産物の利用
  1. バガスの特性と利用可能性
  2. 稲わらの利用と問題点
  3. その他副産物の利用
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1.現状調査

(1)自然条件

a.気温と降水量

日本においては気温が牧草栽培の制約要因になり、冬季には寒冷のために牧草の生育が停止するが、当地では降水量が制約要因となり、乾季に生育が停止し、地上部が枯死する。

月別降水量を見ると、乾季が終わって雨季に入るのが5月であり、5月から11月までは比較的雨が多い。降水量について詳細に見ると5〜6月に小さなピークをなし、7〜8月にはやや降水量が少なくなる。そして10月を中心とする時期が最も降水量が多い時期となる。ただし、年による変動もかなりあり、本来降雨が多い時期であっても寡雨となることもある。

地域別に見ると、プロジェクトサイトのあるトクメン(=パナマ地方)が最も多く、モデル農家があるアスエロ地方はパナマ地方に比べて少ない。またアスエロ地方でも地域により降雨の多少があり、下表の「Pesé」は比較的降雨が多い。モデル農家のうち1戸がPesé地区、1戸がその近くにあるが、後者は特に降水量が多い。一方で下表の「Las Tablas」地区は最も降雨が少ない。この地区にも1戸のモデル農家があるが、ここは降雨が少ないことの影響を最も多く受ける。

平均気温では、雨季の期間中(5月〜11月)は最初の頃を除いてほぼ27〜29度程度であり、パナマもアスエロも大きな違いはない。乾季では1月は雨季よりも気温は低いが、次第に高くなり、雨季はじめの5月がピークとなる。乾季のアスエロ地方の気温はパナマに比べて約1度程度高い。

表1−1.月別平均気温(1984〜2001年平均)
表1−2.月別平均降水量(1984〜2001年平均)
図1−1.気温の月別推移
図1−2.降水量の月別推移

b.地形等

プロジェクトサイトがあるパナマ地方は脊梁山脈と、海岸に近い平坦地及びそれらの間の丘陵地がある。プロジェクトサイトは小さなうねりはあるものの比較的平坦な地形である。なお、プロジェクトサイトの用地の多くは元々パナマ大学トクメン試験場における稲作(種籾生産)のために供していた所であり、排水が悪い。

モデル農家があるアスエロ地方は、海岸に近い所及びHerrera県北部の比較的平坦な地形と、これ以外の丘陵・山地によりなる。平坦地では稲作、畑作が行われている他、大家畜飼養(乳牛、肉牛)も行われている。丘陵・山地地形の所では主に大家畜飼養が行われ、その中のわずかな平坦地で自家用及び販売仕向けの畑作が行われている。

Vargas牧場、Deago牧場は多少のうねりはあるがほぼ平坦な地形である。

Trillo牧場は平坦地とそれに接する傾斜地よりなっている。この平坦地は降雨時には水たまりとなる。ただしプロジェクトの最終の2年間は降雨が少なかったため、ここに水がたまることはなかった。

Bravo牧場、Hernández牧場、Jiménez牧場の草地は丘陵地帯のかなりうねりのある地形の所にあり、Bravo牧場、Hernández牧場では草地内に十数メートルの高さの小山が含まれる。

プロジェクト位置図


(2)利用されている改良草種及び未改良草種の調査

パナマにおいて利用されている草種(改良草種及び未改良草種)及び今後栽培が見込まれる草種については、以下のとおりである。なおサイトに見本園を設け、これらのうち牧草及び青刈作物の展示を行った。

なお、草の区分(改良草種、未改良草種、野草)については、日本と当地とではやや異なるので予めここで触れておきたい。

改良草種のうち積極的に導入を図っている優良草種については、日本における「牧草」の考え方に一致するものである。一方、当地で改良草種とされるものの中には過去に牧草として導入されたり、改良の手が加えられたものではあるが、近年における体系的な育種改良は行われていないものも含まれる。これは新たに草地に導入されることはなく、積極的に栽培されることはないが、従前から草地内にあり、あるいは草地外にもエスケープして生えている。当地でこれに属するものとしてはアレマン、アングレトンがある。ここにあげた2種は過去に人為的に栽培され、改良の手が加えられたことから改良草種ではあるかもしれないが、現時点では「優良草種」とすることはできない。

当地における未改良草種とされるものは、ファラグア、ラタナ、パンゴラポブレ、カイージョ等がある。これらは自然草地における食草の主体となるものであり、日本における感覚からすれば野草の中で野草地において家畜が好んで採食する野草(ノシバやススキ等)に相当するであろう。ファラグアは、「熱帯の飼料作物(社団法人国際農林業協力協会)」にも掲載されており、改良草種と未改良草種の境界領域にある草種といえよう。

当地で野草とされる種類の植物については上記「未改良草種」とされる草以外の野草で、当然ながら日本においても野草と区分され、雑草と通称されるものである。

なお、日本では牧草と青刈飼料作物とは、はっきりと区分されているが、当地では日本におけるほど判然と区分されてはいない。"Pasto"は日本では「草地」あるいは「牧草」と訳されるが、当地で"Pasto"と言う場合は広義には青刈飼料作物を含める。

プロジェクトでは改良草種のうちの優良草種とされるものの中からプロジェクトサイト及びモデル農家の条件(気候、土壌、利用方法等)に適した草種を選んで導入してきた。

以下、この報告書における草の区分については、永年性青刈作物(ペニセトゥム等)は「青刈作物」とする他は基本的に当地における区分を用いる。また、各草種の呼称はパナマにおけるものを基本とした。

なお、この項では「改良草種」のみとりあげ、「未改良草種」については、別項「(3)野草・飼料木の調査」に記載した。

以下にパナマと日本の「草」の区分の違いについて表1−3として記した。なお、各区分ごとの草種の詳細(特性等)は表1−4のとおりである。

表1−3.当地と日本における牧草、青刈飼料作物及び雑草の区分の違い
表1−4.パナマで利用されている又は利用可能と見込まれる牧草、青刈り作物

a.イネ科牧草

イネ科牧草は草型により大きく株立ちタイプと葡伏茎タイプに別れる。株立ちタイプの牧草においても株の外側の茎は倒れて葡伏するが、放牧地においてはこのような株の外側の茎葉は食べられてしまうため、実際にはほとんど葡伏することはない。葡伏茎タイプは地表を横に這う茎の節々から直立茎が伸びる。

パナマにおいて利用されているイネ科牧草は全て永年性であり、温帯地方で栽培されているイタリアンライグラスのような一年生牧草は利用されていない。

イネ科牧草の中ではブリサンタ(パラセイドグラス:Brachiariabrizantha)は比較的大型の株立ちタイプの牧草である。湿潤かつ比較的肥沃な土壌を好み、土壌があまり乾くことを好まない。このため、降雨量が多く十分な肥培管理ができる条件で栽培される。

同じくBrachiaria類のデクンベン(シグナルグラス:Brachiariadecumbens)はブリサンタに類した草型であるが、これよりも小型である。痩せた土壌にも適応し、根が深く張るために土壌乾燥に対する適応性もある。

タネル(Brachiaria arrecta)は大型の葡伏茎タイプであるが、湿潤条件、更には湛水条件下でも栽培できるという特性を有する。しかし乾燥には耐えられない。

ウミディコラ(クリーピングシグナルグラス:Brachiaria humidicola)は葡伏茎タイプで、雑草を寄せ付けない程に密な草地となる。しかし家畜の嗜好性は他の牧草よりも劣る。パナマでも主に肉用牛用草地として用いられている。乳牛用草地としても一部で用いられている。しかし嗜好性の問題もあり、高泌乳を求める場合にはより嗜好性の良い草種に変えていくことが望ましい。

スワシ(Digitaria swazilandensis)は、後述するアリシアと共にパナマにおける主要な葡伏茎タイプの牧草である。比較的湿潤かつ肥沃な土壌を好む。茎葉が柔らかいこともあり、家畜の嗜好性は良い。しかし栄養価はアリシアよりやや劣る。

パンゴラグラス(「熱帯の飼料作物」では学名をDigitaria decumbensとしているが当地ではDigitaria eriauthaとしている)は上記スワシと同属であるが、パナマではこれと近縁であるスワシがより一般的に栽培され、パンゴラグラスの栽培は少ない。

アリシア(Cynodon dactylon)は、一般名はバーミューダグラスであるが、当地で栽培されている系統名(Alicia)からであるために通常「アリシア」と呼ばれている。葡伏茎タイプの牧草である。栽培には肥沃な土壌が適している。同じ葡伏茎タイプのスワシよりも草質は固く、家畜の嗜好性はスワシよりもやや劣ると言われているが、一方ではスワシよりもより「乳を出す」牧草であるとも言われている。これは可消化栄養成分含有率がスワシよりも多いこと等の影響があるのかもしれない。

エストレージャ(アフリカンスターグラス:Cynodon plectostochyas)は上記アリシア(バーミューダグラス)の近縁種であり、これよりも大型である。パナマでも一部で栽培が見られる。プロジェクトサイトの放牧地の一部にも導入されている。

ギネア(ギニアグラス:Panicum maximum)は、現在のところパナマではチリキ地方の一部等で栽培されているのみで、アスエロ地域では栽培されていない。草型は基本的にはブリサンタ等のような株立ちタイプであるが、より大型であり、後述する青刈り作物であるペニセトゥム(ネピアグラス)との中間タイプであるともいえる。飼料価値はアスエロ地域で栽培される他の牧草よりも優れる。しかし、より肥沃な土壌と、より多くの肥料を要求する。アスエロ地域では集約的な肥培管理が一般化していない等から現状では栽培は見られない。今後パナマの酪農経営において高泌乳を求めるようになり、十分な肥培管理も行えるようになれば、ギニアグラスの栽培も考えることが必要になるものと思われる。

アレマン(Echinochloa polystacha)は既述したタネルと同様に湿地に適した牧草である。葡伏せず茎は直立するが、大きな株を形成することはない。家畜の嗜好性は良い。しかし面積当たりの生産量は少ないことから積極的に栽培されることは無い。

アングレトン(Dichanthium aristatum)はやや大型の葡伏茎タイプの牧草である。プロジェクトサイト及びTrillo牧場の草地で見られる。また路傍等でも見ることができる。生産性が低いため現在では積極的に栽培されることはない。


写真(クリックすると別画面にて表示されます)
ブリサンタ(Brachiaria brizantha)
デクンベン(Brachiaria decumbens)
タネル(Brachiaria rugulosa radicans :湛水条件でも生育する)
スワシ(Digitaria swazilandensis)
 
バーミューダグラスCynodon dactylon:系統名 アリシア)
 

b.マメ科牧草

パナマにおいて栽培、利用されている改良草種としてのマメ科牧草はほぼマニフォラヘロ(Arachis pintoi)、スタイロ:Stylo(Stylosanthesguianensis)、セントロ:Centro(Centrocema pubescens)等あるが、最も一般的なのはマニフォラヘロである。これは葡伏性である。マニフォラヘロは痩せた土壌でも栽培利用はできるが、極度の乾燥(旱魃、乾季が長期にわたること)は好まない。また、どちらかといえば木陰等の半日陰となる条件を好む。

栽培・利用方法としては、マニフォラヘロ単独の草地とする方法と、イネ科牧草と混在させる方法とがある。イネ科牧草との混在草地とする場合、共存するイネ科牧草が葡伏茎タイプ(アリシア、スワシ)の場合には、上部をイネ科牧草に覆われてしまい、生存できなくなってしまうことが多い。このため、混在草地とする場合には共存するイネ科牧草としては株立ちタイプであるブリサンタ又はデクンベンが適する。しかしイネ科草種の草生密度が高く株間がほとんど無い状態では共存は困難である。


写真(クリックすると別画面にて表示されます)
マニフォラヘロ(Arachis pintoi)

c.青刈り作物

青刈り作物としては、ペニセトゥム(ネピアグラス:Pennisetumpurpureum)、サトウキビ(Saccharum officinarum)及びソルゴー(Saccharum sp)が用いられている。

パナマにおいて伝統的に青刈り作物として用いられてきたのはサトウキビである。サトウキビは乾季には成長を止めて乾燥条件に耐えることができるため、潅漑施設が無い場合でも栽培できる。また粗糖生産用としてのサトウキビ栽培の伝統があり従前から飼料用として広く栽培されてきた。ただし、乾季においては1回の刈り取り利用しかできない。

飼料用サトウキビとして用いられる系統としては、粗糖生産用よりも繊維が強靱にならないものが用いられる。

一方ペニセトゥムは乾季においても潅漑と施肥さえ行えば、刈り取り後速やかに成長を行い、50日程度で次の利用が行える。ペニセトゥムはには、「タイワン」、「キンググラス」、「C-22(Elefante liso)」、「カメルーン」等の系統がある。従来「タイワン」が多く用いられていたが、「タイワン」を初めとする従来の系統は取り扱い時に葉縁により皮膚を切りやすい(けがをしやすい)問題があった。しかし、その後に改良された「C-22」ではそのようなことは少ない。このようなことから従来最も多く栽培されてきたタイワンの栽培面積は減少し、それに代わってC-22の栽培が増加してきている。今後新たに植栽する場合は「C-22」を用いることが望ましい。

ペニセトゥムとサトウキビは永年作物である。繁殖方法はいずれも栄養繁殖による。

より短期の利用ということであればソルゴー(ソルゴーフォラヘロ:Sorghumsp)の利用が行われている。ソルゴーは種子繁殖作物であり、種子は市販している。ソルゴーは日本では越冬できないために単年利用である。当地においては日本のような寒冷期間は無いため、多くの個体は乾季を耐えて次の雨季にも生育する。しかし、株が老化し生長が衰えてくるため、通常は半年間(当該雨季の期間)のみの利用となる。


写真(クリックすると別画面にて表示されます)
ペニセトゥム
サトウキビの類で飼料用にも用いられるもの
ソルゴー

d.サイレージ用作物

サイレージ用作物としてはトウモロコシ(Zea mays)が最も多く用いられる。輸入種のサイレージ専用品種もあるが、多くは食用トウモロコシの品種がそのまま用いられている。

この他にグレインソルガム(Sorghum bicolor)もサイレージ用に栽培される。ソルゴーは通常は青刈利用されるが、サイレージ用にも用いられる。


写真(クリックすると別画面にて表示されます)
トウモロコシ
トウモロコシ(草地内)
ソルゴー

e.牧草見本園の設置と管理

2001年に、プロジェクトサイトの道路脇に牧草見本園を設置し、イネ科牧草、マメ科牧草及び青刈り用飼料作物を展示栽培した。

設置した場所は本来排水不良地であったので、当初はモデルインフラ事業でほ場周囲に排水路を掘削した土を盛った。その後順次拡張していったが、拡張部分毎に異なった土壌を持ってきたので、場所により条件が異なることとなった。当方としては予め計画を作成し、それに基づき見本園造成をするように指導したのであるが、これが十分に活かされることはなかった。また排水を考慮し、地表面をわずかに中央部が高く、外側に向かって緩い傾斜をなすようにした形状にするように指導したのであるが、これも数回にわたる土盛りにより、地表面は比較的高いところと低いところが混在する形となり、しかも排水機能が十分に配慮されるような傾斜(高低差)にはならなかった。

また、区画毎に何を植えるかは予め日本側に相談はあったものの、その実行に際しては必ずしも計画通りには植え付けられず、いきあたりばったりの感があった。例えばきちんとイネ科牧草とマメ科牧草が区分されておらず、モザイク状になってしまっている。当方がこれに気が付いた時は既に植え付けられてしまった後で、「もう植え直すことはできない」とのことで、きちんとした配置は断念せざるをえなかった。

またこのような見本園は管理に手間がかかるので、あまり手を広げすぎないようにとの指導を行ったが、実際には「あれも植えたい、これも植えたい」とのことから手を広げすぎた感がある。

加えて見本園管理はきちんと行うよう重ねて指導しているにもかかわらず、丹念な除草、定期的な刈り取り等の管理が十分にはなされておらず、通路には牧草や雑草が生え、牧草が植えられている区画にも雑草や隣の区画から侵入してきた別種の牧草が混在しているという実態である。

ともあれ、現状では見本園としての機能はそれなりに発揮しているものの、優良な牧草、青刈り作物の展示をしっかりと行うためには現状以上の管理が必要である。

(3)野草・飼料木の調査

この項は野草と飼料木に関するものであるが、併せて庇陰樹として利用できる樹種についても調査を行った。

a.野草及び自然牧草

スペイン語でPasto naturalとしているもの及びMalezaとしているものが、日本語では「野草」に相当する。このうちPasto naturalはいわば「自然牧草」とでもいうもので、人手で改良されてはいないが、野草放牧地において家畜の食べる主要な草となるものである。しかしそれまで自然牧草が生えていた未改良の草地に牧草を導入した際には、自然牧草が伸びてきて牧草と競合する。このため、自然牧草は改良草地においては排除することが望ましい。

一方Malezaは純然たる野草、雑草である。しかしMalezaとされる草であっても、草が若い時には、牛はその柔らかい部分を食べるものが多い。しかし牛の嗜好性は低い。特に生育が進んだ段階においては、嗜好性は更に低くなる。また、キク科の多くの野草等ほとんど牛が食べないものもある。またオジギソウのように棘があるものは牛はほとんど食べない。マメ科の野草もあるが、これらの多くは牛の嗜好性は悪く、他に食草がある場合にはほとんど食されないものが多い。また野草の中には有毒物質を含むものもある。一方、ペニセトゥムの類の野草のように、牧草や青刈り作物ほどではないにしても比較的嗜好性の良いものもある。

自然牧草及び野草の中には雨季の後半に大量の種子を落とすものが多い。

広葉植物及び単子葉植物の多くの種類の野草が確認された(別表)。

(a) イネ科自然牧草

以下、参考までに未改良草種とされる牧草について記する。これらは「牧草」とされてはいるが生産性は低い。野草放牧地(自然草地)の主要な食草となっているが、特に乳牛においてより高い生産性を求める場合で、かつ良好な管理ができる条件においては草地造成、牧草導入により、優良な改良草種に置き換えられるべきものである。

ファラグア(ジャラグアグラス:Hyparrhenia rufa)はパナマにおける野草放牧地において最も多く利用されている種類である。植物体が小さいうちは家畜に食べられるが、雨季の後期、生殖成長段階になり、穂が伸びるようになると家畜はほとんど食べない。モデル農家の草地の一部でわずかに見られるが、これが最も多く見られるのは道路端である。雨季の終わり頃には道路端等で最も多く見られる植物の一つである。

ラタナ(Ischaenum ciriare)はプロジェクトサイトの草地内で多く見られる。葡伏茎タイプであり、湿潤な土壌を好む。牛糞のある所では牛糞の肥料分及び牛が牛糞の臭いを嫌って食べないために草丈もやや高くなるが、肥料分の少ない所では地面を這うようにして成長する。牛の嗜好性は悪くはないが、生産性は低い。また、乾燥した条件を嫌うため、干ばつ時にはに生育が停滞し、枯れあがることもある。

パンゴラ ポブレ(Pangola pobre)は、比較的乾燥した痩せた土壌に多く生える。全てのモデル農家で見られ、特にTrillo牧場、Jiménez牧場の自然草地の中にはではほとんどパンゴラポブレに占められた所もある。

カイージョ(Caillo)もHernández牧場で多く見られる。乾燥条件を好む。生産性は低い。

(b) マメ科自然牧草

未改良のマメ科牧草としては、Desmodium(Desmodium ovalifolium)、Calopogonium(Calopogonium muconoides)、Stylo(Stylosanthesguianensis)、Centrocema(Centrocema pubescens)等がある。いずれも自生している。

なおパナマ大学トクメン試験場の用地には熱帯クズ(Puerariaphaseoloides)の自生が見られるが、現状ではこれの栽培利用は見られない。

(c) 雑草

草地管理上問題となる雑草としては、イネ科、カヤツリグサ科、キク科、ナス科、マメ科、トウダイグサ科、ヒルガオ科等多種にわたる。また自然牧草も、改良牧草導入後はできるだけ排除したい植物であり、この点では雑草と変わりはない。

雑草であってもそれが若い時期には牛も食べるものが少なくない。しかし、そのようなものであっても、生育が進むと急激に家畜の嗜好性は低下する。また、導入した牧草の生育を妨げ、牧草生産を阻害するものが少なくない。中には有毒なものもある。


写真(クリックすると別画面にて表示されます)
キク科の雑草が侵入した草地
雑草が多い状況
(全部の草地がこのように雑草だらけというわけではない。)
   

モデル農家及びプロジェクトサイトにおける雑草、自然牧草の状況は次のとおりである。

Vargas牧場

牧草導入前の前植生はPangola de pobreが最も多く、次いでCailloであった。

アリシアほ場(2000年造成)では、2001年(造成翌年)に多くの広葉雑草が発生した。除草剤により抑圧した結果、その後の雑草発生は少ない。

スワシほ場(プロジェクト開始時点で既に改良済み)では、スワシがアリシアよりも雑草との競合力が弱いことや、やや強放牧気味のことから牧草の勢いが弱く、結果として各種イネ科及び広葉雑草がかなり侵入している。

2002年に購入し、トウモロコシ及びブリサンタを播種した所ではキク科の雑草が多く発生している。

Trillo牧場

2000年にタネルを植え付けたほ場は、2000年の雨季後半には見事なタネル草地になったが、2001年、2002年の寡雨及び強放牧のためにタネルが衰退した。一部に牧草であるスワシが侵入しているが多くは自然牧草であるPangola de pobreや多種の雑草が優占している。

アリシア草地には雑草の侵入は少ないが、傾斜地となっている自然草地はほとんどがPangola de pobreに占められている。

Deago牧場

前植生の主たるものはPangola de pobreである。放牧地はプロジェクト期間中にほとんど牧草導入がなされたが、一方で導入した牧草の中に雑草がかなり発生している。ブリサンタ・デクンベン導入草地にはこれら牧草の株間はPangola de pobre等の自然牧草や雑草で占められている。また葡伏茎牧草を導入した所でも特にスワシほ場ではキク科の雑草をはじめとする広葉雑草が多い。奥の放牧地の周囲等でふだん手入れが行き届かない所には広葉雑草が多い所がある。

Bravo牧場

前植生の主たるものはCailloである。牧草導入した草地では、ブリサンタが密に生え、かつ生育が旺盛な所では雑草は少ないが、ブリサンタの株間が空いている所では各種雑草(イネ科、マメ科等)がかなり侵入している。従前野草地で、2002年に牧草(ブリサンタ)を導入したところでは、牧草の定着が良くなく、一部を除いてほぼ自然牧草及び雑草に覆われてしまった。

また、2000年に牧草導入したほ場で、当初はイネ科雑草がかなり繁った所があったが、現在ではかなり減少してきている。

Hernández牧場

前植生の主たるものはCailloであり、次いでPangola de pobreである。牧草導入したほ場ではこれら前植生はかなり抑制されたが、牧草地として利用していく中で次第に雑草が増えてきたほ場もある。

また雑草ではないが、部分的に雑潅木が多いところがあり、刈り取り等を行ってはいるが再生力が強い。除草剤(Tordon)による処理を試みたが、なかなか絶やしづらい状況にある。

Jiménez牧場

自宅近くの放牧地は牧草導入が行われておらず、Pangola de pobre及びCailloが優先した自然草地となっている。飛び地の改良草地も前植生はこれと同様であると思われるが、造成当初は大型のイネ科雑草がかなり再生してきた。その後の管理によりこの雑草はかなり減少してきている。広葉雑草についても除草剤のTordonによる除草処理によりかなり少なくなってきている。

プロジェクトサイト

牧草導入を行ったが、前植生であるイネ科自然牧草のラタナが優先している所が多い。またイネ科、カヤツリグサ科の他、ナス科、マメ科、トウダイグサ科等の広葉雑草もかなり見られる。

b.飼料木

パナマにおいて飼料木として用いることが適当と思われるものはレウカエナ(ギンネム:Leucaena leucocephala)及びバロ(Balo:Gliricidiasepium)である。いずれもマメ科の木本植物である。

レウカエナには樹形の異なるいくつかのタイプがあり、地際から枝が分枝するタイプのものが飼料木として適している。一方庇陰樹として用いる場合は主幹があり、比較的上部で枝分かれするタイプを用いるのが良い。

バロは樹形の異なるタイプは無いが、飼料木として用いる場合は比較的低い位置から枝分かれさせるのがよい。(庇陰樹とする場合は、より高い位置で枝分かれさせる)

放牧地に飼料木を導入する場合の利点には次のことがあげられる

一方で問題点としては、次のことがあげられる。

上記の利点、問題点を考え併せて導入の可否を決めるのが良い。プロジェクトとしては、最終年次にプロジェクトサイトにBaloを植栽したが、活着不良であった。Deago牧場、Hernández牧場ではLeucaena(ギンネム)の種子を播種し、現在育成中である。

表1−5.パナマで庇陰樹、飼料木として利用されている樹種

c.庇陰樹

既存の放牧地で庇陰樹として機能している樹木の多くは人為的に植栽されたというよりも以前から生えていたものであり、これを庇陰樹として利用するために残しておいたものである。このため樹種は多様である。どのような樹種が庇陰樹としてできるか調査した結果は別表に示すとおりであり、多くの樹種が利用可能である。

なお、草地内の樹木は家畜のための庇陰樹としての機能に加えて、草地内の草(牧草、野草)の生育にも影響を及ぼす。ちなみに冨永氏によるボリビアでの調査によれば、樹冠面積が草地全体の20%程度とするのが草生産量に対して最適であるとのことである。

ここにいくつかの樹種の特性を示す。

(マンゴー)

果物として利用されている種類である。パナマでは果樹として栽培されている以外にもいわゆる雑木として多く生えている樹種でもある。果樹としては果物の品質、生産量等について選抜、改良された品種・系統を用いるが、単に庇陰樹として用いる場合はこのようなことに配慮する必要はない。

葉が厚く、かつ枝には多くの葉が重なって付くため、暗い日陰を作る。このため樹下は明るい日陰を作る樹種よりも涼しい。常緑樹であり、乾季にも葉を落とすことはないので、乾季においても庇陰樹としての機能を有する。生育するに従い樹冠が大きくなり、樹冠内では一日中暗い日陰となるために牧草は生育なくなる。

果実は雨季の前半に熟するが、熟して落下した果実は牛が好んで食べる。なお、樹葉も牛が好んで食べるため、若木の時は牛に食べられないように保護する必要がある。成木になった時点では葉の多くが牛の口の届かないところに茂る。乾季においては必要に応じて枝を切り落とし、葉を牛に食べさせることもできる。

挿し木では活着しない。一般には自然に生えている若木を移植するか、苗木を購入して植え付ける。

(Nin)

生育が早い常緑樹であり、できるだけ早く庇陰樹が必要である場合に利用する樹種である。牛はこの葉を食べない。このため、若木の時も牛がこれを食べないように保護する必要性は少ない。しかし非常時における飼料木としての機能は無い。

種子により繁殖する。種子を採取して、これを播種して育苗するか、あるいは既存のNinの近くに生えている幼苗を取ってきて植え付ける。

(レウカエナ)

マメ科の樹木である。日本の沖縄にある系統と違い、通常の樹木のような形態となる。葉が薄く、加えて比較的まばらであり、下から見上げた時の葉の重なりが少ないため、明るい日陰となる。このため樹下はマンゴー程には涼しくはないが、直射日光下に比べればかなり涼しい。明るい日陰であるために樹下でも牧草の生育は可能である。根粒菌との共生による窒素固定も期待できる。また枝を切り落として牛に葉を食べさせることにより飼料木として用いることもできる。

種子繁殖であり、採取した種子を播種するか、あるいは別途育苗したものを植え付ける。

(Balo)

マメ科の樹木。牧柵用としても多く用いられている。牧柵用樹木兼庇陰樹とすることが多い。即ち牧柵用樹木として利用しつつ、そこにできた日陰を牛の休息場とする。樹木としてはあまり大きくはならない。

増殖は主に挿し木による。

表1−5.パナマで庇陰樹、飼料木として利用されている樹種〜飼料木

(4)土壌分析

プロジェクトサイト及びモデル農家の草地土壌の分析を行った。結果は表1−6のとおりである。

土壌pH値は5.6〜5.8程度の値を示すものが多く、土壌は酸性ないし微酸性である。日本の草地土壌においてはpHは6.5程度に矯正することを目標としている。しかし、暖地型牧草の多くが寒地型牧草に比較して酸性土壌に対する適応性を有していることも配慮する必要がある。当地においてこの程度の土壌pHの場合酸度矯正を行う必要があるのかどうか、また必要がある場合には土壌pHをどの程度まで改善すべきかについては、別途当地の試験研究機関等で調査を行う必要がある。

調査した多くのほ場では、カリウム、カルシウム、マグネシウムに富んでいる。一部を除き鉄、銅、マンガンも中〜高と評価される。亜鉛については、含有率が低いと評価される土壌もあるが、今のところ牧草及び家畜において不足している状況は見られない。

表1−6.土壌分析結果


(5)飼料分析

プロジェクトサイト及びモデル農家の牧草(生草)及び生産した飼料作物の成分分析を行った。分析はパナマ大学農牧学部の分析施設に依頼した。結果は表1−7のとおりである。

乾物中TDN含有率は牧草(生草)が60%弱、乾草が50%前後、トウモロコシサイレージが60%前後であることがわかった。

これを日本における分析データ(日本標準飼料成分表:1995年版)と比較した。生牧草及び乾草は左記成分表のバーミューダグラスの値と比較してやや低い値ながらも大差ない程度、トウモロコシサイレージは成分表の西日本における黄熟期の値よりもやや低い値であることがわかった。

なお、別表には各草種の値を掲載しているが、調査点数が少ないためにこの値により草種間の栄養面での優劣を比較することはできない。草種間の優劣を比較するためには、今後より多くの分析を行い、統計処理により正確な比較ができるようにすることが必要である。

また、現在パナマでは栄養成分の消化試験(in vitro)により栄養価(TDN、DCP)を求めることは行っておらず、粗蛋白及び粗繊維含有率から推計する方法をとっている(各草種毎に推計式がある)。しかし、この方法では推計式が無いものは栄養価の推定はできない。今後はパナマにおいてもin vitroでの消化試験を行い、これにより飼料の栄養価を行うことができるようになるとともに、より簡易に栄養価を推計できるような近赤外線による栄養価分析手法が行われるようになることが望ましい。更に将来においては日本においてあるような「飼料成分表」を作成できるようになることが望ましい。「飼料成分表」の作成には極めて多くの飼料を分析し、そのデータを解析する必要があり、経費、労力がかかる。このため、このようなことはパナマだけで行うのではなく、栽培する牧草や飼料作物の種類、及び栽培条件の近似した中南米各国が連携して行うことが望ましい。

表1−7.飼料分析結果


2.飼料生産技術の改善

(1)牧草管理技術の改善

a.草地の現況(プロジェクト開始時)

プロジェクト開始時においては、一部に草地改良、牧草導入が行われていたのみで、ほとんどが自然牧草(Caillo、Pangola de pobre、Faragua等)が優先する自然草地(日本での一般的な言い方では「野草地」に近い)であった。

施肥等の草生産向上のためのことは行われておらず、草生産性は低い状況であった。

b.排水不良対策

(a) 排水の状況

排水が問題になるのはプロジェクトサイト及びTrillo牧場の草地である。

プロジェクトサイトの草地の大部分は、プロジェクト実施前はパナマ大学トクメン試験場において水田として利用していたこともあり、平坦かつ土壌は粘土質で透水性が悪く、降水量の多い時には水田状態を呈していた。

またTrillo牧場の草地では地下水が浸みだし、これが地表を流れ、隣接する他の牧場の草地に流れ去っている。そしてこれに連なっている低平部は湿潤状態ないし冠水状態となっている。ただし、プロジェクト4年目及び5年目は旱魃状態であったため、ここも比較的乾燥していた。

他のモデル農家の草地では排水不良が問題になるところはDeago牧場で局所的にあるのみで他には無かった。

(b) 排水対策の考え方

排水が問題となる2か所(プロジェクトサイトとTrillo牧場)のうち、Trillo牧場では多額の経費を要することから排水改善は行わず、湿地ないし湛水状態でも栽培ができる牧草(タネル)を栽培することで対応することした。

プロジェクトサイトではほ場周囲に基幹排水路を設置した(次項参照)。また、の草地のうちA区の一部において試験的に暗渠排水施設を整備した。

(c) 基幹排水路

プロジェクトサイトでは排水改善を行うこととし、1999年(プロジェクトの2年目)にモデルインフラ事業としてほ場周囲に排水路を掘削した。

しかし、A区奥の草地内道路周辺はまだ排水が悪い。それはここには排水路が掘られなかったためである。このため、今後はA区奥の草地内道路の両脇にモデルインフラ事業で掘削したものよりも小さいものでも良いが排水路を掘り、既設排水路に接続するようにする必要がある。またA区手前側道路脇の既設排水路も、暗渠排水施工時に埋まってしまったため、これも再度掘削し、排水路としての機能を果たすようにすることが望ましい。

また、既に設置した排水路の適切な管理も重要である。排水路内には次第に草(雑草、牧草)が生えて水の流れを阻害する。このため、年に1〜2回は刈り取りあるいは除草剤により排水路内の雑草を取り除き、水の流れを良くする必要がある。

また、排水路には草地内からの水と共に土も流入し、次第に底が浅くなってくる。このため泥のたまり具合にもよるが、毎年あるいは数年に一度は排水路底にたまった土を取り除き、元の深さにまでなるようにする必要がある。

(d) 暗渠排水

2000年の飼料生産関係の短期専門家である野崎氏の提案により、翌2001年にはプロジェクトサイトの草地の一部(A区No.18〜28)に暗渠排水を設けた。暗渠排水はほ場内にほぼ10m間隔で深さ約1mの溝を掘った。この溝は暗渠排水の水の出口に向かって緩やかに傾斜するようにした。この溝の中に籾殻を敷き、ススキに似てさらに大型の草(Saccharum spontaneum:野生サトウキビ、パナマ運河建設の際に斜面の崩壊防止のために東南アジアから導入された植物)を刈り取り、これを束ねたものをその中に置き、その脇及び上部にまで籾殻を被せ、更に土を被せた。暗渠排水の所に水が集まるように、草地面は並行して設置した暗渠排水の間の部分をやや高く、暗渠排水を設置したところをやや低くし、地表水が暗渠排水の所に集まるようにした。なお、雨季には土壌が軟弱状態となり工事は行えないため、乾季に施工した。

暗渠排水を敷設したほ場は従前に比べて一時的に水はけは良くなったが、効果は長続きしなかった。これには次の理由が考えられる。

このように効果が十分ではなく、加えて手間及び経費がかさむことから、当地ではこの方法による排水対策は不適ではないかと思われた。


写真(クリックすると別画面にて表示されます)
排水不良(トクメン:元々は水田だったところ)
トクメンの排水不良ほ場に暗渠排水を試験的に敷設

(e) その他ほ場内排水

また、草地土壌は放牧利用により牛に踏み固められ、地表面はわずかながら造成時よりも低くなる。しかし牧柵(電気牧柵を含む)のある所は牛に踏みつけられないため、地表面はほぼ草地造成時の高さを保っている。これが草地(牧区)を囲む堤防のようになって草地面からの水の流出を妨げているところがある。

このため、今後は草地面に小排水路(明渠)を掘り、牧区周囲(牧柵のところ)のやや高くなったところを貫くようにして既にほ場周囲に設置した排水路に通じるようにし、これを通じてほ場内の余剰水を除去することが望ましい。

またこのようなほ場内小排水路は牛に踏みつけられて側面が崩れたり、牧草がこの中に生えたりして次第に排水機能が低下してくる。このため、数年に1回は底浚えすることが必要であり、その旨指導した。

c.草地改良(牧草導入)方法

牧草を導入して草地を改良する方法としては、日本では主に耕起法が用いられる。一方でパナマでは種子繁殖の牧草(ブリサンタ、デクンベン)の場合、除草剤で前植生を枯らしてから播種する方法が一般的であり、耕起法はあまり行われない。これは耕起法の方がより多くの経費がかかるためである。一方アリシア、スワシ等の栄養茎繁殖の牧草の場合は耕起した後で牧草茎葉をばらまき、これをデスクハローで鋤き込む方法が多く用いられる。以下、これらの方法及び特徴等を記する。

(a) 除草剤で前植生を枯らして播種する方法

当地で一般的に行われている不耕起造成法であり、当地では「Cero labranza(耕さない方法)」と呼ばれている。これはブリサンタ、デクンベン草地を造成する際に用いられる方法である。

既存植生(自然牧草等)を枯らすために除草剤を撒布する。一般には背負い式の薬剤散布機を用いる。

除草剤としてはグリホサート剤を用いる。グリホサートは植物の緑色を呈している茎葉にかかるとそこから吸収され、植物体全体を枯らす。残留性は無く、土壌中では微生物の働きにより速やかに分解される。

グリホサート剤としては従来モンサント社のRound-upしかなかった。しかし1991年にはグリホサートの特許は各国で有効期限が切れ、米国でも2000年には有効期限が切れ、他社からもグリホサート製剤が発売されるようになった。なお、グリホサート系除草剤とこれ以外の除草剤では残留性が異なり、グリホサート系除草剤は処理後植物に吸収されなかったものは雨水により土壌に達し、分解されるため、早期に除草能力が失われる。このため、除草剤処理後速やかに播種して差し支えない。しかし、これ以外の除草剤の場合は、残留性があるものもあり、処理後に除草剤としての効力が無くなるまで待たなければ播種することはできない。このようなことから当地では除草剤処理を行った3週間後に播種を行うとしている。

播種は主に人力の播種機を用いる。「人力播種機」の種子をばらまく仕組みは、回転板式ブロードキャスターと同じであり、手回しハンドルを駆動力とする。播種する種子は肥料と混ぜ、人力散布機の上部に付いている袋又はバケツ状の容器に入れ、ほ場内で撒布する。

この方法最も経費がかからない方法ではあり、このためにパナマにおける牧草導入の方法として最も一般的なやり方ではあるが、発芽率は耕起法に比べてかなり低く、かつ不安定である。即ち、播種した種子は地表にあり、覆土されない。このため、播種後に晴天が続いた場合にはなかなか発芽しない。特に発芽してまだ根が十分に張らない段階で晴天が続くようなことがあると牧草の多くは枯死する。また強い降雨があった場合には表流水により種子が流されることがある。

また同じほ場内でも比較的良く生えている所と、あまり生えていないところができがちである。

このようなことから、播種当年は発芽した牧草個体が開花、結実して種子を落とすまで放牧利用しないことが多い。落下種子の発芽により牧草個体の増を図ろうとするものである。しかし、その時点では雑草もかなり生えてきており、結実して落ちた種子が確実に発芽するとは限らない。このためこのような方法をとるにも関わらず、当所牧草が生えなかった所には結果としてその後に生えてきた雑草や自然牧草に占められてしまうことが多い。

このような問題に対応するために、種子により増殖する牧草を導入する場合にも同時に葡伏茎タイプの牧草を植え付けたり、あるいは牧草が生えなかったところに葡伏茎タイプの牧草を植える方法があることもカウンターパートに指導した。しかし現実には手間の問題等もあり実施されなかった。

(b) 耕起して播種する方法

これは日本でも一般的に行われている方法であるが、当地では上記の除草剤利用による不耕起法が一般的であり、この方法はほとんど行われていない。

(c) 牧草茎葉を鍬き込む方法

葡伏茎タイプの牧草(アリシア、スワシ、タネル等)の牧草導入方法である。これら牧草の導入方法として一般的に行われる。

耕起したこれら牧草を刈り取ってきてほ場面にばらまき、デスクハローで軽く耕して覆土する方法と、浅めで幅広の溝を掘り、ここに牧草の茎と肥料(主に堆肥)を入れ、覆土する方法がある。後者の方が活着当初の生育は良いが、ほ場面に凹凸ができるという問題がある。放牧地では問題はないが、採草地を造成する場合は前者の方法の方がよい。

2000年にプロジェクトサイトにおいて造成したスワシ草地(採草用)はパナマ側の主張により後者の方法を用いたが、ほ場面の凹凸のため牧草収穫作業(刈り取り、梱包)の効率的な作業に影響している。

(d) 牧草茎葉を植え付ける方法−イネ科牧草の場合

当地では主に葡伏茎タイプの牧草の牧草導入方法として用いられている。手間がかかるために大規模面積の牧草導入には向かない。他の方法で牧草導入したが、部分的に牧草の無い部分ができた場合の補植等に際して用いられることが多い。

当地で行われている方法としては、牧草を刈り取ってきて、数本の茎葉を折り曲げ、束ねるようにする。これを先端を尖らせた棒であけた穴に差し込んだ後、靴で踏みつけ牧草の茎と土とが密着するようにする。

この方法のバリエーションとして次の2つをパナマ側に指導した。ただしいずれの方法もその後パナマ側で自主的に行われることはなかった。

1番目の方法は、穴を穿つ代わりにスコップを土に差し込み、できた隙間に牧草の茎を差し入れ、靴でふみつける方法である。棒で穴を穿つ方法はかなり力を要し、かつ浅い穴しかあけることはできない。通常行われている方法は牧草の茎葉を折り曲げ、束ねるようにするために土との密着が良くない。スコップを差し込んだときにできた隙間は、長い茎葉をそのまま差し込むことができ、土壌との密着性が良く、定着率が高いことが期待された。

2番目に、牧草の茎を牛糞に差し込む方法である。これは日本の農林水産省草地試験場(現、独立行政法人農業技術研究機構畜産草地研究所草地研究センター)の佐々木寛幸氏が開発した技術である。当地でいくつかの草種を用いて試みたが、葡伏茎タイプの牧草(アリシア、スワシ)では比較的活着は良かったが、株立ちタイプの牧草(ブリサンタ、デクンベン)では活着は良くなかった。ブリサンタ、デクンベンにおいてはなぜ活着が悪いのかは良くわからない。これは当面、アリシア、スワシに適応できる技術であろうと思われる。

この技術は牧草を刈り取る道具(マチェテ等)と、棒等の柔らかい牛糞に牧草の茎を差し込むための穴をあける道具さえあればできる。なお潅水のために使う導水チューブの使い古したもの等を適宜切り、先端を加工したものはこれに用いるのに適した道具となる。

牛は牛糞の臭いを嫌うため、植え付けた牧草は牛に食べられることはない。このため粗放的な放牧方法で、ある牧区に長期間牛が滞牧するような条件でも牧草を導入することが可能である(牛糞の無い所に植え付けた場合は牛に食べられてしまう危険性があるため)。ただし、牧草を植え付けたい所に必ずしも牛糞があるわけではないため、時間をかけてゆっくりと牧草地化していく場合に適用される方法である。

(e) 牧草茎葉を植え付ける方法−マニフォラヘロの場合

マメ科牧草のマニフォラヘロを植え付ける場合も、これが栄養茎繁殖であるために、茎を刈り取ってきて植え付ける方法となる。カウンターパートが従来から行ってきた方法は、育苗ポット(黒い合成樹脂製)で育苗し、活着したものを植え付けるものであるが、これに加えて刈り取ってきたマニフォラヘロの茎を直接植え付ける方法についても指導した。方法としては前項のイネ科牧草の栄養繁殖においてスコップを土に差し込み、これによりできた隙間に牧草の茎を差し込む方法と全く同じである。

(f) サイレージ用トウモロコシ栽培や青刈り作物栽培と組み合わせた牧草導入方法

パナマでは牧草導入後まだ牧草が大きく育っていない状況の所でトウモロコシを栽培するという方法がある。トウモロコシが育っている間、その根本で牧草が併行して育つもので、トウモロコシ収穫後はそのまま草地として利用する。

この方法はDeago牧場(2000年:ブリサンタ草地造成時)、Bravo牧場(2002年:アリシア草地造成時)において行った。

この方法からヒントを得て、乾季に青刈り作物として栽培するソルゴーの根元に葡伏茎タイプの牧草を植え付ける方法を提案した(Trillo牧場及びプロジェクトサイトでのソルゴー栽培において)。一般にソルゴー栽培時には潅漑を行う。そのため乾季の間も牧草は定着、伸張できる。株立ちするタイプの牧草と違い、牧草が伸びてもソルゴーの収穫に支障になることはない。しかし提案にとどまり、実行には至らなかった。

また、Hernández牧場ではトウモロコシ栽培は専用ほ場を用いており、ここはトウモロコシ栽培時以外は使われていない。ここに同様な方法で牧草を導入し、トウモロコシ栽培時以外は牧草放牧地として利用することを提案したが、手間等の問題から実現することはできなかった。

d.導入した牧草の種類

(a) イネ科牧草

当地で改良牧草(Pasto mejorado)とされ、プロジェクトで導入した牧草はブリサンタ、デクンベン、タネル、スワシ、アリシア、エストレージャである。(各草種の特徴等については、「1.現状調査 (2)利用されている改良草種の調査」の項参照)

ギネア(ギニアグラス)については、牧草の品質等はプロジェクトで導入した各草種よりも良いとされ、乳牛においてより高泌乳を求める段階では導入が望ましいとされる草種である。しかし、より肥沃な土壌と十分な降雨、そして適切な肥培管理が必要とされ、モデル農家の多くは降雨がこの牧草の栽培にはじゅうぶんではなく、また比較的降雨が多いモデル農家では栽培技術面での心配から、現段階ではモデル農家への導入は不適切と判断した。そのため2001年にサイトに試験的に導入しようとしたが、播種後の降雨が不安定であったために発芽・定着しなかった。なお、見本園では2品種を播種し、現在も展示栽培を行っている。2002年には再度播種しようとしたが、種子の入手ができず、結局プロジェクトとして実用ほ場で栽培することはできなかった。


写真(クリックすると別画面にて表示されます)
ブリサンタ(Brachiaria brizantha)
デクンベン(Brachiaria decumbens)
タネル(Brachiaria rugulosa radicans :湛水条件でも生育する)
植え付け直後
定着したもの
スワシ(Digitaria swazilandensis)
 
バーミューダグラスCynodon dactylon:系統名 アリシア)
 

(b) マメ科牧草

マメ科牧草としてManí forrajero(Arachis Pintoi)を導入した。導入したのはプロジェクトサイトのほ場の他に、Deago牧場、Hern&aacyte;ndez牧場、Bravo牧場であるが、いずれもイネ科牧草に混在させた。ただしいずれも植え付けたのは試験的に少数行ったのみであり、本格的な栽培利用には至らなかった。これは植え付けようの苗の確保ができなかったことに加え、植え付けに多大の労力を要すること、更には植え付けできる条件が限られること等による。

イネ科牧草と混在させる場合、同伴させるイネ科牧草としては葡伏茎タイプの種類は不適である。即ち葡伏茎タイプのイネ科牧草はManí forrajeroの上を覆ってしまい、Maní forrajeroは生存できない。このため当プロジェクトで導入したイネ科牧草の中では、ブリサンタ及びデクンベンが同伴イネ科牧草として適しているが、これらについても草生密度が高い場合はManí forrajeroが生息できる余地がない。ある程度イネ科牧草の叢生密度が低い条件でのみ同伴が可能である。

Vargas牧場においてManí forrajero単播草地の造成を計画したが、プロジェクト期間中にほ場の確保ができなかったこと等により取りやめとなった。


写真(クリックすると別画面にて表示されます)
マニフォラヘロ(Arachis pintoi)

e.各モデル農家及びプロジェクトサイトの牧草導入状況

(a) Vargas牧場

Vargas牧場ではプロジェクト開始時点で既に放牧地の過半(4ha中2.5ha)を牧草地(スワシ草地)として利用していた。プロジェクト期間中に自然草地に牧草(アリシア)を導入した。またプロジェクト最終年に残された自然草地の多く及び新たに購入した土地に牧草(デクンベン)を導入した。

(b) Trillo牧場

プロジェクト当所はほ場のほとんどは自然草地で、ごく一部に牧草がある状態であった。プロジェクト期間中に牧草を導入した。Trillo牧場の草地はおおきく傾斜地、平坦地、低平地であり、平坦地にはアリシア、低平地は湿地で、降雨時には冠水することもあるため、このような条件にも適したタネルを導入した。傾斜地には乾燥条件にも比較的強いデクンベンを導入したが、導入した年(2001年)が干ばつであったため定着しなかった。また低平地に導入したタネルは干ばつ年に干ばつの被害を受けた。またTrillo牧場は飼養している牛の頭数に比較して放牧地面積が狭小であることから過放牧状態となり、牧草、特に湿地に適した草種であるタネルが衰退してしまった。

(c) Deago牧場

Deago牧場はプロジェクト開始時に既に放牧地の多く(27.0 ha中18.4ha)を草地改良していたが、プロジェクト期間中に草地改良に不適なごく一部を除いた自然草地のほとんどに牧草導入を行い、草地を改良した。草地の一部には試験的にマメ科牧草であるマニフォラヘロを植え付けた。

Deago牧場の草地は大きく、アリシア草地、スワシ草地及びデクンベン、ブリサンタ混在草地に分けられる。アリシア草地は放牧、採草兼用草地として用いている。

(d) Bravo牧場

プロジェクト開始時には放牧地の全て(27ha)が自然草地であったが、プロジェクト期間中に順次改良し、プロジェクト終了時には約1/2の13haを改良草地とした(一部:1.5haは青刈り作物用地とした)。牧草としてはここは比較的降雨が多いということから、ブリサンタを主体とし、これにデクンベンを配した混在草地とした。草地の一部には試験的にではあるがマニフォラヘロを植え付けた。なお、一部に放牧、採草兼用地としてアリシアを導入した。

(e) Hernández牧場

プロジェクト開始時には放牧地の全て(14ha)が自然草地であったが、プロジェクト終了時にはそのうち10haを改良草地にした。ここは降雨が比較的少ないので、乾燥条件にも比較的強いデクンベンを導入した。草地の一部には試験的にマニフォラヘロを植え付けた。

(f) Jiménez牧場

プロジェクト開始時には放牧地の全て(27ha)が自然草地であったが、プロジェクト終了時にはそのうち10haを改良草地にした。なお、Jiménez牧場の草地は自宅近く及び自宅から離れたところに分かれているが、このうち改良したのは自宅から離れた方(飛び地)であった。Jiménez氏の希望によりこのようなことになったが、今から思えば自宅近くの草地に牧草導入をすべきであったと思われる。即ち、自宅近くの草地の方が飛び地よりも集約的な管理・利用が可能なためである。

挿入草種は、ここがモデル農家の中では最も降雨が少ない条件にあることから、乾燥にも強いデクンベンとした。

(g) プロジェクトサイト

ほ場の多くが元々稲作ほ場であったため、排水が悪いところが多い。このため、比較的土壌水分が多いことを好むスワシを主体とし、特に排水が悪いほ場では、湿地、湛水条件にも適したタネルを導入した。なお、比較的乾燥する条件のところ(小高くなっているところ)にはプロジェクト当初エストレージャを導入した。

2001年に一部ほ場にブリサンタを導入したが、定着不十分であった。このためブリサンタと野草が生えている中に試みにアリシアを約2m程度の間隔で植え付けた。

なお、B区ほ場の一部に当初ギニアグラスを播種する予定があったが種子が確保できず、後に計画変更してブリサンタを播種することとした。しかし当方の指導にもかかわらず排水が悪い状況を改善することができなかったので、プロジェクト期間中に牧草を導入することはできなかった。

表2−1.導入、利用した牧草、飼料木、青刈り作物及びサイレージ用作物の種類
表2−2.草地等面積の推移
図2−1.自然草地及び改良草地面積の推移(モデル農家)

f.施肥

(a) 放牧地における施肥

改良草地においては、牧草の生育に必要な施肥を行うように指導した。しかし、これには経費がかかることもあり、モデル農家の中には十分な施肥を行わない所もあった。

また当地で一般的な肥料は尿素と配合肥料(草地用としては燐酸成分が多いもの(10-30-10等)が多い)である。農家は配合肥料は高価であるために、施肥を行う場合でも尿素のみを施用することがある。そうなると肥料成分の偏りから牧草の発育が十分に行われず、かつ病害虫にやられやすくなる。このため施肥3回のうち2回は尿素であっても1回は配合肥料を施用するように指導した。

プロジェクトサイトにおいても中途半端な時期、即ち放牧した後既にかなり牧草が生長した段階で施肥することもあった。この時期は既に牧草が旺盛に肥料を吸収できる時期を過ぎてそして放牧適期になっても「施肥した直後で、硝酸塩中毒になる危険性があるから放牧できない」とのことで、計画的な放牧の実施に支障をきたすこともあった。このようなこともあり、施肥は放牧直後に行うのが牧草の栄養生理の面からも好ましいことを指導した。

また、当地では降雨があった後に施肥する慣行がある。雨後に尿素を施用した場合、土壌表層の土中に含まれる水に尿素が溶け込む。そして地表近くのの尿素を濃く溶かした溶液の中で尿素がアンモニアに変化する。そしてかなりの量のアンモニアが空中に揮散することになる。当地では「尿素は効きが悪い」と言われているが、その原因は上記のメカニズムによるものと思われる。

このため、雨後よりは雨の前に尿素を撒布した方が良いことを指導した。しかし降雨を確実に予測することは困難である。比較的雨が続くような時、即ち施肥後にも降雨が見込まれる時に施肥を行うことが望ましく、その旨指導を行った。

(b) 青刈り作物及びサイレージ用作物に対する施肥

青刈り作物(ペニセトゥム、ソルゴー)及びサイレージ用作物(トウモロコシ等)についても葉色が淡く、施肥が十分でないことがうかがえることが多かった。これについても必要十分な施肥を行うよう指導した。これによりモデル農家によっては比較的十分に施肥することもあったが、一方でプロジェクト終了時まで施肥不足が改善されなかったところもあった。

g.家畜糞による堆肥の調製と利用

プロジェクトとしては牛糞の肥料としての有効活用を図るためにプロジェクトサイトにおいて堆肥舎を設置し、ここで堆肥として調製して利用することを行った。また堆肥を調製するようモデル農家を指導した。プロジェクト前半は堆肥調製に関しての知識が豊富であると言うことから、繁殖管理担当の長期専門家である橋本氏が主に指導した。橋本氏の指導によりプロジェクトサイトにおいては継続して堆肥調製を行うようになった。またモデル農家でもDeago牧場及びHernández牧場において堆肥調製を行った。

なお本格的に牛糞堆肥調製を行う場合の問題としては、モデル農家を含め、パナマでの牛飼養が放牧主体であり、舎飼いではないため牛糞が集まりにくいという問題がある。因みにプロジェクトサイトでは近くに豚舎があることから、主に豚糞を用いた堆肥調製を行った。

また、橋本氏の指導による方法は、週に1回の切り返しを行うという本格的かつ集約的な方法によるものであり、野菜栽培等にも使える良質な堆肥を調製するのには適している。しかし手間がかかることから実際に畜産農家が自家用に調製するには継続した実施は難しいのではないかと思われた。一方で、当地ではまだ野菜栽培農家等からの継続的な有機質肥料の需要はまだほとんど無い。牛飼養農家における牛糞の利用は、当面は自ら有する草地や飼料畑に限られる。このようなことから、放牧地に施用するには十分に腐熟している必要はなく、堆肥調製せずにそのまま施用しても良いことを知らせた。

当地の牛飼養は放牧主体とはいえ、毎日搾乳するために牛を集めるパドックに多くの牛糞が落とされる。雨季には牛糞と雨水が混じり、ドロドロの状態となる。しかしこの状態ではこれを集めることも容易ではない。しかし乾季になり、あるいは雨季の期間中でもしばらく雨が降らないこともあり、このような時には牛糞は乾いて取り扱いが容易になる。このような時に牛糞を集めてそのまま草地あるいは青刈りないしサイレージ用作物を栽培するほ場に施用することを指導した。

堆肥調製は肥料として有用なだけではない。プロジェクトサイトの搾乳舎周辺や、モデル農家のパドックにはかなりの牛糞がたまり、雨季にはどろどろの状態となり、家畜衛生の面でも問題がある。

特にパドックが牛糞で泥濘化していたVargas牧場、Trillo牧場、Bravo牧場に対しては糞を集めて放牧地や飼料畑に施用するように繰り返し指導したが、継続した実行には至らなかった。

h.潅水

(a) 水源及び潅水のための設備

潅水を行うためには水源(河川、井戸)及び潅水施設(ポンプ、配管等)が必要である。各モデル農家及びプロジェクトサイトの潅水施設の状況は表2−1のとおりである。

(b) 放牧地における潅水

通常放牧地においては潅水を行わないが、モデル農家のうちVargas牧場及びDeago牧場においては放牧地の一部において乾季に潅水を行い、飼料確保の一助とした。

なお、プロジェクトサイトにおいては牧草導入を行った所で、干ばつ気味のため牧草定着に懸念が見られたことから、ここにおいて潅水を行った。

潅漑はパナマにおいては、畑地等で行われているが、草地において潅水を行うことはまだ一般的ではない。草地への潅水はVargas牧場のように必要最小限に行うか、あるいは本格的に行うとすれば収益性が高い経営でなければ採算が合わないものと思われる。

(c) 乾季における青刈り作物への潅水

青刈り作物のうち、飼料用サトウキビは雨季に生育し、茎及び太い根の部分に水分・栄養分を蓄えて乾季を乗り切るという生態的特性を有しており、乾季に刈り取り利用した後は、当該乾季に再生した茎葉を利用することができない代わりに特段潅水を行う必要は無い。他方、ペニセトゥムやソルゴーは刈り取り利用後に新芽が伸びてくるが、これが十分に生長できるためには潅水が必要である。

Vargas牧場(ソルゴー)、Trillo牧場(ソルゴー:2002年)、Hernández牧場(ペニセトゥム)及びプロジェクトサイト(ソルゴー)において青刈り作物への潅水を行った。

i.飼料木の植栽

(a) 樹種

飼料木としては一般的にはレウカエナ(ギンネム:Leucaena leucocephala)及びバロ(Balo:Gliricidia sepium)が用いられる。いずれもマメ科である。

これ以外にもマンゴーやワシモのように熟して落ちた果実を牛が食べるようなものもある。また、通常飼料木として利用しない場合であっても葉を食することができる樹種である場合には非常時(乾季に飼料が欠乏した時等)に葉を飼料として給与することができる。

表1−5.パナマで庇陰樹、飼料木として利用されている樹種

(b) 導入方法と仕立て方

レウカエナは種子繁殖により増殖する。採取した種子を植栽したほ場に播種するか、あるいは別途ポットで育苗して植え付ける。またバロは挿し木により増殖する。長く伸びた枝を切り、枝葉を切り落として植え込むことにより新たな根と枝を出す。いずれも活着してある程度生長するまでは放牧を行わない。

パナマにおいてレウカエナ及びバロを飼料木として仕立てる一般的な方法は次のとおりである。草地内に列状あるいは格子状に植える。樹形は牛が葉を食しやすいように地際あるいは幹の低い所から多くの枝を分岐させるようにする。

なお、2002年に開催された家畜繁殖国際セミナーのためにパラグアイから来たOka氏によれば、パラグアイでは通常の樹木のように大きく仕立て、乾季に飼料が不足する時に樹に登り、枝を切り落として給与する方法が一般的であるとのことであった。

パナマおける飼料木利用方法は雨季に利用するための方法であり、パラグアイにおける方法は主に乾季における利用方法である。必要により使い分け、あるいは併用することが可能と見込まれる。

(c) 導入実績

モデル農家ではDeago牧場及びHernández牧場の一部ほ場においてプロジェクト最終年にレウカエナを播種した。プロジェクトサイトにおいても最終年においてバロを挿し木したが活着は良くなかった。なお、Deago牧場では既に子牛用パドックの庇陰樹としてレウカエナがあり、これは上記パラグアイ方式による飼料木としても利用可能と見込まれる。

j.庇陰樹の植栽

(a) 樹種

庇陰樹としては多くの樹種が利用できる(「1の(3)のb.飼料木」の項参照)。

新たに庇陰樹を植栽する場合は、各樹種の特質(樹冠の大きさ、成長速度、日陰の質(明るいか暗いか)、庇陰樹としての機能以外の特性・有用性、苗木等の入手が容易かどうか)等について考慮した上で決めることが重要である。

表1−5.パナマで庇陰樹、飼料木として利用されている樹種

(b) 導入方法

庇陰樹の導入方法としては、自然に生えてきた木を家畜に食べられたり踏みつけられたりしないように保護して生長を図る方法と、移植や挿し木を行う方法がある。

モデル農家の放牧地では、その中に既に樹木があり、庇陰樹としての機能を有している場合が多い。しかし一部の放牧地では庇陰樹として機能する樹木が無い、あるいは少ない場合もある。

(c) 庇陰樹の状況と導入実績

プロジェクトサイトの放牧地においては牧区内や、牧区の区切りの牧柵の所、あるいは牧区に沿った道路との境等に樹木があり、これが庇陰樹としても機能している。ほ場内にある樹木は一日中庇陰樹として利用できるが、牧区沿いにある樹木では時間帯によっては放牧地内に日陰ができない場合もある。また十分な庇陰樹が無い牧区も多い。

モデル農家においても多くの放牧地には庇陰樹として機能する樹木があるが、一部に庇陰樹が無い、あるいは少ない放牧地がある。

このようなことから2002年において、プロジェクトサイト及び一部モデル農家(Trillo牧場、Bravo牧場、Hernández牧場)の放牧地に庇陰樹の苗木を植えた。このほかDeago牧場ではプロジェクトの指導とは別に独自に一部放牧地に植栽した。

しかし、若木を放牧している家畜から保護する対策が十分でない場合が多かったこと等から活着しなかったものも多かった。

また、2002年に植樹したものは必要とする庇陰樹の数からすれば極めてわずかである。これは植樹の事例、手本として実施したものであり、今後は各モデル農家及びプロジェクトサイトではそれぞれにおいて植樹していくことが望ましく、その旨指導した。またその際には若木の間は家畜に食べられたり、あるいは押し倒されたりしないように保護することが必要であることを指導した。

k.雑草除去

(a) 雑草の状況及びこれまでの経緯

改良草地も牧草導入前は雑草あるいは自然牧草である(これらの区分については「1.現状調査 (2)利用されている改良草種及び未改良草種の調査」の項参照)。

牧草導入(草地改良)の際には除草剤処理で枯らされるか、あるいは耕起により埋められてしまう。しかし地表あるいは土中にある種子の発芽や生きて埋められた植物体にある再生力がある芽の伸張により、前植生である雑草・自然牧草が生えてくる。牧草の密度が高く、かつ生育が旺盛な場合は雑草等の発生を抑圧してしまうが、牧草の密度が低く、地表面の露出がある場合や、牧草の生育が遅い場合には雑草も抑圧されることなく生えてくる。

(b) 従前からの雑草除去法

従前からある伝統的な除草法は、マチェテで刈り取るものである。特に雨季の後半、雑草の多くが開花する時期において行われることが多い。因みに、道路脇の除草は2年に1回、雨季後半に行うのが一般的である。雑草の開花期に除草するのは理にかなっている。即ち、それ以前の栄養成長期では刈り取っても再生する力が強いが、生殖成長期に入ると刈り取られた後の再生力は鈍ってくるためである。また再生してきても次に開花するまでに乾季に入り、開花に至らないまま枯れてしまうことも期待される。しかし、この方法では、生長と共に次々に開花するような種類の植物の抑制には向かない。

除草剤については、選択性除草剤(広葉雑草を枯らす)として2.4-D、Tordonが、非選択性除草剤としてグリホサート剤が多く用いられている。選択性除草剤の中ではTordonの方が効果等の点で推奨されるが、高価であるため2.4-Dが使われることも多い。

除草剤の撒布方法としては、必要とされる範囲全面に撒布する方法が行われている。しかし除草剤による除草には経費がかかるため、除草すべき状況であっても放置されている場合も多い。そして雑草がはびこり、どうしようもなくなってから

雑草の発生がまだ少ない段階では人力による除去が効果的な場合もあるが、モデル農家において手作業で除草しているのを見たのはDeago牧場においてのみである。モデル農家における調査、指導時にIsrael Deago氏(弟)及び兄弟の父親が行っていた。


写真(クリックすると別画面にて表示されます)
雑草をマチェテで刈る
除草剤処理(画面右側)

(c) 雑草除去法の改善と実行

(牧草導入後の除草)

牧草導入後に雑草が出てきた場合には、まだ雑草は少ない段階で除草することが重要であることを指導した。しかし、当地の人達はこの段階では「まだ雑草が少ないので心配ない」との考えがちであり、このことから積極的に除草しようとはしない。

(既存草地における除草)

また、雨季末期に一斉に開花するタイプの雑草では開花時期(成長しきって、しかもまだ種子を落としていない)の除草が効果的であるが、一方で、生長に伴い次々に開花するタイプの雑草では早期の除草が重要であることも指導した。

(除草方法)

雑草が少ない段階では手による抜き取りが可能であり、除草剤を利用する場合でも全面処理よりもスポット処理で対応できることが多い。スポット処理法については従来パナマでは行われていない方法であったが、カウンターパートにやりかたを指導した。

またマチェテによる刈り取りでは残った根株から新芽が伸び、雑草を除去したことにはならない。刈り取りによる方法は、雨季の末期に一斉に開花するタイプの雑草を開花後結実前の時期に刈り取る場合を除き、雑草の一時的抑制には効果があるが、雑草を絶やすことはできない。必要により抜き取り、除草剤処理を効果的に組み合わせて除草することを指導した。

l.病害虫

(a) 牧草において発生した害虫

牧草では葉や新芽を食害するヨトウムシの類及び、茎から汁液を吸うSaliveroが発生した。前者は常時発生するのではなく、時折の発生である。またSaliveroはほぼ常在する害虫であるが、雨季であっても比較的雨が少ない状態で多く発生する。

放牧地においては殺虫剤の利用は好ましくないため、このような害虫が大量発生したような場合は、放牧利用した後で牧草を刈り取る等して害虫が栄養を摂取できにくいようにして抑制する方法がある。しかし対策をとらなければならないほどの大発生は見られず、害虫に対する措置をとることはなかった。


写真(クリックすると別画面にて表示されます)
牧草を食害する害虫−1

上記に食害された状況

牧草を食害する害虫−2(ヨトウムシの類か?)

汁液を吸うSalivero(Aenolania. Sp) の幼虫

Saliveroの幼虫が潜んでいる泡

(b) 牧草に発生した病害

2001年にDeago牧場の乾草収穫のために禁牧しておいたアリシア草地において病気が発生した。これは禁牧したのが早すぎ、まだ雨季が終わらない状態の中、伸びた状態で長期間置かれたために病気が発生したものである。いったん放牧利用し、地上部残存量を少なくし、風通しを良くして病気のそれ以上の蔓延を抑制することとした。

カウンターパート及び当該モデル農家に対しては、禁牧をあまり早く始めないように指導した。

同様な病気がDeago牧場のブリサンタにも発生した。特に伸びすぎて老化した茎に発生したが、発生数は極めて少なかった。これも株が老化し、古くなった茎がいつまでも残っている状態にあるためであろうと思われる。

また、スワシやアリシア草地で乾草調製を行うためには11月頃より放牧せず、牧草を伸ばしておくが、あまり早くから禁牧すると、まだ雨季が終わらないうちに牧草が長く伸びた状態になり、蒸れて病気が発生しやすくなる。2001年、Deago牧場のアリシア草地がこのような状態になった。この時は一度放牧して牧草を食べさせ、その後に伸びた草を利用して乾草調製を行った。

(c) 青刈り作物、サイレージ用作物に発生した害虫

Saliveroは牧草のみならずペニセトゥムにも発生する。特に刈り取り後に出てきた新芽の状態の所に発生が多いが、芽が伸長した段階では発生しにくいようである。このためペニセトゥムに対する被害は一時的であるように思われる。このため、特段対応策はとらなかった。

ソルゴー(青刈り用、サイレージ用)については生育期において葉を食害する害虫の被害があった。被害の程度が大きかった場合には殺虫剤の散布により対応するが、安易に殺虫剤使用を決めるのではなく、被害の程度を調べて殺虫剤による駆除の必要性を検討することを指導した。

m.放牧利用

パナマにおいては放牧地全体を大きく区切って用いる粗放的な放牧が一般的である。このため1牧区当たり滞牧日数は長い。入牧時には食草は十分にあるが次第に食べる草が無くなってくる。このため牛の栄養摂取量は変動が大きく、かつ平均すると低くなってしまう。

また、当地で栽培、利用されている牧草類(暖地型牧草)は、寒地型牧草に比べて蛋白質の消化率が低い。加えて生育ステージが進むに従い、更に消化率は低くなる。一方で牛は泌乳のためには多くの蛋白質を摂取する必要がある。このためにはできるだけ若い牧草を食べさせることが重要である。牛における蛋白質摂取を増やすことが重要であることは知られていながら、実際には草地の放牧利用サイクルが長く、次の放牧まで1ヶ月を超えることも少なくない。このようなことから放牧においてはできるだけ放牧利用サイクルを短くし、若い牧草を食べさせるように指導した。

また、いつも若い牧草を食べさせるためには、1牧区当たりの滞牧日数を短くし、若い草を食べきったらすぐに次の牧区に移動するようにしなければならない。このため集約的な放牧方式が必要であり、そのためにも牧区をより小さく区切る必要がある。

プロジェクトサイト及びDeago牧場では電気牧柵(次項参照)により牧区を小さく区切り、他のモデル農家よりもより集約的な放牧を行っている。

n.放牧施設(牧柵)

パナマで一般的に用いられている牧柵は、木の長く太い枝を埋め込み、これに有刺鉄線を張るというものである。埋め込まれた木の枝は根と芽を出し、それぞれ樹木として生長する。生きている木であるために腐ってしまうことはない。しかしこの方法では牧区を細かく区切るに際しては、多くの木の枝を確保し、これを埋め込む必要があり、多くの労力を要すると共に、有刺鉄線の購入費用等も含め、かなり経費がかさむ。

一方、パナマにおいても電気牧柵が普及し始めてきており、電気牧柵では立木と有刺鉄線による牧柵よりも比較的安価に牧柵を設置することができる。プロジェクトサイトにおいてはこのような集約的放牧の手本とすべく、プロジェクト前期において電気牧柵を導入した。モデル農家においてもDeago牧場で電気牧柵を導入した。


写真(クリックすると別画面にて表示されます)
Deago牧場の電牧施設
   

o.青刈り作物の栽培と利用

(a) ペニセトゥム

永年性の青刈り作物である。モデル農家ではHernández牧場がペニセトゥム栽培に最も力を入れ、ペニセトゥム栽培面積を拡張した。Deago牧場では次項の飼料用サトウキビを主体としつつも一部ペニセトゥムを導入した。Jiménez牧場ではプロジェクト後半になってからペニセトゥムを導入した。Bravo牧場もわずかにこれを栽培しているが、乾季における給与粗飼料必要量からすればわずかな量である。プロジェクトサイトにおいてもこれを導入した。従前からの「タイワン」と称する系統ではなく、より新しい系統を導入するよう指導した。

ペニセトゥムの類で茎葉の色が赤紫色をしている種類があり、これは「カメルーン」と呼ばれている。通常のペニセトゥムよりも小型である。プロジェクトサイトには当初カメルーンがあり、これを利用していたが、プロジェクト中期に、より収量の多いペニセトゥム(C-22)を植え、カメルーンは利用しないことにした。

ペニセトゥムの増殖は栄養繁殖により行う。雨季に刈り取った茎をほ場に掘った浅い溝に入れ、土を被せる。雨季半ばに植え付けたものは、約半年後の次の乾季には利用できるだけの大きさに育つ。

モデル農家及びプロジェクトサイトにおけるペニセトゥムの状況を見て先ず感じることは、肥料不足で葉が淡緑色をしていることが多いということである。施肥量を増やすように指導はしたが、経費がかかることでもありなかなか改善されなかった。

ペニセトゥムは刈り取り後約50日程度経過すると、再生した茎葉が次の利用に適した状態になる。これを過ぎると茎部割合が多くなり、かつその茎も固くなってしまう。雨季終盤の10月頃に刈り取り、施肥し、生育を図っておく。そうすると、乾期に入る頃に給与し始めるに丁度良い大きさに育つ。

乾季において収穫後更に再生利用を図るには、収穫後の施肥と潅水が必要である。

ペニセトゥム栽培を行っているモデル農家のうち、

Hernández牧場では他のモデル農家や近隣農家のみならず、遠くはVeraguas県、Panamá県、Colon県の農家の要望に応じて苗を提供した。

刈り取ったものをそのまま牛に与えても良いが、ピカドーラ等で細断することにより牛が食べやすくなり、採食率、採食量も増えることになる。

(b) 飼料用サトウキビ

乾季の飼料としてパナマで伝統的に用いられているのはサトウキビである。サトウキビはペニセトゥムと同じような永年性作物である。茎は太い。増殖は栄養繁殖による。即ち切り取った茎を土に挿す方法をとる。サトウキビの飼料としての利用は年1回、乾季に行うことになる。ペニセトゥムと異なり年間複数回の利用は行わない。これはサトウキビの生育特性に基づく。即ちサトウキビは雨季期間の生育は緩やかであり、雨季末期〜乾季の初めに成熟に達する。一方で乾季における乾燥に対する抵抗性は強い。このため乾季に潅水を行う必要はない。

現在工場で砂糖を生産する原料とするために栽培される品種は茎の糖分含量が多く、茎の繊維は固い。一方飼料用として用いられている系統は砂糖の含量が低いものもあるが、茎の繊維はこれ程強固には発達していない。しかし、繊維質の消化率はペニセトゥムよりも悪い。エネルギーは繊維質よりも多量に含まれる砂糖による。

パナマにおけるサトウキビの飼料としての利用は、刈り取り、細断してそのまま給与する方法と、刈り取り、細断したものに尿素と糖蜜を混合し、短期間保存たもの(当地ではサッチャリーナ(Saccharina)と称している)とがある。これは呼び方は国により異なるが、中南米で伝統的に行われているサトウキビの飼料利用方法である。

当プロジェクトでは、Deago牧場、Bravo牧場及びJiménez牧場においてサトウキビの栽培と給与を行った。

沖縄県におけるバガス(サトウキビ搾りかす)の飼料としての利用に関する調査研究において、バガスは消化しづらく、ここから得られるエネルギーと消化に要するエネルギーはほぼ同じか、あるいはエネルギー収支はマイナスになることもあること、及びバガスを多く給与した場合には固い繊維により牛の胃壁を痛めることが指摘された。当地において給与しているサトウキビについても、そこに含まれる繊維質に関しては同様な問題があるものと思われる。このようなことから、サトウキビは現在においても重要な乾季用飼料として位置付けられているが、当方個人としては、潅水ができる等の栽培・利用環境が整えばペニセトゥムに置き換えるのが好ましいと考える。カウンターパートにもサトウキビにおいて上記の問題点があることを指摘した。

(c) ソルゴー

前期ペニセトゥム及び飼料用サトウキビが永年性作物であるのに対し、ソルゴーは1年生作物として栽培、利用される。播種から初回刈り取り利用までは1ヶ月〜40日程度であるため、潅水が行えるならば雨季末期ないし乾季に入ってから播種しても乾季用青刈り作物として利用することができる。

栽培は施肥、耕起したほ場に種子を条播する。散播することもあるが収穫作業のしやすさからすれば条播の方が望ましい。

刈り取り利用後は、施肥と潅水が適切になされるならば1ヶ月程度で再度利用することができる。このため乾季の飼料が不足する期間に最大3〜4回は利用が可能である。

モデル農家で毎年ソルゴー栽培を行ってきたのはVargas牧場である。

ソルゴーは栽培期間が短いために、サイレージ調製量が見込み量を下回った等により乾季用飼料が不足することが見込まれた場合に急遽栽培されることもある。現に本来ソルゴー栽培計画の無かったTrillo牧場(2002、 2003)、Hernández牧場(2003)、Deago牧場(2003)でソルゴー栽培を行った。

p.サイレージ用作物の栽培

(a) トウモロコシ

サイレージ用作物として最も多く栽培されているのがトウモロコシである。サイレージ用トウモロコシの栽培は次の2つの方法があり、状況により使い分けた。

(b) グレーンソルガム

サイレージ用作物としてはDeago牧場(2001、2002)においてのみ栽培・利用した。Deago牧場でグレーンソルガムを栽培した最大の理由は、当地では大規模にトウモロコシを栽培した場合、実が熟した来た頃に盗まれる危険があるためである。加えて他のモデル農家はほ場は家に近いところにあるが、Deago兄弟の家はいずれも牧場とは離れたところにあり、トウモロコシの穂が盗難にあいやすいためである。

また、グレーンソルガムはトウモロコシよりも栽培期間が短い(短期間で生長、成熟する)ため、トウモロコシの播種適期を過ぎてから播種しても雨季期間中にに成熟することができる。天候の関係から適期にトウモロコシが播種できなかった場合の対応策の一つとしてこれを栽培・利用することもできる。

播種方法としては、条播とする。これ以外の栽培方法等はほぼトウモロコシに準ずる。

(c) ソルゴー

栽培方法は「o.青刈り作物の栽培と利用 (c) ソルゴー」の項参照。サイレージ用として収穫した後に再生、伸長した茎葉は青刈り用として利用できる。

サイレージ用としてはプロジェクトサイトにおいてのみ栽培・利用した。

(2)粗飼料貯蔵法

a.パナマの気象条件と乾季における飼料確保法

パナマの気候は、「1.現状調査 (1)自然条件 a.気温と降水量」に記載したように、大きく雨季と乾季に分かれる。乾季には放牧地の牧草は枯れ上がり(根及び地際の部分のみ生きている状態になる)、放牧地からの栄養摂取は大幅に低減する。このために何らかの別の手段により、飼料を供給する必要がある。

従前はわずかにトウモロコシ等の刈り跡放牧等により栄養供給を図ってきたが、これだけでは十分ではない。このため乾季が終わり、雨季に入ったがまだ牧草が十分に伸びていない頃(この頃が家畜の栄養不足が最悪の状態となる)には、牛はやせ細り、本来牛乳を生産すべき搾乳牛においても搾乳量は極端に落ち、ないしは泌乳を停止するにいたることもあった。

これに対応するためには、潅漑により乾季でも牧草や青刈り作物を生育させ、これを利用する方法と、乾草やサイレージを雨季の終わり頃ないし乾季の初期に調製しておき、これを家畜に給与する方法がある。

プロジェクトではサイレージを主体とし、これに青刈り作物の利用や乾草を組み合わせた。また一部農家では牧草放牧地の一部に乾季潅漑を行い、ここに牛を放牧した。

サイレージを主体とした理由は、サイレージ調製は経費はかかるものの大量の飼料を確保しやすいことである。必要な機械装備は最低限ピカドーラだけである。一方、乾草調製はヘイベーラーが必要であり、これは高価であるため農家が保有するのは困難である。このため乾草調製は業者に依頼することになるが、地域全体における調製能力は要望に十分応えられるものではなく、乾草調製を希望してもできないことも多い。また、青刈り作物栽培の場合は乾季には毎日ないし1日おきの刈り取りが必要になる。実際にはモデル農家の経営条件等を配慮しつつ、経営者とプロジェクト側が協議し、最終的な判断は経営者が行った。

青刈り作物等の栽培に関しては既に「(1)牧草管理技術の改善 o.青刈り作物の栽培と利用」で記述したので、この項では乾草とサイレージ調製及びサトウキビの飼料利用の一方法として中南米で行われている「サッチャリーナ(Sacharina)」について触れることとする。

なお、これらの他に乾季のための飼料確保法として農業副産物の利用があるが、これは別項でとりあげる。

b.サイレージの調製

(a) 経緯と概要

プロジェクトでは乾季用飼料の主体をサイレージとした(その理由等は「a.パナマの気象条件と乾季における飼料確保法」の項参照)。

サイレージ調製の主要なところは前任者の日田氏及び2001年度の短期専門家の野崎氏により指導が行われ、パナマ側における技術の向上が図られた。

サイレージの材料は、トウモロコシが主体であるが、この他に、Deago牧場ではグレインソルガム、プロジェクトサイトではソルゴー及び稲のサイレージ調製を行った。

サイレージ調製は雨季の末期(11月中旬〜12月)ないし乾季の初め(1月)に行う。この理由として、雨季においてサイレージ用作物を生育させる、気温が高く、サイレージが変質する危険性があるために、発酵してサイレージができてから長期に保存せず、できるだけ早く給与するということがあげられる。しかし、プロジェクトサイトにおいてソルゴーサイレージ及び稲サイレージを1年間保存したが、サイレージの品質は悪くなってはいなかった。保存条件さえ良ければ少なくとも1年程度の貯蔵は可能と考えられる。

(b) プロジェクトで用いたサイロの形式

サイロの形態は、当地特有のバンカーサイロが主体であったが、状況に応じて豚舎だった建物の側壁を利用したバンカーサイロ、段差のある地形を利用したトレンチサイロ、側壁に割った竹を用いた小型サイロ等も用いた。また合成樹脂製の袋を用いた袋詰めサイレージも調製した。

(c) バンカーサイロ

パナマでは多くのバンカーサイロは次の方法により造られる。

約4m(サイロの幅)の間隔をおいて、2列の杭を深く地面に埋め込む。これが側壁を支える支柱となる。杭の地上部の高さは1.5m程度としたものが多かった。杭と杭の感覚は1mないし1.2m程度とする。全長はサイレージの必要量により決める。大型のサイロの場合は長さも長くなるが、これとともに幅も広い傾向がある。

杭を打ち終わったら、その内側に荒い金網を張る。これでサイロの骨格部分はできあがりであり、長期にわたって使用することができる。杭が腐ったり、金網が錆びて耐久力が無くなった段階で作り直すことになる。

サイロ詰めを行う際には側面に黒色の合成樹脂シートを張る。この際に数十センチ程度サイロ内側地面に敷き込むようにし、この部分からの空気の進入を阻止する。また、このシートの上側の部分は詰め込み終了後に、折り込んで詰め込み材料を包み込むようにする。

底面にはシートを敷かないこともある。この場合は詰め込み材料が直接土に触れないように籾殻を敷く場合が多い。しかし、底面には合成樹脂シートを敷くことが望ましい。これは土壌の中にはサイレージ調製中にこれを腐敗、変質させてしまう微生物も多く含まれるため、調整するサイレージが土と接触するのを避けるためである。この場合、底に敷く合成樹脂シートは新しいものである必要はない。前年に使用した古いシート等を有効活用することが望ましい。


写真(クリックすると別画面にて表示されます)
サイロ(枠)
サイロ詰め
自動車による踏圧
詰め終えたサイロ

(d) その他のサイロ

Trillo牧場では、以前に豚舎として使っていた建物の側壁部分を利用してサイロとした。豚舎全体が3区画に分かれていたので、そのまま3区画のサイロとした。

側壁部分に、合成樹脂シートのうち側面にかかる部分を垂らしておく。サイロ上面を覆う部分は側壁の反対側に垂らしておく。サイレージ原料を詰め込んだ後、側壁の反対側に垂らしておいた部分を折り返してサイロ上面を覆うようにする。更にこれだけでは上面を全部覆うことができないので、もう一枚の合成樹脂シートで更に上面を覆う。

Bravo牧場では段差のある地形の段差部分を利用して小型のサイロを作った。段差となっている部分の高い方の段を掘り込み、サイロとなる部分を作る。ここの側面に合成樹脂シートを垂らし、サイレージ原料を詰め込む。最後に前面及び上面をシートで覆う。


写真(クリックすると別画面にて表示されます)
自然の地形を利用したサイロ
(Bravo牧場)
 

(e) ビニールバッグサイレージ

更にサイレージ調製規模が小さい場合、あるいは別途サイロを造ったが、その後に少ない量のサイレージ原料が確保できたような場合にこの方法を用いる。

市販の合成樹脂袋(大きいもの)にサイレージ原料を詰め込み、密封する。

この方法では中に詰めたサイレージ原料を緊密にし、サイレージ原料の中(茎葉の間)に含まれる空気を多く排出することは困難である。できるだけサイレージ原料を緊密にするために次の2つの方法がとられた。ただし、これらはいずれもまだ普及するには至っていない。

(f) 収穫・細断

収穫細断は次の2つの方法で行った。

モデル農家においては、多くは手刈り〜ピカドーラによる詰め込み方式によりサイロ詰めを行った。

一般農家での普及技術としてはこの方がより適している。コーンハーベスターは高価であり、小規模農家が容易に購入できるものではない。一方ピカドーラはコーンハーベスターよりも安価であり、またサイレージ調製の他にも青刈り飼料作物の細断にも用いることができ、より高度に活用できる。プロジェクトとしてはサイレージ調製及び青刈り飼料の細断のためにピカドーラを購入した。これらはモデル農家に貸与した他、プロジェクトサイトにおいても用いた。

Trillo牧場ではトウモロコシ栽培ほ場は借地で、数km離れた所にあったため、2の方法とした。なおコーンハーベスターは日本政府から無償供与され、パナマ大学アスエロ試験場(Estación Experimental de Azuero, Universidad dePanamá)に配備されているものを用いた。

プロジェクトサイトにおいても2の方法とした。使用した機器はプロジェクトにより導入されたコーンハーベスター及びクロップチョッパーである。プロジェクトサイトにおけるコーンハーベスター等による収穫方法は、より高能率作業体系の展示の意味で行ったものである。

なお、アスエロ地方の農作業請負業者の一部ではコーンハーベスターの配備を行っているところもあり、農家の依頼によりサイロ詰め作業を行っている例もある。

今後アスエロ地方等でサイレージ調製が普及するとなれば、現状の業者のサイレージ調製能力では農家の期待に十分に応えることはできない。今後乾季用飼料確保方法としてサイレージ調製が普及することが重要である。その場合に各農家あるいは農家グループがピカドーラを有してこれを用いる方法、あるいは農作業請負業者がコーンハーベスターをより多く保有して、請負作業を行う方法がある。今後はどちらの方法が主流になるかはわからない。どちらが主流になるかは農家の共同作業に対する考え方、農作業請負業者の対応、MIDAの振興施策のあり方等による。

(g) トウモロコシサイレージ

トウモロコシサイレージ調製では、「実付き(con mazolca)」とする場合及び「実無し(sin mazolca)」とする場合がある。実無しサイレージの場合は実付きのものよりも栄養価は低い。実無しトウモロコシのサイレージは、実を収穫した後の茎葉利用ということで、むしろ農場副産物利用としてとらえられるべきであろう。プロジェクトの中頃までは「実無し」トウモロコシのサイレージ調製も行われたが、後半では全て実付きトウモロコシのサイレージを調製した。

生産したトウモロコシサイレージの成分分析の結果、乾物中TDN含有率は60%前後であった。

(h) グレインソルガムサイレージ

Deago牧場ではグレインソルガム2001年よりグレインソルガムを主体に、トウモロコシを混ぜたサイレージを調製している。Deago牧場でグレインソルガムを主体とする理由は、Deago兄弟の家は牧場から離れた所にあり、搾乳及び牧場管理作業時以外は無人状態となる。トウモロコシの場合、成熟してきた時期に穂が盗まれる(無断で収穫されてしまう)危険性が大きいために、その心配の無いグレインソルガムにするとのことであった。

なお、グレインソルガムは生育期間がトウモロコシよりも短いため、適期にトウモロコシを播けなかった時に、その代わりに播くこともある。ただし、グレインソルガムは茎の繊維がトウモロコシよりも固く、ピカドーラの刃で切断しにくい。このため、サイレージ調製時にピカドーラに送り込む量はトウモロコシよりも少な目にする(少しずつ送り込む)ように留意する。一度に多くを送り込むと、刃に大きな負担がかかり、これがエンジンあるいはモーターの回転に負荷をかけ、エンジンやモーターの回転が停止してしまう。実際にDeago牧場におけるグレインソルガムを主体としたサイロ詰めに立ち会った際には、少し多めにグレインソルガムを送り込むと、ピカドーラのに負担がかかり、エンジンの回転が遅くなった。また負担がかかりすぎてエンジンが停止してしまうこともトウモロコシを細断している時よりもはるかに多かった。

(i) ソルゴーサイレージ

ソルゴーサイレージはプロジェクトサイトにおいて2001年1月、2002年1月及び2002年2月に調製を行った。2001年1月に2基のサイロでサイレージを調製した。そのうち1基は当該乾季に給与せず、雨季を経過して次の乾季(2002年2月)に給与した。サイロ詰めしてから1年を経過していたが、腐敗部分も少なく、良質なサイレージのまま保存されていた。

(j) 稲サイレージ

稲サイレージもプロジェクトサイトにおいて2001年12月に調製した。これはトクメン試験場の稲作部門の種籾生産ほ場において、旱魃による生育不良から種籾生産ができなくなったものの提供を受けて調製したものである。これもソルゴーサイレージ同様に調製してから1年間経過してから給与した。ややサイレージ臭が強かったが良質なサイレージのまま保存されていた。

c.乾草調製

パナマで行われている乾草調製は通常、乾季に入り、雨が降らなくなった頃にちょうど刈り取り適期になるように放牧地の一部を雨季の末期に牛を放牧しないでおき、これを刈り取って乾草にするものである。

パナマで乾草調製用に利用している草種は、スワシ、アリシア、パンゴラが主なものであるが、自然牧草のpangola de pobreにより乾草調製した例もある。プロジェクトではスワシ及びアリシアによる乾草調製を行った。

飼料成分分析では、生産した乾草の乾物中TDN含有率は50%前後であった。

Vargas牧場、Deago牧場、Bravo牧場及びプロジェクトサイトで乾草調製を行った。

モデル農家において乾草調製を行う上で問題になるのは、地域(Herrera県及びLos Santos県)の業者が有するヘイベーラー(スペイン語でCompactadora)が7台しかないことである(台数は2002年における聞き取り)。

このためモデル農家においても、「乾草調製を行いたかったが業者が来てくれなくてできなかった」ということが少なからずあった。地域において業者の乾草調製能力の向上、即ち保有するヘイベーラーの台数増加が望まれる。できるならば農民の共同組織としての農協に多くの農民が加盟し、ここでヘイベーラー等の農機具を保有して傘下農民の依頼による請け負い作業を行うようにすることが望ましい。従来、アスエロ地域ではこのような組織作りは難しいとされていた。しかし一部では複数農家による共同作業や技術向上のための取り組みも見られる。当面はこのような先進的な農家が主体になるとは思われるが、農家のグループ作りを促進し、更に農協組織を強化してここに農機具を配備するようなことも不可能ではないと思われる。このような組織作りや、組織への農機具導入に対するMIDAの援助がなされることが望ましい。

また、農家における当面の方策として、業者へ乾草調製を依頼したが、結局乾草調製ができなかった場合の対応策(放牧利用する、あるいはマチェテで刈り取り利用する等)も考えておくことが望ましい。

d.サッチャリーナの調製

パナマではサトウキビを飼料用として利用する際に「サッチャリーナ(Saccharina)」と呼ばれる方法が行われることがある。南米においても呼称は異なるが同様な調製方法が行われている。

これは細断したサトウキビに糖蜜及び尿素を加えたものであり、これらを混合した後袋等に短期間保管する。保存のためにはは麻や合成樹脂で編んだ袋を用いるため気密状態にはならない。このため長期間の保存はできない。せいぜい数日間、変敗が進まないうちに牛に給与することとなる。パナマではこの方法を飼料貯蔵方法の一つと位置づけているが、このようなことから飼料貯蔵方法というよりも、サトウキビを主体とし、これに糖蜜や尿素を加えた混合飼料調製方法の一つと言うべきではないかと思われる。

プロジェクトにおける飼料生産関係の数値(面積、生産量)
表2−3.飼料生産量(推定)
図2−2.放牧地からの栄養供給量の推移(モデル農家:TDN換算)
図2−3.乾季用飼料生産量の推移(モデル農家:TDN換算)

(3)農業副産物の利用

a.バガスの特性と利用可能性

パナマはサトウキビの栽培及びこれを原料とした製糖業が盛んである。このことを背景として、プロジェクト開始に際しては製糖業の副産物として出されるバガス(サトウキビ搾りかす)を乾季の粗飼料資源として利用することを想定し、その有効利用を図る方策を検討することとした。

しかし、以下の点から当地におけるバガスの飼料利用は困難との結論を得た。

このため、プロジェクトとしてはバガスの飼料利用技術についての実証展示は行わないこととした。なお、農家において入手が可能である場合は、牛の生理面から利用可能な範囲で給与することは否定するものではない。

b.稲わらの利用と問題点

パナマにおける最大の稲作地帯はチリキ地方であるが、上記サトウキビ生産地帯とも混在し、かつ大規模稲作もアスエロ半島付け根部分、Río Santa Maríaにより形成された沖積平野部にある。

このようなことから稲わらの利用も可能と見込まれた。しかし、ここも稲わらの運搬に関しては上記バガスと同様な問題がある。加えて稲作を行っているほ場は日本のような完全な水田ではなく、降雨が少ないと畑地状態となる。しかし収穫時期においても土壌は軟弱であり、車両やベーラー等の農機具を牽引したトラクターがここに入って稲わらを収集することは困難であることがわかった。

アスエロ半島の酪農地帯では大規模な稲作は行われていないが、自家用程度に稲作を行っている農家(酪農家)もかなり見られる。このような所では規模が小さく、かつ複雑な地形の中で稲作が行われている場合が多く、栽培・収穫作業には機械は用いられていない。収穫は人力で穂先を摘み取る用にして行われている。このため収穫後は稲わらの多くの部分は田に立毛状態で残されている。ここに牛を放牧し、これを採食させることができる。

アスエロ地方は酪農が盛んであり、放牧地のみならず畑地等も多くは牧柵で囲われており、牛をここに誘導すれば放牧採食させることは可能である。しかし、従来放牧利用を考慮していなかった所もあり、ここでの放牧を行うためには牧柵の設置が必要になる。

表2−4.アスエロ地域等における稲わら発生量(推定)

c.その他副産物の利用

アスエロ地方では酪農を主体とする牛飼いが盛んであり、実取り用トウモロコシ畑においても収穫後の茎葉は、ここに牛を入れて採食させている。トウモロコシの苞葉(穂を包んでいる葉状のもの)はトウモロコシ収穫の際にはぎ取られる。牛の嗜好性は良くないが、これも糖蜜をふりかけて牛に食べさせている。

モデル農家のうちVargas氏は牧場経営の他にトマト、実取り用トウモロコシの栽培も行っており、実取り用トウモロコシはもちろんであるが、トマト畑でも収穫後にはここに牛を入れてトマト茎葉を採食させている。

Jiménez牧場では、2003年の乾季には市場で売れ残り、市場価値が無くなった瓜を引き取って飼料としていた。

このように、農業関係の副産物として利用できるものは既に利用されている。

なお、実取り用トウモロコシの副産物の中で、穀実を取った後の芯の部分は乾燥すると固くなり、牛も食べないために利用されず、捨てられている。これについては、粉砕できれば飼料として利用が可能と見込まれる。またサイレージ調製に際して、サイレージ材料(主にトウモロコシの実付き茎葉)と共に細断してサイロ詰めすれば、これも牛は食べるものと思われる。しかし、通常サイロ詰めは実取り用トウモロコシ収穫よりも少し早い時期に行われるためにサイレージに混ぜ込むことは行われてはいない。


資料、データ

「1.現状調査」関係
プロジェクト位置図
表1−1.月別平均気温(1984〜2001年平均)
表1−2.月別平均降水量(1984〜2001年平均)
図1−1.気温の月別推移
図1−2.降水量の月別推移
表1−3.当地と日本における牧草、青刈飼料作物及び雑草の区分の違い
表1−4.パナマで利用されている又は利用可能と見込まれる牧草、青刈り作物
表1−5.パナマで庇陰樹、飼料木として利用されている樹種
表1−6.土壌分析結果
表1−7.飼料分析結果
「2.飼料生産技術の改善」関係
表2−1.導入、利用した牧草、飼料木、青刈り作物及びサイレージ用作物の種類
表2−2.草地等面積の推移
図2−1.自然草地及び改良草地面積の推移(モデル農家)
表2−3.飼料生産量(推定)
図2−2.放牧地からの栄養供給量の推移(モデル農家:TDN換算)
図2−3.乾季用飼料生産量の推移(モデル農家:TDN換算)
表2−4.アスエロ地域等における稲わら発生量(推定)

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