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あとがき

多くの日本人の重要な食糧であるコメもガットの場で俎上に乗せられ、ミニマムアクセスを受け入れることとなって既に数年の年を経た。乳製品等も自由化される。コメのミニマムアクセス受け入れということは、そこに次の段階としての完全自由化が見え隠れしている。このことは将来に禍根を残すこととなろう。

一時ほどではなくなったが、経済評論家や都市の人々を中心とした農業批判にはいらだちさえも覚える。それは自分の立っている足元の土台を削っていることであり、自らを産み育ててくれた親に悪口雑言を浴びせかけることでもある。そのようないらだちを、そのままにしておくよりも、自分自身そのいらだたしく思う背景なり、そして私の心の中の農業に対する思いをここに整理してみたいと思い、ここに一筆したためてみた。農業批判に対する農業サイドからの反論は多くの方々がなされ、本としても出されておられる。私の拙い文章はそれらの足元にも及ばないものであるが、文章化してみることにより、多少なりともいらだたしさの向こうにあるものが見えてきたようにも思われる。もちろん農業を批判する者がこの拙い文章を読んだところで、その考えが変わろうはずがない。しかし、読んでいただいた方が多少なりとも「食」や「農」について関心を持っていただくようになれば幸いである。

食と農は密接に結びついている。一方が健全でなければ、他方も健全でありようがない。今、日本の食と農はそれぞれに病んでいる。双方の病は同根である。名医が待望される。

最後に自ら書いたものを見直してみて、どうも現代における食や農の本当の問題にまでは、触れ得ていないようにも思われてならない。問題の根は私が思っているよりも数倍深いのであろう。

人間は、アダムとイブが楽園を追われ、苦労の中で耕作せざるをえなくなって以来、本当は農業が心底嫌いでしようがないのではないか。日本においても農民は虐げられてきた長い歴史を持つ。今に至るまで人々の心の中には農民蔑視の意識が根深くある。多くの人々は数世代遡れば農民である。しかし都会の住民の多くに農業を中傷誹謗せざるをえない気持ちが心の奥底にはある…。農業に縁のない世界に暮らし、農業に対する現実感が薄れてきたからこそ、農業嫌悪の芽が頭をもたげてくるのであろう。それは日々の食を得るための労働を厭い、あるいは農民を蔑視する意識が頭をもたげてくるのであろうか。農や食の問題や、具体的には農業・農民に向かって投げかけられる批判とは、そのように人間の本性に根ざすものなのだろうか。もしもそこまで根が深かったら、私としてもどうしようもない。そうでないことを望みたい。


<参考資料>

(書籍:著者名五十音順)
  • 石毛直道『食事の文明論』中公新書
  • 今村奈良臣『国際化時代の日本農業』農山漁村文化協会
  • 魚柄仁之助『うおつか流台所リストラ術−ひとりひとつき9000円』農山漁村文化協会
  • 魚柄仁之助『うおつか流清貧の食卓−からだによければ地球によい』農山漁村文化協会
  • 宇沢弘文『「豊かな社会」の貧しさ』岩波書店
  • 梅原 猛『「森の思想」が人類を救う』小学館
  • 大内 力『農業の基本的価値』家の光協会
  • 大野和興『農と食の政治経済学』緑風出版
  • 岡庭 昇編『食べる米がなくなる』エース企画出版
  • 北大路魯山人『魯山人の料理王国』文化出版局
  • ジョゼフ・クラッツマン(小倉武一訳)『百億人を養えるか』農山漁村文化協会
  • 小島慶三『文明としての農業』ダイヤモンド社
  • 小島慶三『「農」に還える時代』ダイヤモンド社
  • 坂根 修『脱サラ百姓のための過疎地入門』清水弘文堂
  • 佐々木高明『稲作以前』日本放送出版協会
  • 笹沢左保『無知製造業・日本株式会社』角川書店
  • 篠原 孝『農的小日本主義の勧め』柏書房
  • 島田彰夫『食と健康を地理から見ると』農山漁村文化協会
  • ジョン・セイモアー/ハーバート・ジラルデット『遙かなる楽園−環境破壊と文明』日本放送出版協会
  • 高野 澄『胚芽米読本』論創社
  • 筑波常治『米食・肉食の文明』日本放送出版協会
  • 暉峻淑子『豊かさとは何か』岩波書店
  • 農文協文化部『農文協の農業白書』農山漁村文化協会
  • 農林中金総合研究所『食料を持たない日本経済』東洋経済新報社
  • ラビ・バトラ『貿易は国を滅ぼす』光文社
  • 原 剛・江波戸哲夫『田分け』毎日新聞社
  • レスター・R・ブラウン編著『ワールドウォッチ地球白書 89〜90』、『同 90〜91』、『同 1991〜92』、『同 1992〜93』、『同 1993〜94』、『同 1994〜95』、『同 1995〜96』、『同 1996〜97』以上ダイヤモンド社
  • レスター・R・ブラウン編著『地球の挑戦』小学館
  • 正村公宏『現代を読む経済学(一九八八年NHK市民大学テキスト)』日本放送出版協会
  • 幕内秀夫『粗食のすすめ』東洋経済新報社
  • 山下惣一『農家の主より消費者へ』家の光協会
  • 山下惣一『一寸の村にも五分の意地』ダイヤモンド社
  • 渡辺洋三『日本社会はどこへ行く』岩波書店
  • 渡部忠世『産業および生業としての農業(一九九一年度放送大学テキスト)』放送大学教育振興会

(雑誌、ムック:記事名(雑誌名)五十音順)
  • 『あたりまえの食事(現代農業 一九九一年一一月 臨時増刊)』農山漁村文化協会
  • 『いよいよいきいき農協の有機農業(現代農業一九九0年四月増刊号)』農山漁村文化協会より
    ・宇田川武俊『農林地の環境は地球環境問題の基本だ』
  • 『聞き書き 新潟の食事』農山漁村文化協会
  • 『緊急特集 コメの逆襲(現代農業昭和六二年一一月臨時増刊号)』農山漁村文化協会 より
    ・三輪睿太郎『食糧輸出は地力の輸出、食糧輸入は汚染の輸入』
  • 『食品成分表(四訂日本食品標準成分表準拠)』第一出版
  • 『食べものと農業が世界を救う(現代農業一九九一年九月号)』農山漁村文化協会
  • 『どうする日本農業(現代農業 一九九二年 臨時増刊)』農山漁村文化協会
  • 『都市住民のための決定的農業大論争(別冊宝島145号)』JICC出版局
  • 『もうひとつの地球環境報告(現代農業 一九八九年一一月 増刊号)』農山漁村文化協会
  • 『潮 平成四年二月号』より
    ・中村靖彦『これまでの農業すべてが問われている』
    ・田原総一郎他『日本のコメを考える』
    ・樋口正博『農民のホンネはここにある』
  • 『Voice 平成四年四月号』PHP研究所 より
    ・伊藤博敏『輸入農産物が危ない』
    ・渡部昇一・梅原 猛『復讐される近代文明』
    ・稲盛和夫『日本的経営はどこへ行く〜根絶やしの思想、共生の思想』

注:心にとまった代表的なものをここに列記した。しかし、これら以外にも多くの書籍等を読んだことが、今回の執筆の基礎となっている。

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