アメリカ大陸横断ドライブ


 

「なにぃ? ニューヨークからロスまで その歳で 一人で車で走るって?」
1995年秋 なかなか言い出せなかった勤め人の僕が 米国駐在経験のある社長に休暇を申請したときの 応えである。

社長の快諾を得て, 飛行機 レンタカー 国際運転免許証の手配を4日間で完了して929日 成田空港を出発した


時差の関係で同29日17時20分ニューヨーク市の隣にあるニュージャージー州ニューアーク空港に到着。
荷物は機内に持ち込んだリュックサック一つだけの軽装で入国審査に向かう。
審査官はチラッと私の顔とパスポートの写真を照合して 右手でポンと入国スタンプを押して、そのままの姿勢で左手でポイと私にパスポートを返してくれた。
チラッ、ポン、ポイ その間無言である。
私としては多少緊張ぎみで 係官から質問されたら どのように答えようかとあらかじめ予習をしていただけに拍子抜けである。

入国カードの宿泊先には 最終目的地ロサンジェルスのアメリカ人の住所を正直に記入しておいた。
広大なアメリカ大陸を一人で横断するのに これから先のホテルを一箇所も予約していない。まして どこの都市を経由してどのような旅になるのか 私自身にも無計画の旅のルートはわからないのである。
旅の途中で事故とか事件に巻き込まれた場合には アメリカ国家と日本大使館にお世話になる。
そのためにも一箇所ぐらい確実に連絡がとれる正確な住所を申告しておくべきだと判断したからだ。

今回の旅は 誰の世話にもならず 誰にも迷惑をかけず なんとしてでも一人で西海岸まで到着することが 自分自身への挑戦である。
 

税関では女性係官がセィミヴァレイ カリフォルニア州に行くのかと訊ねる。
クロスカントリードライブだと告げると 両手を広げて ワーオ 遠いいから気をつけて行きなさいと 太ったからだに似合わず優しい声で激励してくれた。

税関を抜けて 空港内のサインボードに注意しながら進む。 レンタカーの標識が見えたさらに進むと ターミナルの外に出てハーツのシャトルバスの待合所に着くことができた。
派手に黄色く塗ったバスの運転手に名前を告げると ウエルカム ニューヨークと気持ち良い出迎えをうける。

バスの乗客は 日本人の中年夫婦、白人男性三人 そしてリュックを背負った僕だけである。
スーツを完璧に着こなした日本人の視線が気になる。
 アメリカ大陸到着早々の身にとってはニコッと挨拶するほどの余裕もないので さりげなく無視させていただくことにして、他の乗客より一足お先にゴールド会員専用の屋根付の駐車場前で下車した。

そこまでは順調であった。
 

         
しかし 日本ハーツに予約してあるはずなのに 電光サインボードから流れ出てくる中に日本人の名前が見つからない。
車が用意されていなかったのだ。

結局のところ 車を借り携帯電話を借り出すまでに なんと3時間もの時間を無駄にされてしまった。

今回の旅の友となる車を借りて 広い駐車場の中で 右側通行とブレーキの効きぐあいをに慣れるために運転をしてから出口に向かう。
受付係員に国際運転免許証とレンタカーの書類を見せた。
係員は 僕が渡した書類と車のナンバープレートを入念に確認してからゲートを開けてくれた。

いよいよアメリカだ。右側通行の第一歩でもある。
出口を恐る恐る出ようとするが ゲートの真下に鋼鉄製のサメの歯のようなものが一列に埋めこんである。
迷っていると その歯がすうっと道路の中に引っ込み GO!と合図をしてくれた。
思い切って車を進める。
ハンドルにグニュッとかすかな衝撃を感じただけで出口を通過した。

思わぬ時間を使い 遅くなってしまったので 今夜は郊外に泊まる予定を変更してハーツに紹介してもらった空港近くのマリオットホテルに向かう。

仮免許の路上教習のように緊張しながらキープライトで走りだしたまでは上出来であった。
しかし道路右側ぎりぎりを走行したために 次の交差点で右折レーンに入ってしまい左側にあるコンクリート製の分離帯が邪魔になり直進できなくなってしまったのである。

道なりに右折して直進すると 裸電球に照らされた薄気味悪い倉庫街に入り込んでしまった。
Uターンするためにハンドルを大きく左に切ると道路反対側の窓の無いレンガ造りの倉庫がライトに照らしだされる。
ドキッ! 怖い! 本心からそう思った。

道路の右側に緑色の高速道路の標識が目に入った。
躊躇なく進入し次のインターを出て、再度入りなおし空港に戻る。
夜の空港内を 1階の到着 2階の出発プラットの順に練習かたがた運転してホテル玄関に到着した。

早速トランクを開けて 唯一の荷物であるリュックを出そうとすると、ポーターが荷物運搬用の手押し車を押してこちらに向かってくる。
片手でリュックを持ち上げて これ一つだと言う仕草をすると チップを稼ぎ損なったといわんばかりに 見事にクルッと背中を見せてUターンして行ってしまった。

部屋に入りシャワーを浴び 明日の荷物を整理し終わると 急に睡魔が襲ってきた。

時差 狭い座席での長旅 そして3時間にわたるHertzでのごたごた。
しかも運動不足の体に機内食を一日中詰め込んだせいか空腹感は無い。
日本から持参した着古した古いパジャマを着るなり ベッドへもぐり込んだ。
 
Hertzの できごと

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