ハーツでの出来事
ひょっとしたら 予約の日付を間違っているかもしれない。日本ハーツから受領していた書類を確認する。 9月29日。 間違いない

事務室のカウンターに行き 予約書類を提示して 車が準備されていないことを告げると、配車係と長い電話のあと あらためてドキュメントを作成してくれた。 
手渡された書類に指定された21番駐車場へ行ってみると そこに置かれている車のライセンスナンバーと書類に記載されている番号とが違うのだ。
僕にとって 借りる車のナンバープレートなんて 何の意味もないし、このまま乗って行っちゃおうかとも思うが そうはいくまい

事務所へ戻り その旨を告げると 暫く 待たされたうえ 今度は16番の駐車場に車を用意したので、そちらへ行ってくれと言われた。
リュックサックを背負いなおし16番駐車場へ行くと そこには車の陰もない。 空っぽであった。
頭にカーッと血がのぼってくるのがわかるが アメリカ上陸第一夜なんだし まして今夜の宿も決まっていない状況なのだから まず 車を確保することが最優先だ。冷静に冷静にと自分自身に言いきかせる
大きく深呼吸して 気持を落ち着かせてから事務所に引き返した

16番に車が無いことを わざと冷静な口調で伝えた。担当者は こいつ何を言っているのだ といわんばかりに眼をまんまるくしている。担当者と一緒に駐車場へ行き 車が無いことを見た彼は オーマイガーッと のたまう。それは 俺のせりふだ!
アメリカでは荷物は絶対に手放してはいけないとの忠告を忠実に守りつづけたせいで、軽いはずの背中のリュックが肩に食い込んでくるのを感じる 

彼はデスクに引き返すやいなや 電話口で カッカして配車係りに早口でまくしたてた。彼がなんと言っているのかは私の英語力では分からないが 何を言おうとしているかは理解できる。それにしても 目の前の人が興奮してくると逆に自分が冷静になってくるから不思議だ。
電話を切った彼は 僕に向かって運転免許証を見せろ クレジットカードを出せと新規受付と同じことを矢継ぎ早に要求してきた。僕にすれば せっかく落ち着きを取り戻したところなのに 今度は僕の血圧が上がりそうなことを言ってくる

そもそも Hertz No.1 club goldは レンタル手続きを日本でして現地に到着すれば、キャノピー・ターミナルと呼ばれる駐車場のサインボードには 利用者の名前と位置が表示されている屋根付の駐車場にはエンジンがかかりエアコンが快適な室温に調整してある車を事務所での手続きなど一切なしに出発できます。これがセールスポイントである

一方 今の僕は 事務所のでっかいソファーにちょこんと座っているのだが どうも居心地が悪い。
足の踵が床に着くように座ると お尻が浮いて前傾姿勢になってしまう。元気よく座ろうと考えて腰をソファーの奥の背もたれにしっかりとつけると 今度は足が床から浮いてしまった。こん畜生 こんなでかいソファーを置きやがって 格好悪くて日本男児が座れるか と 八つ当たりもしたくなる

カウンターを見ると まだ車の手配は出来ていない。
そうだ アメリカに到着してから まだトイレに行っていない。 リュックを背負い男子便所に入る。
小便器に向かい ファスナーを下ろし いざ と思ったら何かがおかしい。僕の位置からすると 便器が高すぎるのだ 慌てて踵をあげ 腰を前にだしたのだが 今度は背中のリュックの重心が後ろに移動して体のバランスが崩れる。右手は一点に固定されているし つま先立ちの姿勢がますます不安定になるのには慌ててしまった。先ほどのソファーもそうであるように 短足人種に対する人種差別だぁ なんて言いたくなってしまう

事務所に戻ると 書類が完備されていた。指定された13番には 今度は車が配備されていた。
車さえ手に入ればなんとかなる。ここまで1時間半が経過し 日も暮れて7時半になっていた

予約してあった携帯電話を督促し 書類にサインをすると 現物はここには置いていないので
一般受付の場所に行ってくれと言う。200メートルは離れている事務所には 既に先客がカウンターに並んでいた。アメリカでは行列は羊のごとく じっと待つことが一般的で寛容と忍耐が必要とは聞いていたがまさにその通りである。
担当者は一つの仕事を確実に処理しないと次の客には進まない。20分待たされた

電話のレンタル書類を提示すると 初めから契約書類を作成するらしい。運転免許証とクレジットカードを見せろと言うのだ。 また始まった。
担当の色白の女性は 胸元の山のような隆起の八合目付近に小さなプラスティック製の名札を着けているが 大きく張り出した山の斜面に名札があるため 名札が上を向いてしまって見ずらい。
可愛い名前とは裏腹に 何をどれくらい食べて 何をどれくらいしなければ こんなに肥れるのかと思うぐらい超ビッグである。 しかも 動作もスローモー 半端ではない。まるで 筋肉の緩んだ白熊がカウンターの向こう側に座っているような感じを受ける 

30分かかって やっと小型のショルダーバックに入った携帯電話を受領することができた。
後ろを振り向くと 僕の後ろに 3人の客が黙って並んで待っていた。申し訳ない気持で一杯である