What's New (Mar, 1997)



■1997年3月18日

 日本では4月に公開される映画『グレース・オブ・マイ・ハート』。

 これ、見たほうがいいよ。アメリカン・ポップス・ファンなら。いけますよ。去年の10月ごろ、輸入盤で出たサントラをレビュー・ページで取り上げたとき、映画の内容を紹介してくれたEメールも転載しておいたので、ストーリー関係はそちらを参照していただくとして。

 ディテールへのこだわりが実に泣ける。

 まあ、キャロル・キングをモデルにしたストーリー展開になってはいるものの、あくまでもフィクションだから。使われる曲とかはすべて新曲なわけです。でも、その新曲を、キャロルのかつての旦那だったジェリー・ゴフィンが深く関わりつつ、まさに当時の雰囲気たっぷりの曲を提供しているし。

 ジョン・タットゥーロ演ずるフィル・スペクターのような風貌をしたドン・カーシュナーらしき役柄の男に「もうスペクターは古い」とか言わせてみたり。

 やがて60年代も後半に入ってからの設定の部分では、ジョニ・ミッチェルあたりがこれまた雰囲気ばっちりの曲を書いていたり(初回分プレスには、ジョニさん自らが歌ったデモ・ヴァージョンが間違って入っちゃったために、一時このサントラCD、回収騒ぎになっていたっけ)。

 マット・ディロン演じるブライアン・ウィルソンらしき人物のレコーディング風景には、何の説明もなくテルミンが登場しちゃったり。そのマット・ディロンがティンパニー奏者に「もっと激しくプレイしろ! これはロックンロールなんだ!」と叫ぶシーンがあったり(『ペット・サウンズ・セッションズ』を思い出しちゃうぜっ)。

 ラストのほうで、主人公のキャロル・キングらしき人物が自らシンガー・ソングライターとしてレコーディングするスタジオに、これまた何の説明もなく、さらっとした、ちょっと長めの髪の毛を真ん中分けにしてギターを抱えている男の姿が映っていたりして、これ、きっとジェームス・テイラーなんだろうなぁ……と思わせたり。

 ポップス・ファンなら絶対に楽しめる一本です。

 でも、そういうアメリカン・ポップスの歴史とかに全然興味がない人が見たら、単に“男運の悪い女の人の話”くらいにしか思わないかも。うーん。むずかしいところだ。当たるといいなぁ。恵比寿かなんかで単館上映なので、なんとかなってもらいたい。でもって、60年代前半の、いわゆる“ブリル・ビルディング・ポップス”がさらに注目を集めて、再発盤ががんがん出て……とか、そういう状況にならないもんでしょうか。『レコード・コレクターズ』誌は、次号、この映画の公開に合わせてブリル・ビルディング・ポップ特集だとか。盛り上がれよーっ。


■1997年3月3日

 今、山崎まさよしってシンガー・ソングライターのニュー・アルバムをプロデュースしてます。こいつ、ごきげんですよ。生ギターに徹底的にこだわって、まじ、ギターと一体となった歌を聞かせる男で。「ワン・モア・タイム、ワン・モア・チャンス」ってシングルがけっこうヒットしているので知っている人もいると思いますが。ああいうバラードを歌わせてもかなり魅力的だけど、もっとファンキーな曲をぶちかましたときに炸裂する、なんとゆーか、山崎ならではの“火事場の馬鹿パワー”を聞き逃しちゃいけません。

 てことで、そういう面も強調したアルバムができあがりつつあります。よかったら楽しみにしててください。

 と、そんなレコーディングと、月末〜月アタマの締め切り地獄とが重なり、少々疲れ気味の今日このごろ。グラミー賞の発表を見て、さらに疲れが増しました。

 まあ、レコ大にせよ、ゴールドディスク大賞にせよ、グラミーにせよ、アメリカン・ミュージック・アワードにせよ、このテの音楽賞が納得のいく結果を出したためしはないんだけどさ。でもねー、ある意味じゃ予想通り。“きっとこういうアーティストがグラミー好みなんだぜ”とかノージと予測していたのと寸分違わぬ結果に、毎年のこととはいえ、ちょっとあきれてしまう。

 エリック・クラプトンとベビーフェイスとセリーヌ・ディオンだもんなぁ。そういう年だったの? まじに? 最優秀新人賞にノージいち押しのティーンエイジ・カントリー・シンガー、リーアン・ライムズが選ばれたのは悪くないと思うけど。ロック部門やオルタナ部門あたりを複数獲得したベックやシェリル・クロウがもっともっと目立つべきじゃないのかな。

 相変わらず部門が多すぎて、なんのこっちゃよくわからない中、ぼくが毎年けっこう楽しみにしているのが、アルバム・ノーツ部門。要するに、ライナーノーツに対する賞なんだけど。今年は、ウィル・フリードウォルドが書いたフランク・シナトラの『The Complete Capitol Singles Collection』のライナーが見事栄冠を獲得。こういう賞、日本でもあればいいのに。そうすりゃ、もう少しまともなライナーが増えるんじゃないかな。字数埋めてるだけみたいな、ホントに無駄なライナーもどきが多いからね。

 ちょっと前のことになるけど、ローリング・ストーンズのアルバムに山川健一の超くっだらねー小説みたいなのが付いてたときは泣けた。これも値段のうちかよ……と思うと情けなくて。U2の新作にも三代目魚武・濱田成夫による“ボノに捧げる詩”みたいなやつが付いてたっけ。んー、濱田さんとは一緒にテレビやってたこともあるし、嫌いじゃないけど。でも、別にライナーに詩はいらないや。まあ、今回の日本版ブックレットは詳しいディスコグラフィとかもあって、全体としてはうれしい仕上がりだったんだけどなぁ。