1999.5.18

Bourbonitis Blues
Alejandro Escovedo
(Bloodshot)

 70年代、ベイエリアのパンク・シーンから登場したのち、80年代にはテキサス州オースティンへと本拠を移してランク&ファイル、トゥルー・ビリーヴァーズといったバンドを転々としつつ、やがて90年代、ソロのシンガー・ソングライターへ……。

 と、そんな歩みを経て活動を続けるアレファンドロ・エスコベードの新作だ。96年の傑作 "With These Hands" に続く1枚。前作にも収められていた「ギルティ」の再演ヴァージョンとか、アルバムのオープニング・チューン「アイ・ワズ・ドランク」とか、ぐっとくるオリジナルもあるにはあるが、むしろ耳をひくのはルー・リード、ジョン・ケイル、イアン・ハンターといった面々の曲のカヴァー。ジミー・ロジャースの曲もやってる。

 チェロとヴァイオリンをバックに従えたお得意のアレンジも健在ながら、新たなファン獲得のための1枚というよりは、長年のファンに向けた気楽なカヴァー盤って感じかな。こちらもリラックスして楽しみましょ。



Cheating at Solitaire
Mike Ness
(Time Bomb)

 初ソロ作。

 もともとこの人がソーシャル・ディストーションで書いている曲も、ハードなサウンドの陰にもきっちりルーツ臭をたたえた“いい曲”だったりするわけで。ロイヤル・クラウン・レビューのタイトかつアコースティカルなロック・ビートをバックに配した本作では、その辺のソングライターとしての持ち味がどかんと前面に出た仕上がりになっている。

 ボブ・ディランやハンク・ウィリアムスのカヴァーも交え、さらにブルース・スプリングスティーンをデュエット・パートナーに迎えたり、ブライアン・セッツァーをゲスト・ギタリストに迎えたりしながら、独特のやばい雰囲気を見事に表現。歌声が少々大仰に芝居がかっているところが気になるっちゃなるけど、けっこうデビュー後2作あたりまでのスプさんの良さみたいなものにも通じる肌触りも感じられたりして。その辺も含め、胸が躍る。生な音圧がかっちょいいです。



Natural Thing
Poi Dog Pondering
(Plate-Tec-Tonic/Tommy Boy)

 間もなくブライアン・ウィルソンのバッキング・メンバーとしても来日を果たすポール・マーテンスを含む、なんともユニークかつ奇妙なオーケストラ・ポップ・ユニット、ポイ・ドッグ・ポンダリンの新作だ。

 今回もソウル、ゴスペル、メロウ・ジャズ、クラシックなど、様々な要素がイマジネイティヴに交錯。見事に構築されたアレンジを聞かせながらも、どこか触れると壊れてしまいそうな繊細さもたたえていて……。さすがの仕上がりです。



The Unauthorized
Biography of
Reinhold Messner

Ben Folds Five
(550 Music)

 ジョン・マーク・ペインター(フレミング&ジョン)指揮のストリングスや、スクァーレル・ナット・ジッパーズのホーン・セクションなど、外部のサポートを積極的に導入した新作。

 初期の、3人だけでどかーんとぶちかましている感触はかなりなくなったので、そっち方面の味が好きだった人には反感を買うかな。けど、もっとも尊敬するソングライターはニール・セダカだと語るベン・フォールズの豊饒な音楽性がよりいきいきと発揮された盤って感じだ。ぼくは好きです。かなり。



Dangerman
Dangerman
(550 Music)

 ベン・フォールズと同じレーベルからのリリース。

 ニューヨークのローカル・シーンで長年活動してきた二人のミュージシャンが組んだオルタナ・ポップ・ユニットのデビュー盤だ。ルシャス・ジャクソンやファン・ラヴィン・クリミナルズらのオープニング・アクトをつとめたこともある連中だとか。ギターとドラムという編成ながら、ウィリー・コローンとかモンゴ・サンタマリアとかエルヴィン・ジョーンズとか、なかなかひねりの効いたサンプリング・ビートをバックに配し、けっこうキャッチーに聞かせる。

 プロデュースをブレンダン・オブライエンが担当しているせいか、いい意味でルーズかつアーシーな味も随所に感じられて。好感度よし。



Owsley
Owsley
(Giant)

 元セマンティックスのウィル・オウズリーのソロ作。

 本人の弁によれば、“ボストンのトム・シュルツのように”自宅にこもって長時間えんえんと試行錯誤を続けながら完成させたものだとか。といっても、いわゆる宅録感はまるでなし。突き抜けるパワー・ポップ感覚が爽快な1枚だ。ナッシュヴィル・パワー・ポップの底力炸裂ってとこ。

 ビートルズ、トッド・ラングレン、10CCなどを彷彿させつつも、きっちり90年代のポップ・アルバムとして成立しているのはジェイソン・フォークナーやベン・フォールズ・ファイヴあたりと共通する感触かな。そうだ、ベン・フォールズ・ファイヴ同様、ここにもジョン・マーク・ペインターがストリングス・アレンジで参加している。1曲だけだけど。でも、その曲がまたいいんだ。



Houndog
Houndog
(Columbia/Legacy)

 ロス・ロボス/ラテン・プレイボーイズのデイヴ・ヒダルゴとキャンド・ヒートやジョン・メイオールらと活動してきたベテラン、マイク・ハルビーが組んだプロジェクト。 "Houndog" というのはハルビーのニックネームだ。

 ハルビーさんのベッドルームでレコーディングされたという、まあ、とことんロー・ファイかつルーツィな1枚。これはかっこいいです。前回取り上げたトム・ウェイツとも共通する古い音像へのヴァーチャルなアプローチというか。

 エクスペリメンタルな試行錯誤自体に主眼があるかのようなラテン・プレイボーイズのアルバムの場合、そのハイパーな音像ばかりが目立っちゃって、決定打となる楽曲がなかったりするところが物足りないわけだが。こちらはあくまでも“歌”あるいは“ブルース”がすべての根底にある。

 ので、すっごく好きですよ、ぼくは。



Terror Twilight
Pavement
(Matador)

 こいつら、本盤で初めて24チャンネル使ったんだそうで。いよいよロー・ファイ卒業か? ナイジェル・ゴドリッチを正式にプロデューサーに迎えたというのにもびっくり。

 というわけで、よりポップ・オリエンテッドなフィールドへと身を置き、そこで自分たちの持ち味をいかに壊さぬままでいられるか、と。きっとそんなテーマに挑戦した1枚なのだろう。独特の“たるさ”に満ちたギターを中心に、お得意のノイズとかエフェクトが、これまたやる気なさそうに舞うのは相変わらず。ただ、音がずいぶんとよくなったせいか、歌も含めてよりクールになった印象もある。

 アコースティック・ブルースっぽい曲があったりして面白かった。バンジョーが後ろで鳴ってる曲もあったな。



Salivation
Terry Allen
(Sugar Hill)

 96年の "Human Remains" 以来かな? 少なくともぼくにとってはそれ以来。バディ・ホリー同様、テキサス州ラボック出身のベテラン・シンガー・ソングライターの新作だ。

 この人、ときどきお気楽ワールド・ミュージックっぽくなっちゃう局面があって、個人的にはその辺がちょっと苦手ではあるのだけれど、そうならない、テキサス・カントリー野郎としての誇りが匂い立ってくるような曲、特にバラードでの渋い歌声はやはり胸にくる。今回もありますよ、何曲か、そういうのが。

 ガイ・クラーク、チャーリー・セクストンらもゲスト参加。



Speed of Love
Tammy Rogers
(Dead Reckoning)

 パティ・ラヴレス、トリーシャ・ヤーウッド、ヴィクトリア・ウィリアムスらとの活動でもおなじみのフィドル/マンドリン/ギター・プレイヤー、タミー・ロジャースの新作だ。去年になってから日本盤も出た96年の『タミー・ロジャース』以来の通算3作目。

 ダン・ダグモア、パット・ブキャナンらを含むバック・バンドのサポートを受け、前作同様、けっこうバラエティ豊かで聞きやすい音を聞かせる。曲作りの面でも、ヴォーカルの面でも、じっくり、大人っぽい成長をみせており、なんだかうれしい。静かな佳作って感じかな。



What I Deserve
Kelly Willis
(Rykodisc)

 チャック・プロフェットがわりと全面的に参加していることが個人的にはやけにうれしいケリー・ウィリス久々の新作。2月ごろに出た盤だけど、レビューしそびれてました。

 ジェイホークスのゲイリー・ルーリス、ニック・ドレイク、旦那のブルース・ロービソン、ポール・ウェスターバーグらがソングライティング・パートナーとして参加。とはいえ、音のほうはわりと真っ向から“趣味のいいコンテンポラリー・カントリー”している感じだ。

 “ヴォイス・オヴ・オースティン”の異名をとる彼女ながら、ちょっと歌声がドライになったかも。そのぶんヒカップとか、技巧が少々鼻につく局面もあって。その辺、好みが分かれそうだけど。ぼくも聞く日の気分で好きになったり嫌いになったり(笑)。おかげで紹介が遅れちゃいましたよ。



A Stranger To Me Now
Monte Warden
(Asylum)

 この人もテキサス州オースティンを本拠にやってきたシンガー・ソングライター。ワゴニアーズを解散後、地元のウォーターメロン・レーベルから2枚のソロ・アルバムを出していたけれど、今回、アサイラムへと移籍。全米デビューってことだね。

 で、アルバムの出来としては個人的にはウォーターメロン時代のほうがいいと思う。でも、今回の新作は、近年ブライアン・ウィルソンとの仕事で名をはせるジョー・トーマスのプロデュース。シカゴのブライアン・ウィルソンのおうちのスタジオで、ブライアンの『イマジネーション』に参加したのとほぼ共通するミュージシャンのバックアップでレコーディングされている。なもんで、買っちゃいました。もちろんブライアンは参加してませんが。

 ホンキー・トンクからブルー・アイド・ソウルまで、という持ち味はそのままながら、ジョー・トーマスらしい中庸サウンドをまとわされて、ずいぶんとちんまりおさまってる印象。そこそこポップだし、いい曲も多いけど、躍動感はなし。オールディーズ風味のアダルト・コンテンポラリーが好きな人には絶好だと思います。でも、こういうのってときどき聞きたくなるんだよなぁ……(笑)。ビル・ロイドも曲作りに協力。



Radio Favorites
Big Sandy & His Fly-Rite Boys
(HMG/Hightone)

 古きよきウェスタン・スウィング/ヒルビリー・ブギを90年代に甦らせるべく、おバカな快走を続けるビッグ・サンディーの新作6曲入りEP。アナログ・シングル3枚組も出ているけれど、ぼくはCDで買いました。

 たぶんごきげんなライヴを各地のバーやロードハウスでぶちかましているんだろうなぁと想像してしまう、そういう仕上がり。EPながらこれまでのフル・アルバム群を蹴散らすくらい充実した1枚って感じだ。




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