Reviews   Music



Let's do it again ...
People Get Ready / Curtis Mayfield Story
Curtis Mayfield
(Rhino)




People Get Ready
Curtis Mayfield Story



The definitive collection from this founding father of Soul music!

51 tracks on 3 CDs featuring the Top 10 R&B hits like
It's All Right,
Choice Of Colors,
People Get Ready,
Freddie's Dead,
Kung Fu,
So In Love,
Only You Babe
and great ballad in 90's
Do Be Down.

 1990年8月13日、ニューヨークのブルックリンで野外コンサートのサウンド・チェックを行なっていたカーティス・メイフィールドは、突風によって倒れてきた照明のヤグラに首を直撃され意識不明のままニューヨークの救急病院へ。一命はとりとめたものの、病状は芳しくなく、9月に入ってアトランタの自宅近くの脊髄治療センターへ入院……。

 と、そんなニュースが伝わってきたときのショックは、もう言葉では表わせないほどのものだった。カーティスといえば、ジェームス・ブラウン、スライ・ストーン、マーヴィン・ゲイ、ダニー・ハザウェイらとともに60〜70年代のブラック・ミュージックの発展に大きく貢献した偉大な才能。彼が築きあげたスムーズで、かつファンキーなサウンド・スタイルは黒人音楽シーンばかりでなく、ロック/ポップ・フィールドも巻き込みつつ大きな影響を残している。さらに、彼はいわゆる“ブラック・パワー”を支援する姿勢を一貫して取り続けてきた男としても大きな役割を果たしている。黒人音楽の世界に大きな足跡を残したシカゴのソウル・グループ、インプレッションズを率いて活躍していた60年代から「PEOPLE GET READY」「WE'RE A WINNER」「THIS IS MY COUNTRY」「CHOICE OF COLORS」など、黒人としての自覚をうながす名曲を次々と生み出してきた。

 その偉大な才能が再起不能になってしまうかもしれない大事故に見舞われたのだ。事故が起こった90年といえば、カーティスがちょうど若手ラッパーたちと共演したアルバム『ザ・リターン・オヴ・スーパーフライ』や、5年ぶりのソロ・アルバム『テイク・イット・トゥ・ザ・ストリート』をリリースしたころ。再び活発な活動へと向かおうとしていた矢先だ。それだけにショックも大きかった。その後、徐々に回復し、確か91年のロックンロール・ホール・オヴ・フェイムのセレモニーの際、病院のベッドからカメラを通して全米にメッセージを送れるほどにはなったようだが。今はとにかく、一日も早くカーティスが完全回復することを祈るだけだ。

 1942年6月3日、シカゴ生まれ。ジェリー・バトラーとともにヴォーカル・グループ、インプレッションズを結成し、58年「フォー・ユア・プレシャス・ラヴ」で全米デビュー。その後、バトラーがソロ・シンガーとして独立してからはリーダーとしてグループを牽引。61年に自作の「ジプシー・ウーマン」が全米20位に達するヒットとなったのをキッカケにカーティス&インプレッションズの黄金時代が幕を開ける。以降、インプレッションズは70年代にかけて40曲近い全米ヒットを放った。もちろん、ほとんどがカーティスの作曲によるナンバーだ。カーティスはこうした活動の中で、すぐれた才能を持った音楽家としてのみならず、人種問題などに真摯に関わり続ける詩人としての評価も確立した。他人への曲提供およびプロデュースも数多く手掛けた。そして、70年、インプレッションズを脱退しソロ・アーティストとしてのキャリアをスタート。20枚以上の素晴らしいアルバムをコンスタントにリリースし続けてきた。

 かえすがえす、90年に彼を見舞った事故が悔やまれる。が、94年にゲイリー・カッツの総指揮のもと、アレサ・フランクリン、グラディス・ナイトらカーティスゆかりのベテランから、スティーヴィー・ワンダー、ロナルド・アイズレーらある種の“同志”、スティーヴ・ウィンウッドやエルトン・ジョンら英国勢、そしてレニー・クラヴィッツ、ホイットニー・ヒューストンら若い世代まで、17組がカーティスへの深い敬意を表しながら、彼が作った素晴らしい楽曲をそれぞれ自分なりのやり方でカヴァーしたトリビュート・アルバム『オール・メン・アー・ブラザーズ』を聞いたカーティスは、こんなコメントを残した。

 「初めてアルバムを聞いたとき、涙があふれた。どんなに状況が悪くなっても、いいことは起こりうるのだということを、このアルバムは証明してくれた」

 同時にあのアルバムは、多くのアーティストがカーティス・メイフィールドと、彼が作り上げたソウル・ミュージックをどれほど愛し、どれほどリスペクトし、それらからどれほど大きな影響を受けたかの証明でもあり、そして何よりもカーティスがどれほど才能あふれる存在であるかの証明だった。

 そんなカーティスの長年にわたる激しく、美しい歩みを集大成したCD3枚組が本ボックス・セットだ。中学生のころ(ってのは、つまり、えーと、もう25年くらい前のことだけど)ヴァニラ・ファッジがカヴァーしていた「ピープル・ゲット・レディ」が好きで、そのオリジナル・ヴァージョンを探したあげく、インプレッションズに出くわして以来、ずっとカーティスの魅力に深々とハマり続けているぼくのような人間にしてみると、あれ? あの曲が入ってないぞ、とか、この曲よりもあっちの曲が……とか、もううるさいことを言いたくなってしまう面もあるにはあるけど。たったCD3枚で全貌をとらえることなんかできないもんね。ぜいたくな文句です。入門編としてもばっちりだ。とりあえず、インプレッションズ時代からソロ作まで、一気に歩みを振り返るには絶好。色あせることのない豊かな才能に、今、改めて心を震わせよう。

(This article contains the stuff from the liner notes for All Men Are Brothers. Feb, 1994)