2000.3.3

(Untitled)/
(Unissued)

The Byrds
(Columbia/Legacy)


 ロジャー・マッギン、クラレンス・ホワイト、ジーン・パーソンズ、スキップ・バッティン…という、テクニック面から考えたらたぶん最良のラインアップとなったザ・バーズによる3枚のオリジナル・アルバムが再発になった。

 96年から続いていた米レガシーによる“エクスパンデッド・エディション・シリーズ”の完結編。ボーナス満載、音質ばっちりのこのシリーズ、ファンとしては本当にありがたかった。本ホームページ初期にも、あんまりうれしかったので最初に出た4枚をここで取り上げたことがある。その後、97年になって『名うてのバード兄弟』『ロデオの恋人』『バーズ博士とハイド氏』『イージー・ライダーのバラード』という4枚が出たときは、カントリー・ロックの元祖である『ロデオの恋人』のことだけここで取り上げていて。このシリーズは本当に愛聴した。

 でもって、その後だいぶ待たされたものの、ようやく70年以降の諸作の登場だ。『題名のないアルバム (Untitled)』『バード・マニア (Byrdmaniax)』『ファーザー・アロング (Farther Along)』。もちろん、全盤、興味深いボーナス満載。特に、70年の2枚組『題名のないアルバム』は、オリジナルの2枚(ライヴ1枚、スタジオ1枚)をCD1枚に詰め込んで、さらにもう1枚、全編未発表音源で埋め尽くした『(Unissued)』というボーナス・ディスクと組み合わせたスペシャル仕様。これはすごいね。

 ぼくが中学生のとき、はじめて接したザ・バーズのアルバムが『題名のないアルバム』だったせいもあり、うれしさ百倍です。デビュー当時はセッション・ミュージシャンの助けを借りなければレコーディングできなかった彼らが、激しいメンバー・チェンジを繰り返したのち、ついに鉄壁のラインアップとなって作り上げた新生バーズ・サウンド。ライヴのほうじゃ、ジーン&スキップが繰り出すタイトなグルーヴと、どんな曲だろうと独自のカントリー・ロック・リックでバックアップしちゃうクラレンスの超絶ギターで生まれ変わった「ミスター・タンブリン・マン」とか、クラレンス得意のカントリー・インスト「ナッシュヴィル・ウェスト」のあとを受けてロジャーの乱暴なギター・カッティングが切り込んでくる「ソー・ユー・ウォント・トゥ・ビー・ア・ロックンロール・スター」とか、アナログ時代はB面をまるごと占めていた「霧の8マイル」とか、得意のディラン・カヴァー「寂しき4番街」とか、よく聞きました。スタジオのほうじゃ、なんたって、これまたクラレンス節炸裂の「トラック・ストップ・ガール」かなぁ。ストリング・ベンダーなんて“器具”の存在すら知らなかったコドモのワタシは、一所懸命コピーしようとがんばって見事に挫折してました。その後、オトナになってからベンダー付きのトーカイのテレキャスを手に入れても結局コピーしきれなかったけどさ(笑)。

 未発表ディスクのほうじゃ、もともとアメリカ盤LPの初回ジャケットに記載されていた「キャスリーンズ・ソング」(「キャスリーン」と書かれていたのだけど…)のお目見えがうれしい。この曲、のちに『バード・マニア』に収録されることになるものの、そのときはストリングスがどかーんとダビングされていて。今回お目見えしたのは、オーバーダブ前のピュア・ヴァージョン。良いですよ、これは。クラレンス大活躍の「ホワイツ・ライトニング・パート2」も楽しい。以前、ボックス・セットでライヴ・ヴァージョンが聞けた「ウィリン」の初登場スタジオ・ヴァージョンもよかったな。のちにジーン・パーソンズが『キンドリング』で披露するヴァージョンのプロトだね、これ。さらに、この“エスクパンデッド・エディション・シリーズ”お得意のシークレット・トラックも…。これにも泣けました。


Byrdmaniax
 で、続く71年の『バード・マニア』。これ、伝説の“30点アルバム”だよね(笑)。確かにいろんなところで酷評されている1枚だ。プロデューサーのテリー・メルチャーが暴走して、メンバーに内緒でダビングしまくったというストリングスやらホーンやらが新生バーズ・サウンドをむちゃくちゃにしてしまっている…というのがその論拠なわけだけれど。でも、オリジナル・リリースから30年近くの歳月が経過して。ロックのアルバムに過剰な装飾がほどこされることにすっかり慣れっこになってしまった耳で聞き直すと、悪くないですよ、これは。ポップで、いい曲も多いし。ぼくは当時から、そんなに嫌いじゃなかった。グッド・タイムっぽい「シティズン・ケイン」とか、オールディーズっぽい「トンネル・オヴ・ラヴ」とか、前述の「キャスリーンズ・ソング」とか、クラレンスが歌で泣かせてくれる「マイ・デスティニー」とか「ジャマイカ・セイ・ユー・ウィル」とか。今回も楽しく聞きました。今回初出の未発表ボーナス音源としては、ディランの「ジャスト・ライク・ア・ウーマン」がよいっす。以前ボックス・セットでジャクソン・ブラウンをピアノに迎えたヴァージョンが登場したけど、今回のはその1年後くらいの録音です。



Farther Along
 でもって、結果的にザ・バーズのラスト・アルバムとなってしまった『ファーザー・アロング』。テリー・メルチャーの暴走によほど反感を覚えたのか、ついに初のセルフ・プロデュース。ロンドンで4日間でベーシックのレコーディングを終えてしまったというシンプルかつアーシーな1枚だ。このアルバムも一般的には評価が低いみたいだけど、ぼくは大好き。世代のせいかな。確かに、もはやこれはザ・バーズのアルバムじゃないだろう…と言われれば、その通り。ロジャー・マッギン色は思い切り後退して、他の3人の持ち味が全開になっている。でも、クラレンスがまたまた泣かせてくれる「ファーザー・アロング」「ビューグラー」とか、バンジョー入りで50年代R&Bのカヴァーをぶちかました「ソー・ファイン」とか、必殺の名曲「レイジー・ウォーターズ」とか、ぼくは抗えません。今回さらに音がよくなって甦ってくれて。たまらんです。未発表ボーナスとしては本盤以降、73年の初ソロ・アルバムに至るまでの間に録音されたロジャー・マッギンの試行錯誤が3曲。


Live At The Filmore
 とともに、今回はスキップ・バッティンが加入する前、マッギン、ホワイト、パーソンズ、ジョン・ヨークという4人組だった時期にフィルモア・ウェストで録音された未発表ライヴ『Live At The Filmore - Feburary 1969』も出た。当日“対バン”だったマイク・ブルームフィールドのライヴ・レコーディングが行なわれていて、そのサウンドチェック用に収録されたものらしい。これも楽しかった。「ターン・ターン・ターン」「タンブリン・マン」「8マイル」のメドレーとか、バック・オーウェンスの「クローズ・アップ・ザ・ホンキー・トンクス」と「バッカルー」、マール・ハガードの「シング・ミー・バック・ホーム」のカヴァーとか、興味深く聞けた。

 しばらく楽しめそうな4枚。国内盤は来月、CRT監修のコンピ〜ソニー編とともに出ますよ。


[ Home | Pick Of The Week | Kenta's Review ]
[ Features | What's Up Archives ]
[ Kenta's Chart | Fav Links | e-mail]


Kenta's
Nothing But Pop!

To report problems with this site or
to comment on the content of this site:
e-mail kenta@st.rim.or.jp


Copyright ©2000 Kenta Hagiwara