for Apr. 21, 1997


  1. The First Songs
    Laura Nyro
    (Columbia)

     こんなことをきっかけに、ローラ・ニーロがまたぼくの中での存在感を増し始めたなんて。思いは複雑だけれど。

     あまりにも早すぎる死を悼み、彼女が残した宝のようなアルバムたちを改めて次々聞き返していて。やっぱりこのデビュー・アルバムにこそ、ローラのすべてが詰まっていたんだなぁと再確認した。

     もともとはヴァーヴ/フォークウェイズ・レコードから1967年、『More Than A New Discovery』というタイトルでリリースされた一枚。『The First Songs』というのは、73年になってから再発されたときのタイトルだ。評論家受けはしたらしいけど、結局あまり売れずに、その後彼女は米コロムビア・レコードへ移籍。68年に『Eli And The Tirteenth Confession』、69年に『New York Tendaberry』、70年に『Christmas And The Beads Of Sweat』と素晴らしいアルバムを連発。ニューヨークという都会の喧騒の奥底にただよう詩情を、静かに、しかし鋭く託した歌声で徐々に知名度をあげていった。同時に、ブラッド・スウェット&ティアーズ、フィフス・ディメンション、スリー・ドッグ・ナイト、バーブラ・ストライザンドらがローラの作品をカヴァーし、ヒットさせた。ローラ・ニーロという名前が徐々にシーンに浸透。ぼくもここで書いたように、フィフス・ディメンションのシングルを買ってきたとき、そこで初めて彼女の名前に出くわしたんだっけ。

    Other Laura's Albums


    Eli And The Thirteenth Confession (1968)


    New York Tendaberry (1969)


    Christmas And The Beads Of Sweat (1970)


    Gonna Take A Miracle (1971)
     こうして、特に日本ではまず、優れたソングライターとして名をあげたローラだったけれど、『Christmas And The Beads Of Sweat』に収められていた、キャロル・キングのペンによるドリフターズ・ナンバー「Up On The Roof」のカヴァーは、今にしてみればとてもたくさんのことを語っていたのだな、と思う。ローラが多感だったころニューヨークの街角にあふれていたドゥワップやポップR&B。そうしたドリーミーなポップ・ミュージックと、彼女の鋭く研ぎ澄まされた都会の詩情とが同じ根っこを持つものであることを、あの「Up On The Roof」のカヴァーはぼくたちに向かって雄々しく主張していたのだ。当時は全然わからなかったけれど。今はわかる。思い知る。

     そんなアプローチを徹底させたのが71年、パティ・ラベルやノナ・ヘンドリックスを含む女性ヴォーカル・グループ“ラベル”をバックに従えてリリースされた『Gonna Take A Miracle』だ。全編、彼女が親しんできたドゥワップやR&Bのカヴァーで占められた一枚。正直言って、当時のぼくは収録曲のオリジナル・ヴァージョンをほとんど知らない状態だったので、このアルバムの真価も今ひとつ理解できなかったけれど。これも今になってみるとやたら沁みる。選曲も、そしてアレンジも、ローラならではのフェイクも。んー、やっぱりポップスは学習だな。ぼくも少しは物知りになったってことだ。

     ところが。ローラはこのあと、長い長いお休みに突入してしまうのだ。次に出たオリジナル・アルバムは77年の『Smile』だから。実に6年のブランク。その長いブランクを埋めるような形で、73年に再発されたのが、ここに取り上げた『The First Songs』だ。売れたとか売れなかったとか、そんなことまったく関係のない、本当にすばらしい一枚だと思う。幼女のような無垢さと、何もかも知り抜いているかのような達観とがイマジネイティヴに交錯するローラ・ニーロ・サウンドの原点でもあり、そのすべてでもあるアルバム。

     このアルバムに記録されたみずみずしさは、きっと何年たっても色褪せることなんかないはずだ。
    
    
    【ローラ・ニーロ作のヒットが聞けるアルバム群】

    Greatest Hits On Earth
    The Fifth Dimension
    (Arista)

     「Wedding Bell Blues」「Stoned Soul Picnic」「Save The Country」など、ローラの曲を次々シングル・ヒットさせたのがこいつら。ジム・ウェッブやらバート・バカラックやらトニー・マコーレーあたりの曲を歌っているときは、黒人ながら真っ白なポップ・コーラス・グループって感じなのに、ローラの曲を歌うときは、見事にゴスペルっぽさが漂う。ローラの曲の魅力って、そういうところにもあるんだろうなぁ。

    Best
    Three Dog Night
    (MCA)

     「Eli's Coming」をヒットさせたのはこの人たち。彼らはニルソン、ランディ・ニューマン、ポール・ウィリアムス、ホイト・アクストン、レオ・セイヤーなど、その時代その時代の新進気鋭ソングライターの曲をいち早く取り上げてヒットさせるのが得意ワザだったけれど、そんな中にローラも入ってたわけです。

    Blood Sweat & Tears
    Blood Sweat & Tears
    (Columbia)

     69年に出た彼らのセカンド。これだけベスト盤じゃないんですけど、内容的にはベストみたいなもの。この人たちもキャロル・キングの曲やってみたり、ジェームス・テイラーの曲やってみたり、面白い選曲センスをしてた。ローラの出世作「And When I Die」をこのアルバムからヒットさせてます。

    Greatest Hits Volume 2
    Barbra Streisand
    (Columbia)

     リチャード・ペリーのプロデュースのもと、ローラの「Stoney End」をカヴァー。全米ヒットさせたのがこの人。
    
    
    
  2. Sweetheart Of The Rodeo
    The Byrds
    (Columbia)

     きてます。

     カントリー・ロック。カントリー・ロック旋風だね。このバーズの盤は、以前、ここで取り上げた20ビット・リマスタリング・シリーズの続編として出た4枚のうちのひとつなんだけど。

     すごいです。これは。うれしい再発。もともと“ビートルズへのアメリカからの回答”的なニュアンスのもと、フォーク・ロックの旗手としてデビューを飾った彼らが、たびかさなるメンバー・チェンジを経て、68年、当時、むちゃくちゃ斬新だったカントリー・ロック・サウンドへと変身をとげた一枚。のちにフライング・ブリトー・ブラザーズを結成するグラム・パーソンズをメンバーに迎えて制作されたロックンロール・ヒストリーに残る名盤だ。内省的であるがゆえにコズミック……という、グラム・パーソンズならではの持ち味と、結成以来の中心メンバー、ロジャー・マッギンの独特の屈折した歌声とが新鮮にマッチした仕上がり。

     今回もボーナス・トラックたっぷりだ。ご存知のとおり、このアルバムのレコーディングのとき、もともと多くの曲でグラム・パーソンズがリード・ヴォーカルをとっていたのに、契約のゴタゴタからそのほとんどがロジャー・マッギンの歌声に差し替えられちゃったりしていた。が、今回はオリジナルのグラム・パーソンズ・ヴォーカル・ヴァージョンがたくさん聞けちゃったりするのだ。以前出た4枚組ボックス・セットでも、このロデオ・セッションにおけるグラム・パーソンズ・ヴォーカル・ヴァージョンがいくつか聞かれたりしたけれど、今回はさらなる新発掘音源も多数。リハーサルでの一発録りセッションとか、わくわくしてしまう。

     さらに、CDの終わりにはシークレット・トラックもあり。このアルバムのリリースを伝える当時のラジオCMが入っていて。“あれー、これバーズなのぉ?”“バーズじゃないみたいだなぁ。他の曲も聞いてみようか”とかやってる男女のやりとりが聞かれたりする。やっぱり、そうとうショッキングだったんだろうねー、カントリー・ロックの誕生ってやつは。

     と、そんなバーズの名盤復活に加えて、ここんとこカントリー・ロック系再発が主にイギリス方面で盛んになっている。グラム・パーソンズがバーズを脱退して、クリス・ヒルマンとともに結成したフライング・ブリトー・ブラザーズの初期名盤2枚を2イン1にしたお得用CDとか、ナッシュヴィルの先進的カントリー・セッション・ミュージシャン集団“エリア・コード615”の人脈から生まれたカントリー・ロック・バンド、ベアフット・ジェリーのオリジナル・アルバム4枚が2イン1CD2枚で再発になったり。

     きてます。まじに。カントリー・ロック。

    "The Gilded Palace Of Sin" and "Burrito Deluxe"
    Flying Burrito Brothers
    (A&M)


    "Watchin' TV" and "You Can't Get Off With Your Shoes On"
    Barefoot Jerry
    (See For Miles)

    "Keys To The Country" and "Barefootin'"
    Barefoot Jerry
    (See For Miles)
    
    
    
  3. The Road I'm On :A Retrospective
    Dion
    (Columbia/Legacy)

     ピック・オヴ・ザ・ウィークのほうで先月取り上げてます。そっちを見てください。

     このくらい充実した音質と徹底的な調査で、コロムビア以前のローリー・レコード在籍時のコンピレーションも出ないかなぁ。ライノあたりがやってくれるとうれしいんだけど。でも、ライノってそういえばローリー音源のものってひとつも出してないかな? 契約の問題で手を出せないのかな。

     ボックスがほしいね。ローリー、コロムビア両レーベルにまたがった。

    
    
    
  4. Vulnerable
    Marvin Gaye
    (Motown)

     1966年にマーヴィン・ゲイ自身が選曲して、ナット・キング・コールのアレンジャーとしても知られるボビー・スコットを迎えて、何度も何度も、納得のいくまで録り直しを続けて。で、78年に完成したものの、結局オクラになっていたポピュラー・スタンダード集。

     何曲かは世に出ていたけれど、この形では初のリリースってことになるらしい。まあ、経緯はともあれ、やっぱり歌のうまい人だけに、すんげーいい気分になれます。ハマれます。全曲あわせても30分に満たないので、つい何度も聞いちゃいますよ。
    
    
    
  5. 1/2
    Makoto Kawamoto
    (Sony)

     日本ものでは、近ごろはSPEEDと川本真琴ちゃんだなぁ。ノージ大推薦のグルーヴァーズの新作もむちゃくちゃかっこよかったけど、盤はノージが独占状態なので、ワタシはこっちをパワー・プレイしてます。

     このコ、岡村靖幸の作/プロデュースによる「愛の才能」でデビューして。そのときは、ちょうど奥田民生がPuffyをプロデュースしてデビューさせたばかりのころで。ついでに石野卓球も篠原ともえを手がけてて。面白いことになってきたなぁ……と思っていたのだけれど。

     このコだけ、まあ、岡村自体が今や長く果てしない迷路入りしちゃってるせいもあるんだろうけど、いっきなり一本立ちしてぐいぐい輝き始めた気がする。曲作りに関しては岡村からの影響大ではあるけれど、もはや岡村自身には表現しきれない軽やかで切ない“現在進行形の”青春像が彼女の歌声には息づいている。

     「神様は何も禁止なんかしてない」から「愛してる」に突入する瞬間のスピード感とか、たまんないす。早くアルバム聞きてー。


    愛の才能

    DNA