エルヴィス・プレスリーのアルバム群の中から1枚、好きなものを選べ……と言われたら、たぶんぼくはこいつを選ぶんだろうな。1958年、エルヴィスがアメリカ陸軍に入隊して一瞬シーンの最前線から姿を消すことになる直前に撮影された主演映画のサントラ盤だ。
かっこいいんだよ、このアルバム。エルヴィスは、まあ、登場した時代が時代だっただけに、基本的にはシングル・ヒット中心に動いていたわけで。1枚まるごときっちりしたコンセプトに貫かれたアルバムってのがない。彼の場合、70年代に入ってからさえも、50〜60年代と同じく、アルバムを念頭に入れないレコーディング態勢をとっていたために、結局死ぬまでまともなアルバムがほとんど出なかった。ファンとしては、そこんとこが残念でならないのだけど。
しかし、何枚かはある。数えるほどだけど。たとえば69年、伝説のメンフィス・セッションの中から生まれた『エルヴィス・イン・メンフィス』とか、70年代初頭、エリア・コード615のメンバーらをバックに従えたナッシュヴィル・セッションから生まれた『エルヴィス・カントリー』とか。そして、これもそう。映画のサントラではあったものの、映画の舞台がニューオリンズだったせいもあり、なんとこのアルバム、エルヴィス流のロックンロールとニューオリンズ・ジャズとを融合させたサウンドで迫るある種の“コンセプト・アルバム”に仕上がっているのだ。ロックとニューオリンズの合体って意味じゃ、リトル・フィートより15年早いぜ(笑)。
と、そんなふうに大好きな『キング・クレオール』を含むエルヴィス初期主演映画のサントラ盤がどちゃっとまとめて再発された。ボーナス・トラックもふんだん。音質もまたまた向上。というわけで、最近またもやエルヴィス浸けの日々です。再発シリーズ全体については、FMファン誌の連載コラムでも取り上げたので、その原稿を再録しておきますね。
ちなみに、『監獄ロック』の国内盤ライナーはワタクシ萩原が書かせていただいております。そっちのほうもひとつよろしく。

Jailhouse Rock
/Love Me Tender
(RCA)

Loving You
(RCA)

G.I. Blues
(RCA)

Blue Hawaii
(RCA)
|
for FM fan, June, 1997
またまたエルヴィス・プレスリーの素晴らしい遺産が、いい形で復刻された。
今回は映画絡み。エルヴィスの初期主演映画6本のサントラ曲をCD5枚に収めたリイシュー・シリーズだ。57年、2作目の主演映画『さまよう青春 (Loving You)』、56年の初主演作『やさしく愛して』と57年の『監獄ロック』の音源を収めた『監獄ロック&ラブ・ミー・テンダー (Jailhouse Rock/Love Me Tender)』、58年の『闇に響く声 (King Creole)』、陸軍への入隊をはさんで、除隊後の主演第一作となった60年の『G.I.ブルース (G.I. Blues)』、そしておなじみ61年の『ブルー・ハワイ (Blue Hawaii)』まで。
この時期のエルヴィス作品は、リーバー&ストーラー、ワイズ&ワイズマン、テッパー&ベネットらアメリカン・ポップ・ヒストリーを代表する名ソングライターの楽曲ぞろい。映画でのみ使われ、レコード化されていなかった別テイクなどもふんだんにボーナス収録されている。何よりも音が素晴らしい。エルヴィスのCDはリマスターされるたびにどんどん音が良くなる。若き日のエルヴィスの躍動感が実にいきいきと伝わってくる。
中でも特におすすめしたいのが、アメリカン・ポップス史上初のブルー・アイド・ソウル・ブラザーと呼ばれるプロデューサー/ソングライター・コンビ、ジェリー・リーバー&マイク・ストーラーと深くコラボレートした2作、『監獄ロック』と『闇に響く声』だ。
「ハウンド・ドッグ」「ラヴ・ミー」「ラヴィング・ユー」といった名曲の作者として知られるリーバー&ストーラーは、50年代に入ったばかりのころからコースターズ、ドリフターズ、エイモス・ミルバーン、フロイド・ディクソン、ペパーミント・ハリス、プレストン・ラヴ、ジミー・ウィザースプーン、チャールズ・ブラウン、ビッグ・ママ・ソーントンなど多くの黒人シンガーに適度に黒く適度にポップなR&B作品を提供してきた。リーバー&ストーラーは、エルヴィスに会うまで彼のことを“何も知らないアイドル・シンガー”だと思い込み毛嫌いしていたのだそうだが、“監獄ロック”セッションを通して、エルヴィスがリーバー&ストーラーが楽曲を提供してきたような黒人アーティストたちを愛聴し、影響を受けてきた素晴らしいシンガーであることを理解。以降、エルヴィスとリーバー&ストーラーはすっかり意気投合し、60年代にかけて見事なコラボレーションを見せていくことになる。
『監獄ロック』の表題曲はもちろん、同盤に収められた「ベイビー・アイ・ドント・ケア」など、誰も超えられないロックンロール・クラシックに仕上がっている。ニューオリンズが映画の舞台だったためにニューオリンズ・ジャズと見事な融合を見せた『闇に響く声』のドライヴ感も見逃せない。
『G.I.ブルース』と『ブルー・ハワイ』は豪華ブックレット付きの限定仕様盤もあり。
|
|