for Jun. 29, 1997


  1. King Creole
    Elvis Presley
    (RCA)

     エルヴィス・プレスリーのアルバム群の中から1枚、好きなものを選べ……と言われたら、たぶんぼくはこいつを選ぶんだろうな。1958年、エルヴィスがアメリカ陸軍に入隊して一瞬シーンの最前線から姿を消すことになる直前に撮影された主演映画のサントラ盤だ。

     かっこいいんだよ、このアルバム。エルヴィスは、まあ、登場した時代が時代だっただけに、基本的にはシングル・ヒット中心に動いていたわけで。1枚まるごときっちりしたコンセプトに貫かれたアルバムってのがない。彼の場合、70年代に入ってからさえも、50〜60年代と同じく、アルバムを念頭に入れないレコーディング態勢をとっていたために、結局死ぬまでまともなアルバムがほとんど出なかった。ファンとしては、そこんとこが残念でならないのだけど。

     しかし、何枚かはある。数えるほどだけど。たとえば69年、伝説のメンフィス・セッションの中から生まれた『エルヴィス・イン・メンフィス』とか、70年代初頭、エリア・コード615のメンバーらをバックに従えたナッシュヴィル・セッションから生まれた『エルヴィス・カントリー』とか。そして、これもそう。映画のサントラではあったものの、映画の舞台がニューオリンズだったせいもあり、なんとこのアルバム、エルヴィス流のロックンロールとニューオリンズ・ジャズとを融合させたサウンドで迫るある種の“コンセプト・アルバム”に仕上がっているのだ。ロックとニューオリンズの合体って意味じゃ、リトル・フィートより15年早いぜ(笑)。

     と、そんなふうに大好きな『キング・クレオール』を含むエルヴィス初期主演映画のサントラ盤がどちゃっとまとめて再発された。ボーナス・トラックもふんだん。音質もまたまた向上。というわけで、最近またもやエルヴィス浸けの日々です。再発シリーズ全体については、FMファン誌の連載コラムでも取り上げたので、その原稿を再録しておきますね。

     ちなみに、『監獄ロック』の国内盤ライナーはワタクシ萩原が書かせていただいております。そっちのほうもひとつよろしく。

    
    



    Jailhouse Rock
    /Love Me Tender

    (RCA)


    Loving You
    (RCA)


    G.I. Blues
    (RCA)


    Blue Hawaii
    (RCA)

    for FM fan, June, 1997

     またまたエルヴィス・プレスリーの素晴らしい遺産が、いい形で復刻された。

     今回は映画絡み。エルヴィスの初期主演映画6本のサントラ曲をCD5枚に収めたリイシュー・シリーズだ。57年、2作目の主演映画『さまよう青春 (Loving You)』、56年の初主演作『やさしく愛して』と57年の『監獄ロック』の音源を収めた『監獄ロック&ラブ・ミー・テンダー (Jailhouse Rock/Love Me Tender)』、58年の『闇に響く声 (King Creole)』、陸軍への入隊をはさんで、除隊後の主演第一作となった60年の『G.I.ブルース (G.I. Blues)』、そしておなじみ61年の『ブルー・ハワイ (Blue Hawaii)』まで。

     この時期のエルヴィス作品は、リーバー&ストーラー、ワイズ&ワイズマン、テッパー&ベネットらアメリカン・ポップ・ヒストリーを代表する名ソングライターの楽曲ぞろい。映画でのみ使われ、レコード化されていなかった別テイクなどもふんだんにボーナス収録されている。何よりも音が素晴らしい。エルヴィスのCDはリマスターされるたびにどんどん音が良くなる。若き日のエルヴィスの躍動感が実にいきいきと伝わってくる。

     中でも特におすすめしたいのが、アメリカン・ポップス史上初のブルー・アイド・ソウル・ブラザーと呼ばれるプロデューサー/ソングライター・コンビ、ジェリー・リーバー&マイク・ストーラーと深くコラボレートした2作、『監獄ロック』と『闇に響く声』だ。

     「ハウンド・ドッグ」「ラヴ・ミー」「ラヴィング・ユー」といった名曲の作者として知られるリーバー&ストーラーは、50年代に入ったばかりのころからコースターズ、ドリフターズ、エイモス・ミルバーン、フロイド・ディクソン、ペパーミント・ハリス、プレストン・ラヴ、ジミー・ウィザースプーン、チャールズ・ブラウン、ビッグ・ママ・ソーントンなど多くの黒人シンガーに適度に黒く適度にポップなR&B作品を提供してきた。リーバー&ストーラーは、エルヴィスに会うまで彼のことを“何も知らないアイドル・シンガー”だと思い込み毛嫌いしていたのだそうだが、“監獄ロック”セッションを通して、エルヴィスがリーバー&ストーラーが楽曲を提供してきたような黒人アーティストたちを愛聴し、影響を受けてきた素晴らしいシンガーであることを理解。以降、エルヴィスとリーバー&ストーラーはすっかり意気投合し、60年代にかけて見事なコラボレーションを見せていくことになる。

     『監獄ロック』の表題曲はもちろん、同盤に収められた「ベイビー・アイ・ドント・ケア」など、誰も超えられないロックンロール・クラシックに仕上がっている。ニューオリンズが映画の舞台だったためにニューオリンズ・ジャズと見事な融合を見せた『闇に響く声』のドライヴ感も見逃せない。

     『G.I.ブルース』と『ブルー・ハワイ』は豪華ブックレット付きの限定仕様盤もあり。

    
    
    
  2. Last Time Around
    Buffalo Springfield
    (Atco)

     ピック・オブ・ザ・ウィークでも取り上げたように、バッファロー・スプリングフィールドのファースト・アルバムがリマスターで出直して。それを聞いているうちに、バッファロー熱が再燃してしまった今日このごろ。

     で、彼らが残した3枚のオリジナル・アルバムのうち、やっぱりいちばん好きなのが、このラスト・アルバムなわけです。バンド・ヒストリー的に見ると、すでにこの段階でバッファロー・スプリングフィールドは解散状態。アルバムがリリースされたのが1968年の8月だけど、実際にバンドは同年5月のライヴを最後に活動を停止してしまっていた。そのせいもあって、要するに本盤は寄せ集め的な一枚。各メンバー個々に録音していた曲とか、幻のセカンド・アルバム『スタンピード』に収録される予定だったボツ曲とか、前作『アゲイン』セッションでのボツ曲とか……。

     でも、結果的にすっげえいいアルバムに仕上がっちゃってて。スティーヴン・スティルス、ニール・ヤング、リッチー・フューレイ、ジム・メッシーナ……といった、本盤に集ったメンバーたちがいかに当時ノリにノっていたかが伝わってくる。本盤に収録されたスティルスの「クエスチョンズ」がのちにCSNYの『デジャ・ヴ』の「キャリー・オン」に発展していたり、ヤングの「オン・ザ・ウェイ・ホーム」がソロになってからもずっと歌い継がれていたり、ペダル・スティールにラスティ・ヤングを迎えたフューレイの「カインド・ウーマン」がのちにポコのライヴでのあたり曲になっていたり。彼らの将来の充実した活動を予見させる仕上がりになっているところもいい。

     この人たちに大きく影響された日本のバンドとしておなじみなのが、はっぴいえんどなわけですが。まさに、はっぴいえんどの3枚目、アメリカ録音された『HAPPY END』にも通じる、その後のシーンへの広がりと躍動を感じさせる一枚。これは名盤だわ。昔からバッファロー・スプリングフィールドはセカンド・アルバムの『アゲイン』が最高傑作とか書かれることが多いけれど、それはウソです。『アゲイン』は最高の実験作ではあるけれど、傑作じゃないでしょ。傑作はこっちね。まじに。




    Buffalo Springfield
    (Atco) 1967



    Buffalo Springfield
    Again

    (Atco) 1968


    Stampede
    (bootleg) 1967
    
    
    
  3. March 16-20, 1992
    Uncle Tupelo
    (Rockville)

     今年はカントリー・ロックだぁっ! とか、相変わらず叫んでますが(笑)。

     間違いじゃなかったみたいね。ミュージック・マガジン誌の7月号でも書かせてもらったんだけれど、最近アメリカの音楽シーンで力を持ち始めている“トリプルA(アダルト・アルバム・オルタナティヴ)”なるFMステーション群では、今もっとも注目されているのが、ウィルコ、サン・ヴォルト、ジェイホークスといった、いわゆるオルタナ・カントリー系のロック・グループなんだって。

     その辺の詳しい状況については、ぜひミュージック・マガジン誌を読んでみてください。でもって、そうした最近の傾向を考えるにあたって、ここ数年のオルタナ・カントリー名盤を聞き直したりしてて。いいです、やっぱり。どれも。

     ノージが以前から聞きまくっていたウィルコのファーストとか、スティーヴ・アールとかの良さも再確認。もうすぐ新譜が出るらしいブルー・マウンテンのアルバムも、発売から2年たった今もなおごきげん。日本では相変わらずレコード会社の理解が得られず足踏み状態のカントリー・ロック状況ですが。まあ、そんなことはいいよね。みなさんもCDナウにでも直接注文してオルタナ・カントリーの盛り上がりを味わいましょう(笑)。

     でもって、この盤。ウィルコのジェフ・トウィーディーとサン・ヴォルトのジェイ・ファーラーが在籍していたアンクル・テュペロの、えー、たぶんサード・アルバム。92年に出た名盤です。マンドリンやらバンジョーやら、カントリー楽器を駆使しながらも、ぐっと内省的な世界を紡ぎ出すたたずまいが、まさに70年代中盤のグラム・パーソンズを彷彿させる。



    and others...


    A.M.
    Wilco
    (Reprise) 1995

    Trace
    Son Volt
    (Warner) 1995

    Dog Days
    Blue Mountain
    (Roadrunner) 1995

    I Feel Alright
    Steve Earle
    (Warner) 1996

    
    
    
  4. 夢で逢えたら
    Celia Paul
    (Niagara/Sony)

     1977年6月にリリースされた大瀧詠一プロデュースの一枚。20周年を記念してめでたくCD化されました。

     でもって、CD化を機会にシリアさんのホームページができまして。HTMLデザインをやらせてもらいましたよ。作ってる間じゅう、ずっとこのCDかけっぱなしにしてたもんで、アタマの中、すっかりシリアさんだらけでございます。おかげで、見事チャートインしてしまいました。

     昔から好きなアルバムだったけれど、今聞いても、やっぱり好き(笑)。

     詳しいことは、とにかくそのシリアさんページに行ってください。CDのライナーにアドレスが書いてあります。リンクは張っちゃダメと師匠から言われているので、張れませんが(笑)。師匠による詳細な楽曲解説とか、貴重なステージ写真とか、楽しいよー。作ってて楽しくてしょうがなかったもの。

    
    
    
  5. Adult Child
    Brian Wilson

     休暇明けに、アタマがぼーっとしてたもんで。こんなとき、仕事してもしょうがないからってんで、かねてからやろうやろうと思っていたビーチ・ボーイズの幻のアルバムMD化に着手しましたよ。

     ファンならご存じの通り、ビーチ・ボーイズは70年代にたくさんボツ・アルバムがあって。もちろん、そこで録音された曲が別のアルバムに収録されたりしていることもあるんだけれど。オリジナルの曲順でMDを作ってみよう、と。そう思い立って、ブートなども駆使しつつあれこれ作ってみました。

     オリジナル・シークエンスの『サンフラワー』(1970)とか、『サーフズ・アップ』の前に作られていたという『ランドロックド』(1971)とか、『ラヴ・ユー』とともに録音されていたという『ニュー・アルバム』(1976)とか、ブライアン・ウィルソンの初ソロ作となるはずだった『アダルト・チャイルド』(1977)とか。

     そのうち、特に聞いてて楽しいのが『アダルト・チャイルド』と『ランドロックド』かなぁ。いろんな資料を読み合わせたうえで、こういう曲順だったらしいという並びを作って、で、MDに録音してみたんだけど。ちょっと曲順、書いておいてみますね。間違いがあるようだったらメールででも教えてください。よろしく。

    Landlocked
    Side A
    1. Loop De Loop
    2. Susie Cincinnati
    3. San Miguel
    4. H.E.L.P. Is On The Way
    5. Take A Load Off Your Feet
    6. Over The Waves
    Side B
    1. I Just Got My Pay
    2. 'Til I Die
    3. Good Time
    4. Big Sur
    5. Lady
    6. When Girls Get Together
    7. Lookin' At Tomorrow
    8. 'Til I Die (reprise)
    Adult Child
    Side A
    1. Life Is For The Living
    2. Hey Little Tomboy
    3. Deep Purple
    4. H.E.L.P. Is On The Way
    5. It's Over Now
    6. Everybody Wants To Live
    Side B
    1. Shortenin' Bread
    2. Lines
    3. On Broadway
    4. Games Two Can Play
    5. It's Trying To Say
    6. Still I Dream Of It