for Dec. 30, 1996


  1. Nilsson Sings Newman
    Harry Nilsson
    (RCA)
    Nilsson Sings Newman
    (1969)

    ランディ・ニューマンの初期作品を親友ハリー・ニルソンが心をこめて歌った名盤。ほぼニューマン自身のピアノ演奏一本だけをバックに歌われている。二人で一人のシンガー・ソングライター、みたいな手触り。収録曲10曲中、8曲はニューマン自身の録音もあるが、「Vine St.」はヴァン・ダイク・パークスへ、「Caroline」はニルソンへの書き下ろし曲だ。
    
    
     去年のブライアン・ウィルソンのアルバム『駄目な僕』やヴァン・ダイク・パークスとの共演盤『オレンジ・クレイト・アート』から、今年のジミー・ウェブの『テン・イージー・ピーセズ』を経て、今、ぼくの気分はなんだかランディ・ニューマンに向かっている。

     理由はよくわからない。ブライアンやジミー・ウェブのアルバムがぼくに届けてくれたのは、なんというか、こう、アメリカならではのシンガー・ソングライターの味なんだけど。といっても、カントリーとか、ブルースとか、そういうものに直結する味じゃなくて。以前も持ち出した例えで言えば、アイヴスとかコープランドとか、あのテのアメリカのクラシック作曲家が見せてくれる光景にも似た、抗いようのないアメリカン・ノスタルジア、ね。ブライアンやジミー・ウェブの心の奥底に否応なく流れているはずの、そうした光景が音盤となってぼくたちのもとに届けられて。感動して。で、それを聞きながら、なんだか20年以上前に聞きまくっていたランディ・ニューマンとかハリー・ニルソンとか、そういう音楽を思い出してしまったわけだね。

     ランディ・ニューマンの歌はいつもやけに悲しい。30年代からすぐれた映画音楽を多数書いてきた作曲家兄弟の甥……という恵まれた環境の中で育んだ素晴らしい音楽センスを駆使して書き上げられたメロディはどれも美しく、聞き流してしまえば気持ちのいいBGMにだってなりそうなものだけれど。でも、聞き流せない。何かが聞き手の心をかき乱す。美しいメロディと裏腹に、痛烈な皮肉や辛辣なウィットに貫かれた歌詞をともなっているから? もちろん、それもあるけれど。そのせいばかりじゃないと思う。一見、ひたすら美しいばかりのメロディそれ自体も、奥底に様々な諦観や自虐をはらんでいるのだ。そこがランディ・ニューマンのすごいところ。だから、いつも美しくて、でも切なく、悲しい。

     それも、たとえばトム・ウェイツみたいな芝居っ気たっぷりのやり口ではなく、常につぶやくようにそんな手触りをぼくたちに届けてくれるものだから。ハマると抜けられなくなるんだよねー。

     まあ、自分の中でもうまくまとまっちゃいないんだけど。とにかく、ここ数週間はそんなこんなでランディ・ニューマンな日々です。本人のアルバムもじっくり聞き直していますが、ニューマンがピアノを弾いて、親友ハリー・ニルソンが歌った『ニルソン・シングズ・ニューマン』をいちばん愛聴しているかな。淡々としたニューマンのピアノもいいし、さりげなく多重コーラスをあしらったニルソンのとんでもなく表現力豊かなヴォーカルもすごい。ブライアン・ウィルソンとヴァン・ダイク・パークスの共演アルバムと並べて聞くと、さらにしみまくると思います。お試しください。

     あ、そういや、こないだ高橋幸宏さんのライヴを見に行ったら、アンコールの最後、ニュー・アルバムでもカヴァーしているランディ・ニューマンの名曲「アイル・ビー・ホーム」を歌ってたな。ニルソン・ヴァージョンのフル・コピーでした。
    
    
    【ランディ・ニューマンの初期オリジナル・アルバム群】

    Randy Newman (1968)
     ランディ・ニューマン本人のデビュー・アルバム。ペギー・リーが歌った「Love Story」、ニッティ・グリッティもカヴァーした「Living Without You」、ジュディ・コリンズもとりあげた「I Think It's Going To Rain Today」などを含む。

    12 Songs (1970)
     スリー・ドッグ・ナイトで大当たりした「Mama Told Me Not To Come」を含むセカンド。

    Live (1971)
     70年にビター・エンドで収録されたライヴ。初期の代表曲をピアノ一本の弾き語りでたっぷり聞かせる。ニルソンの超名唱で知られる「I'll Be Home」の本人ヴァージョンはこの盤が初出。曲を途中でぶつっとやめちゃったりする気ままなライヴ風景が楽しめる。

    Sail Away (1972)
     最高傑作、かな。アフリカの奴隷狩りの人間を痛烈に皮肉ったタイトル・チューンや、なんと神自らが歌うという設定の「God's Song」など、ランディ・ニューマンの持ち味全開の一枚だ。アラン・プライス・セットのヒット「Simon Smith And The Amazing Dancing Bear」の自演ヴァージョンも。

    Good Old Boys (1974)
     これもよくできた一枚。淡々と綴るラヴ・ソング「Marie」は永遠の名曲です。30年代の選挙キャンペーン・ソング「Every Man A King」も皮肉な一発。

    Little Criminals (1977)
     背の低い人のことを歌って、なんと放送禁止になりながらも全米2位まで上昇したシングル「Short People」を含むアルバム。ニューマンにとって最高の売り上げを記録した一枚だ。「I'll Be Home」の初スタジオ録音も。
    
    
    
  2. Allison Wonderland
    The Mose Allison Anthology
    Mose Allison
    (Rhino)
    Allison Wonderland
    
    
    その他、ケンタお気に入りのモーズ・アリソンのオリジナル・アルバム

    Back Country Suite
    (Prestige)
    (1957)


    Autumn Song
    (Prestige)
    (1959)


    Transfiguration Of Hiram Brown
    (Columbia)
    (1960)


    I Love The Life I Live
    (Columbia)
    (1961)


    V-8 Ford Blues
    (Epic)
    (1961)
     “クール”ってのは、これなんだよね。モーズ・アリソン。

     2年ぐらい前にライノから輸入盤で出た2枚組ベスト『アリソン・ワンダーランド』が、ようやく国内リリースされたもんで。また聞きまくってます。

     つい先日、ヴァン・モリソン、ベン・シドラン、ジョージー・フェイムという3人が集まってモーズ・アリソンの曲ばかり取り上げた素晴らしい新作をリリースしたばかりだし。絶好のタイミング。6つのレーベルにまたがる選曲もライノならではだ。アリソンはけっして自らビッグ・セールスを記録したアーティストではなかったけれど、その影響力はとんでもない。前述した3人はもちろん、ジョニー・ウィンター、ジョニー・リヴァース、ジョン・ハモンド、ボニー・レイット、マイケル・フランクス、エリック・クラプトン、エルヴィス・コステロ、ピート・タウンゼントなど、数え切れないほどの後輩ミュージシャンがアリソンに心酔している。

     独特の渋いピアノ・プレイと、繊細な歌声。そして時には哲学的だったり、皮肉だったり、ユーモラスだったりする歌詞。ある意味じゃ、ジャズという衣を使ったランディ・ニューマンの先駆という感じでもあるな。ブルースとかジャズとか、いわゆる黒人音楽を完全に白人としての自分の土俵に引きずり込んだ偉人です。

     そうだ。モーズ・アリソンといえば、何年か前に、サエキけんぞうさんから電話があって。あの人お得意の「最近、何か面白いものありません?」攻撃を受けたことがあった。「そういえばモーズ・アリソンのベストが出たよ」とか答えたんだけど。「え? 誰? モー……」とかメモしてたっけ。サエキさんってば、そのあとすぐ、どこかの雑誌でモーズ・アリソンのこと取り上げてて、笑った。ちょっと知ったかっぽかったけど、そんなことものともしないスピード感が彼の真骨頂なんだろうね。
    
    
    
  3. About To Choke
    Vic Chesnutt
    (Capitol)

     ピック・オヴ・ザ・ウィークのほうで12月のアタマに取り上げました。そっちを見てください。

     で、ちなみにこれがヴィック・チェスナットの曲をいろんなアーティストが取り上げたチャリティ・アルバム『スウィート・リリース2』です。REM、ガービッジ、フーティ&ザ・ブロウフィッシュ、ソウル・アサイラム、スマッシング・パンプキンズ、マドンナ、クラッカー、インディゴ・ガールズ、ヴィクトリア・ウィリアムスなどが参加。メジャー・デビュー以前だってのに、ヴィック・チェスナットを支援するため、これだけの顔ぶれが集まるんだから。ただ者じゃねーな。

     でも、日本では今ひとつ、いつまでたっても注目が集まらないのが不思議です。東芝さん、ヴィック君のメジャー第一弾、日本でも出してね。
    
    
    
  4. Burrito Deluxe
    Flying Burrito Brothers
    (A&M)

     まだまだぼくの中でのグラム・パーソンズ・ブームはしぶとく続いています。ソニーさんとワーナーさんに話を持ちかけて、97年にはカントリー・ロックものの再発を……とお願いしてるんだけどねー。どうなることやら。

     「最近どんな音楽が面白いですか?」と聞かれるたびに、いつも「カントリー・ロックでしょう!」と答えてるんだけど、どうもみんな食いつき悪いわ(笑)。くそー。今に見てろよ(笑)。詳しくは前々回のトップ5を参照してください。
    
    
    
  5. Stephen Stills
    Stephen Stills
    (Atlantic)

     先月のチャートでとりあげたスティルス熱、いまだ冷めず。

     でも、CD屋さんに行くたび、思うのだけれど。スティルスのコーナーって、まじ、淋しいね。ニール・ヤングのコーナーなんか2列ぐらいにまたがってあったりするのに。スティルスさんのとこは、2〜3枚ちょろっと置いてあるぐらいで。

     カントリー・ロック同様、こっちも“くそーっ”だね。マナサスも含めて、もっともっと再評価されないかなぁ。