The Beach Boys Love You
The Beach Boys
(Brother/Reprise) 1977
『スマイル』の制作中止、『スマイリー・スマイル』の不評を経て、ブライアン・ウィルソンおよびビーチ・ボーイズへの注目度は一気に下降線をたどる。ヒットチャート的な視点から振り返ると、66年にシングル「グッド・ヴァイブレーション」を全米1位に送り込んだのが彼らのピーク。以降、1974年に出たノスタルジックな2枚組ベスト・アルバム『エンドレス・サマー』が突如全米アルバムズ・チャートの1位を獲得し、ビーチ・ボーイズ・リヴァイヴァルの波が再び押し寄せるまで、ブライアン/ビーチ・ボーイズはまさに暗黒の時代を送り続けることになる。
そんなブライアンに復活のきざしが見え始めるのが70年代半ばだ。精神状態がどんどん悪化していたため、ビーチ・ボーイズのツアーはもちろん、レコーディングにも顔を出さなくなっていたブライアンは、精神科医ユージン・ランディのもとで治療を開始。ドラッグ、タバコ、アルコールをやめ、過食も控え、なんとか復調。1976年にリリースされたビーチ・ボーイズのニュー・アルバム『15ビッグ・ワンズ』で正式メンバーとして復帰することになった。レコード会社は "Brian's Back!" なるキャッチ・コピーのもと一大プロモーションを展開し、シングル・カットされた「ロックンロール・ミュージック」も全米6位まで上昇。ベスト盤『エンドレス・サマー』およびその続編『スピリット・オブ・アメリカ』のヒットとあいまって、ビーチ・ボーイズ人気が再燃した。
とはいえ、ここでのブライアンはまだ本調子ではなかった。アルバムの収録曲中、半分はオリジナルではなく、オールディーズ曲のカヴァーだった。起死回生を狙うレコード会社らスタッフ・サイドの要請により、いまだ回復しきっていないブライアンがむりやり担ぎ出された印象が強かった。
が、翌77年にリリースされたアルバムが『ラヴ・ユー』。これは傑作だった。セールス的に言えば前作と打って変わって全米チャート最高53位どまり……と、完全な失敗作ではあったが、このアルバムでは『ペット・サウンズ』以降はじめてブライアンが全曲を作曲/プロデュース。ブライアンの内省的な持ち味をうまくいかした楽曲も多く、シンセサイザーを使いこなしたシンプルなサウンド作りも新鮮だった。ブライアンの歌声は過度のアルコールやドラッグによって、ひどくしわがれてしまい、往年の突き抜けるような美しいファルセットも聞けなくなってしまっていたけれど、そんなありのままのブライアンの歌声には、しかしこれまで以上に聞き手の胸をしめつける“無垢さ”が加わっていた。
皮肉な見方をすれば、様々な苦しい曲折を経て挫折し、復活したブライアンは、大きなものを失ったのと同時に、結果的にではあるけれど、そうした自らの持ち味をもっとも有効な形で表現するための“無垢な歌声”を手に入れることができた。『ラヴ・ユー』はそんな事実をぼくたちに教えてくれた感動的な1枚だった。
アナログB面の中ほどに収録されている「レッツ・プット・アワ・ハーツ・トゥゲザー」で当時の妻マリリンとデュエットを聞かせるブライアンの声には今も目頭が熱くなる。イノセントで美しい、新たなブライアン・ウィルソン・サウンドがこの時点で芽をふいた。
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