albums (Brian Wilson)

 

Brian Wilson
Brian Wilson
(Sire/Reprise) 1988


 

 

 『ラヴ・ユー』で復活の兆しが見えたブライアンだったが、その後、ユージン・ランディと他のビーチ・ボーイズのメンバーとの確執に巻き込まれたり、最初の妻マリリンとの離婚を経験したりする中、精神状態がふたたび悪化。ビーチ・ボーイズの新作アルバムはそこそこのペースでリリースされ続けたが、ブライアンは常にほんの一部に参加しているだけという状態が長く続いた。再度訪れた迷走の日々だ。

 次にブライアンが復活するのは、ほぼ10年後の88年、ヒュー・パジャム、ジェフ・リン、レニー・ワロンカー、ラス・タイトルマン、アンディ・ペイリーらの協力を得てソロ名義による初のフル・アルバムにあたる本盤を完成させたときだった。

 体調も良くなったのか、内容はすばらしかった。レニー・ワロンカーの提案によって、ブライアンとアンディ・ペイリーが共作したアルバムのラスト・チューン「リオ・グランデ」は、もともと「ライフズ・スウィート」と題された組曲形式のもの。カウボーイとネイティヴ・アメリカンを題材にした内容も含めて、20年前の『スマイル』への脈絡を感じさせる楽曲だった。他にも、『ラヴ・ユー』のころの作風を思わせる「ベイビー・レット・ユア・ヘア・グロウ・ロング」、ジェフ・リンと共作した「レット・イット・シャイン」、一人アカペラによる「ワン・フォー・ザ・ボーイズ」、シングル・カットされた「ラヴ・アンド・マーシー」「メルト・アウェイ」など、充実した手触りにファンは狂喜した。

 ブライアンのつむぎだすメロディはまったく衰えていなかった。ブライアンひとりで多重録音したコーラスも本当に美しかった。ブライアンの完全復帰を願っていた多くのファンにとって、このアルバムはこの上ない感動をもたらしてくれた。

 にもかかわらず、ちょうど同時期、映画『カクテル』のサントラとしてブライアン抜きのビーチ・ボーイズが録音した「ココモ」がシングル・チャートを駆け上り、ついには全米ナンバーワンに輝く大ヒットを記録したおかげで、すっかりブライアンのソロ・アルバムの影が薄くなってしまった。世の中にふたつのビーチ・ボーイズはいらない、ということだ。『ペット・サウンズ』〜『スマイル』のとき同様、このときもブライアンにとって最大の敵は、彼が中心になって作り上げたビーチ・ボーイズだったという運命の皮肉。胸が痛い。

 

 

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