albums (I Just Wasn't Made For These Times)

 

I Just Wasn't Made
For These Times

Brian Wilson
(Karambolage/MCA) 1995


 

 

 ドン・ウォズが監督した同名映画のサントラ盤としてリリースされたセルフ・カヴァー・アルバムだ。

 古いほうから列挙すると、『シャット・ダウンVOL.2』からの「ザ・ウォームス・オヴ・ザ・サン」、『ペット・サウンズ』からの「キャロライン・ノー」、『スマイル/スマイリー・スマイル』からの「ワンダフル」、『ワイルド・ハニー』からの「レット・ザ・ウィンド・ブロー」、『フレンズ』からの「メント・フォー・ユー」、『20/20』からの「ドゥ・イット・アゲイン」、『サンフラワー』からの「ジス・ホウル・ワールド」、『サーフズ・アップ』からの「テル・アイ・ダイ」、『ブライアン・ウィルソン』からの「ラヴ・アンド・マーシー」と「メルト・アウェイ」、そしてフランク・シナトラのために作ったが結局未発表に終わった「スティル・アイ・ドリーム・オヴ・イット」のデモ・ヴァージョン……というラインアップ。

 なかなか通な選曲だ。“海岸の男の子たち”という陽気なグループ名がむしろ負担になっていると思われる楽曲群。日本やイギリスではすでにこの時期のブライアンの卓抜した才能に対する再評価がなされていたが、たぶんアメリカではまだまだ。ビーチ・ボーイズといえばやはりサーフィンと車と女の子。そうしたイメージが根強いシーンに対してドン・ウォズが“ノー”を突きつけた一枚って感じだ。あえてコーラス隊に3人の黒人を起用したり、半ば腕ずくで66年以降のブライアンを再評価しようとしたものだろう。

 ブライアンのピアノを中心に据え、ジム・ケルトナー、ベンモント・テンチ、ジェームス・ハッチンソン、ワディ・ワクテル、マーク・ゴールデンバーグなどが脇を固めた、実にシンガー・ソングライター的な手触りの強い1枚。ぼくが個人的にもっとも好きなのは、1963年11月、ケネディ大統領暗殺のニュースを聞いた翌日にブライアンとマイクが書き上げたと言われるバラード「ザ・ウォームス・オヴ・ザ・サン」だ。ケネディを失った陰鬱な空気の中で生まれた、喪失感ただよう淋しい名曲だが、オリジナル・ヴァージョンでは美しいファルセットで歌われていたこの曲のキーのテンポもぐっと落とし、ブライアンはすっかり変わり果ててしまった、今の、しゃがれた歌声で訥々と綴ってみせる。2番、“別れ際、「私はあなたと同じように思わない」と彼女が告げたとき、ぼくは泣いた”と歌う声が震え、この曲の奥底に潜んでいた魅力をより効果的にぼくたちに伝えてくれた。

 リメイクに名作なし、というポップ音楽の宿命には、もちろんブライアンとて勝てない。正直言ってどの曲もオリジナル盤を超えちゃいない。けれども、シンガー・ソングライターとしての、ありのままのブライアンの姿をこのアルバムは再認識させてくれた。たとえば、キャロル・キングが自らのソロ・アルバムでかつて他人に提供したポップ・ソングをセルフ・カヴァーしたとき、それらも彼女自身のパーソナルな歌として聞き手に伝わってくる、あの感じ。彼女の『タペストリー』とか、バリー・マンの『レイ・イット・オール・アウト』とかに通じる感触がこのアルバムには強く漂っている。

 

 

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