Last UpDate (10/01/09)

2010年賀正

「初日に包まれて」

 

形の整った松と、銀に輝く一面の白砂。

自然に、しかし見る者を飽きさせない様配置された石、それを彩る緑の苔。

一年で最初の陽に照らされ、眩しい光に満ちたそこは、人々により捧げられた神域の庭園。

 

「ここはとても美しいところですね、フレイア」

 

壮麗な庭園に凜と透き通った声。そこには美しい女性が二人佇み、目の前の偉観に見入っていた。

 

「ええ。私もここを教えてもらった時、この美しさにとても感動しました」

 

光景のすばらしさに眼を輝かせ、鈴の鳴る様な綺麗な声で嬉しそうに語るフレイア。

 

陽光に輝く腰まで伸びた栗色の髪に、ちょこんとうすピンクの花飾り。

ほのかに陽色に染まった着物に彩られた絢爛な花模様。

普段はドレスばかりを着ている彼女だが、寸分の違和感もなく着こなしてみせるのは、その美しさ故だろうか。

普通の少女の様で居て、実は彼女は、全ての世界を包む、「全ての空」の光の神々が頂点、「光の王」である。

 

「本当に。私も多くの世界を観てきましたが、ヒトが創りだしたものでここまでのものはそうありません」

 

快事への感動を隠すことなく言葉にする。

銀に輝く月を模した髪飾りが陽を受け、輝く。しなやかに煌めく長い黒髪を頭の後ろに結った彼女はマリア。

控えめにあしらわれた花柄と、赤い帯が黒い着物を引き立たせる。

物静かで、見る者に安息を与える様な、彼女の気質を表す色遣い。

彼女のために創られた衣装すら、自然とこの風景に溶け込んでしまうのは、闇の神の第二位「闇の女神」にして、美の神々の一位。故に「闇姫」と称される、彼女自身の魅力だろう。

 

「でも、通りすがりの世界で見かけたものを貴女に見せたいと、こんな席まで用意して。あの人は相変わらずですね」

 

眼を細め、優しく微笑むマリア。

 

「そんな、マルス君はみんなに見て貰いたいからって……」

 

困った様に、しかし嬉しそうに微苦笑するフレイア。

年始のこの日に二人がここを訪れたのは、フレイアの夫マルスが、ある目的の旅の途中に立ち寄ったこの世界で見つけた美しい景観を、皆に見せたいと企画したからだった。

しかし実際は、「光の王」の仕事に縛られて動けないフレイアに、息抜きして貰おうと企画したに違いない。と、結婚以来のバカップルぶりを知る者達には憶測されている。

 

少しの間、静穏な庭園に二人の談笑が響く。

 

「……誰も来ませんね」

 

話が途切れ、ぽつりと、マリアが呟く。 フレイアに誘われ、予定よりも早く来てしまったのを知ってはいたが、それにしても全員遅すぎる。

「そうだね……」と、フレイアの顔も曇る。 不安になったのか、袖の中から一枚の紙を取り出すと、それに眼を通す。

 

「うん、間違えなく今日のこの時間なんだけど……」

 

皆に何かあったのか。二人の胸中に暗い不安がよぎった。

 

その時だった。 遠くの方から小さな爆発音が聞こえた。

静かな庭園であるだけに、意識すれば小さな音も聞き取れる。

外もまた静かで、二人の不安を水増ししていたのだが、皮肉なことにそれが今役に立っていた。

そしてばたばたと走りだす音。 音はどこか必死で、尋常ではない面持ちで近づいてくる。

 

――やはり何か……!

 

二人は身を固くして、音の主の襲来に備えた。

 

「新年早々、こんな事になるなんて……!」

 

鋭く言うフレイア。彼女の手が輝き、高密度の光の刃が生み出される。

マリアもまた、胸の前で両手を開き、闇を圧縮する。

空気が震え、二人の着物と髪が乱れたが、光の刃と闇の塊を手にした女神達にそれを気にする余裕は無い。

 

二人の意識は庭園の入り口の扉へとそそがれる。

足音は入り口の前で止まり、扉が勢いよく開かれた……!!

 

 

「あっけまして、おめでと〜〜!!」

 

 

 

一瞬の静寂。

笑顔と共に現れた黒髪の青年は、身構えた二人の反応に固まり、気まずい空気を作り出す。

 

「っぷ。あはははは。明けましておめでとう、マルス君」

 

時よ止まれとばかりに硬直していた空気が動き出したのは、光の女神の笑顔と笑い声からだった。

 

「おめでとう、マルスさん」

 

苦笑気味に微笑み、続くマリア。

笑顔を取り戻した二人に、蒼い羽織に袴姿のマルスも金縛りが解け、一緒に笑い出す。

緊張から解き放たれた安堵に、笑いが止まらず、庭園に響き渡った。

上品な仕草で笑って居るが、二人とも乱れた着物をマルスに気づかれない様に直すののだけはにちょっぴり必死だ。

 

そして、マルスは爆発音や尋常でない力走音は遅刻しそうになって大慌てになったためと、笑いながら教えてくれた。

 

「ん? そういえば、みんなは……?」

 

マルスの一言に、再び場が静まる。

二人は先程の不安を思いだし、息を呑んだが、

 

「ま、電話すればいいか」

 

あっけらかんと言ったマルスを見て思わず、「そういえば」と、手を叩く。

 

何の違和感もなく、懐から青く四角い、手のひらサイズの固まりを取り出し、耳に当てるマルス。

 

「電話」と言っても、人々の世界にある電話そのものではなく、他の神々と異なり魔法や念話で話を出来ない彼のために、神々が与えた神器なのだが……。彼を知る者には「電話」で通じる。

神になって長い彼にも「人間上がり」である弊害は未だに多いのだ。

 

「もしもし、マリヤ? 明けましておめでとう! 何で今日来てないんだよー」

 

軽いタッチで軽快に電話していたが、彼の顔が青ざめていく。

彼にとっては「電話」でも、実際には思考のやりとりである念話故に音漏れしたりはしない。

 

マルスの反応にマリアもフレイアも不安を隠せない。二人ともひしっと彼の羽織の袖を握りしめた。

 

「そっか。うん、それは悪いことをした。じゃあ、またな」

 

彼が電話を切ると、二人は袖を離し、不安そうな面持ちで彼の第一声を待つ。

 

マルスは深呼吸をして一息置き、

 

「すまなかったー!」

 

突然深々と頭を下げて謝った。

わけも解らずおろおろと動揺を隠せない二人。

 

「実は……」

 

彼は気の重い事情説明を始めた。ほんの些細な事なのだが。

 

「招待する日付、間違えた」 この世界で、この風景を見つけた彼はみんなにも教えようと思い、お正月にパーティーをすることを企画した。

 

『今度の1月1日みんなで集まってパーティーしよう!』

 

自宅のカレンダーを見ながら、楽しみに招待状を書いたのだが、そこには時差があった。

「神々の世界の時の数え」と「人の世界の時の数えの差」。

マルスの自宅のカレンダーは、彼が人だった頃の時間を忘れない様にと「人の時の数え」のものが張ってあったのだ。

彼の妻で自宅を同じくするフレイアは彼のカレンダーで行動したし、彼女に誘われたマリアも「神の眼」を多くの世界に持つ性質上、大きな違和感も無しに応じた。

 

彼が「今度の」というアバウトな表現をした所為なのだが。

 

事情の説明が終わると、二人の女神はやはり笑った。

 

何でもなくて良かった。と。

 

「マリア。騒がせしてすまなかった」

 

手を合わせる彼に、

 

「こうして綺麗なものも見せてもらえましたし、一年に二度、特別な日を迎えられたと思えば、素敵な事です」

 

優美に、はにかんで見せる。

「でも……」と、言いかけたフレイアの口を人差し指でふさぎ、

 

「では、マルスさん。三人分だけでも、パーティーを楽しみましょう?」

 

振り返り、微笑んだ。 天の頂へと登った初日に包まれ、庭園と、光と闇の女神達は一層輝き、この日を祝福していた。

 

 

勇者屋キャラ辞典:「光の王」フレイア「闇姫」マリア
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