Last UpDate (09/11/11)
白一色。
淡い光に満ちたどこまで続くとも知れない廊下を、「風の女神」麻莉亜が一人、歩いている。
彼女自身もいつからとも解らず、気がついたときにはすでにここにいて、歩を進めていた。
目的もなく、ただ何もない道をゆっくりと。
――いつからこうしてるんだっけ? 何に、向かって……?
どこまでも続く白の廊下。見たこともない得体の知れない場所。
壁に刻まれた紋様は何か儀式のものだろうか。
日常と懸け離れていながら、しかし不思議と危機感はなく、逆に安心感と懐かしさが彼女の心を満たしていた。
――何だろう……ずっとこうしていたような……。
……心地よさに身をまかせ更に歩みを進める麻莉亜。
ふと気がつくと、彼女の前には一振りの刀が浮いていた。
「ミカ……ヅキ……?」
血で塗りつぶしたような深紅の刀身。淡い光の満ちる空間においてなお、妖しく光る。
それは麻莉亜の愛刀「ミカヅキ」。
「ミカヅキ、これはあなたの仕業?」
周囲を見回すようにした後、麻莉亜は刀に語りかけた。正確には、刀に宿る剣霊達に。
「はい、麻莉亜様」
答えと共に刀が強い光を発した。
不思議とまぶしさはなく、麻莉亜の見ている前で光は別の形へと姿を変えていく。
一目も離すことなく見ていると、光が弱まり、中からとても見覚えのある女性の姿……白の光を纏った、裸身の自分自身の姿があった。
「私は0(ヌル)。ミカヅキがあなたの姿と記憶をコピーした、言うなればもう一人の麻莉亜(あなた)」
いつも鏡で見る自分と寸分違わぬ姿形。
しかし、全く違う所もあった。
後ろでまとめてもなお腰まで伸びる麻莉亜の自慢の黒髪。
それが彼女、ヌルの髪の毛は白なのである。
「私は、あなたの心と身体が修行や神務、邪神討伐で疲労しきって無理をしてる……それを危惧したミカヅキの剣霊達が、貴女を想って生み出した存在なの」
ただただ、目の前の自分に唖然とし、驚き止まない麻莉亜に軽く笑いかけ、彼女は続けた。
「剣霊達は物質界に関与できない。直接的に貴女のサポートすることが出来ないの。 そこで物質界に関与できる姿……つまり妖刀「ミカヅキ」自体が姿を変えて、貴女をサポートできるようにしたってわけ」
頭の上にクエスチョンマークを浮かべ、まだ理解出来ないと言う様子の麻莉亜。
「ま、いきなり言っても全ての理解は難しいだろうから、とりあえず、これからヨロシクって事で。そろそろ目覚めの時間よ、麻莉亜」
と、ウィンクするヌル。やはり麻莉亜と寸分違わぬ仕草と笑顔で。
「そういえば、そうやって笑うって事さえ忘れていたかも知れないわね」
苦笑いで応える麻莉亜。
二人が互いに笑顔を交わしあった所で、白の世界は閉じた。
* * *
ジリリリリリリリリッ
今時レトロなベルの音が鳴り響く。
まどろみながら、時計を見るとすでに3度目のスヌーズ機能が働いたのだと解る。
「や、やばっ」
慌てて飛び起きる麻莉亜。
同時に「コンコンッ」と部屋の扉を叩く音。
「麻莉亜様〜、朝ですよ〜」
寝坊すると起こしに来る、麻莉亜の熾天使クロの声が扉越しに聞こえてきた。
寝ぼけ眼をこすりつつ、手櫛で髪の毛を直すと「どうぞ」と声を掛ける。
麻莉亜は、同じ天空宮殿と暮らす様になったクロとミューゼルを家族同様に扱っており、ちょっとした不作法でも互いに心を許すようになっていた。
……とはいえ、これがミューゼルであれば、「はしたない」、「自覚を持って下さい」と怒鳴られるが、クロはそう言った点がおおらかである。
「麻莉亜様、ぬらして暖めたタオルをお持ち……わあああっ」
扉を開け入ってきたクロは、麻莉亜と顔を合わせるなり驚きの声を上げ背中を向けた。
「どうしたのクロ?」と、首をかしげ、自分の顔に何か着いているのかと枕元の手鏡を手に取りのぞき込むと、そこには見覚えのある姿が。
「あ、貴女はっ!!!」
映ったのは、自分の後ろで寝ぼけ眼をこする裸の自分……ヌルの姿。
「あ、おはよ」
驚いた麻莉亜の声に、脳天気な挨拶を返す。
「や、起きるの待ってたんだけど、なかなか起きないから一緒に寝ちゃって。昨日までの貴女をコピーした所為かな−?」
「ぼぼ、ボクは麻莉亜様が分裂しても大好きですからっ」
自分を写したとは思えないヌルの言葉と、とんちんかんなことを言うクロ。
「あ、貴女は早く服を着なさい! クロは部屋からでてく!」
半パニック状態で叫ぶ麻莉亜。
「何を騒いでますの。早く起きてっ……てえぇぇえ!?」
騒ぎに駆けつけて、あまりの状況にさすがに驚きを隠せ無かったミューゼル。
新たなメンバーも加わり、天空神殿はまた一層賑やかになったのだった。
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