Last UpDate (09/10/20)
「ふ、ぁあ〜〜あ」
どこまでも澄み切った青空の下、草の茂る緑の土手に腰を降ろし、全身を伸ばすように目一杯両腕を広げ伸ばす、炎のような赤い髪の青年。
寝ぼけ眼には眩しい光を手で遮りながら、空を仰ぐ。
「昨日の祭りも燃えたなぁ」
上機嫌に口元をゆるめ、満足げにそのまま背を草むらに預ける。
目を閉じ、昨夜小江戸川越市で行われた祭りに飛び入り参加し、街の人々と山車を引いたのを思い出した。
市内をかき回すように山車を走らせ、他の山車と出逢えば向き合い、まるで互い存在を誇示するかのように奏で、踊る。
多くの人が訪れ、多くの人が歓喜していた。
その熱は今まで参加してきたどの祭りとも引けを取らない。
そこに祭りがあれば、必ず参加し、他の参加者と共に最高に楽しむ……彼と少しでも交流があれば、誰もが知っている彼の最高の好物である。
季節代わりの少し冷たい風が心地よい。彼がまどろみに落ちるのにそう時間はかからなかった。
「オメガにも見せてやりたかった……ぜ……」
昨夜の名残か、ねじりはちまきと町名の入った青いはっぴを未だ身につけたまま、彼は静かに寝息を立て始めた。
* * *
「イプシロン? イプシロ〜ン」
入間河沿いの土手の上の道。
小さな体から振り絞るように大きな声で兄の名を呼ぶのは緑髪の少女、オメガ。
所々装飾のある可愛らしいワンピース姿の彼女は、不安そうな顔できょろきょろ周りを見回している。
彼女は、祭りに行くと言い残し昨夜から帰らない兄を心配して、探しにきていた。
「心配して」とはいっても彼にとってはいつものことで、祭りに参加すると大抵そのご近所さんと仲良くなり飲み明かして、別れた後近くの河原や公園で寝ていることが多い。
「オメガ〜、イプーなんて放っておいて遊ぼうよー。死んでなければすぐ会えるって」
両手を頭の後ろで結び、やる気のない格好と口調でオメガに話しかける銀髪の少女、クスィー。
身を包む何の変哲もない白単色のローブがオメガとは対照的で野暮ったい。
「だめだよ。イプシロンは周りが寒くても全然気にしないで寝ちゃうから、風邪引いちゃう」
オメガの応えに、ぶぅっとふくれてみせるクスィーだが、イプシロンが最優先の今のオメガでは気に留めてもくれない。
「ちぇー」とふてくされながら対岸の土手へと視線を移すとそこには見覚えのある姿が。
「あっ。あそこ」
土手に寝転がるイプシロンを発見した。「どこ!?」 と声を上げたオメガに、指を差して教える。
「良かった……」と安堵し、スカートを翻して走っていくオメガ。
後に続くクスィーは、スカートをひらひらとさせながら走るオメガの後ろ姿を見て、ちょっとしたいたずらを思いついた。
……
「イプシロン、起きて。起きてってば」
気持ちよさそうに土手の草むらに寝そべるイプシロンに、声を掛けるオメガ。
祭り明けのイプシロンを見つけたときの、いつもの光景がそこにあった。
「うーん、もう少し寝かせてくれ」
寝ぼけ眼をこすりつつ、心配そうにのぞき込むオメガをよそにそのまま寝ようとする。
予想通りの展開に、密かにほくそ笑むクスィー。
「オメガ。私がイプーを起こしてあげるよ」
「そう?」と、クスィーをチラリと見て、すぐにイプシロンへと視線を戻す。
クスィーの企みには全く気がついていない。 クスィーは笑いを抑えながら、オメガの背後に近付いた。
「イプー、目を醒ませ〜!」
クスィーの呼びかけに、生返事で薄目を明け、オメガの後ろに隠れるクスィーを見ようとする。
しかしそれはクスィーの思惑通り。後ろからオメガのスカートの裾を掴み、目一杯たくし上げた。
イプシロンの目は点になり、オメガは「%#&*@!!」声にならない声をあげる。
二人の反応を後ろから楽しむクスィー。口をパクパクとさせながら硬直する二人をしたり顔で覗く。
「く、クスィー!!!」
声を上げ、顔を真っ赤にして怒るオメガ。
「そーれ、追いかけっこ〜!」
笑いながら走って逃げ出すクスィー。イプシロンを中心に鬼ごっこが始まる。
硬直して動けないイプシロン。
「し、しま縞……」
絞り出すようにぽつりと呟いたところで、
「い、いやああああ!」
顔を更に赤く染めたオメガの膝蹴りにより再び、彼の意識は遮断されたのだった。
pixivで行われている電撃萌王イラコンに参加中。
締め切ったのでアップしてみました。
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